乗っ取り系魔物「クックックッ、俺に身体を貸せ……」魔法少女「貴方の力なんて借りない!」 作:タロスズ
その日もまた、特に平穏な一日だった。
次元獣による被害も無く、特段の予定も無い……多くの人にとっては、実に理想的な日曜日な筈だ。
だが、世間が休日ムードで賑わう中でも何かしらで気が重くなる者も居る……今宵、街中を一人で歩くアスノ・ユキと言う少女も例外ではなかった。
「…………。」
傍から見れば顔色の少し悪い少女……それだけで、特におかしな所もない。若干体調が悪いのかな……程度だ。魔法少女に詳しい者なら、彼女が『氷結の魔法少女』と知る人もいるのかも知れないが、無理して声をかける者はそうそう居ない。
だが、彼女の頭にはこの最中にも煩い禁断の魔物の声が響いていた。
『おぉぉぉ!!なんだあれ!?あれが噂のアイスクリーム屋か!?おぉ、あっちはラーメン屋……おぉ!?これがゲームセンター!?随分と様変わりしてんなぁ!おぉ……なんだあれ!?スマホで道中でダンス動画撮ってる!許可とか取ってんのかなぁ?おい、相棒?どう思う?』
(う、うるさいぃぃぃ………!!)
ユキは頭のなかに直接響く、テンション高めなアークの声に辟易しているのだった。
勿論アークを堂々と外の人間に見せるわけにもいかないので、本体は今はユキの影の中に籠もってもらっているが……そんな状態でも周囲を確認することなどわけない。元は厳重に管理された禁書の中から、動画を見るように世の中を見渡してきた存在なのだから。
……何があったのかと聞かれれば……遂にアークの堪忍袋の緒が切れたと言う所か。折角狭い禁書の中から飛び出したと思えば、一か月近く部屋の中に軟禁され……外の世界に繰り出せないでいた。
それは、他の者が思うよりもよっぽどアークにはストレスだったのか、ある日アークはユキに抗議した「いい加減外に出させろ」と。
ユキは別に無理して外出する気もなかったが、目の前の魔物が下手なことをすると関わらないと思い、ダメ元でハルザキに相談……その事で外出許可を取り付けたのだ。
勿論、
「ふふっ!ここは私達オススメのお出かけスポットなんですよ!」
「イケてるでしょう?」
そう言って笑顔を向けるのは、二人の魔法少女……片方は少し褐色肌にショートの髪型を持つボーイッシュな少女……名前は『ミスズ・アミ』魔法少女の字は『霞の魔法少女』。
もう1人は金髪ロングで、何処となく派手な印象を持つ女の子『ナグモ・カコ』……魔法少女の字は『雷撃の魔法少女』だ。
二人共魔法少女としては新参者であり、本来はアサヒの元で鍛えられている……以前のハチ型次元獣が大量に現れた際に避難誘導を行っていたのも彼女らだ。
一応、禁断の魔物を監視すると言う重要任務であるのに新人魔法少女二人は手薄ではないか?と問い掛けられると否定はできない。
言えば人手不足と言うのがなによりもの理由だ。彼女達も魔法少女としては即戦力ではある…………監視や連絡係としては十分、との判断だろう。それだけ
『いやぁ!やっぱり街も様変わりしてんなぁ!……なぁユキ!?身体乗っ取っていいか!?遊んでいきたい!!』
「嫌だ……今の貴方には本当に貸したくない。」
アークのテンションが高いのはユキから見れば明らかだ。こんな状態のアークに体を貸せばどんな状態になるか想像に難くない。絶対、17歳の少女がやるべきじゃないはしゃぎ方をする。絶対に小学校低学年レベルのはしゃぎ方をするのが目にみえている。
『大丈夫!大丈夫!へんな事しないから!!な!?』
「駄目ってば……」
こう抵抗しても、最悪の場合無理やりにでも肉体の主導権を奪ってこれるのだが手を超えない。すると、アミは小首をかしげて問いかけてくる。
「大丈夫ですか?楽しんでますか?」
「楽しくなかったです……?」
「アークは楽しんでるわよ……うん。」
「本当ですか!?なら良かったです!」
この二人も二人でよくも厄ネタを身に宿したユキを目の前に何の態度も変えずに絡んでくる物だ。一応は魔物なのに、それが喜んでいて良かったですと言えるのだから……
「……はぁ、まったく……」
「あっ、見てくださいケバブの屋台です!珍しいですね……食べます?」
「いや、私は……」
『よっしゃ食べよう!!』
(ちょっ!?)
