乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
……次元獣の群れの撃破から暫く。辺りには魔少課の職員による事後処理に、仕事を終えた魔法少女を労るムードが出来ていた。
病み上がりでまたまた傷を負ったアサヒも、和装に身に着けた緑色の髪色を持つ箱入りっぽい娘からの治療を受けている。彼女もまた、魔法少女である。
「……ッ!!深緑癒術式:二手……因幡兎の蒲!」
その少女は自らの手に魔力を練ると、その手をアサヒの抑える脇腹へと翳し、力を込める。
すると、優しげな浅緑の光と、何処となく香る草の匂いと共に、先程まで痛みで顰めっ面になっていた彼女の顔が安らぎ始める。反対に、緑髪の少女は少し辛そうにぜぇはぁと息を紡ぐ。
「はぁ……はぁ……大丈夫、ですか?」
「んっ……!私はもう大丈夫!ありがとね、コモリちゃん。」
緑髪の少女の名は『ハルザキ・コモリ』……字は『深緑の魔法少女』。魔少課の研究員ハルザキの実妹であり、癒しの魔法を得意とする後方支援担当の魔法少女である。
アサヒやユキの様な前線に出る事が多い魔法少女にとっては、傷ついた自分達を癒して回復を早めてくれる彼女は、足を向けて寝られない存在だ。
魔法少女と言ってもその裾は広く、例えばユキの様な対次元獣対処を執り行う荒事担当の戦闘要員の魔法少女も居れば、コモリの様な完全な後方支援担当、世間一般への広報活動を主にする魔法少女、複数の役割をバランスよく熟す魔法少女と個々人によって仕事は様々だ。
勿論、ユキの様な戦闘員が広報活動に駆り出されたりすることも、ままあるのだが。
「アサヒ、大丈夫?」
「大丈夫ってさっき言ったでしょ!」
ユキとアサヒの会話の最中、コモリの魔法を見ていたアークは、ユキの影からナチュラルに現れて感心の声を漏らしながら呟く。
「ほぉ、回復魔法か。大したもんだな。」
「ひぇっ!?」
突然ユキの影から現れた炎の魔物にビビって、コモリは思わず数歩離れて近くのベンチを盾にするように隠れる。すると、アサヒがアークをこづきながら言う。
「あぁ、コモリちゃん大丈夫。コイツはアーク。貴方が思っているような魔物じゃないわよ……今の所は。」
「今の所とはなんだお前ぇ。」
「いいから、アーク、引っ込んでて。」
「ぐぇ。」
またもやユキに弾かれて退かされるアーク……実際、コモリの様な回復魔法の使える魔法少女と言うのは希少である。魔法少女の使える魔法は個々人によって異なる。
基本何かしらの魔法に特化する事が殆どなのだが、たまにオールラウンダーに魔法の使える者も居たりと一概には言えない。その中でも回復魔法と言うのは希少な能力。
自分の魔力と引き換えに相手を癒し治す。素晴らしい能力だ……代わりに当人のコモリが若干病弱なのと、本人自身には回復魔法が使えない事、なにより治癒に魔力の他にもコモリの体力も消費してしまうのが悔やまれるが。
コモリは現れたアークに対して何処か震えながら問いかける。
「え、えっと……その人が件の禁断の魔物、ですか?」
「えぇ……本当に禁断なのかは分からないけど。」
それはユキから見た本音の一つ……気を緩めるべきではないと言うのはそうとして、ユキには話やこれまでの態度を見てもアークが『禁断の魔物』なんて呼ばれる所以が分からない。
契約した魔法少女を破滅させるとは言っても、具体的にどうしたかの記述は殆ど見られないからだ。もう魔少課のみのデータベースに頼らず、もっと広く漁ってみる必要があるのかもしれない。
そんな事をユキが頭の片隅で考えると、傷の癒えたアサヒはハッと目を見開いてユキに駆け寄り心配そうに問いかける。
「……ってか!?ユキってばここに居て良いの!?まだ観察期間で魔少課に居なきゃなんじゃなんじゃ!?」
「処分の緩和が決まってね、ある程度なら外に出れるようになったの。」
「ん……?ちょっとすいません。」
驚くアサヒに対してユキが説明する中、スマホの着信がなったコモリが数歩離れて電話に出る。その間もアークは魔法少女達の姿格好を眺めていた。
アサヒやコモリはいかにもな衣装に身を包み、緊急ですっ飛んだユキは今でこそ私服だが、初めて戦った時は同じような衣装に身に纏っていた…………この衣装は、一体誰が決めているのだろう。
(やっぱ技名と同じで趣味か……?)
