乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」   作:タロスズ

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魔法少女はみんな庇護欲の塊らしい。

 いつものように次元獣を討伐し称賛と賛美を受ける弾丸の魔法少女……フルベ。舞い戻れた充実感と共に彼女は帰路へついていた……彼女の住まいは魔少課の寮。

 

 復帰したてということもあり、経過観察も兼ねて彼女はそこに暮らしている。フルベは魔力の使い過ぎか、はたまた別の要因かで身体に襲いかかる疲れを感じながら寮の部屋の中へと入る。

 

「ただいま……っと。」

 

 フルベはだらしなく外着のままベッドに横たわる。どうにか立ち上がって身支度を整えなければならないことはわかっているが、全身を満たす疲労が、彼女の身体を動かすことを頑なに拒んでいた。

 

 すると、彼女の影からそっとナニカがこぼれ出すように飛び出してくる。そしてその影は、さも当たり前のようにフルベに語りかけた。

 

「だいぶ疲れてるみたいだねぇ……」

 

 そう言ってフルベを見下ろすのは……クーゲル。フルベにそう名付けられた魔物である。フルベはそんなクーゲルを力なく横目にしてつぶやく。

 

「やっぱりブランクってのは怖いわね。魔力調整がうまくできないわ……」

「プラスで俺の魔力も乗ってるからねぇ、病み上がりみたいな状態であそこまで扱えてるだけ大したもんだよ。」

 

 そう言ってクーゲルは何処か上から目線で褒め称える。その態度に嫌なものを覚えつつも、再びこうして魔力が戻ったのもクーゲルがフルベと契約したおかげ……邪険にせずその言い分を飲み込む。

 

「はあ……そう、思うことにしておくわ。」

「そぉそぉ。」

「……それにしても、あなた一体何者なの?」

 

 ……クーゲルと出会う前までのフルベは、完全に戦意を喪失し魔力を失っていた。アークが目覚めたあの日、自身が受けたあの苦痛と自分の今までがまるで通用しなかった時の恐怖は今でもたまに夢に見る。

 

 触手の次元獣が街を蹂躙し、数多の魔法少女を切裂いても潰しても焼いても凍らせても伸びる触手で叩きのめし縛り上げ打ちのめす。

 

 期待を背負ったフルベ──弾丸の魔法少女の必殺の魔法すら、その触手の再生能力の前では無碍となり、彼女はそのままなすがままに叩きのめされ負けた。

 

 誰からの期待にも応えられず、ただ一方的にやられたフルベの心は只管に絶望に染まるばかりだった。自分の今までの鍛錬は無駄だったのか……結局、自分は何も守れずに打ち倒されただけではないかと。

 

 反対に教え子のようだったユキは自ら禁断の魔物を解放し、その次元獣を打ち払った。正直、魔法少女としてあるべきではないと思いながらも、嫉妬の二文字が頭をよぎった。

 

 彼女はこの一件でほかの魔法少女達同様精神を折られ、魔法が使えない状態になってしまった…………心の何処かでは、また魔法少女として立ちたいと思いながらも、過去のトラウマが彼女の決断を鈍らせた。

 

 そんな彼女に『契約』を持ちかけてきたのがクーゲルだ。

 『自分の存在を秘匿する事』『自分をフルベの中に住まわせること』を条件にして、クーゲルは再びフルベが魔法を放てるようにしたのだ。

 

 フルベからすれば目の前の影のような存在は明らかに今まで見てきたものとは違う……アークと同種にもみえるし、違うようにも見える。一つ言えるのは、クーゲルはアークと違い人の世にあまり出ようとしないということ……彼以上の秘密主義だということだ。

 

「いやぁ、ちょっと、俺そのへん秘密でやらさてもらってるからさあ……そういうのも契約違反だろ?お前は力が使いたい、俺はお前の中に住んでたい、ソレでいいじゃあねぇか。」

「別に私は力そのものが欲しいわけじゃ………」

「守るための力だろ?分かってるよ、任せとけって。」

 

 本当に分かっているのか、はたまた適当を抜かしているだけなのかは定かではないが、そう言ってケラケラと笑うクーゲル。クーゲルは異様に外の存在に自分の存在がバレるのを嫌がる。

 

 その時点で怪しさしかないが……それでも彼の手にした力という餌に食いついたのはフルベだ。フルベはよく知っている……力がなければ何も守れないことを。だからこそ、戦うための力ではなく守るための力を欲しているのだ。

 

「ははっ!まったく面白いなぁ………」

「……?何が?」

「お前のほしがってる守るための力って奴がだよ……お前の中に住んでるんだからなぁ、お前のことは大体知ってる。お前が何で魔法少女だっけか?……を、やめたのかもな。」

 