アークはついに抑えが効かなくなったのか、半強制的にユキを乗っ取る……一応いつもの様に炎のエフェクトは出さずに、自然に切替わる様に。すると、先程まで疲れ気味だったユキの顔が一気に瞳輝かせ明るい顔つきになる。
「っし!借りるぞ、相棒。」
『ちょっ!?アーク!?』
「いいだろ?魔物の姿じゃ外出れないんだし、この状態なら味が分かるからな。良いだろ?」
『〜〜……絶対に変な事しないでよ。」
「大丈夫だってば。」
急に声色も口調も代わり独り言をボソボソ話し始めたユキ(の体を借りたアーク)に、カコとアミは若干引いてしまう……が、直ぐにその気配が先程のユキと違うことに気づいた。
「……あれ、もしかして……今の貴方がアークさん?」
「おぉ……!すこしユキの身体を借りてな。こうすりゃ俺も自由に動ける!」
「へぇ……!もっと怪物みたいな姿って聞いてたんすけど……!」
「俺ほどになると特定の姿形は意味を成さないんだよ!」
「「おぉっ!!」」
『馴染み方すごいわね……』
アークと切り替わって物の数分で初めて話すカコやアミと打ち解けるアーク……カコとアミが人懐っこい性格なのも理由だろうが、それにしても良い馴染みっぷりである。自分も、両親が亡くなる前はこうだった気もするが……はてさてどうだったか。
「それじゃあ行きましょう行きましょう!」
「っしゃぁ!!飯食おう飯!」
「お昼まだだもんね!ケバブ食べよう!ケバブ!」
すると、アークはアミとカコと共に街へと繰り出すのだった。
「美味いなこれ!」
「ん〜!行ける!」
「美味しいですねぇ……!」
「俺ちょっとおかわり行って来るわ。」
「まだ食べるんですか!?」
『……私のお腹ってそんなに入るのね……』
宣言通り昼食にケバブを食べたり。
「あぁ!アーム弱い!すぐ落っこちる!」
「持ち上げる前と後で明らかに挙動違わねこれ!?」
「タグを狙いましょう!タグを!」
「ぬいぐるみって取るのムズいんだなぁ……」
ゲームセンターでUFOキャッチャーで一喜一憂したり。
「ん〜ユキちゃん先輩の身体ならこのネックレスが似合うかと!」
「あ〜でも多分アイツの好み的にはこっちの方が良いんじゃね?」
「ならあっちに良いのがあるよ!行こ行こ!」
『私の身体で馴れ馴れしくしてるせいで変な渾名つけられてる……!!』
アクセサリーショップでユキに似合いそうな飾りを探したり。
「ん〜!やっぱ良いね、アイスも!寒かろうと暑かろうと美味しい!」
「いやぁ、思ったより味濃いな。昔食ってた奴はもっと氷菓っぽくてな……あれはあれで美味かったけどね。」
「へぇ、そんなのあったんだ……アーくんそれ何味?」
「『ぽっぴんぐしゃわー』って奴。カコとアミは?」
「大納言小豆。」
「ラムレーズン!」
『アークまで変な渾名で呼ばれてる……!!って言うか貴方はそれで良いの……』
アイスクリーム屋でデザートを楽しんだりと……そんなに時間は長くなかったはずなのに、心底楽しそうに過ごす。
見た目からすれば普通の何処にでもいる少女の見た目であるから微笑ましく健全に思えるが……その中身が禁断の魔物なんて呼ばれる仰々しい魔物とは思うまい。
しかし、本当に楽しそうだ……普通に人間社会や文化を謳歌している。ユキから見れば人間である自分以上に人間の世の中を楽しんでるように見えた。
むしろなんであんな炎の不定形の化け物に生まれてしまったのか不思議なくらいだ。
『楽しそうね、アーク。』
「ん?おう、楽しいぜ。普通に生きてるって感じがするからな……そろそろ身体返すか?」
『別にもう少し楽しんでても良いわよ?……と言うか、良く今日会ったばかりのあの後輩達とちゃんと仲良く出来るわね。』
「俺はお前と違って人間関係を円滑に進める方法を知ってるからな。」
『……それはそうかも知れないけどなんか腹立つわね。』
ユキはそう言ってまた溜め息を吐く……だが、すこし日も傾いてきた。戻るには良い頃合いだろう……三人はクレーンゲームで取ったぬいぐるみ等の荷物を袋に入れて片手に下げながら話す。
