乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
『……アーク……私の身体返して。』
「駄目だ。」
台所から包丁の音が響く。トントントン、と一定のリズムで野菜を刻む音。
エプロン姿のユキの身体……を乗っ取った中身はアークは鼻歌混じりにフライパンを振っていた。
「テメェの身体に家事という家事を身に着けさせる。」
『だから何で乗っ取るのよ……』
「見て覚えるより身体で覚えた方が早ぇ。」
『覚えてるの貴方じゃない。』
「身体が覚えてりゃ同じだ。」
意味不明な理屈だった……身体で覚えさせるとはこの事かと思ったりもするが、ユキは頭の中で大きくため息を吐く。
『お願いだから返して。』
「駄目。」
『……お願い。』
「駄目。」
『命令。』
「却下。」
余程固い決意を持っているのな全く話にならない。なんとか体の主導権を自身に戻そうとするが、ユキからは全く干渉ができず、乗っ取られ放しだ。
アークは冷蔵庫を閉めると、今度は棚をごそごそ漁る。
「おっ、味噌あった。」
『この間アサヒが差し入れてくれたのを』
「よくやった。今度あいつにも何か作ってやろう。」
そう言ってアークは具を切り終えた包丁を置き、鍋へ具材を放り込む。味噌汁の香りが部屋へ広がっていく。
以前なら携帯食を齧って終わっていた食卓とは比べ物にならない。
『……そんなに料理好きなの?』
「好きって程でもねぇ。」
アークは鍋をかき混ぜながら答える。
「でも、人間って奴は美味い飯食うと機嫌良くなるだろ。」
『私はならない。』
「なる。」
『ならない。』
「なる。」
『ならない。』
意固地に言い張るユキに対して、アークは軽いため息をつきながら呟く。
「じゃあこの前ハンバーグ作ってやった時に何で二杯も米食ったよ。」
『…………』
「ほら見ろ。」
『……たまたま。』
「たまたまで飯二杯は食わねぇ。」
返す言葉が無くなったユキは黙り込む……すると、アークは勝ち誇ったように笑った。まるで賭けにでも勝ったかのようだ。
「少しは人間らしくなってきたじゃねぇか。」
『私はもとから人間より』
「どぉだかな。」
アークはそう言って鍋の蓋を閉じる……部屋には静かな煮込み音だけが響く。少し間を置いて、アークはふと思い出したように言った。
「そういや洗濯物溜まってたぞ。」
『昨日やった。』
「干したのか?」
『…………』
響くのは無言だけ……アークはケラケラと笑いながらまた呟く。
「ほらみろ。」
『忘れてただけ。』
「そういうのを駄目って言うんだ。」
『五月蝿い。』
もはや言い返す言葉もなくそう言って誤魔化すだけなユキ……そう、そんな、日常がいつものように続いていた……そんな日常が壊れたのは、部屋に備え付けられたスピーカーからの呼び出し体。
『氷結の魔法少女に出動命令!高危険度の次元獣の発生を確認!繰り返す!』
繰り返し響く声……アークは軽く舌打ちをして火を止める。
「……ったく、飯時くらい空気読めねぇのか。」
『アーク!身体返して!』
「おう。」
珍しく二つ返事だった。黒い炎がユキの身体からスルリと抜け、アーク本来の姿へ戻る。身体の自由を取り戻したユキは、小さく肩を回すと、胸に手を当てて魔力を、集中させる。
「……ッ!!」
魔力を解放させ、その姿をユキとしての姿から、氷結の魔法少女のものへと姿を変える……アークはユキの影から体を伸ばして声をかける。
「気ぃつけろ、緩和されたとは言え俺達を呼び出す位の非常事態だ。」
「わかってる。」
ユキの背筋に冷たいものが走る。またあの触手の次元獣クラスの化け物だろうか?いや、関係ない……次元獣を倒し、人々の安定を守る。そのために戦うのだ。
「行くぞ。」
「……うん。」
部屋の自動ロックが解除される。
二人は何も言わず、戦場へ向かって走り出した。
―――――――――――――――
町中に現れたのは堅牢な鎧のような次元獣……相対するはすでにボロボロな紅蓮の魔法少女……アサヒ。炎の矢を構えながらにその急所に矢を撃ち込もうと弦を引く。
「ぜぇ……はぁ……ッ!!」
アサヒの咄嗟に駆け出し、炎の矢を引き出す……その一撃は鎧の次元獣の鎧の隙間に突き刺さるが、それでもなお次元獣は怯まずにその大剣を振り翳す。
「っ!!」
轟音と共に振り下ろされる一撃。
アサヒは横へ飛び退いて回避するが、叩き付けられた剣はアスファルトを紙のように砕き、砕けた瓦礫が周囲へと飛び散る。
「うっ……!」
飛来した瓦礫が肩を掠める。
痛みに顔をしかめながらも、アサヒは距離を取る。
確かに鎧の隙間を狙えば傷は付く。だが、その傷が致命傷になる前に、この怪物はこちらを叩き潰してくる。
