乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
「……つまり?君には同種が居て、その同種の多くは次元獣に取り憑いて居て言葉を発する次元獣がそれに値する……と?」
「せやぞ。」
「もっと早く言おうかそう言うの!?」
魔少課本部にて、ハルザキは珍しく取り乱しながら机に突っ伏して叫ぶ。その様子をユキは哀れそうに、アークは面白そうにケラケラと笑いながら見つめている。
アーク曰く、今度襲いかかってきた次元獣にはアークの同胞が取り憑いていた。その同胞達は基本的にほかの種に取り憑き寄生し過ごすのだが、次元獣に取り憑く同胞も多く存在する。
すると、次元獣は自身の能力を寄生した同胞の力によりさらに増幅させる。だが、ある程度の増幅が終わると、その意志を徐々に寄生したアークの同胞に支配される……と言う事らしい。
「そんな大事な話もっと早くしないんだよ!?!?!?」
「別に話した所で興味ねぇかなぁと……」
「興味云々じゃないって!情報があって困る事なんてそうそうないんだからさぁ!?」
「私こんな取り乱してるハルザキさん初めて見た……」
ユキも何処か気の毒そうに肩を落とす……研究員としては情報は何よりもの武器。それを勝手に隠されたとなってはたまったものではない。もっと早く知りたかったと思えるのは当然の話だ。
しばらくして、コーヒーをエナジードリンクの如くがぶ飲みにしてから少し落ち着いたのかハルザキはアークに問いかける。
「……しかし、言葉を発する次元獣はそれなりに報告されてきたが、それにしては君みたいな力を持つ奴が君一人しかいないってのは……」
「それだけ俺が異端で別格って事だよ。汎ゆる魔法少女や人間に乗り移りその力を蓄えた……それが俺だ。」
いつもの様に……いや、いつもよりも若干露悪的な態度で語る。その様子には、流石のユキやハルザキも眉をしかめるほどだ。
「アーク、お前の話が本当だとして、なんで誰にも何も言わなかった?せめて仲間がいるって話くらいは……」
「……俺からしたらそれがありえねぇって話だったからなぁ。」
ユキの問いかけにアークは変わらぬ様子で答える。
「次元獣は水を泳ぐ魚みたいなものだ。潮の流れや淡水海水関係なく水辺という水辺を泳ぎまくる……な。それだけたくさん泳いでると、偶に陸地に跳ね上がってくる奴も出てくる。これがお前さんらの言う次元獣だ。」
その言葉に、ハルザキはゴクリと息を呑む……つまりは、それだけの数がこの世の中には次元獣が潜んでいるということ。一つ次元獣の住む空間の歪みの奥に手を突っ込めば、次元獣の群れが一杯。人類なんぞ水面のプランクトンのように食い尽くされる。
それは、「人類を守る」その意志のみは固く持つ魔少課のハルザキとしては息を呑む事実だ。
「数がいるとして、それから偶然たまたま強く育った同胞が入った次元獣が入ってくる……どんな確率だ?そんなもん態々想定してられるか。」
するとユキはアークを観ながらまた答える。
「けど……アークって言う育った魔物がここに居る。なら……」
「あぁ、そうだ。だからこそありえねぇって言うのが俺の結論だ。俺がここまで育ったのもどれだけの奇跡が重なったと思ってやがる。」
何処か懐かしげに語るアーク。その姿は、いつもの胡散臭くケラケラと笑うアークからは想像ができないほどにセンチメンタルな声色だ。
カコやアミと現代人間として過ごしたからだろうか?どこか丸くなっていると言うか、良いようにない寛容が見えてきた気がする。
「……その君の同胞は、君と似たような考えを持っているのかい?」
「ハルザキさんよぉ、アンタは人類がみんなアンタみたいな頭の中身してると思ってんのか?」
「それもそうだ。愚問だったな。」
ハルザキはそう言って目元を押さえる……
「それじゃあ、次の問題だ。あの次元獣は君達を狙っていたかもしれない……と?」
「あぁ、確証は持てないがな。」
「少なくとも狙いが正確すぎた感じはしましたね。」
アークの言葉にユキが同調する。アークとユキをピンポイントに狙う……2人の現在のイレギュラーな状態を考えると、狙ったとしか思えない行動だ。
「……アーク、こればっかりはまやかし無しで頼む。何かしらないのか?」
「知っては居る……が……あり得ねぇと思いたい。」
「有り得ないは有り得ない。それが私の座右の銘でね。」
ハルザキの冷たいも鋭い言葉……アークは少し唸ると、頭を軽くかく。
