乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
ユキとアークに割り振られた部屋は、かなり頑強な床と壁であること以外は、普通によい感じの部屋となっていた。ベッドも机もソファもテレビも冷蔵庫もコンロも水回りもあるし、仮にこの部屋で一人暮らししてくれと言われても何も困らないどころか、少し持て余すくらいの家具の充実ぶりである。
……数カ所監視カメラが設置してあるのを見ると、やはりあくまでも要監視対象であることにかわりはないのだろうが。
「ほへぇ……これがVIP待遇ってやつか。」
「態々こんな部屋を……」
ユキは「もっと狭くていいのに」と軽い愚痴をこぼす……反対に、アークはあっちこっち見て回っている。
「……はぁ、しばらくは貴方と一緒に過ごさないといけないのね。」
「ははは!まぁ楽しくやろうじゃねぇか!相棒!」
「その呼び方辞めて。」
ケラケラと笑うアークにユキはそう言って睨みを利かせる……だが、アークはそんな事何処吹く風に、ソファやベッドをパシパシと叩く。
「おっほ!ベッドもソファもフカフカじゃねぇか!テンション上がるなぁっ!」
「……そう?」
「なんだよぉっ!こんなベッドで寝れたら気分良いだろうな!!」
「……貴方ってベッド使うの?」
「あっ!使う必要ありませんでした!」
そうしてアークはまたアハハと笑う。アークの寝床は言わばユキの影の中……無理にベッドやソファを使う理由はない。それなのにベッドのフカフカ加減に喜ぶとは不思議だ。
すると今度はリモコンを持ってテレビの電源をつける!
「ほへぇ!これがテレビかぁっ!実際に触るのは初めてだなぁっ!……おっ!?ネット◯リックスとかアマゾンプ◯イムあるじゃん!U-ネク◯トとデ◯ズニー+まで!?おいおい至れり尽くせりだな!?」
「貴方100年くらい封印されてたんじゃないの?そういう知識って何処から仕入れたのよ。」
「俺からすれば禁書の中からでも現し世を覗くくらい訳無いぜ。お前らだってYouTubeで絶対使わない豆知識とか裏技とか業界の話をしてる動画とか見るだろ?それと同じだよ。」
ふふんと自慢げに腕組みして語るアーク……しかし、ユキはイマイチピンときた表情をせずに顰めっ面をしながら小首をかしげる。
「……んんっ?」
「伝わんねぇかなぁっ!?ほら、お前だって年頃の娘だろ?今幾つだよ?」
「17歳。」
「もう若気の至りのピークじゃねぇか!!YouTuberとかエックスとかネット記事見たりとかするだろ?」
「いや、あんまり……そういうの興味ない。」
「おいおい!そんな俺冷めてますアピール要らねぇから!ほら、スマホ見せてみ?」
「スマホ……これっ?」
ユキはそう言って懐から端末を取り出す……確かにスマートフォンだが、中に入っているのは最低限の連絡アプリやニュースアプリのみのようだ。
ニュースアプリですら出てくるのは次元獣関連のニュースばかり。ゲームやSNSは一切入ってない。本当にただの連絡端末だ。勝手に触って検索履歴を調べてみるがほぼまっさら……と言うか、初期状態の時に出てきそうな流行りの記事ばっかりだ。
「……Oh……今の魔法少女ってこんなんばっか?」
「そんな事は無いと思う。私も、よく変わってるねって言われたよ。アサヒに。」
「アサヒ……あぁ、
「魔法の修行。あとは……瞑想?」
「お前は僧侶か!?」
何故か納得いかなげに騒ぐアークにイマイチな反応を示すユキ……やがてアークの方がぜぇはぁと息を途切れさせながらため息をつく。
「ぜぇはぁ……もういいわお前……生きてて楽しいの?」
「別に、楽しいから生きてるわけじゃないし。死ぬのが億劫だから生きてるだけ。」
「だからそんなSNSの愚痴垢みたいな事言わんでも……」
またアークはがっくりと肩を落とす……ユキはうざったそうにかるく頭を掻いて、溜め息と共に呟く。
「いいから、時間も時間だしご飯にしましょう。」
「ふぉう!待ってましたぁっ!幾年ぶりの食事だァッ!」
食事と聞いて派手にテンションを上げるアーク、するとユキは台所下を漁りながら問いかける。
「貴方って食事って必要なの?」
「嗜好品ってやつだなぁっ!お前は必要なんだろ?好きな食べ物とかねぇのか?」
「……私は別に、栄養が取れれば何でも良い。」
「おいおい……」
アークはまた呆れてものも言えないような表情をする。ユキが人間にしてはそういった嗜好や欲求に乏しいのか、はたまたアークが仰々しい魔物にしては人間味に溢れているからなのか、どちらかはよくわからない。
すると、ユキは
「……これ。ご飯……必要無いなら貴方の分は用意しないからね。」