「カコ、アミ、今日は楽しかったぜ。」
「私もすごい楽しかったです!」
「また、遊ぼーよ!アーくん!ユキちゃん先輩も!」
カコやアミも始めは若干相手が先輩だからと言う事で強張っていたが、既にもう半分素が出ている。よくもまぁ一日足らずでここまで心を開いてくれたものだ。
『はぁ、本当に貴方って魔物なの?』
「現にこうして体奪ってるだろ?……もう返すよ、久々に生きてるって感じられた。ありがとうな。」
珍しくそうお礼を言うと、アークはユキの身体から引込み……ほんの少しの目眩と共に、先程までの明るい表情とは違う、少し暗いと、言うか、淋しげなユキの顔に戻った。
「はぁ……」
「あっ、ユキちゃん先輩!」
「アーくん引っ込んじゃったんですか?」
「えぇ、いい加減返すって言われてね…………二人共ご苦労さま。」
「いえいえ!楽しかったですし!」
「ほぼ休日みたいな物でした!」
「そう……それなら良かったけれど……」
ユキはそう言って肩を軽くすぼめる………………すると、次の瞬間彼女に少し悪寒が走る。嫌な予感……と言うよりも、
『おいユキ!』
「っ!?」
アークに呼ばれ見上げた方向……一見何の変哲もない街の景色だが、そこに一部歪みのような物がみえた。そして、そこからナニカがこちらを狙って居ると言う事も……次の瞬間、その歪みから赤黒い魔力弾がカコとアミ諸共消し飛ばすようにユキの方に放たれる。
「っ!?二人共!!」
「えっ!?」
「ちょっ!?」
ユキは咄嗟にカコとアミを押し退け二人を庇う……次の瞬間、激しい爆炎があたりを包む。どうやら道行く一般人には突然爆発したようにしか見えないらしく……多くの通行人が驚き叫び逃げる。
「い、いきなり爆発したぞ!?」
「な、なんだよあれ!?ヤバいって!」
逃げ惑う人々の悲鳴を耳にしながら、ユキは自分を襲った衝撃に耐えるように力む……しかし、衝撃は疎か痛みもほとんど来ない……ユキがそっと立ち上がると、その影からはアークが現れ放たれた魔力弾を片手で受け止めていた。
「ッ!?アーク……」
「チッ……俺も直前まで気づけなかった。どんなステルス性能だよ……」
そう言ってアークは手にしていた魔力弾をゆっくりと力強く握りしめて砕く。すると、アークはその腕を触手の様に伸ばし……目の前にうつる景色の一部が歪み、まるで水面に釣り竿を投げた時の様に触手が空間に沈む。
数拍置いてアークが腕を大きく振るうと、まるで吊り上げられるように次元獣が飛び出す……基本は人型だが、尻尾のような部位を持ち、その先端は大型の砲身のようになっている。
「っ!?次元獣……!?」
「おぉうい、カコ、アミ、生きてるか?」
「痛つつ……な、なんとか!」
「うぅ……ん……っ!?びっくりした!?アーくん!?」
カコの問いかけにアークは目のような部位を細くして答えると、再び次元獣に向かう。
「二人共、避難誘導お願い。ここは私が抑え込む。」
そう言ってユキは魔力を全身集中させ、腕を振り払う……すると冷気が一瞬ユキから勢いよく放出され白銀の雪煙の中から『氷結の魔法少女』が姿を現す。
「先輩……!!!カコ!」
「分かってる!」
それを見て遅れ無いようにカコとアミも魔力を全身に込める……やがて霞と雷雲が二人を包み、それを振り払えば和装に身を包んだ『霞の魔法少女』と少しトゲトゲしい鎧のような衣装を着込んだ『雷撃の魔法少女』が露わになる。
すると二人はすぐにその場から離脱、逃げ惑う人々の先導にあたる。
次元獣は尻尾の大砲を向けて再び放つが、今度もユキの周りを旋回するアークに魔力弾を切り裂かれて防がれる。
「折角楽しい気分で帰れそうな所に水差されちまったな。ストレス発散させてもらうか。」
「アーク……はぁ、どうせ断っても出てくるんでしょ?……勝手に身体乗っ取らないでね。」
「善処しよう。」
そう言ってユキは双剣を、アークは身体から炎を揺らめかせて拳を握りしめるのだった。