乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
「俺の同胞の気配ぃ?」
「あぁ、何か察知したりしなかったか?」
珍しく部屋にやってきたハルザキの口から出たのは、先日の霞の魔法少女……アミの察知した気配についてだ。曰く、以前に対峙したアークの同胞に入っていた次元獣と気配がにていたと言うが……結局具体的な場所は突き止められなかった。
ならばと同じ種であると言うアークに話を聞きに来たのだ……今のところ、その『乗っ取る系の魔物』については、魔少課の者達は何も知らないのだから、当事者に問うのが一番なのではあるが………
「知らねぇよなもん。」
アークの事なので、こう返すのは自明の理である。当人からすれば、町中にいる見ず知らずの人の居場所をピンポイントで当てろと言う、人間で例えるととんでもない事を強いているのだから当然なのだが……
「やはり、か。」
「直接対面しねぇと流石に分かんねぇよ。それも、相手の方が擬態や籠るのが上手かったら探知できねぇしな……」
アークはそう言って腕組をして頷く……すると、ココアを飲みながら様子を見ていたユキがジトッとした目を向けながらアークに呟く。
「……貴方って割と戦闘特化よね。」
「俺に身体貸さなきゃポットのお湯沸かしてココア作るのにも手間取る奴に言われたくねぇよ。」
「関係ないでしょ。」
(関係あるだろ。)ハルザキは内心そう思うが、言わない……今は関係のない事だ。ポットのお湯も沸かせないとはどういう事だと気になる所ではあるが……まぁ、レーション生活とアークによる介護状態の賜物だろう。
「しかし、同種の君も探知はできないのか……」
「意識乗っ取って、宿主に化けてくるなら話は別だけどな。」
まぁ仕方ない……とハルザキは話を打ち切る。無理なものは無理だと分かり、また情報も手に入った。今はそれで十分だ……それに、今日はそんな事をしに来たわけでもない。
「そう言えばユキちゃん。君に朗報がある。」
「……私にですか?」
いまいち朗報と言われてもユキからすると判断に困る……特にそう言った報告を待っていた覚えもないのだが……何があったのだろうか?
ユキが軽く小首を傾げると、ハルザキが珍しく胡散臭くない軽い笑みを浮かべると、静かに呟いた。
「弾丸の魔法少女……フルベが帰ってきた。」
ユキは一瞬茫然自失となり……ココアを持っていたマグカップを地面へと落としてしまう。少しのこっていた中身が床に染み渡ると、アークが叫びながら雑巾を持ってくる。
「だぁっ!?テメッ!!!何やってやがる!?掃除するの俺なんだぞ!?染みになるだろーが!?」
「あーあぁ!!ごめん!ごめんアーク!!えっでも……えっ!?」
かなり珍しく少しテンパり始めたユキ……こんなユキを見るのはアークとしても初めてだ。
その……弾丸の魔法少女が関係しているというのは分かるが……イマイチアークはよく知らない。文明的な事ならまだしも、こうした個人の事まで知ってたら気持ち悪くはあるが。
それにしても普段ダウナーと言うべきかクール系というべきか……弾けるとは言え、落ち着いてた面のあるユキにしては、見るからにポジティプなテンションの上がり方だ。
「弾丸の魔法少女……?誰だ?」
「ユキの師匠筋の魔法少女だよ。」
アークの問いかけに、ハルザキが答える。
「年はそこまで変わらないんだけど、魔法少女としての暦は長かったから……先輩として、ユキに色々教えてたんだ。辺りに被害を出さない戦い方とかね。」
「ほへぇ……」
ユキにもそんな人がいたのかとアークは若干驚く……アサヒくらいしかろくな友人関係築けていないのかと思っていた。……しかし、それほどの魔法少女が戻ってくるとは……海外研修にでも出ていたのか?
