浪速のボスゴリラ   作:五十嵐 響

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鶏小屋

OUTSIDERで見切りを付け、次なる獲物として目を付けるや否や行動を起こしたゴリラ女。彼女が足を踏み入れたのは日本の女子格闘技で有名な『DEEP JEWELS』だった。

 

2017年9月16日。新宿FACE。

熱気と独特の煌びやかさが交錯する会場の控室で、彼女は一人静かに青コーナーの準備を進めていた。

華やかなプロの試合がズラリと並ぶ今大会のオープニングで組まれたアマチュア枠。

だが、リングに上がったゴリラ女にお試しのような空気は一切なかった。

ゴングが鳴ると同時に、相手の動きを冷静に見極め、躊躇なく間合いを詰める。

相手が打撃で対抗しようとするやいなや、圧倒的な体幹と組みの強さで容易くマットへ叩きつけた。

トップポジションを奪ったゴリラ女。ここからの展開に迷いはなかった。

相手がガードを固めようとする隙間を突き、力強く、そして正確な軌道でパウンドを落とし落とし落とす。

「ドスッ! ドスッ!」

重厚な打撃音が響く度、相手の顔面が跳ね上がる。

相手は防戦一方となり、真面な反撃すら許されない。圧勝。正直言って、拍子抜けするほどの楽勝だった。

レフェリーが慌てて割って入り、試合ストップ。

1RパウンドによるTKO勝ち。

 

マイクアピールもそこそこに、勝ち名乗りを受けたゴリラ女はリングを後にする。

花道を歩きながら、グローブを外していたその時――後ろから声をかけられた。

「君、ちょっと良い?」

振り向くと、スーツを着た運営らしき男性がこちらを見つめていた。

「はい?」

「プロ興味ある?」

「あります」

「DEEPでプロデビューする?」

「お願いします」

二言三言の短いやり取り。しかしその瞬間、ゴリラ女の目つきが一段と鋭く、深みを増した。

プロ格闘家として生きて行くため、わざわざ大阪から東京まで殴り込みに来ているのだ。断る理由などどこにもなかった。

 

新幹線に揺られながら大阪へ帰還したゴリラ女は、自宅へ着くや否や家族に報告した。

「プロ契約決まった。DEEPでデビューする」

その言葉に真っ先に飛びついたのは、格闘技大好きな妹のチンパンジー女だった。

「マジで!? 姉ちゃん凄いやん!」

目を輝かせてはしゃぐ妹の隣で、母親も心配と安堵が入り混じった表情で見つめながら微笑む。

「良かったやん」

プロレス団体を解雇されてから約5ヶ月。

独学でトレーニングを続けながら抱えていた無職という肩書が消え、今日から自分は総合格闘家になった。誰よりも深く胸を撫で下ろしたのは、ゴリラ女本人だった。

「プロデビュー戦は『DEEP 79 IMPACT』か……」

自分の居場所と肩書を手に入れたゴリラ女。

プロのリングという本物の戦場で、思う存分暴れ回る準備は既に整っていた。

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