乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
「氷結ノ魔法:六式......
冷気を纏った双剣を携えたユキの乱れるような連撃が、次々と目の前の次元獣を襲う。タイミングをずらし、回避のタイミングをシビアにし、か細いながらも確実に一撃一撃を当てに行く。
おおよそ次元獣と言うのはさほど知能はない。こうしてタイミングをずらした攻撃なだけで回避に手間取る奴もいる。だが、目の前の次元獣は少し勝手が違った。
「っ…!!っ……!!っ……!」
「うっへぇ猿かよ。」
そう、まさに猿。身軽な動きで連撃を紙一重に次々と躱していく。尻尾に大砲を乗っけたような見た目の割には機敏だ。追撃するようにアークも鉤爪を生やした腕で攻撃を仕掛けるが、これもひらりと避ける。
「かはぁ、面倒くせぇ……もうこの辺り一面焼いて良いか?」
「良い訳ないでしょ……!!」
ユキがそう叫ぶ最中でも、アークはその次元獣に攻撃を仕掛ける……次の瞬間、そっとアークの片腕に手を添えてその次元獣は静かに鳴き声を放つ。
男なのか女なのか、老人なのか、若者なのか、言葉であることはわかるがどんな声なのかはわからない……そんな不可思議な声だ。
「っ…………カマナ、ナカマ、ココ。」
「ッッッ!?!?!?」
アークはその声を聞いた途端に驚き、焦り、息を呑み、振り払うようにその腕を振るう。
次元獣はひょろりと躱すと、次の瞬間、尻尾からまた魔力弾を放つ……今度は先ほどの不意打ちの一撃よりも魔力の込められた一発だ。
「氷結ノ魔法:四式!
ユキは咄嗟に片っぽの剣を投げ飛ばして魔力弾に当てて誘発させる。すると魔力弾は氷に包まれ、まるで凝結するように消える。……だが、既にそこからは先ほどの次元獣の姿が消えていた。
「消えた……と言うか、あの次元獣……喋った?」
「……野郎……野郎……!」
「アーク……?」
少し様子のおかしいアークにユキが問いかける。だが、アークは何かを振り払うようにユキへと話す。
「……ユキ、アイツ何処に行った?」
「えっ、分からないわよ……!というか、どうしたの?何か知ってるの?あの次元獣……」
「次元獣の
もう片方とアークは言うが、ユキにはどう見てもあの次元獣は一匹にしか見えない。喋ったのは確かに妙だ……言葉を放つ次元獣は幾度が記録されているが、その全てがさして意味のある言葉を話さずに倒されている。珍しい存在ではあれど、それだけだ。
「……確かに、次元獣が喋るなんて……」
「次元獣が喋る?アホ言うな、奴らにゃ知能は無い。誰かを狙うなんて真似はしない。ただ目の前にあるもんを壊すか食らうか……その程度しか考えられねぇ生き物なのさ。」
「心底嫌になるぜ」そんな風に吐き捨てながら辺りを見回すアーク……。確かに、次元獣と言うのは基本破壊と殺戮くらいしか考えていないはた迷惑な存在だ。
だからこそ、次元の歪みと言う曖昧な場所から曖昧に現れたとしても対処できるわけで……。それが頭脳を用いてきたなら、人間社会はもう少し陰鬱となっているだろう。
「じゃあ……一体?」
「…………っ!来たぁっ!!」
ユキの問いかけにアークが渋い声を上げた途端……また歪みから飛び出すように魔力弾が撃ち込まれる。
今度はアークが腕を振るって掻き消し、逃さないように腕を触手のように伸ばして、また捕まえようとする………。たが、今度の触手は空を切って次元の歪みに潜らせることはできなかった。
「あぁ!逃した!やっぱこの姿やりにくい!ユキ!身体貸りる」
「ちょっ!?言ったばっかなのに……!!」
ユキの言葉に対して問答無用と言わんばかりにアークは半強制的にユキの体を乗っ取る……臨戦態勢なだけあって、アークを鎧の様に全身に纏った姿となる。
『アーク!!貴方……!!』
「こうした方が直ぐに片付く!」
以前のハチ型の時とは違い、かなり問答無用だ。それだけ、彼が気配すらも察知できないのが恐ろしいということなのか……まぁ、生きた人間を乗っ取らないとフルで力を出せないアークもアークだが。
「マジで嫌になるぜ……!」
そう呟くと、今度は死角から飛び出してくる魔力弾を蹴りつけてかき消し、今度は先よりも数段速いスピードで、今度は全身から触手の様に炎を伸ばす。
すると今度はしっかりと歪みの中に入っていき、アークが身を捩らせればまた釣り上げられるように飛び上がって来る。
