乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
某月某日雲一つ見えない青天の日……例の触手型の次元獣の出現以来、大きな次元獣による被害は見当たらなかった。次元獣の出現は確認されたが、他魔法少女達が対処に、手に負える代物であった。
むしろ、政府や魔少課としては、魔法少女の存在を世間に認めさせる良いデモンストレーションになるほどだ。この日も、アサヒは他の後輩魔法少女達と共に、中型の次元獣への対処を行っていた。
「紅蓮ノ魔法:八式......紅炎弓!!」
アサヒの手元には炎で出来た弓矢が……その放たれる業火の一矢は、陽炎を描いて突き進む……そして、ビル街をアクロバットに飛行して後ろからの魔法少女2人の攻撃を回避してきた、ハチ型の次元獣の眉間を貫いた。
その一撃に次元獣は倒れ、その場から消滅する。
「……ふぅ。良し。」
アークがユキと会ってから一週間……未だに二人の保護観察処分は解けない。ハルザキ曰く、経過も悪いところはなく順調……このまま行けば近い内に二人は外に出られるようになるらしい。
アサヒは、アークという魔物を外に出して良いのか……と言うのは考えてしまうが、それよりもユキがあのまま籠のなかで飼い殺しにされる方が余程耐えられない。その面に関しては良かったと思っている。
柄にもなくいろんな考えが頭に浮かぶと、一緒に次元獣の討伐を手伝ってくれた後輩の魔法少女二人が駆け寄る。
「アサヒ先輩!お疲れ様です!」
「やっぱり凄いですねアサヒ先輩!あんなにすばしっこい次元獣を一矢で仕留めちゃうなんて!!」
「……えへへ〜そうかなぁ?」
純粋に褒められたからか、先ほどまで小難しいことを考えて眉間にシワによっていた顔が、一瞬でゆるゆるの笑顔になる。
アサヒも魔法少女としての暦は浅めではあれど、以前のアークが目覚めた際の戦闘で、何人かは心を折られ魔法少女を辞めた。その穴を埋めるために新たな魔法少女が補充されたので、アサヒは先輩として指導中という訳だ。
「二人共、避難誘導はできた?」
「はい!」
「なんとか……!」
「警察の人達や魔少課の人達も手伝ってくれてるけど、魔法少女はただ戦うだけじゃなくて、人払いも重要な役目だからね。」
そう言ってアサヒは笑うと、二人の少女はその言葉を受け止めて「はいっ!」と答える。
そう、人払いと言うのはとても大切だ……魔法少女や次元獣は強い。強い者同士の戦いには、時として周りの被害を考える事が出来ない時がある。
……アサヒは知っている。
その
魔法少女と次元獣の戦いに巻き込まれ、親を惨たらしく失った
その日から狂った様に、魔法少女として強くあろうとし続ける、氷結の魔法少女を。
「……よし、それじゃあ一旦本部に……」
すると、先ほどまでサンサンと照らされてた太陽が隠れ、まるで曇り空のように暗くなる……だが、今日は快晴、雲一つない晴天だったはずだ。それがどうして暗くなるのだろう……?
その疑問を抱える二人の幼い魔法少女とは違い、アサヒは咄嗟に天を仰いで見る。それと同時に、独特な羽音が彼女達の耳を刺激するのだった。
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早いものでアスノユキの保護観察処分から三週間。遂に事が動き出した。部屋でいつものようにボードゲームを嗜むアークに、ボォっと窓の外に映る街を見下ろすユキ……暫くしてユキは目に映る景色が嫌になったのかカーテンを閉めると……そんな隔離部屋の中に、ハルザキが入ってくる。
「ユキ、アーク。二人とも観察処分の緩和が決まったよ。」
「緩和?」
「おぉ、漸くこの部屋からおさらばか。暮らし心地は悪くなかったんだけどな。」
「いや、まだ自由に外に出られるわけじゃないけどね、自宅もこの部屋に一時移してもらう。」
「まぁじかよ!俺いい加減に外の世界見てぇんだけど?」
「そう?そこまで不便ないでしょ。」
「お前本当にそういう感じなぁ……」
ここ数週間でアークがユキについて理解したのは、とことんまで自分に対して興味関心が薄いと言う事だ。いや、自分からそうなるように追い込んでいる節も見える。
「それに嫌がってるにしては貴方も……嫌に大人しくしてたわね。」
同じようにユキがアークについて知れたのも、この禁断の魔物は自分よりもよほど人間味のある、と言うか人間臭い性格をしていると言う事だ。今の所、何故封印されたのかユキ目線では見当もつかない。
