乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」   作:タロスズ

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魔法少女ほどクソみたいな話もない。

 

 魔法少女、それは次元獣と呼ばれる怪物に立ち向かえる少女達の総称。

 

 ぶっ潰しても、切り刻んでも、焼いても死なない、尽くを殺戮する次元獣……そんな化け物に有効打を与えられる唯一の力、魔力と呼ばれる力を持つ少女達の事である。

 

 彼女達は遥か昔から、その名や形を変えながらも人々の平和を守ってきたのだ。

 

「冷静に考えてよォ、年端もいかない女の子戦わせるなんてクソみてぇな話だよな!」

 

 そんな話の書かれた教本を高笑いしながら一蹴するのが、ユキの隣に座るアーク。禁断の魔物と揶揄される、かつて封印された魔物だ。

 

 そんなユキの前に座りながらため息をつく一人の白衣を着た研究員『ハルザキ』は、冷たい目を据わらせて、あきれ気味にユキに小言をもらす。

 

「……ユキちゃん……また面倒な物持ってきたな。」

「す、すみません……ただ、これしか思いつかなくて……」

 

 そう言ってユキは少し肩を落とした。

 ここは魔術災害減少対策課……略して魔少課とされる、政府直属の魔法少女の補助や次元獣の対策組織。その控室である。

 

 先日の触手型の次元獣との戦闘の際『氷結の魔法少女』こと、ユキが解放したアークについての調査のために、病み上がり間もないながらもこうして連れてこられたのだ。

 

「まぁ、たしかにあの次元獣の力は相当な物だった。お陰でウチ所属の魔法少女は何人か完全に心折られて魔法が使えなくなっちゃったよ。」

「……。」

 

 魔法とは魔力と呼ばれる生まれついた才能の有無の他にも、即ち『どれだけ使いたいと思えるか。』『どれだけできると思えるか。』と言う、ある種思い込みの力が強く作用する。

 

 魔法少女にとって命取りになるのは、その思い込みが途切れる時……今回の例で言えば、あの触手の次元獣の圧倒的な力に恐怖し叩きのめされたとする。

 

 そうなれば『もう戦いたくない』『魔法を使いたくない』と思う娘もいるだろう。そうなれば彼女達のもつ魔力や魔法の力は大幅に低下し、酷ければ魔法そのものが使えなくなることもある。そうなれば、魔法少女としては終わりだ。

 

 勿論、魔法少女達も生半可な覚悟で魔法少女をやっているわけではない、多少の恐怖やグロッキーなら克服する娘も大勢いるが……それでもなお複数の魔法少女を再起不能にさせるほど、触手の次元獣は強大な敵だったのだ。

 

 同時に、そんな相手を一捻りしたアークの外法っぷりも上がるのだが。

 

「さ、て。アーク、君は一体何者なんだ?」

 

 ハルザキの問に、アークは持っていた本をパタンと閉じて話す。

 

「逆に聞きたいんだが、オレどんな風に語られてんの?」

「禁断の魔物、導きの魔物、虚言の魔物、呼び名は色々だが……かつて多くの者をその力と虚言でたぶらかし、契約した者を尽く悲惨な末路へ貶めてきた外道。その罪により、禁書のなかに封じられた……我々の手に入れた情報をまとめるとこんな風だな。」

「ほへぇ〜目茶苦茶言われてらぁ。」

 

 アークはハルザキの言葉に、まるで他人事のようにそう返した。そのさまにさすがのユキもあきれ気味にアークに声をかける。

 

「そんな他人事みたいに……貴方の事でしょ?」

「知らねぇよ〜、俺ずっとあの本の中に居たんだし。俺はただ力を貸せって言われたから()()()やっただけだぜ?お前にも忠告したろ。こっちが何かを貸すんなら、お前らからも何かを貰うことになってんだよ。」

「…………具体的には何を?」

「そのうち考えとくわ。」

「それなんなのさ……」

 

 ユキにとっては、自分から望んだとは言え人知を超えた化け物が自分に取り憑いた状態で、何かしらの代償があるというのにその代償が何なのかすら知らされない状態だ。怖かろう。

 

 すると、ハルザキはアークにまた問いかける。

 

「それじゃあ、もう一つ。君は一体どんな事が出来るんだ?」

「家事もできるし火事も起こせる。あとはそうだなあ……宿主の身体を乗っ取るくらいは訳無いぜ?」

「っ!?……」

「宿主……つまり君は誰かに寄生しないと生きていけない寄生虫ってところか。」

 

 次の瞬間、アークの鉤爪が鋭く延びてハルザキの首元に突きつけられる…………それを留めていたのは、ユキの制止する腕だ。

 

「思ったより短気なんだけどアンタ……!!」

「……ちっ。」

 

 アークはやっぱりかと言わんばかりに伸ばしたカギ爪を引っ込める。

 