「何度も同じやり方させんな……。……んじゃ、捕まえたって事で……こうすりゃお前が次元獣の作る次元の歪みに潜ろうが関係ないだろ。」
アークから伸びる炎の触手は目の前の次元獣を完全に捕縛する……するとアークのその腕が大型の剛腕へと変化していく。ゆっくりゆっくりにじり寄ると、その腕に紅蓮の炎と共に魔力が溜まって行く。
『アーク……被害は抑えてよ!?』
「真っすぐ行ってぶっ飛ばす。右ストレートでぶっ飛ばす。』
『アーク!!』
完全に本気でぶちかます気満々だ。それだけストレスがたまって居たのだろうか……次元獣は身を捩らせて脱出しようとするが、自身を縛るその炎の縄は緩まない。
ならばと、尻尾を振り回して魔力弾を乱雑に放つが……数発アークに当たろうともその足は止まらない。ならばなぜ先ほどは態々蹴り飛ばしてかき消したのだろうか。
「はい、んじゃあもう終わりで良いよな?」
『アーク!だから被害を抑えて……!!』
「こっちも嫌な奴と会ってストレス溜まってんだ。しっかりブチ倒すだけで感謝しとけ……加減はする!!」
「っ!!……」
目の前の次元獣と目と鼻の先……至近距離に尻尾の大砲を向けて接射するが、灰色の煙を上げるだけで、特にたじろぐ様子すらもない。
そのまま掴んだ自身の炎の触手ごと、アークは剛腕を振り下ろし……そのまま地面へと叩き潰す。衝撃波で周囲の窓ガラスが割れたり、立てられた看板が外れたりと大惨事である。
「あっ、技名考えてなかった。えぇっと……技名…………えぇっと…ろ……き、禁断の拳!!」
大分アレな名前だが……まぁ他の魔法少女の技名を似たような物なので良しとしよう……アークは、そう思う事にした。
その一撃を叩き込まれた次元獣はそのまま地面にクレーターを残して跡形もなく消え去る………アークは感触を確かめるように肥大化して殴った腕を握ったり開いたりする。
『アーク……!何をしてるの……こんなに周りに被害を出して!』
「知るかぁ。文句ならいきなり出てきたコイツに言え。もっと楽に倒せるならオレもそうしてらァ。」
周りへの被害が余程気に入らないのか少し怒りを見せるユキに対して、アークは悪びれる様子もなくそう言う。それに対して何か思うところがあるのか、ユキはまた声を上げる。
『もし周りに逃げ遅れた人がいたら……!』
「そもそも避難誘導はカコやアミが行ったろ。そんなにあの新人二人が信用できないか?なら始めから自分が避難誘導でもしてろ。そうやって何でも自分が自分がってしてるからにっちもさっちも行かなくなるんだよ。」
ユキは魔法少女と次元獣の戦いに巻き込まれて親を亡くした……それ故、特に自分や周囲の被害に対して少し過敏な所があるのだろう。
その上で次元獣を自分で倒そうとするのだから、そりゃ首も回らなくなるしこうして八つ当たりじみた事も突っかかってしまう。
『……ごめん、なさい……』
「それに、どうしても仕留めときたかったからな。」
『……そんなに危ない次元獣なの?』
「次元獣自体はそんな大したもん奴じゃない……っと、体返すぜ。」
そう言ってアークはユキの体から離れる……すると、屋根を渡ってカコとアミが舞い戻ってくる。
「アーくん!ユキ先輩!」
「無事ですか!?」
「何とかね……」
魔法少女三人は顔を突き合わせて肩を降ろす……ほぼアークのお陰であれど、なんとか次元獣を倒すことができた。ユキとしては周囲の被害やアークの様子が気がかりだが……兎にも角にも一先ずは安心といった所だろう。彼女らにとっては………
崩れた瓦礫の影より、一つの丸い影が移ろいで行く……その影は、ゆっくりゆっくりと目の前の三人の魔法少女と言う良い身体を求めていた。内一人は先約が居るようだが……残り二人でも何も不都合はない。
……その
すると、その影には声が聞こえた。先ほどまで戦っていた……
「……悪いな、そいつら友達なんだ。すまんが消えてくれ。」
そう言ってその丸い影はもう一つの影に、もう一人の同胞に握り潰される……するとその影は自らの名前を呼ばれて顔を出す。
「……アーク?」
「ん、どうした?」
「何してるのよ……」
「…………立ちション。」
丸見えのウソにユキはまた呆れ気味に呟く。
「デタラメ言わないでよ。何か知ってるんでしょう?さっきの次元獣。」
「知ってる訳じゃないけどな……同胞が次元獣の身体を乗っ取ってただけだ。」
「それそんなにアッサリ喋って良い情報なの!?」
なんの気なしにアークが投下した情報に、カコは驚いて口を開くのだった。