青空の白昼夢 〜故郷への帰還だけを望むモブ転生者君の日常〜 作:曇らせは志向の味
アインとギルド場で別れ、家へと帰宅してから次の日……朝の五時、現在の俺は予定の時間になるまで一冊の手記に昨日書くことを忘れていた物事を書き連ねていた。
「地球からこの世界に来てから23年か……時間とは本当に早いものだな……」
机に向かってペンを走らせる。ちょっとした貴族の家に生まれ、魔術学園に入学するために王都へと引っ越すと共に家族と別れ、そこで現在の装備である仮面を手に入れたが……それと同時に実家では何らかの事故が発生、それにより俺の第二の両親は死亡。姉と兄は生き残ったようだがその頃の俺は例の情報を何も知らずに学園に過ごしていたため現在は行方は不明、精神的には本当の親ではないが俺をここまで育ててくれたんだ悲しさはある。
そんなこんなで色々あった学園生活だが大体は喧嘩に明け暮れながら、王都の大図書館に存在する書物という書物を読み漁り徹底的にこの世界や魔法について調べ上げた。そして学生の身分内で出来ることを端から端まで行ったが全てが失敗、卒業後はとある情報を頼りにノスベルクに流れ着いた。
それから冒険者へと就職……就職?し
「ただの一般人がここまで出来るなんて、完全に思いもしなかった。元々は地球に住む一般人だったしな……」
平和な世界でハーレム的なことがしたかったのは内緒だが、住めば都と言うようにこの世界にも順応自体はしてきている、がそれ以上に帰りたいという思いが強くなっているのが事実である。
帰還についてだが、ノスベルクにてやれる事がなくなった場合は俺は即座に別の場所に移動するつもりであり。カティアや副ギルド長などの知り合いとは別れるのは寂しいがそれも致し方ない。
ペンを走らせてから約十分ほど、昨日の異常なほどに濃い内容を書き終えた俺は荷物を持ち玄関へと向かう。アインとの約束の時間は八時頃であり最も人が多くなる時間帯でもある。普段は絡まれることを避けるために早めの時間にしていたんだが今回はそれに意味を為さないようだった。
「なんか老人みたいだな、こんな早くに起きて行動するのは……まだ若いはずなんだけどな?」
この世界は何歳で老人判定になるのかは分からないが、前世と合わせた場合は俺はオッサンに判定されるだろう。体の方は流石にまだ大丈夫なはずだが再度実感すると心に来るものがある。
俺はそんな茶番を玄関でずっとやっているわけにはいかないので少しばかりの恥ずかしさを持ちながら荷物を整え外へと出る。
相も変わらず道には王国からや別の街からだろうか、商人が馬を使って馬車を押しながら中央街路を練り歩いていた。昼頃になるとこれは序の口の程になるまでに増加する、スリも多く発生するが流石は魔法世界そこらへんの民間人が魔法を使い撃退する場面を何度も見たことがある。
「氷以外に適性が無い体だからそれ以外の魔法がほぼ使えないのが残念だ。まあでもスクロールのおかげで何とか補えてるからまだ良いほうか」
実を言うと氷魔法以外には適性が全くと言っていい程にない、
どうせならばファンタジーな世界に来たのならば全属性に適性くらいはあっても良いじゃないか!この世界に神が居るならば俺は一度でいいから殴ってみたいものである。
「使えないんだったら世界を凍らせれるくらいの力が欲しかった……王国騎士団の第一部隊の副隊長はそれが出来るらしいが本当に人なのか??」
騎士団には第一から第五までがあり、第一部隊が最も強く第五部隊は問題児たちが所属される部隊らしい。正直言って問題児達を一か所に集めただけで解決するとは全く思えないのだが……王都がどうなろうと知ったこっちゃないためそこはどうでもいい。
石畳を歩く度にカツンカツンと高い音が鳴り少し離れた場所から怒号や騒がしい声が響き渡る。
突如として俺の背後から耳をつんざく音が鳴り響きながら怒号が迫ってくる、ふと背後を見ると興奮した馬が商人の手綱に従わなくなったのか完全に暴走した状態で走って来ていた。
「そこの人ォ!どいてくれェ!!」
少しふくよかな商人が俺の存在を目に入れたのかこちらに向かって大声を張り上げ注意を促した。
……このまま避けることは可能だ、しかしそのままにしていれば他の民家へ突っ込んでしまう。俺は良心が傷んだのかそれとも別の理由だったのか、そんなことを考える暇もなく体が勝手に動きいつの間にか魔法を発動していた。
手に魔力を籠め馬を間違っても殺さないように、それでいてある程度簡単に溶かすことが出来る程の威力に調整する。
「すまないな馬よ。アイス・コロッサス!」
勢いよく地面へ手を着き地面を媒介に巨大な氷塊を召喚させる。それにより馬は丸ごと氷漬けに変貌しそれに続いて馬が引いていた荷車に少しだけ氷が侵食していた。
ちょっとだけ威力を間違えてしまったかもしれないが、周りの被害などを考えればまだマシなはずである。
「大丈 」
商人がこの一瞬の間で起こったことが信じられないかのような目でこちらを見てくるが……移動をよく行うような職業ならばこれくらいの光景は見る気がするがどうやらその考えは違ったようだ。
想像以上に厄介なことになりそうで俺の背筋に冷や汗がツーっと流れ落ちる。面倒事が労働の次に嫌いな俺は軽く会釈を済ませると跳躍の首飾りを発動し転移した。
現在時刻は朝の六時、王国歴は分かりません。
場所を余り詳しく想像せず転移をした影響なのかギルド場から少し離れた場所に転移してしまったようで、完全に人気が無い路地裏で辺りにはごみが散乱している。
