「最強の一撃を放つ代わりに即死する俺」と「蘇生の権能しか使えない聖女」   作:日常系ファンタジー

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代表に聞いてみた

 

「やぁ、英雄」

「そんなんじゃねぇって何回言えばわかるんだよ」

「だけど、君はこの街を救った。それは事実だ」

 

 シアの権能によって目を覚ませば、そこは俺たちの屋敷の前だった。

 

 俺の死体をここまで運んでくれて蘇生してくれたわけではないのなら、今回はそこまで吹き飛ばなかったということだろう。

 

 目覚めて最初の見たのはシアの安心したような表情。

 そして、魔王からの嫌味っぽい視線と言葉だった。

 

「俺が救ったのは俺自身だ」

「それは君の意見だろ? だけど英雄って称号は英雄が自分で名乗るものじゃない」

「どうでもいい。勝手に言ってろ。賭けを守ってくれたことは感謝してるが、1=1だろ? 礼は言わないぞ」

「礼なんて言われたらこっちが困るな。それじゃあ用も済んだし、僕は今日のところはお暇するよ」

 

 魔王の足下に魔法陣が現れる。

 

「逆式召喚……転移の魔術……」

 

 シアの呟いた言葉の真意を察せるほど、俺は魔術に関して聡くない。

 だが、シアの表情を見れば魔王がやろうとしていることが驚異的なことなんだろうって推測くらいはできる。

 

「いいのか?」

「あぁ、君の力は見れたからね。今のところ、君は僕らが相手にするべき勇者には足りえない。それに君自身もそんな存在になることを望んではいないようだ」

 

 朱色の魔法陣が光を強めていく。

 

「ならば僕は魔王として、君が人類の英雄になったその時に滅ぼしに来るよ」

「そうか、じゃあもう二度と会う必要はなさそうだ」

「そうかもね」

 

 魔王『ヴァララ・ザナート』は俺の顔を見て小さく笑う。

 その瞬間、魔法陣の発した光に包まれ姿が消え失せた。

 

「どうやら厄災は去ったみたいだね」

「そうだな……あぁ、疲れた……」

 

 肉体的な疲労じゃない。

 それはシアの蘇生の権能で全快している。

 

 死の体験をしたからでもない。

 そんなものは日常だった。

 

 

疲れたのは多分、自分の力のことや、自分の幸せのことや、シアのことを……沢山考えたからだ。

 

 

 今まで俺は思考する意味がない場所にいた。

 だけどここでは、「外の世界」では誰もが当たり前に自分のやりたいことを考えている。

 

 それは俺の知らないことだった。

 

「お疲れさま、アーデル。お昼にしよ?」

「昼……もうそんな時間か……」

「私、なにか作るよ」

「え、料理できるの?」

「人並みにだけどね」

「すげー」

「えっへん」

 

 シアはあまり大きくない胸を張っていた。

 

 

 その後シアが作ってくれたミネストローネはかなり美味しかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 術式名【天魔の咆哮(ヘブン・ロア)】。

 

 それは人の身を天使の構造に造り変え、一時的に無尽蔵の魔力を得る効果を持つ。

 しかし、人体がその奇跡に耐えられるのは十数秒が関の山。

 それ以上の時間が経過すれば、その者は死亡する。

 

 

「それが、あの子の心臓に刻まれた術式の内容なのだよ。騎士団長殿」

 

 

 魔術結社【グレスロア】代表『ローベルト・グレス・アイトルフォ』。

 

 彼は、宮廷魔術師がこさえた封魔の牢の中より、自慢気に私『マナリア・ミコト』に術式の内容を説明した。

 

「何か無力化する手段はないのか?」

「ないね。あれはそんなちゃちなものではない。例えこの部屋のような封魔の檻に閉じ込められたとしても、圧倒的な魔力量によるゴリ押しで突破してしまうだろう。そういう規格外な存在だから私はあれを天使と名付けたのだ」

 

 椅子に座ったまま鎖に雁字搦めにされているにもかかわらず……

 この男の命運は王国が握っているにもかかわらず……

 

 それでも、この男の表情には不安や恐怖の色は見えない。

 

 伸びきった灰色の髪の奥から覗く瞳は、まるで子供がものを知りたがるような喜々としたものだ。

 

「それにしても騎士団長自ら私にそんな事情聴取をしてくるということは、あの子の力が解放されたということだろう?」

「さてな……」

「死んでしまったのなら悲しいな。あーいや、死んでいるならこんな質問をしに来る必要もないはずだ。ということは生きてる……生き返った? 聖女の力かな。もしかして、聖女と組まれたのかい?」

 

 この男は危険だ。

 私はアーデルが何をしただなんて一言も口にしていない。

 

 なのに、この男は私がここで行った言動からそこまでの状況を把握してしまったようだ。

 

 まさしく『天才』と呼ぶに相応しい知性を有しているのだろう。

 その力が正義のために使われていれば、きっとこの国はもっと豊かになっただろうと思う。

 

 だがこの男はどこまで悪なのだと魔術結社のアジトの凄惨な様子を見た時に私は確信している。

 

 この男に善性は期待できない。

 今は、この男からアーデルの術式の情報を正確に引き出すことが先決だ。

 

「何故だ……何故貴様はあんなものを開発しようと思った?」

「きっと君には理解できないだろう」

「言え」

 

 私はローベルトの首に剣を突きつける。

 怯えのない表情で私を見た彼は渋々といった様子で話し始めた。

 

「……ここはさ、WEB小説の中の世界なんだよ」

「うぇぶ……小説?」

「私は別に来たくて来たわけじゃないから帰りたかったんだけど、そんな方法はストーリー上用意されてなかったから自分で作るしかなかったんだよ」

 

 ……こいつは一体、何を言っている?

