乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
「ほぉ、久し振りに俺を使える奴が現れたと思ったら……随分と可愛らしい娘っ子が来たじゃねぇか。」
真っ暗な空間、そこに佇む全身白でベタ塗りにされたような人型のなにか……それはまるで炎のようにゆらめいでいる。
そんなこの世のものとは思えない人外と相対するのは、フリルの付いた衣装を身に纏う一人の少女……銀髪で片目を髪で隠し、その手には双剣が握られていた。
「……貴方が、
「アーク?あぁ、そう呼ばれてた時もあったなぁ。」
何せ呼び名が多すぎて忘れちまったいと、その人影は人らしく笑う。だが、少女は一切その顔を緩めない。
「……力を貸して。アーク。」
「あぁ?礼儀がなってねぇな。俺はお前の名前を聞いてねぇんだが?用件の前に名乗るのが礼節だろーが。」
「……ユキ、アスノ・ユキ。氷結の魔法少女って呼ばれてる。」
「魔法少女……?あぁ、今じゃそう言ってんのか。」
この世のすべてを見透かしたかのようなもの言いに、少女、基ユキは顔を顰める。まったくもって腹立たしい……こんなものに頼らなければどうにもできない自分が、何よりも。すると、目の前の人影はいつの間にか何処からか本を取り出してその内容を読み上げる。
「次元の歪みから現れる怪物、次元獣を退治する為の魔法を操れるのは少女だけ、故に魔法少女が産まれた。……まったく、いつ聞いても年頃の女の子をなんだと思ってんだって話だよなぁ?」
まるで見飽きた設定のラノベを見るように、その魔神はまた笑う。それは、ここから先どうなるかを楽しみにしているようでもあった。
「何を言ってるのか知らないけど、力を貸しなさい。禁書に封印された禁断の魔物……アーク。」
「命令口調は止せぇ。物事を頼む時はお願いしますが円滑な人間関係のコツだ。」
ユキはまたゴクリと息を呑む。
目の前にいるのは、自分達の敵である次元の歪みから何処からともなく現れ、破壊と殺戮の限りを尽くす怪物、次元獣。太古からその次元獣に対抗してきた勢力に力を貸し、最後にはその者の身に滅びを齎した禁断の魔物だ。
次元獣以上に、今の人間では測れない何か。言葉を慎重に選ばなければ……そう感じていた。ユキは息をのみ込み、先程までの高圧な態度を打って代え、深く頭を下げて懇願する。
「……お願い、します……!!仲間を、友達を、助けたいん……です……!!」
今ユキは現実世界で戦っている最中だ。ここは言わば目の前の魔神が計らって作った場所、やろうと思えば今ここでユキを潰れた空き缶のような状態にするのも容易いだろう。
そんな目の前の魔神に懇願しなければならないほど、いつか自分に酷い未来が待っていることを理解しての、懇願。それだけの脅威が迫っていた。
その懇願を耳にいれると、揺らめくような人影の口元がニヤリと笑い、アッサリと言う。
「よしっ!良いぜぇ?俺の力を貸してやるよ。俺も丁度運動したかったところだ。ただし契約は等価交換が定石だぁ。お前にも同等のナニカを賭けてもらうぜぇ?」
「……命?」
「かぁーっ!駄目駄目!そんなんじゃ
そう言って魔神は指を鳴らす……そうすればユキの後ろに白い扉が現れる。禁断の魔物と銘打たれている割には、すんなりと話を通して来る……余りにも淡白なやり取りに、作為的なものすら感じ取れる。
「んじゃ、勝手口はアッチだ。さっさと現実に戻りな。」
「……。」
ユキの怪訝な表情を察知して、アークはまた笑う。
「ふふっ……怖い顔するなよな。力が必要なら何時でも何処でも呼べ……お前が俺の力に耐えられるのならな。」
「……私は貴方になんて屈しない。」
ユキはそう力強く宣言すると、扉の奥へと消えていく……そして彼女の意識は、急速に現実世界へと引き戻されていった。
――――――
「ユキ!!」
仲間の声に目を覚ます。
ユキは咄嗟に頭を振り回転させて思い出す……いままで自分が何をしてたのか、そして目の前に立つ、触手を束ねて人型にしたようなバケモノを見て思い出す。
自分達はこの怪物と戦っていた……辺りには数人の倒れた魔法少女。中には息をしているのかすら怪しい者もいる。声を荒げてくれた仲間の魔法少女も、完全に地面へ倒れ、立ち上がることすらままならない様子だ。
「ゆきぃ……!!逃げて……早く!!」
そしてまた思い出す。このままでは、全員殺される。魔法少女が、という話ではない。街が国が世界中の人間が殺されるという事を。
それをなんとかするために……ユキは最後の希望、数多の人間から散々封印を解くなと言われた禁断の書に手を伸ばしていた。瓦礫に背を預ける彼女の手元には、その本が抱きしめられていた。