勿論彼の悪名は伝わっているが……それも伝承だったり人聞きした事ばかりで、アークからユキへは強制的な肉体の乗っ取り位しか害のあることは行われていない。
それも全て最初の戦闘の時や家事をする時など、ユキの利になり得る事しか起こらないからだ。本当に一体なぜ封印されていたのか……
「まぁ事実ここ三週間の様子を監視させてもらった結果、アークの危険度は当初の想定よりも数段下がったよ。元々伝承には契約した者を破滅させるってだけで、具体的な破壊行為とかは書かれてなかったから、僕的には予想できてたんだけど。」
「アーク、貴方本当に何で封印されてたの?」
「いやあ、なんでかなあ、忘れちまったなあ。」
態とらしく気怠く言うアーク……この魔物に対して問い詰めるなんて行為は、水を掴むのと同じくらい無謀だ。すぐにすり抜けてしまう。
「……もう、良いわ。それよりハルザキさん。次元獣の被害状況はあの後どんな?」
「触手型の次元獣の後始末はまだ掛かるけど、その分新規の次元獣の規模は小さめかな。アサヒちゃんや新人の魔法少女達で対処可能な程度だよ。」
「……そう、ですか。それで、私の復帰は?」
「アークなんてイレギュラー抱えてる君をそう簡単に出せる訳ないだろう。」
ハルザキや魔少課としては、元々次世代の強力な魔法少女として目をかけていたユキが、新たな力を引っさげて来た。これだけで切り札の一つとして中々切れない手札になった訳だ。
……ユキは、その状況に納得は出来ないようだが。
「……どうしてもですか?」
「どうしてもだ。」
「でも、俺も暴れてぇんだけど?」
「駄目に決まってるだろ……そもそも君は次元獣討伐に協力してくれるのかい?」
「そう言う契約だからな。必要なら。」
アークはそう言うが、ユキは真剣な面持ちで答える。
「……それも代償がかぶさるんでしょ?」
「あぁ!どうする?借りるかい?」
「……あなたの力なんて借りないから。」
「一度借りたからこうなったくせによく言うぜ……」
「は?」
「喧嘩しないでよ…………んっ、少し待って。」
アークとユキが一触即発になるタイミングで、突如ハルザキの通信機が鳴る。ハルザキはそっと通信に出る……すると、数言やりとりをした後に二人を見る。
「高脅威度の次元獣が出た。」
「っ!?」
「ほへぇ……どんなの?」
「この位置なら……カーテンを開ければ見えるかな。」
そう言ってハルザキはさっきユキが閉めたカーテンを開く。そこに映るのは、ハチのような次元獣……その大群だ。一匹一匹は中型の次元獣だが、それがまるで雲のように一塊で動いている。
「ハチ型の次元獣……元々複数出現することが多いけど、ここまでの量が出るのは初めてだね。」
「戦いは数だよ兄貴ィッ!!……ってか?」
「ハルザキさん、私行きますね。窓開けてください…………!!」
「いや、この窓固定されてるから開かないんだよ。そもそもここ何階だと思ってるのさ……でも、確かにこの量はユキちゃんの手も借りないとかな、一回外に……」
「……早く、早く行かなきゃ……」
ユキがそう言いかけると、アークが身を乗り出して窓へと近づく。
「開かぬと不平を言うよりも〜!!進んで扉を開きましょぉ〜!!」
次の瞬間、アークの片腕が肥大化し熱を籠もらせる……そして、誰がどう止めるよりも早く、アークは窓へとその拳を叩きつけた。
ここは実を言うと元々は不安定な魔法少女を閉じ込めて休養させるために作った部屋だ。そのため、魔法少女の魔法が暴発しても大丈夫なように頑強に作られている。
勿論窓ガラスだって例外ではない、物質強化が得意な魔法少女に依頼して耐久値を上げた窓ガラスだ。それをアークはその拳を打ち付けただけでヒビを入れてしまったのだ。
「ちょっ!?アーク!?」
「……っ!」
流石のハルザキもこれには動揺する……だが、ユキは目の前のアークを本気で止める気配がない……きっと、ユキも多かれ少なかれこうしたいと思っていたのだろう。早く駆けつけたいと。
ハルザキは念の為に懐に忍ばせた毒薬へ手を伸ばすが、それよりも早くアークの追撃が窓ガラスをぶち破る。すると、冷たい風が部屋に一気に吹き込んできた……アークの炎の身体はその風に揺らめきながら、彼は語る。
「……よぉし、空いたぞ。相棒ぉ、早く行きたいんだろ?」
「……相棒じゃ、ない。」
ユキはそう言うと、次の瞬間その場から駆け出し風穴の空いた窓ガラスへと飛び出すのだった。