「……なるほど、使役権は一先ずのところはユキちゃんにある、と。」

「ハルザキさん……それ確認するためにわざと煽りました?」

「うん。」

「やべぇなアンタ……」

 

 あんな煽りに乗るアークも似たようなものだが、アークの力を知りながらそれを敢行するハルザキも中々のネジの外れっぷりだ。

 

「……でも、使役権とか言われてもアーク全然コントロールできないんですけど。」

「使役なんて言い方よせ、もっと人道的に扱えよな……お前が本気で抵抗すりゃ多少は俺も鈍る。……けど、忘れんなよ?俺とお前は対等じゃない。この身体を今ここで乗っ取るくらいなわけないって事もな……」

 

 アークはそう言ってユキのほうを見ると、まるでコテコテの悪役のようにその手を伸ばすが……

 

「邪魔っ。」

「あうちっ。」

 

 ユキの平手打ち一発で退かされる……確かに、逆の意味でとても対等とは思えない。ある程度の制御はできるが、基本は完全にフリーダムというところか。

 

 ハルザキはそれだけ確認すると、軽く目を細めてうなずいた。

 

「ふむ……まぁ、君をどうするかは追々考えることにしよう。ユキちゃんは何か不都合あるかい?」

「コイツが鬱陶しいこと以外は特に……体調も別に悪くないですし。」

「分かった……上も、一先ずは経過観察を続けるらしい。暫く家には帰れないと思っておいて、魔少課の空き部屋にスペース作ったからそこで寝泊まりしておいて、ね。」

「分かりました。」

 

 さり気なく帰宅行動も制限されるが、ユキは何の問題もないと言わんばかりに即答する。すると、ハルザキはアークを見て、冷たい瞳で語りかける。

 

「アーク、もし君が人類に危害を加えるようなら、僕は迷わず君を消す。」

「ははっ。そんな気は別にないけどよぉ……そしたらこのユキって嬢ちゃんも死ぬぜ?俺とコイツは今は一心同体、どっちかが死ねばどっちかも消える。」

()()()()()()()()()()()()()()君が人類という種に危害を加えるのならそれも辞さない。ユキちゃんほどの魔法少女が消えるのは痛いけどね。」

 

 ハルザキはさらりとそう言うとそっと立ち上がり「それじゃあ研究室に戻るよ。ユキちゃんはゆっくり休んでて。」と言ってその部屋を後にした。

 

 部屋に残されるのはユキとアーク……気まずい沈黙が流れるかと思いきや、アークは直ぐに唖然としたように口を開いた。

 

「……あの研究員ヤバくね?」

「!?」

 

 ユキはアークの人間らしい情緒に驚いたように口を開ける。

 

「いや、ヤベェだろ。本人目の前にして堂々とお前を殺す宣言だぜ?人質取ったようなもんなのに人質無視して鉄砲撃つって宣言したようなもんだぜ!?アイツ本当に人間か!?人の心持ってる!?今の魔法少女とか関係者ってみんなあんな感じ!?」

「いや……うぅん……みんなじゃないけど、大抵あんなメンタリティかもね?」

「すげぇなあ。前まではもっとお人好しな甘ちゃん連中ばっかだったのに……。」

 

 感慨深そうに頷くアーク……見た目は不定形な人型の炎の塊だというのに、その所作や目(と思われる部分)の細め方から、どうにも人間らしさを感じる。それもまた、この魔物の油断を誘う策略なのかもしれないが。

 

「……なぁ、氷結の魔法少女さん?」

「その呼び方は辞めて……何?」

「お前さん、よく俺と契約する気になれたよな。聞いてたんだろ?俺の話は。」

「……ハルザキさんからの禁書の話なら、時々ね。だから呼び出したわけだし。」

「良くもまぁ碌な目に遭わないのが確定してるのに俺を呼び出す気になれたよなあ。」

「そんなのは魔法少女になる前から慣れっこだし。それであの化け物を倒せたんだから、文句はない。」

 

 「そうかい」と笑いながらアークはそっとユキの顔をのぞき込む。

 

「俺に力を求めた奴はみんなそうだ。どいつもこいつも自分がどうなるか分かった上でそんな言葉をのたまいやがる…………本物の大馬鹿ばっかりだ。」

「なんでディスんの…………あと邪魔。」

「ぐぇ。」

 

 そう言ってユキは手でアークを払い除ける……体は見た目炎でできているのに、いざ触れてみると全然熱くないのは妙な感覚だ。すると、アークはふと思いついたように問いかける。

 

「……つかお前さん。さり気なく家に帰れなくなってるけど良いのか?」

 

 その問に立ち上がり部屋に戻ろうとしたユキはピタッと体の動きをとめる……そして、数拍置いてつぶやいた。

 

「別に、家にはもう誰も居ないし。不自由もないしね。」

「……ほぉん。」

 

 アークは、何でもなさそうにそう漏らすのだった。

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