目の前の化け物は鋭く尖ったその腕を、ユキに向けて振り下ろす。なんの躊躇いも無く。
そして次の瞬間、その腕が黒い炎によって吹き飛ばされる……その炎は、ユキの持つ禁断の書から現れていた。
そこから現れるのは、全身が黒炎でできた人型のナニカ。そしてそれが、禁断の書に封じられていた物であるという事は、誰の目から見ても明らかだった。
「あれが……禁断の魔物……?」
「アーク……」
「かぁーっ!お前かぁ!久々ぁ!200年前もお前相手に呼び出されたっけ?」
気安く目の前の化け物に話しかけるアーク……その触手の化け物は明らかに苛立った様子で全身の触手を伸ばして襲いかかるが、アークはつまらなさそうに呟いた。
「お前、前もそれだったよな?その前の前も、前の前の前も。もう飽きたぜぇそれぇ。」
触手は高速で迫り、そっと先端がアークの燃える体表に触れる。そして、彼は冷たく言い放つ。
「飽きたから、死んどけ。」
次の瞬間、アークから放たれた炎が飛びかかる触手を焼き払った……多くの魔法少女という戦士が投入されたこの作戦でも、殆ど断ち切れなかったその触手を、その魔物は何てことないように焼いてしまったのだ。
そしてその炎は直ぐに触手の次元獣の身体を焼いてしまう……だが、その炎は直ぐに途切れ、本体は健在かのように振る舞う。
「ありゃっ、前はこれで焼けたんだけどな。火力不足か。」
アークは炎の揺らめきとともに少し身体を揺らすと、そっとユキの方を振り返る。
「この身体じゃ満足に動けねぇなぁ……丁度良い、代償の取り立てだ。お前の身体を借りるぞ。」
「っ!?」
そう言ってアークの身体は一塊の炎となって、有無を言わさずユキの身体に纏わりついた。ユキや、それを見ていた魔法少女は思わず声を上げる。
「あっ!?……あぁぁぁぁ…………!!」
「ッ!ゆきィッ!!」
ユキは全身に炎がまとわりついているのに、痛みも熱さも恐怖も感じない。あるのは、例えるなら全身に這うような不快感だけである……油断すると意識すらも持っていかれそうな程のものであるが。
そして、現実にその黒い炎はユキの意識をその身体から奪った……全身にはまるで炎でできた鎧が各部に装着され、頭はその顔を隠す炎のような仮面が備わる。
まるで、炎がユキの体を乗っ取ったようだ。
そして、そっとユキが声を上げる……ユキとアーク。女声と男声、二つが交わったような声で。
「はははっ!!漸く自由に動かせる身体が手に入った!!悪くねぇ、中々良い魔力だ。貯蔵も十分。氷属性の魔法ってのが気に食わねぇが……良いか。」
すると、触手の次元獣がまた触手を伸ばしユキへ……いや、ユキの身体を乗っ取ったアークに近づいてくる。
アークはそっと手を伸ばし、デコピンのような仕草をすれば……今度は、次元獣から直接炎が巻き起こりその身体を焼く。いくら触手を伸ばしても根元から直ぐに、まるで麻紐を焼くように断ち切ってしまう。アークは、焼けていく触手をただじっと見つめながらつぶやく。
「お前の十八番は確か再生能力だったかな?……なら、ずっと焼かれ続けてろ。」
その言葉通りに触手の次元獣は何度も何度も繰り返し焼かれ続けている……いくら再生させようとも、そのそばから内側から燃やされていく。やがて、猛威を振るっていた化け物は小さな肉片となり……その肉片すらも炎で焼いてしまう。
禁断の魔物……その仰々しい二つ名に違わぬ力を見せつけていくのだった。アークはそのまま振り返り数歩歩き出す……すると、数拍遅れた足音と共に、アークの頬を炎の矢が掠る。
「……オイオイ、お手柔らかに頼むぞ?この身体はお前のおトモダチの身体なんだからな。」
「はぁ……はぁ……」
アークの後ろに立っていた、先程ユキに声を掛けていた赤を基調にした衣装に身を包んだ魔法少女が、炎の弓矢を構えていた。火炎の魔法少女の名を戴く少女であり、ユキの戦友……名はユウガオ・アサヒ。彼女は炎の弓を構え、若干涙ぐみながら、得体の知れない物にまとわり憑かれたユキに訴えかける。
「ユキを……ユキを返して!」
「おっかないなぁ……分かったよ。」
なんて事ないようにまたアッサリとアークはそう言うと、ユキに纏わり憑いた炎がふと消えていき……そして、ユキが目を覚ます。あまりに突然なことに、ユキもアサヒも目を丸くする。
「あ……れ?」
「……えっ?」
禁断の魔物……そう名付けられた魔物にしてはえらく素直に言う事を聞く。
あんまり素直すぎてなにか裏があるのではと勘ぐってしまうほどだ……二人が困惑する最中、ユキの影から伸びるように炎が現れる。その姿は……禁書を持った時に本から飛び出した魔物と同じ姿をしており、そしてまた同じ声で声をかける。
「代償その1だ。暫くお前の身体に住まわせてもらう。」
また楽しそうに、アークは笑っていた。