「嗜好品だって言ってんじゃん!?嗜好品ってのは生きるのに不要ってだけで必要無いわけじゃなっ――――」
アークの分はないと言った途端、カンカンに怒るアークだが……テーブルに置かれた食事に唖然とする。置かれたのは、乾燥させた携帯食。
「……ナニ、コレ。」
「食事。」
「お前コレで腹膨れるのか?」
「別に、私そんなお腹空かないから、栄養は取れるし問題無し!」
「お馬鹿ァッ!!」
まるで昭和の野球アニメのOPのようにテーブルをひっくり返すアーク……何が不満なのかわからず目を細めるユキに、アークは倒れたテーブルと床に落ちる携帯食のパックを指さして怒鳴る。
「お前なぁっ!!こういうのは常食するんじゃなくて非常時に食べるモンだろーが!?何お前、毎食これなのか!?」
「毎食な訳無いでしょ!……今日は疲れたから多めに取ったのよ。」
「せめて増やせ!!普段これ以下!?どぉりで貧相な身体してると思ったよお前!!」
明らかなセクハラだが、当のユキはそっちよりも何故怒っているかの方に意識を割いて頭を抱えている。
「はぁ、何がそんなに問題なの?」
「問題無いって思ってるところが問題だわ!!……もう良い!お前身体貸せ!!!」
「っ!?何する気……」
「五月蝿え!!良いから寄越せ!!」
アークは半ばキレ気味にその炎の体をユキに纏わりつかせる……ユキは抵抗しようとするが、それよりも早くアークの炎はその体全身に纏わりついてしまう。
今度は臨戦態勢じゃないから、まとわりついた炎はユキの身体に染み付くように消えていき、少し様子のおかしいユキだけがその場に残る。ユキを乗っ取ったアークは、アークの声帯で言葉を紡ぐ。
「だぁ、テメェじっとしてろよ!?」
すると、アークの頭の中にユキの声が木霊する。
『貴方……いきなり何を……!!』
「テメェが食を何も知らねぇから矯正すんだよ!ったく……良い魔力は健全な肉体作りから、健全な肉体は健全な食事からってな。碌な飯食わないやつは碌な死に方しねぇんだ。」
グチグチと文句を垂れながら冷蔵庫を漁るアーク……想像よりかは食べ物が揃っている。台所を見れば米もある……生野菜がないのが気に食わないが、そのへんは調達してもらおう。
冷凍庫から凍ったひき肉を取り出すと、アークはそれを電子レンジに入れて解凍を始める。
『何をする気なの?』
「見りゃわかんだろ。飯作ってやるんだよ。」
『何でわざわざ私を乗っ取って……』
「あの身体だと料理やり辛いんだよ!!包丁とかろくに握れねぇし。お前は黙って見てやがれ!!」
アークはそう頭の中のユキに叫ぶと、黙々と米を浸水させて料理を始めるのだった……
しばらくしてから、テーブルに並ぶのは白米とハンバーグと味噌汁。鮮菜がないので緑は殆ど無いが、急な話だったのでしようがない。他にも味噌汁がインスタントだったり、ハンバーグにつなぎを入れなかったりしている。
ユキから抜ける前にアークはさらっと自分の食卓にも同じものを並べた後につぶやく。
「味噌汁は出汁とか取りたかったんだけどな。まぁインスタントでも全品携帯食よりかは1000倍マシだろ。」
「…………」
「お前、食わねぇとか言い出したらキレるからな?乗っ取って無理やり食わせるからな?」
「別に……出されたら文句言わないよ。」
それで良しと頷くアーク……すると彼は大まかに人型とは言え、明らかに人外じみたそのフォルムで両手を合わせて「頂きます。」と言う。
ユキはその様を見て、本当に妙な人間らしさを見せる魔物だと、妙な気分になる……自分は、携帯食を貪る時に、そんな言葉を喋っただろうか?ユキは辿々しく両手を合わせて同じようにぎこちなく「いただき、ます。」と宣言して料理に箸をつける。
アークも同じように食事を口……(と言っても口はないので)顔の部分に寄せると、彼を形成する炎が食事を飲み込んだ。
「んん、美味い!」
「……貴方って味分かるの?」
同じように口に含むユキの問いかけに、アークは答えた。
「何となくはな。美味いのは分かる……お前はどうだ?」
「……わかんない。人(?)の手料理食べたの久しぶりだし」
「オイオイ……」
「でも、多分、美味しい……お母さんが生きてた頃は、こんなの食べてた気がする。」
アークはそれを聞くと「そぉかい」と答えて同じように食事を進める……ユキがさらりと言う言葉に違和感や深読みをしつつも、その疑問は一切表に出さず、食事を続けるのだった。
―翌日―
ハルザキ「経過はどうかな?」
ユキ「ハンバーグが美味しかった。」
アーク「つなぎが欲しいからパン粉寄越せ。あと生野菜とか材料も届けさせろ。」
ハルザキ「???????」