予想だがここはギルド近くの鍛冶屋の横だろう、地面に転がっている石炭の滓や剣の失敗作がそれの努力を物語っている。
因みに俺の武器の戦斧以外は全てが天然産*1で、戦斧自体は実家から持ってきた武器で鍛冶屋や武器店から買ったものは何一つとしてない。
「俺の適性の武器って物が何も理解してないからな。買おうにしてもそれ以前の話なんだよな……」
どこぞの主人公のように一つ武器を渡せば何でも使える天才とは違い俺らのようなモブはそう簡単にはいかない。。
どんなに最強の剣豪も剣から槍に変えられてしまえば初心者の動きに逆戻りだ。更にそこに適性が無ければどれだけ頑張ってもゴロツキ程度になってしまう。
この適性について最初は遺憾の意を示したがどうやらこの適性と呼ばれる物は完全な常識であり、当時は異常なまでにカルチャーショックを受けた。適性とは基本的には聖国からの使いである聖女様からお告げを受けて発覚するらしい。
がしかし俺は自分自身の適性という物を何もしらないで生きてきた。貴族生まれではあるのだが生憎の三男坊であり一々両親が付いてきたり促すことは無かったため、この世に生を受けてからこの方一度も適性を調べて事は無い。因みに学園に入学する際にはその頃に愛用していた戦斧である片手斧を適性欄に書いて入学した。
「聖女様からのお告げって今思うと結構胡散臭いな、せめて祝福と言えば……いやそれも普通に怪しさ満点だな」
そんなこんなして結構深く思考の海に浸かっているといつの間にかギルド場の前へと到達していた。
ギルドから結構近くの場所であったためか想像よりも早かったが、現在時刻はまさかの集合の二時間前でどんなブラック企業でもこんな早めの出勤は見たことがない。
がしかしこれ以上に時間を潰す方法など何もないため俺は扉を開けてギルド内部へと足を進めることにした。
「適当に待つことにするか。偶にはこんな時間があってもいいだろ」
誰に言うでもなく放った一言はそのまま何もない空間へと消えていった。
ギルド内部は早めの時間だからか閑散としており、酔いつぶれたのだろう冒険者やこんな時間にもクエストを受注しているあからさまに新米冒険者な人物達が際立って映っていた。
そんな状況を眺めながらそそくさとバーへと移動していき適当な飲み物を注文した俺は一人で席に着く。手持ちが何もなくなった状態で俺は暇をつぶすために現在も何故か受付で揉めているパーティに視線を向けた。
「大方身の丈に合わない依頼を受けるかどうかで揉めてるんだろ。命あっての金や地位だからな適性のクエストを受けた方がいいと思うぞ……」
当然聞こえては無いだろうが俺は小声で忠告を言った。身の丈に合わないクエストを受けた結果全滅するパーティは何度も見たことがあるため、どうかあのパーティはそこを見極めてほしいと思っている。
あのパーティメンバーは現在の揉めている元凶の内の一人の眼鏡を掛けた僧侶風な真面目系な男の子に、相対している黒い髪をした剣士風の女の子に、その後ろには黄色髪をした明らかにチャラそうな大盾を背負った男の子に横には気の弱そうな見るからな聖女がいた。
傍目からでも分かるレベルに喧嘩はヒートアップしており状況は剣士ちゃんが押しているようだが……眼鏡君もそれに対抗するように比例して勢いを増していた。それこそ眼鏡君は今でも声を荒げてしまいそうな程にまで眉間に青筋を立てていた。
こちらご注文のジンフィズ*2で御座います
ああ、ありがとうございます。
俺は現在届いたジンフィズをストローを使い仮面の隙間から吸いながら先程のパーティーから目を背け時間を潰すことにした。
一度、バーを見渡してみると本当に誰もいない場所だということを再度確認すると、魔力倉庫から適当に魔術書を取り出し眺めることにした。魔導書については隅々まで確認したため碌な情報がないことは理解しているが、魔術書は王都図書館の半分程までしか確認していない。
「……ん。にしても詠唱とかって物を覚えるのは面倒だな。魔法ってのは本当に便利だったんだな」
魔術の詠唱と言うのは本当に長ったらしく、それのせいで取り出した魔術書一冊だけでも異常なほどの分厚さがそれを物語っている。
炎魔術が初級程度で二~三文でありそれぞれが前世で言えば古文みたいな小難しい言い回しを含んでいる。俺はそんな愚痴を溢しながら眺め続けた。
現在時刻は八時、あの後も何かしらのカクテルや単純にジュースを飲み続けながら時間を潰し続けた。
先程まで熱気を産んでいたパーティは眼鏡君が折れたのか、渋々と言った感じで彼女達の後ろをとぼとぼと歩いて行った。
「まあ想像通りだと思ったが前世でもよく見た展開だよな。あの後仲間が窮地に!……ってそんな縁起の無いことを考えなくても良いか」
もう少しでアインが来る時間だと思い、俺はふと辺りを見渡した。
いつもの俺が居る時間帯とは違い人の出入りが激しい時間帯のため、一度も見たことのないような顔が多くいた。
しかし肝心のアインがいないことを確認すると俺は再度席に座り、仮面をずらすとともにストローを吸い始める。
「あ、いたいた!また一人で居るのかい仮面君?」
再度休息を得ようとしたところ突如として先程まで誰も居なかったはずの場所から喧しい声が響き渡る。
「俺が何をしていたっていいだろ?こっちはずっと待ってて暇だったんだ」
「それは別に知らないけど……まあ良いよ僕も座らせてもらうからねー」
彼はそう言うと俺の目の前に座り永遠に笑顔を絶やさずにこちらの顔を見続けていた。
絶妙に嘗め回すように見ているのは気づいているからな?
お気に入りと感想お願いします