そんな事を思うのを知ってか知らずか、ハルザキは目を少し細めて呟く。
「覚えてるかい?君が初めてユキと同化した日の触手型の次元獣を……」
「ん?まぁな……」
「君からすればアレは雑魚の類なんだろうけれど、魔少課、魔法少女、いや、人類にとっては紛れもない強敵だったんだ。」
あの触手型の次元獣には大きな特質すべき能力はない。無限に伸びる触手が無限に再生してくるだけだ。
それによる打撃力、触手の物量による圧殺攻撃、極めれば圧倒的物理的な暴力……それは、ともすれば超常的な能力持ちよりも厄介になる時がある。
精鋭の魔法少女達の高威力の魔法を受けてもものともせず再生し侵攻を続け、街で破壊の限りを尽くした。そして最後には……ユキが『
いくら魔力で焼いても死ななかった次元獣を文字通り焼失させるほどの火力……こちらもこちらで恐ろしいが。
「前にも話したろ?その時に多くの魔法少女が魔法を使えなくなり、ある人はリハビリのため、ある人は魔法少女を完全に引退したんだ。」
「ほぉん?」
アークとしては話としては理解できるしそう言う例があるのも理解できるが、イマイチ実感のわかない話だ……これまでアークが契約してきたのは、ユキのようにリスクを含めたうえで力を求め、頭からつま先まで魔法少女としての力を求めていた者達。
一度絶望的にやられたからといって、魔法少女が魔法が使えなくなるほどになるとは考えにくい……だが、魔法少女の中ではありがちなの話だ。
ある種、アークの『禁断の魔物』の二つ名も相まってそう言う魔法少女しか寄り付かなかったのも理由の一つだろうが。
「しかし、つまりはその弾丸の魔法少女は一度魔法が使えなくなるまで心が折られたんだろ?よく復帰できたな。」
「まぁ、乗り越えられる子は乗り越えられるよ。そうでなけりゃ、はなから魔法少女になんかなりはしない。」
ハルザキの言葉に半分納得したように頷くアーク……憧れの人が一度挫折したと思ったら戻ってきた。確かに、なかなかに嬉しいことなのかもしれないな、とアークは思った。
「魔少課としても助かるよ。彼女は人気だったし実力も高い。優秀な魔法少女だ、戻ってきてくれるのならありがたい。」
「お前は逆に感傷とかねぇの?」
「別に無いね。去る者追わず来るもの拒まずだよ、何度でもね。」
するとひとしきり喜んだ後、ユキはハルザキに迫る。
「それで!?フルベさんは!?」
「会いに行く気か?止めたほうが良いと思う……」
一応監視対象なのに問答無用で出ようとするユキに苦言を呈するハルザキ……ユキは一瞬動きをとめるが、次の瞬間後ろの扉が開く。
「やっほ、ユキ。」
「!!フルベさん!!」
現れるのは黒い髪をサイドテールに整えた少し大人びたクールさを感じる女性……弾丸の魔法少女、フルベ・シラノだ。一通りの準備を済ませたのか、あるいはファッションか、腰には一丁のリボルバーが備えられている。
フルベとユキは久々の再会を喜ぶように握手をする……
「良かった……復帰してくれて。」
「うん、もう大丈夫!いろいろあったけれど……ちゃんと魔法少女やれるから、安心してね!」
笑顔でそう告げるフルベに、ユキも釣られて笑う……アークも初めて見る表情だ。あんな顔もできるんだな……なんて事を考えていると、フルベはハルザキとも軽く握手と言葉をを交わす。
「お久しぶりです。ハルザキさん。」
「うん、頑張ってね。これから。」
淡白なやりとりを終えて、最後にアークへと向き合い笑顔を向ける。
「貴方が例の禁断の魔物、ね。よろしく…なんて言わないわよ?」
「へへっ、構わねぇよ。いつでもこのクビ狙ってこい。」
フルベからすればユキに取り憑く悪霊だ、本来ならいつ祓ってやりたいと願ってもおかしくないが……フルベは当人の様子も見たからか、過剰に拒絶することなく笑顔を向けて握手を求める。
アークも、その熱気の宿らない炎の身体で握手に応える…………だが、次の瞬間フルベは差し出した腕を下げた。ほんの一瞬の拍と共に、フルベは小悪魔のような笑みを浮かべてつぶやく。
「……握手は、やめておきましょうか。触れた瞬間乗っ取られそうだし。」
「ん?あぁ。」
アークとしては別にどちらでもよいから深くは追求せず、新たに共に戦うことがあるかもしれない魔法少女の顔をしっかりと頭に刻むのだった。
アークとフルベが握手を交わそうとした一瞬の最中、フルベは自身の中にいる
『握手は辞めとくよぉ。俺の存在を隠して戦うのが契約だからね。アイツ相手に触れたらバレちゃうし。』
『……わかったわ。』
……フルベはあの影ことクーゲルを取り込む事を選んだ。
そうすれば、使えなくなったはずの魔力がまた使えるようになるから。
ただ、クーゲルの与える力と、クーゲルの欲しい住処を与え合うだけの関係。そんな、新たな共生関係が、ここに生まれていたのだった。