「紅蓮ノ魔法:四式・火炎連矢!!」!!」
放たれるは無数の炎の矢……一射、二射、三射。
矢は次々と隙間へ突き刺さるが、それでも鎧の次元獣は歩みを止めない。むしろ、怒りを露わにするように大剣を構え直した。
「っ……!?」
次の瞬間。
その巨体からは想像もつかない速度で、次元獣は地面を蹴りあげた。
「速――」
言葉が終わるより早く、巨大な剣が横薙ぎに迫る。
アサヒは足元に矢を放ち爆炎で後方へ飛ぶ……しかし。
「きゃあっ!!」
完全には避けきれない……その剣圧だけで吹き飛ばされ、道路を何度も転がる。制服が裂け、腕から血が滲む。
それでも歯を食いしばって立ち上がる。魔法少女として……立ち上がらずにはいられない。
「まだっ……!!」
だが、見た目よりも素早く動く鎧の次元獣はその大剣をすぐさまアサヒへと振り下ろしにかかる。すると次の瞬間……まるで雨のような弾丸が上空から鎧の次元獣に襲いかかりその動きをとめる。
まるで豪雨のように叩き込まれる光弾に、鎧の次元獣は初めて大きく体勢を崩した。
「……え?」
アサヒが思わず顔を上げる。
空から舞い降りて来るのは一人の少女。
黒と白を基調とした衣装を翻し、二丁拳銃を肩へ担ぐその姿。
「ごめん、ちょっと遅れた。」
軽く笑いながら着地した少女は、肩を竦めて銃口を回す。
「弾丸の魔法少女フルベ、現着……!ってね。」
「フルベさん!!」
アサヒは顔を明るくして思わぬ援軍に喜ぶ。まさか魔少課でもトップクラスの戦力が……しかも、復帰したてとは言えあの弾丸の魔法少女が来てくれるとは、アサヒにとっては予想外だったのだ。
アサヒもフルベにはしごかれた経験のあるが……同時に彼女の力も十分知っていた。するとフルベはアサヒに言葉を告げる。
「アサヒ、少し下がってなさい。」
「えっ……」
「少し……手荒に行くわ……弾丸ノ魔法──」
その瞬間だった。
彼女の背後に、百を超える魔法陣が一斉に展開される。
空を埋め尽くすほどの数。赤、青、白、黒。
大小様々な魔法陣が幾重にも重なり、市街地そのものを覆うほど広がっていく。
「……っ!?」
アサヒは思わず息を呑む……アサヒでもわかる。これは完全に面制圧用の魔法……こんな市街地で使うような魔法ではないし、何より周りになるべく被害を出さないフルベのやり方に反する魔法だ。思わずアサヒは声を上げて止めようとする。
「フルベさん!?そんな魔法ここで――」
「『ゲリラ・バレット』」
静かな一言……そのひと言に、ほんのわずかに男の声が混じったような気もしていたが、そんな事を考えるより先に、次の瞬間には、空が落ちてきたかのような光の雨が振り注ぐ。
無数の魔力弾が雨どころではない。滝のように。嵐のように。周囲に振り注いだ。
耳をつんざく轟音。
肌を焼く爆炎。
身を飛ばされそうになる爆風。
近くのビルの外壁が砕け、道路が抉れ、信号機が吹き飛ぶ。
鎧の次元獣は剣を盾代わりに構えるが、そんな抵抗など意味を成さない。
数百、数千発という魔力弾が休むことなく叩き込まれ、その巨体を地面へ押し潰していく……フルベは少し息を切らしながら片膝をついてつぶやく。
「はぁ……はぁ……やりすぎ………!!た……」
「ふ、フルベさん!?」
アサヒは咄嗟にフルベに駆け寄る……あたりに激しい土煙が舞う……そしてその奥に光る影がある。それはあれほどの光弾を受けてない鎧をボロボロにしながらに立ち上がる次元獣であった。
「う……そ……!?」
「結構歯ごたえのあるやつみたいね……」
フルベは立ち上がり再び銃を向ける……だが、彼女の弾丸より早く響いた声とともに目の前の次元獣に炎の拳を撃ち込む影があった。
「アーク!」
「あぁいよっ!!!」
フルベの攻撃によって大ダメージを受けた所にアークの拳を受けた次元獣は若干グロッキーになりながらも大剣を構える。そして、その隙にユキが双剣をその鎧に斬りつけた。
「フルベさん!アサヒ!大丈夫!?」
「ユキ!アークも!」
「助かったわ。」
なんてことないようにそうつぶやくフルベ……ユキなそんなフルベに問いかけたいことがあった。
……なぜ、あんな周囲を巻き込むような技をこんな町中で使ったのか……それを否定していたのは、かつてのフルベ自身だというのに……
「フルベさん……さっきの技……」
「……流石に焦ったわね、こんなところで使うべきじゃなかったのに……」
フルベ自身が使ったというのに何処か他人事と言うか……使わされたような口ぶりなフルベ……その言葉にユキが疑問が持つより早く、アークが声を上げる。
「おぉい!奴さんまだ元気だぞ!!」
三人が振り返ると、そこには未だ健在と言わんばかりに、堅牢な鎧の次元獣が大剣を担いで向けてくるのだった。