 フルベは返す言葉を持たず、黙して聞く。

 

「普通さぁ、一回あそこまで心折られたら、自分のために力を欲しがるもんなんだよ。」

 

 影の身体を揺らしながら、ケラケラとクーゲルは笑う。嘲笑うというわけではなく、本当に面白がるように、無邪気に、珍しいものを見つめるような感覚で。

 

「復讐したいとか、見返したいとか。『今度は負けねぇ』とかさ。でも、お前は違う。」

 

 するとクーゲルはフルベを真っ直ぐ見つめる。その目は、遊びの光を一旦奥へ引っ込める。

 

「『もっと守りたい』だろ?」

 

 その言葉はフルベの心を突くような言葉だった。彼女は僅かに目を伏せ……数拍置いてから振るえるように言葉を絞り上げていく。

 

「……そうよ。もう二度と、あんな思いはしたくない……私のせいで誰かが傷付くのも……私が弱かったせいで、誰かを泣かせるのも。」

 

 だからこそ彼女は力を求めてしまった。あの日の無力感を二度と味わいたくないあまりに……震える声は、やがてあの日のことを思い出させたのか彼女にほんの少し涙を流させた。

 

「もう、嫌なの。」

 

 震えるようなフルベの声に、クーゲルは満足そうに目を細める。そして先ほどまでとは違い、とても優しげに声をかける。

 

「そうそう。そのままでいいんだ。」

「……?」

「いや、何でも。」

 

 ひらひらと手のような部位を振るクーゲル……

 

「その願いは嫌いじゃないって話だ。」

 

 そう、クーゲルはそういうのは嫌いじゃない。怒りはいつか冷める、憎しみも、復讐も、時間が経てば薄れていく……だが。

 

 『守りたい』だけは違う。一人守れば二人。二人守れば十人。

 守るものが増えれば増えるほど、人間は自分から鎖を増やしていく。それだけ求められる力が大きくなるのにもかかわらずにだ。

 

 もっと強く。

 もっと守れるように。

 もっと失わないように。

 

 そう願えば願うほど、この契約は深くなる。

 クーゲルは何もしなくていい。フルベは勝手に、自分で自分を追い詰め、より高みへ登っていく。

 

 クーゲルはその様子を想像し、喉の奥でくつくつと笑った……そしてそれをごまかすようにクーゲルはフルベに声を上げる。

 

「安心しろよ!フルベ!俺はちゃんと、お前に力をやる!……すべてを守れるほどの力をな!!」

「……ありがとう、とは言わないでおくわね。」

 

 フルベがそう言うと、クーゲルは軽く笑いながら再びフルベの影へと戻っていくのだった。

 

―――――――――――――――

 

 一方その頃、ユキとアークは──

 

「あぁ……やっぱりフルベさんは凄いな……」

「お前その復帰ニュースの録画何回見返すんだよ!?後風呂上がり位髪の毛乾かせや!?」

 

 アークはそう言って、風呂上がりのユキを見つめた。濡れた髪から滴る水が肩を濡らし、その身体はなおもテレビ画面へと向かったままである。呆れた溜め息をつくと、アークはドライヤーを手に取り、軽くユキの髪を揉むようにしながら乾かし始めた。もはやその様は、子供の面倒を見る母親そのものである。

 

「はぁ……はぁ……今まで取り憑いてきたやつでもトップクラスに手がかかるなお前………」

「フルベさん……!」

「聞いてねぇしよぉ!?」

 

 未だに恍惚として、テレビでフルベの活躍を眺めるユキにはもはやうっすら狂気めいたものを感じる。

 

 自身や他への関心が薄いかわりに、一度心酔すると、とことんのめり込む質のようだ。変なツボなどかわされないことを切に願う。

 

 アークは髪を乾かし終えると、ドライヤーの電源を切り、呆れた様子で肩をすぼめた。なぜこんな面倒を自分がしなければならないのか。せめて生活力というものを少しは身につけてほしいものである。

 

「アーク……なんでいつも髪の毛態々乾かすの?」

「風引いたらどーすんだよ!?テメェの身体は俺の身体でもあること忘れんなよ!変な状態になられたら俺が困るんだよ!!」

 

 本当に、このユキという少女はどれだけ魔法少女と言う生き方に傾倒してきたのか………このままでは本当にアークが自分がただの介護要員になってしまうのではないかと危惧してしまう。

 

「ちっ……こいつに生活力をつける方法……なんか考えねぇだな……まずは乗っ取って身体で(料理でも)覚えさせるところからだな……」

 

 アークは妙に疲れた肩を窄めて楽しげにフルベの活躍を眺める雪を見るのであった。

 

 

 

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