乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
某日……新たに用意された部屋でユキとアークはまた一日を過ごしていた。軟禁状態が緩和されたとは言え、未だに外出には事前の許可が必要だ。特に用事もない日はこうして部屋での待機が殆ど
……ユキはその日、午前に魔法の鍛錬を終えてからは、只管にノートにシャーペンを走らせて教科書とにらめっこをしていた。
「……ん……」
少し悩んでいるようで、シャーペンで頭を軽く掻く。ノートにはびっしりと書かれた計算式……高校2年が行う勉強にしては少し難易度が低い気もする。すると、影からアークが現れて顔を寄せる。
「何してんだお前?」
「勉強……アークこそどうしたの?私のスマホで動画見てたんじゃないの?」
ユキの問いかけにアークは持ちづらそうにスマホを手にしてゆらゆらと揺らす。画面に映るのは【簡単レシピの本格オムライス】と言うタイトルのレシピ動画だ。半熟タイプのオムライスである。
「いやぁ、レシピ動画漁ってたら美味そうなのを見つけてな。作りたいから身体貸してくれね?」
「あー……もう昼か。ごめん。もう少し待ってくれない?」
「なんかあるのか?」
そう言ってアークは無遠慮にノートを見る。少し邪魔そうにユキはアークを押し退けて呟く。
「勉強だってば。最近進めてなかったから。」
「ほぉん……そう言えばお前さん17歳だろ?学校は良いのか?」
それはアークが口には出さずとも少し気になっていた話題。ここ一ヶ月の間半軟禁状態で部屋にいるのに、特に困った様子や学校の事を気にしている様子もない。今は5月……特に夏休みな訳でもないのに、そこが少し気になっていた。
すると、ユキは教科書から視線をずらすこともなくサラリと言う。
「私高校に通ってる訳じゃないから……これは高卒認定試験の勉強。」
「ファッ!?」
突然投下された不登校宣言…………流石にこれにはアークも面を食らって驚く。
「魔法少女って全員不登校なのか!?」
「いや、違うけど!?学校通えてる子が大半よ。アサヒやコモリだってちゃんと学校通ってるし。私みたいなのもいるってだけ。」
となるとますますユキが学校に通っていないことが不思議だ。魔法少女と言う存在は世間には様々な意見があれど総じてすでに受け入れられている。アサヒやコモリが学校に行けているのがその証拠だろう。
「良いのかよ?高校行かなくて、学歴社会なんだろ?」
「
実際、戦闘員としてユキは魔少課……ひいては、次元獣対策に躍起になっている国家レベルで重宝されている。ほとんどの魔法少女は学業と私生活との両立を行い、歳を重ねるに連れて魔法少女から引退するものも多い。
そんな中で、只管に魔法少女としての力量を高め、次元獣と戦ってくれるユキのような存在は……言い方は悪いが、便利な存在なのである。
一応魔少課にも面子と言う物があるし、本人が望めばいくらでも勉強の機会は与えられるが……それを蹴って只管に魔法少女として戦いの渦中に居るのがユキである。
「オイオイ、そんなに魔法少女な自分が大事か?いつか魔法少女じゃ無くなったらどうするんだよ。」
「……そう成ったら、私にはもう価値なんてないかな。」
そう何処か嘲笑うような顔を見せながらユキはペンを進め続ける。
「でも、まだ私は魔法少女で居る気だよ。」
「17歳で魔法少女はギリギリな気もするけどな!」
そう言ってアークはいつものようにケラケラと笑う……今やこの世界における魔法少女は、別にそう名前が残っているだけで、必ずしも少女である必要はない。『ヒーロー』が男性名詞なのに女性相手にも使う事があるのと似たようなものだ。
「……にしても、よくもそうまでして魔法少女やってるよな。そんなに金の入りが良いのか?」
「……別に、お金が目的じゃない。」
ユキは珍しくそう語りだす。アークはユキと同化して一ヶ月……あまり、と言うか殆ど自分の事を語らない彼女であったが初めての事だ。
「……私の両親は、次元獣と魔法少女の戦いに巻き込まれて死んだの。」
「ほへぇ。」
アークや世間からすれば良くある話だが……当人からすれば、たまった話ではないのだろう。
10年前……ユキとアサヒは当時7歳、アークもまだ禁書に閉じ籠もって居た頃だ。二人の住んでいた街に次元獣が現れた……強力な次元獣だったが、魔法少女達の尽力で次元獣は撃破された。