 

「魔力理論は裏技を含めてだいたいわかってたし、高次存在も魔王も天使もその他諸々の強さや概念も理解してたから、高次元に渡るってことを考えるとやっぱり【天使】って存在を生み出すのが近いかと思ってね」

 

 まるで私を見ていない。

 俯瞰的に、他人事のように、この男は私を……いや、世界そのものを心底どうでもいいものだと思っているかのようだ……

 

「おっと、すぐに長話を始めてしまうのは私の悪いクセだね。ようするに、私はこの次元に穴を開けたかったんだ」

「では、あれはその副産物ということか?」

 

 アーデルの一撃はたしかに超越的なものだったが、『次元の穴』のようなものは確認されていない。

 

 ならば、この男は失敗したということだろう。

 実験の失敗であんなものを造り出すとはなんとはた迷惑なことか。

 

 だが、それが王国を二度も救ったのだから心境は複雑だ。

 

「いいや、違うよ。あの子の成否はまだ出ていない。あの天使が本格的に覚醒すれば、次元に穴を開けることもできるようになるかもしれない」

「何を言っている? 本格的な覚醒だと?」

「ははっ、まさかアレがビームを撃つだけの術式だとでも思っていたのかね? 説明しただろう。あれは【無限の魔力を得る】術式であって、その魔力をどのように放出するかは術者のイメージと魔力操作の練度に依存する」

「……」

 

 理解できない。

 いや、理解したくなかった。

 

 だが私は騎士団長として、その事実を確認しておかなければならない。

 

「まさか、アーデルが魔術的な知識を得た場合……」

「さすが、賢いじゃないか騎士団長殿。その通りだよ。あの術式は使用者の魔術的な理解によって様々な術式結果を得ることができる。今はただ魔力を放出しているだけのアレが、その膨大な魔力を術式に転用すればどうなるか……想像できるかい?」

 

 結局、私が牢に入ってから一度たりとも、この男は薄ら笑いを止めることはなかった。

 

「騎士団長殿、是非また話を聞きに来てくれ。私もあの子の……私が捻じ曲げた【主人公】の動向は気になる所だからね」

 

 そして、私はこの男が何を言っているのか最後までよくわからなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「魔術って何なんだろう?」

「急にどうしたの?」

 

 いつものように窓辺でタバコを吸っているシアに質問をしたのは、俺がこの世界のことをほとんど知らないということがわかったからだ。

 

 俺の人生はほとんどが魔術結社の実験室と牢屋の中だった。

 一般常識というものが自分に備わっているのかすら疑問が残る。

 

 だからふと、この世界の常識『魔術』について聞いてみようと思った。

 

「街の中じゃ魔術は当たり前に使われてる」

 

 先日魔王が放った巨岩が破裂して飛び散ったことで王都はさらに崩壊した。

 食材や日用品を買いに外へ出ると必ずと言ってもいいほど魔術が使用されているところを目撃する。

 

 水を生み出し、炎を起こし、建物を造る。

 

「何も知らない俺からしてみると、魔術ってのはなんでもできる万能の力に見えるんだけど……」

「そうでもないかな。結局、魔力量っていう絶対的な制限はあるわけだし。でも逆に言えば、その問題さえ解決できなるならもしかしたらできないことなんてないのかもね」

 

 人によって魔力量に上限があるからそれ以上のことはできないってことか。

 

 俺は魔術なんてこの心臓に刻まれた術式以外は使ったこともないから、少し興味がある。

 機会があったら憶えてみるのも面白いかもしれない。

 

「まぁ、私は蘇生の権能のためにあらゆる魔術を使えない代償を負っているからあまり詳しくないよ。別の人に聞いた方がいいかもね」

 

 そう言ってシアはタバコをふかす。

 

「アーデルも吸う?」

「いや、不味かったから要らない。俺は今日の昼食の買い出しに行ってくるよ」

「じゃあついでにタバコを買ってきてくれる?」

「はいよ」

「料理、するの?」

「あぁ、料理とかしたことないからやってみたいんだ。でも味が悪かったらごめん」

「私は君に文句なんて何一つないよ。手伝うから帰ったら一緒にしようね」

「わかった。ありがとう」

 

 

 

 屋敷を出た俺は商店街へ向かう。

 

 天使の姿はこの街に住む誰もが目撃しているが、それが俺だということはほとんどの人間が知らない。

 

