12月上旬。流石に毎月のように実業団や国スポと連戦が続いて疲労が抜けないゴリラ女とマウンテンゴリラ女は、年末まではゆっくり身体を休めることにした。
修道館へ顔を出すと、仲間達から「国スポ優勝おめでとう!」と大絶賛。でも、試合がないからと漠然と時間を過ごす訳ではない。来年に向けてイメージを高めるため、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将、そしてリザーブのマントヒヒ女を合わせた「修道館6人娘」で、キングコング女の家に集まってグランドスラム東京のライブ配信を観戦することにした。
キングコング女の部屋の大画面に映し出される、世界最高峰の国際大会。
試合が始まった瞬間、6人の目は一気にガチの柔道家のそれになった。自然とディープな技術論が飛び交い始める。
「この先鋒、最初からガンガン飛ばしていくなぁ!」
「組み手勝った時点で、完全に自分の流れ持っていってますね」
「相手も無理して技出してへんわ。めっちゃ落ち着いとる」
寝技の展開になると、全盛期大将のゴリラ女の目がキラリと光る。
「ここな、足抜かれへんようにしっかり腰切っとる。ほんで押さえ込みに入る前の体重移動がめ上手いわ」
「ほんまやな。投げる前の崩しも抜群にええわ」
細かいポイントをズバズバ見抜く先輩達を横目に、マントヒヒ女は目を丸くして驚いていた。
「皆さん、テレビ観ながらそんな細かい所まで見てるんですか……!?」
ゴリラ女は、
「試合観てても勉強になるからな。人の技盗むんも稽古のうちや」
休憩中、飲み物を取りに行きながら来年の話になった。
「来年はまた団体戦で優勝したいな」
「おう、今年より更に強いチームに仕上げよや」
「そうやな。一人一人が少しずつ強くなれば、チームは勝手に強なる。焦らんと一歩ずつや」
新たに加わったメンバーと結束力を高めながら来年に向けて意気込んだ。
映像を見終えた後は、そのまま鍋と焼肉を囲んで賑やかに忘年会がスタートした。
ひとしきり盛り上がった所で、マントヒヒ女がふと気になっていたことを口にした。
「そう言えば……皆さんのこれまでの格闘技人生の話、ちゃんと聞いたことなかったです」
まずはチンパンジー女が「私はずっと柔道一筋やね」と言えば、マウンテンゴリラも「私も大学まで柔道オンリーです!」と続く。オランウータン女も「怪我は色々あったけど、何やかんや続けてきたなぁ」と語り、キングコング女が「ウチは高校も大学もゴリラ女とずっと一緒やったわ」と。ここまでは、強豪選手としてのオーソドックスな歩み。
そして、話題はやっぱりゴリラ女へ。マントヒヒ女が興味津々で身を乗り出した。
「ゴリラ女先輩、プロレスって本当にやってたんですか!?」
「おう、やってたで。でもまぁ、そんな長くは居らんかったけどな。そのあとMMAに行ったんや」
「えっ、海外でもですか!? アメリカに住んでたって本当ですか?」
「うん、3ヶ月だけやけどな。向こうに滞在してジムで練習して、UFCでも試合もしたわ」
「その後、大学院にも行かれたんですよね……?」
「大学の先生から誘われてな。MMA辞めて帰国してから、柔道の動きを論理的に研究したくてな」
これにはマントヒヒ女、完全に開いた口が塞がらない。
「凄い……。そんな怒涛の経歴の人、人生で初めて会いました……!」
するとキングコング女が爆笑しながら、
「な? 最初に聞いた時、私もひっくり返りそうになったわ!」
チンパンジー柔道女も
「ほんまそれ。履歴書何枚あったら足りんねんって思うわなぁ(笑)」
部屋中がドッと笑いに包まれる中、ゴリラ女は照れくさそうに頭を掻いた。
「色々回り道しただけや。不器用な生き方よ」
すると、マントヒヒ女が真っ直ぐな目で言った。
「でも、その経験全部が、今のゴリラ女先輩の圧倒的な柔道に繋がってる気がします」
その言葉に、ゴリラ女は少し嬉しそうに目を細めた。
「……そう言ってもらえると、無駄じゃなかったなって思えるな。ありがとう」
他の5人も深く頷き合い、最高の絆を感じながら、修道館としての1年を和やかに締め括った。
そして大晦日。
ゴリラ女は親と姉妹を引き連れて、寝屋川にある従姉妹のボノボ女の家へと向かった。
ご馳走を前に、テレビで『RIZIN.49』が始まると、この格闘技・武道一家の観戦はやっぱり一味も二味も違う。それぞれ見るポイントが完全に分かれる。
元UFCファイターのゴリラ女は、やっぱりMMA全体の冷徹な攻防に目がいく。
組み手やテイクダウンの仕掛け、ロープ際の押し込み、そこからの寝技への移行やポジションの取り方。
画面の選手がグラウンドに持ち込むと、自然と実況解説モードになる。
「あ、ここでハーフガード取ったわ。この体勢からやったら、次腕十字狙えるな」
一方、打撃大好きなチンパンジー女は、スタンドのバチバチの殴り合いになると身を乗り出す!
「あ、今のロー効いてるわ! ほら、一歩下がった!」「今のカウンターのタイミング、めっちゃ上手いなぁ!」
キックボクシングの距離感やコンビネーションに大興奮だ。
そこへ、剣道経験者の猿女が独自の視点でボソッと呟く。
「今の、一歩入る間合いとタイミングが絶妙やったな。剣道でいう『出端』やわ」
オランウータン女は純粋に試合全体を楽しみながら、「今のフィニッシュ、凄かったなぁ! 一本!」とビールを片手に大盛り上がり。
そんな四姉妹の猛烈なやり取りを見ながら、薙刀をやっている従姉妹のボノボ女が笑っていた。
「うち、MMAもキックも細かいルールは分からんけど、みんなが横でガチ解説してくれるから面白いわぁ!」
特にMMAの試合になると、ゴリラ女の解説が冴え渡る。
「この選手な、打撃でプレッシャーかけて相手を嫌がらせてから、本命の組みに行くタイプやねん。ここで無理に極めに行かんと、キープしとるんが憎いな」
すかさずチンパンジー女が、
「でも、さっきの打撃で流れ作ったからこそ、このタックルが決まったんやな」
と応じ、姉妹ならではの息の合った競技者トークが止まらない。
全試合が終わったあと、ボノボ女がしみじみと笑いながら言った。
「皆、同じ画面観てるのに、全然違うところ見てるんやなぁ」
ゴリラ女は照れ笑いしながら、鍋のつくねをつまんだ。
「競技やってると、どうしても無意識に技術とか駆け引きばっかり追うてまうねん。職業病みたいなもんやな」
大晦日の夜、RIZINの激闘を肴に、それぞれの武道のバックボーンを交えて自然に語り合える。これこそが、激しい畳の世界を生き抜いてきた四姉妹とボノボ女ならではの、最高に熱くて温かい年末の過ごし方となった。