趣味である。
魔法少女にも人気商売な部分はあるし、わかりやすいシンボルとして『魔法少女っぽい衣装』でアピールするのは重要なのである。
(う〜ん、俺もなんかそう言うのあったほうが良いのか?技名とか。)
「そういえばさ、アークについては世間にどう話すんだろうね?」
「んっ……ハルザキさんからはそこはまだ聞いてなかったわね。まぁ、私はどうせメディア露出しないから別に……アーク?」
「なぁ俺の技名って禁断要素を前に押し出せばよいのか?それとも炎属性を前に出せば良いのか?」
「何アホな事言ってるの貴方」
アークを世間に出すかどうか……その意見を当人に聞こうと思えば返ってくるのは明らかに話を聞いていなかった魔物のトンチキな返しに、ユキは呆れ気味に呟く。
だがアークはわりと真面目そうに頭を捻らせていた。
「紅蓮のなんちゃらみたいな技名……俺もあった方が良いかなと。」
「私と被ってるじゃん!?やめてよ営業妨害!!」
「営業妨害!?」
アサヒはユキと比べて比較的メディアにも出る……そういった魔法少女にはキャラ被りは痛いのだ。なんなら普通の魔法少女よりも人外的特性が多い分食われかねない。
「……はい、分かりました。
「そんな被るの嫌か?なら差別化しようぜ、もっと腕にシルバー巻くとかさ。」
「それ差別化?てかどっかで聞いた覚えあるんだけど……」
「ん?どうしたのコモリ。」
後ろで訳のわからん談義を始めるアークとアサヒを一旦スルーして、ユキはコモリからの呼び出しに応じる。するとコモリはバツの悪そうな顔で呟く。
「えっと……もしかしてここに来るまでに魔少課の施設壊したり?」
「アークと部屋の窓破ったわね。」
「……その時に部屋の壁も一部壊れちゃったみたいで……魔少課についたら代わりの部屋が用意ができるまで別室で待機を……あと、あにさ……ハルザキさんちょっと怒ってました。」
「わかった。」
あっさりとそう言うユキ。だがコモリは知っている、ここまでではないにせよ、ユキが同じような状況で似たような無茶を幾度か行った事を。だが、敢えて何も言わない事にした。
「それと……ハルザキさんからアークさんの事で伝言です。」
「何かあるの?」
「さっき皆さんが話してたアークさんを世間にどう説明するのかと話ですが……一応、ユキさんの強化した魔法で召喚した使い魔と言う事にして―――」
「だぁれが使い魔だ。」
次の瞬間、瞬時にコモリに迫り烈火のごとく怒り狂うアーク……使い魔扱いされたのがよほど気に食わないようだ。前にも使役と言われ嫌がっていた辺り、そう言う扱いが気に食わないらしい。
声を荒げるわけではないが、冷静な怒りを感じる語気で化け物に至近距離に迫られたコモリは流石に萎縮する。
「ひっ!?」
「だから俺は断じて
「深緑の魔法少女ですぅ……!」
コモリがアークに肩をゆすられて、蛇に睨まれた蛙の様に固まる中……アークは明らかに不機嫌なユキに首根っこを掴まれる。
「アーク……!!」
「ぐぇ。」
そしてそのまま勢いよく雑に投げられてしまう…………アークはあぁ言っていたが、どう見てもとても対等には見えないし、なんならアークが言っている内容とは上下関係が逆としか思えない。
「え……えっと……」
「ごめんねコモリ。回復魔法使いたてで疲れてるのに厄介なのに絡ませちゃって。」
コモリは雑に投げ捨てられて地面に伸びるアークをみて、先程迫られて感じた恐怖以上に、目の前の魔物の情けない姿に何も言えずに愛想笑いしか出来ない。
「いきなりどうしたの、貴方。」
「……あんま便利な道具扱いされたくねぇ。そもそも俺使い魔じゃねぇし。」
「分かってる。あくまで対外的には……だから。お願い、話を合わせてくれない……?」
「…………しょうがねぇな。」
(面倒臭いのか話が分かるのか分からないなこの禁断の魔物……)
コモリは目の前のあまりにアレな状態の噂の魔物に、色々と複雑な感情を芽生えさせながら肩をすくめる。
暫くすると移動の準備が出来たのか、迎えの小型バスの扉が開く……こうしてまた、一日が過ぎていく事になるのだった。
翌日、ネットニュースにとある記事が投稿された。題名は【魔少課から飛び出した謎の黒炎と魔法少女!!】
……そこには、窓ガラスをぶち破って飛び出し、そのまま次元獣の群れへと向かうアークとユキの一場面を撮った写真が一枚貼られていた。
あまりのスピードにカメラ写りは良くなく、殆どブレてはいたが……そのインパクトは絶大であったと言う。
魔少課に新調された部屋で、アークはユキのスマホを(勝手に)扱いづらそうに操作して、そのニュースを見ながらつぶやく。
「俺も写真映りって気にしたほうが良いかねぇ?」
「なんで貴方が気にするのよ。」
「あと技名とかも考えたほうが良いよな。どんなのが良いと思う?」
「知らないってば……」