だが、被害をゼロにする事は出来ず……ユキは、両親を失った。その事を責め立てる人間も居るには居たが……そう言う声は大体邪険に扱われ、多くの人が魔法少女達の功績を称えた。
ユキもその事に目くじらを立てる気は一切無い。どうやったって被害はゼロには出来ないし、その分を自分が被さっただけと……納得は出来ないが、理解はしていた。
それでも、もしそこに
ただ、それだけの話。
魔法少女に成る理由としてはよく聞く理由である……だが、当人にとっては大事な理由だ。
「魔法少女として強くなれれば、もっと沢山の人を助けられるし、もっと沢山の次元獣を倒せるから。」
「だからって別に捨てて良い物なんかそうそうねぇとは思うが……まぁ、良いや。」
アークはどこか興味なさげに身体を伸ばす。要するにユキは魔法少女である事以外の自分に価値を見出していないと言う事なんだろう……だから学校や勉強は疎か、食事ですら切り詰めて保存食を貪るんだ。総じてマトモな考え方じゃない。
アサヒの言う自分に無頓着と言うのがよくわかった。本来ならこう言う風に何かを追い求めて何もかも捨てる行為は、家族が止めたり、環境が許さなかったりして、多少勢いが緩むが……
ユキの場合は、魔法少女としての才能も力もあったし、その力を振るう理由も場も十分にある。そして、それを許し、褒めて、サポートする魔少科と言う環境も揃っていた。
だから、トップスピードで駆け抜けているのだろう。でなきゃ、あの緊急時で禁断と言われるアークを目覚めさせもしないだろうし。
(…………なぁんで俺を呼び出す奴は
アークはそう言って半ば嘲笑する。
誰かに取り付き、乗っ取る……生きた人間を媒介にしなきゃ生きてけない魔物である彼から言わせれば、自分から自身の持つ自由を捨てて誰かのために献身すると言うのは、幾年経っても納得出来ない行動だ。
そう言う奴は最期に一番大事な物を捨てていく。それは、アークが見てきた答えだ。
「……あれ、計算が合わない……あれ……?」
「……ん?つかオイ。こことここ数字違くね?逆じゃないのか?」
「……あっ。」
アークに指摘されてみると、確かに途中式の数字が入れ替わっている部分がある。そこを入れ替えて計算し直すと、今度はしっかりと答えが出る。
「……。」
「オイオイ、本当に大丈夫かぁ?魔法少女にかまけ過ぎなんじゃないのかぁ?オイオイ〜?」
態とらしくユキの周りをグルグル回って煽り散らかすアーク……ユキも何処か顔を赤くしながら恥ずかしげにプルプル震えている。
「……うるさい。」
「文句言う前に気づけよな?ちょっと見直せば分かる間違いだろぉ〜?」
「〜!」
ユキは奥歯を噛み締めてまた机に身を乗り出す……そうこうしている内に13時を回ろうとしていた。朝からユキは殆ど何も食べずに勉強か日課の鍛錬…………よくもまぁ保つ物だ。
「……オイユキ、いい加減俺腹減ったんだけど、飯作りたいんだけど、身体借りて良い?……つか借りるわ。強制。」
「はっ!?ちょっ!?」
アークは瞬時にユキの身体に纏わりつき、またまた強制的にユキの身体を乗っ取る。
『ねぇ、ちょっとアーク……いい加減強制的に身体乗っ取るの辞めて……!!』
「こうでもして飯作らねぇとお前食わないじゃんかよ。文句ならちゃんと飯を食う習慣をつけてから言えっての。」
『別に……無理して食べなくても……』
「黙れ!!黙って食え!!」
はたから見ればユキが一人喧嘩しているようにしか見えない光景だ……アークはやっと扱いやすそうにスマホを持って例の料理動画を見る。
「味はどうしたい?デミソースとかトマトとかチーズとか……和風なんてのもあるな……因みに俺はデミソースが食べてみたい。」
『……どう違うのさ。』
「味が違うんだろ?因みに俺はデミが食べたい!」
『いや、うん、デミソースでも良いけどさ……作れるの?』
「当たり前だろお前、レシピの通り作れば大抵の物は何とかなるんだよ!」
そう言って一先ずソースのレシピを見るアーク……
「オイスターソースに赤ワイン、ある訳ねぇだろそんなもん……まぁ無くても良いかぁ!最低限ソースとケチャップだけありゃ何とかなるよな!」
『ねぇ数秒足らずで矛盾してるんだけど……レシピ通りじゃなくて良いの?』
「まぁ……多分!大丈夫だっつーの!行ける行ける!」
そう言ってアークは笑いながらレシピを横目にしながら、材料を取り出したのであった。
アーク「オイスターに赤ワインか……あの研究員に取り寄せてもらうか?」
ユキ「私が未成年飲酒してるみたいになるから止めて。」