 多分、王様が隠蔽しているんだろう。

 けど、俺にとってもその方が都合がいい。

 

「牛魔肉を買わせて欲しい」

「はいよ。すまないね、復興のせいでちょっと高くなってるのよ」

「大丈夫」

 

 誰も俺のことを知らないから、こうして普通に買い物ができる。

 

 魔術結社から救出されて数カ月しか経っていないが、流石にお金の価値や使い方は理解している。

 

 肉と値札に書かれた枚数の銅貨を取り出し店主へ渡す。

 

「まいど」

「ありがとう」

 

 他にもいくつか店を回り、パンや野菜、調味料を買っていく。

 

「おい、そっち持ってくれ!」

「ここは直すのに結構時間かかりそうだな」

「薬草はないか!? 緊急だ!」

 

 人々が世話しなく動き回っている。

 街を復興させるため、怪我人の治療のため……

 

「大変そ」

 

 でも、その光景を見ても俺にはそれくらいの感想しか出てこなかった。

 

 自分のことながら、もう少し可哀想だとか感じるのかと思っていたけれど、意外というか、むしろ当然というか、心底どうでもよかった。

 

 別に壊したのは俺じゃない。

 壊されるしかなかったのはこの街に住む人間の問題だ。

 そもそも俺はこの王都がぶっ壊れても別に困らない。

 

 俺にとってこの光景は問題に足りえていない。

 

 きっと俺という人間は、あまり人に共感できるタイプではないのだろう。

 

「あ、そうだ。本屋にも寄って料理本をいくつか見繕おう」

 

 本屋へ向かうと無数の本が本棚の中に納められていた。

 

 本って高いよな。

 食材が銅貨数枚で買えるのに、本は最低でも銅貨百枚分の銀貨を使う。

魔術本になると、そのさらに百倍の金貨じゃないと買えないような本もザラだ。

 

 王様から貰った報酬は俺とシアが数年暮らせるくらいのお金。

 金貨にして三十枚だ。

 

 王様には依頼を出していいとは言ったが、受けるつもりは微塵もない。

 俺が依頼を達成した後にシアが捕まればその時点でアウトだ。

 

 この前の魔王のように、使用後のことを考えてからじゃないと『天魔の咆哮(ヘブン・ロア)』は使えない。

 だからお金はできるだけ節約しておきたい。

 

 こんなことなら王様にもっと金を貰っておけばよかった。

 いや、あまり高額を請求すると王様が俺を殺すのに本気になりすぎる可能性もあったし、あの時はあの程度の額がベストだったと思う。

 

 でも欲しいな……魔術書……

 

「こんにちは、アーデルさま」

 

 俺が本棚の中にあった魔術書に手を伸ばそうとしたところで、そんな声がかかった。

 そちらを振り向けばそこにはこの国の騎士団長の姿があった。

 

「またあんたか……ストーカーなの?」

「申し訳ありませんが、監視(ストーキング)はさせていただいております。現在あなたは特殊監視対象ですので……」

「監視対象に監視してるってことを明かすストーカーも中々珍しいんじゃないか?」

「かもしれませんね」

 

 マナリア・ミコト。

 この国の第一騎士団の団長。

 

 シアを除けばこの女はかなり話のわかる部類だ。

 王様も教皇も魔王も、自己都合を押し出すような態度だった。

 

 だがこの女は常に俺の顔色を窺っているような印象を受ける。

 

 それは俺の術式を警戒してのことなのだろうが、それでも王様共よりは融通が利きそうだ。

 

「で、態々それを俺に言うために出てきたのか?」

「それもあります。監視していることを隠して後々バレる方があなたの反感を買う可能性は高いですから」

「それもあります、ってことは他にもあるのか?」

「単純にこんなところで何をされているのか気になったのです。もしや、魔術に興味がおありなのですか?」

 

 マナリアの視線が鋭くなった。

 言葉や態度は下手に出ているのに、その瞳や堂々とした立ち姿からは魔王に似た風格を感じる。

 

「俺はずっと魔術結社に囚われていたからな、世界のことを何にも知らないんだ」

「……世界のこと?」

「歴史、政治、宗教、医療、ダンジョンや魔物、この世界のほぼすべての分野には根底の部分に魔術が存在する。折角自由を手に入れたんだから俺は世界を知りたい」

 

 俺がそう言うとマナリアはぽかんと口を開けた。

 

「子供みたい……あ、失礼いたしました。今のはお気になさらず」

「いや、子供だよ。俺は何も知らないからな。だから勉強したいんだ」

「なるほど。では、ご自身で魔術を使いたいというわけではないのですね?」

 

 なんの確認だ?

 俺が魔術を使うことになにかあるのだろうか。

 まぁいい。

 

「使ってみたいって気持ちがないわけじゃないけど、そこまで使いたいって気持ちが強いわけじゃないかな」

「そうですか……ではこうしませんか?」

 

 俺の軽い気持ちとは裏腹に、マナリアは酷く真剣な表情で俺に提案をした。

 

 

「私があなたに魔術を教えます」

 

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