浪速のボスゴリラ   作:五十嵐 響

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柔道エリート

初戦のアームバー快勝から僅か2ヶ月。独学でのトレーニングを継続し、フィジカルと技術のすり合わせを黙々と進めていたゴリラ女は、再びディファ有明の地に立っていた。

2017年7月30日。THE OUTSIDER 第47戦。

今回は実績を評価されての赤コーナーからの入場だ。

 

前回の勝利で多少の注目を集めてはいたものの、ゴリラ女本人の冷徹な立ち振る舞いは何一つ変わらない。独学故に相変わらず単身で乗り込んだ控室で、淡々と拳にバンテージを巻き、セルフアップをこなす。

リングインすると、相手はゴリラ女のガタイと打撃を警戒してか、かなり引き気味の構え。ゴリラ女は慌てることなく、じわりじわりとマット中央を支配し、相手にプレッシャーをかけた。

 

ゴングと同時に相手がローキックで距離を取ろうとするが、ゴリラ女は意に介さず一歩前へ踏み出す。

相手が堪らず放った大振りの右フック。ゴリラ女はその懐へスッと潜り込むと、相手の胴体をガッチリとクラッチ。そのまま圧倒的な圧力で相手の体勢を崩し、マットへ叩き落とした。

畳の上ならここで抑え込みに入るところだが、ここはMMAのリング。

パウンドの打撃を警戒してパニックになり、慌てて背中を見せて立ち上がろうとした相手の隙を、ゴリラ女の野生の嗅覚が見逃さない。

(背中見せたな)

相手が四つ這いになった瞬間に素早くバックを奪うと、両足を相手の胴体にフック。そのまま太く力強い腕を相手の喉元へ深く滑り込ませた。

喉を正確に支点にし、体を伸ばしながら締め上げる。

逃げ場を完全に失った相手が、速攻でゴリラ女の腕をタップ。

1R、リアネイキッドチョークによる一本勝ち。

 

圧倒的な強さでアマチュア2連勝。しかも2試合連続の1Rフィニッシュ。

リングを下りたゴリラ女は、勝利の余韻に浸ることもなく、そのまま大会運営のスタッフの元へ歩み寄った。

「次の試合、いつ組めますか?」

試合が終わった直後に次戦の打診をするゴリラ女に、運営スタッフは少し驚いた顔をしながら資料を確認する。

「えーっと……次は12月頃の大会になりますね」

それを聞いた瞬間、ゴリラ女の眉がほんの少しぴくりと動いた。

(12月……? 今7月やぞ。あと5ヶ月も間開くんか。そんな悠長なことやってられへんわ)

独学で強さを追い求め、一刻も早く上のステージで己の力を試したい彼女にとって、半年近く試合ができない期間はあまりにも退屈で無駄に思えた。

「分かりました。ありがとうございます」

短く礼を言うと、ゴリラ女はそのまま控室へ戻り、荷物を纏めた。

ディファ有明を後にしながら、夏の夜風の中で彼女の頭はすでに次の目的地を描いていた。

(アマチュアでちんたらやってる場合ちゃうな。OUTSIDERはもうええわ。次はプロ団体にアピールしたいし『DEEP JEWELS』に乗り込んだる)

アマチュア2戦目にして見せた圧倒的な強さと、プロとしてのキャリアを急ピッチで切り拓こうとする冷徹な決断力。ゴリラ女の主戦場はここから本格的なプロの世界へとシフトして行くことになる。

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