「……話変わるけどさ。2人って中身入った財布を落としたとするじゃん?」
「急に何の話!?」
いきなりの要領を得ない質問に驚くユキ、しかしアークはそれに答えることなく頭をかき続ける。
「その財布を取り戻そうとして、財布の中身以上のお金を使って財布を取り戻した事ってある?」
「……余計にわからなくなったな。」
「ちゃんと答えてよアーク……!」
二人の問いかけにアークは変わらずにケラケラとしているが……先ほどと同様に、何処か寂しそうに呟き始める。
「俺にとっちゃそう言う悲しみのある話ってだけよ。」
「つまり、なにかしらの心当たりはあるんだね?」
「あぁ……あるにはある……んだがぁ……」
するとアークはまた歯切れが悪そうになんだかなと言わんばかりに肩を落とす。
「どうしたのアーク?」
「……その心当たりある奴。もう倒したはずなのよね」
アークが何処かつらそうにそう言うが……ハルザキにユキは特に感傷的な顔にもならずに、むしろ少し不思議そうに答える。
「なら、倒せてなかったって話じゃないのか?」
「そう悲観する話か?」
「お前らって案外やっぱドライよね〜そう言う所〜!!」
アークは何とも言えないようにケラケラとして言葉を発する。確かに、日々戦う最中に身を置いたりそのサポートをしている彼女らからすれば、敵を取り逃したりするのは許せぬことではあっても珍しいことではないのかもしれない。
……だが、アークにとっては許せない事であり、あってはいけないことでもある。
「でもなぁ、確実に倒したり殺したんだ。だから俺はああして禁断の書に籠もった訳だしな。」
(…………籠る?)
ふとした瞬間、ユキの頭に疑問符が浮かんだ。籠る?籠るとはどういういみだ?閉じ込められていた訳ではないのか?魔法少女達に力を与え、破滅させる存在だからと……籠るなんて、まるで自分から閉じ籠った様な言い方ではないか。
「50余年前……俺が
「……近い内に調べ直そう。たしかにその時期に強大な次元獣の出現報告があったはずだな。」
ハルザキは自身の記憶を辿ってみると、確かにアークの文献と合致するタイミングである次元獣の出現が確認されている。確か、その時期にアークと契約していた魔法少女の名は……『閃光の魔法少女』。
書物によれば、アークとの契約の末その力存在意義……その全てを奪い取られ彼の力とされて消え去り、アークは禁断の書へと封じられた、とされている。
すると、暫く間を空けてユキが声を上げようとする。
「アーク……君は……」
「一つだけ言っておく、俺はまだ嘘ついてねぇぞ。俺は契約しお前に力を与える共生関係だ……だが、おまえが力を強請れば強請るほど、俺はお前から多くの物を奪っていく。それが契約ってもんだ。」
露悪的……と言うよりも、ある種言い聞かせのような物も感じる。前々から何となく察せる部分はあったが……きっと、それがアークなのだろう。まだ、完全にはわかりはしないが。
「……と言う事は、今回の次元獣はユキではなくアークを、狙っていたと言うことか?」
「少なくともそう思うが……その同胞は50年近く前に確実に葬ったからな。おそらく別のやつだろう。」
「根拠は?」
「……人間だって一度死んだやつは生き返んねぇだろ。」
その言葉の重みは、ハルザキやユキには十分すぎる物だった。そして一頻りなんとも言えないムードが身を包んだ後、ユキがコホンと一息ついて、アークの体を掴みつける。
「だからって説明くらいしよう!?ねぇ!?できるでしょう!?説明!?」
「ふひはははははははははは!!!前から言ってんだろ!俺とお前は対等じゃないってなぁ!!」
(やっぱり案外仲良いよな。この2人。)
ハルザキはそんな事を思いながら、がぶ飲みしてすっかり量の減ったコーヒーをまた一口飲み干すのだった。
閃光の魔法少女、それはハルザキの頭にも少し入っている。
確認できるなかで、アークと契約した先代の魔法少女であり、その最期の言葉も、戦いに巻き込まれ彼女が守った一人の銀髪の少女から伝えられている。
『アーク、お願い。私の全てを上げるから……!!』
その前の契約者の言葉はこうだ。
『アタシの全部をお前にやるよ……!』
その前も。
『私の身も心も、一切合切貴方に上げます。』
……あくまでも確認された範囲だけであるが、その確認された範囲皆がこうしてアークに『ナニカ』を捧げていた。それはきっと、はたから見たら……『全てを差し出させ、全てを奪う禁断の魔物』と言えるに相応しい姿だったのだろう。