エンディング後の世界で只々毎日を生きているモブ転生者君の日常 作:曇らせは志向の味
「そこから動かないで
若々しい女性の声が俺の背後にある砂埃から辺り一帯に響き渡る。
俺の背後からは俺が今まで二つの人生の中で感じたことの無い程の緊張感が鋭く背中に刺さっている。目の前には魔法使いと思わしき人物がおり、先程背後に居る女性に対して「勇者」と発言していたため仲間である。俺は仮面の下にて舌打ちをする。
「おい!話を聞くだけだろう!?勇者、何をしているんだ!?」
目の前に居る女性は背後に居るであろう勇者に向かって大声を上げた、どうやらまともな意思疎通を取れていないようで魔法陣を顕現していた。
「……アンタが勇者様か?」
俺は未だに背を向けたまま勇者に向かって確認を取る、正直言って魔王を討伐したとされる勇者がどういった勘違いをしているのかは分からないがこのまま勘違いされると俺が消し飛ばされかねないので俺は声を掛ける。
「……正解、私が勇者逆に貴方は何なの?
帰ってきた答えは簡易な物で先程よりも心なしか殺気が鋭くなったように感じる。この程度の言葉で殺気が増すんだったら会話が儘ならないんじゃないか?
しかしこのまま俺が黙っていても死ぬのが早まるだけであり、俺はまともな返答を考え始める。
「俺は……ただの冒険者だ。それこそ勇者様に敵意を向けられるようなこともしていなかった筈なんだが…?」
これは本当のことであり俺は勇者にこんなに殺気を向けられるような事態を起こした記憶は無いんだが……*1
「貴方、仲間は?」
「ソロの冒険者だ……そろそろ落ち着いてくれないか?」
俺は相手の不意を突くように虚空跳躍の首飾りを使用しようとしたが如何やらクールダウン中なようで、俺のローブの中で淡く光るだけで終わってしまった。
「おい勇者!聞いているのか!?そんな脅迫のようなことは辞めろ!」
俺がどうしたものかと思考をしていると前方に居た魔法使いが背後に移動したらしく勇者に説得を仕掛けていた。いいぞー!頑張れー!*2
「……ごめんフィアナ」
どうやら魔法使いの声をちゃんと聴けたのか先程までの殺気や魔力の歪みは霧散し、俺はようやく肩の力を抜くことが出来た。俺はようやく顔を背後に向け一方的に魔法使いに今もなお説教を受け子犬のようになってる勇者を視界に入れた。
「君は本当に何時も勝手に突っ走っていくね!?それでどれ程私たちが苦労してるか理解しているかい!?」
「はい……すみません……」
「ちゃんと反省しているのかい!?君は反省したように見せるのだけは得意だからね!」
「反省しています……」
先程までシリアスな雰囲気が漂っていた訓練場は瓦解し先程よりかは砕けた空気が漂っていた。この惨状を作り出した元凶は瓦礫の中で正座をしたまま哀愁漂う空気を纏っていた。魔法使いはそんな彼女を瓦礫の上から見下ろしながらグチグチと普段から鬱憤が溜まっているのか言葉の刃が留まることを知らなかった、しかしその表情には言葉とは相反し本心から言っていないことは理解できた。
「あ、ようやく終わったの?」
俺は背後からの声を聴き振り返る、そこには先程まで俺をここに留めていた元凶である副ギルド長が居た。名前は聞いたはずだが役職の方が言い易いため俺はこの呼び方にしている、かくいう彼女は勇者達が来るのを知っていたようで平然とした表情で登場した。
「お前……俺を裏切ったな?」
「あら私が長い間仕事漬けになったのは誰のせいだったかしら?」
「……」
いったい誰の所為だったんだ*3
取り敢えず副ギルド長は置いといて、俺は今もなお
「……イチャつくなら他所でやってくれないか?」
「「イチャついてないわ!」」
「無理があるわよ……」
魔法使いは今の出来事で怒りが鎮まったのか、勇者の脇を抱え立ち上がらせた。勇者は背を縮こまらせ聖剣と呼ばれる魔物殺しの剣を両腕で抱えていた。
魔法使いは一度咳を払い申し訳なさそうな表情をし俺に頭を下げた。
「すまなかった…こんな状況では話し合いなど不可能だ……また後日謝罪と共に話し合おう」
謝罪をするとこちらの返答を待つ間も無く勇者の腕を引き路地裏から出て行った。
「……今日は随分と濃い1日だったな」
「まあでも何もないよりかは良くないかしら?」
「これの元凶が何言ってんだ」
俺がそう言うと彼女は口笛を吹くとともにギルド内へと帰っていく。俺もクエスト達成を報告するために用事があるのでその背中について行った。
冷たい風が俺の頬を伝い、何処までも遠く広がる宇宙に漂う星々がこちらを凝視していた。
俺は行きつけである黒曜の杯亭と呼ばれるバーに来ていた。バーの隅っこには水晶によって立体的に映し出された夜空が在った。
俺は前世を含めてもグラスなどの作法なんてまともに学んでいなかった為、傍から見たら滑稽な者に見えるかもしれない。
「…雰囲気で飲んでるが高い物より安い物の方が美味しいってバグだろ」
「出禁にするわよアンタ」
だって実際そうだもん
俺の失礼過ぎる発言に何時も通りの反応をしてくれた女性はカティアと言い、俺が魔法学園に所属していた頃に偶々機会があってコテンパンにした人物である。あの頃はほぼ毎日生意気にも挑んできたがそんな奴が今はこんな静かなバーを経営してると来た。
「お前……本当に丸くなったな…?」
「またその話?私ももう大人よ、
カティアは持っていたワインボトルを置き苦笑をしながら机に手を置いた。
「学園内のトップ3に入っていた戦闘狂が何か言ってるよ……」
「学年関係なく容赦無しで捻じ伏せてたのは誰だったかしら?」
「……負ける方が悪い」
実際問題で俺が連勝を重ねると自分が生意気な一年が居ると感じたのか三年がよく突っかかってくることがある。俺は平等主義者だからな全員もれなく叩き潰した。
俺が心の中で言い訳をしているとカティアが俺の仮面に向かって手を伸ばしてくる、俺はその手を首を傾げて避けた。
「……どうした?」
俺は警戒心を少し上げたが彼女の悪戯を企んでいる時の顔をしていた。
「アンタってその仮面ずっと着けてるわよね。面倒じゃないの?」
なんだそんなことか……これは俺が魔法学園に入学するより前に入手している為、俺の素顔を知っている人物はほぼ居ないと言って良いだろう。
「もう随分と昔から着けてるからな、あんまり不便には感じないよ」
「一回は見せてくれても良いじゃない」
「やーだね俺のアイデンティティーなんだよ。それにお前に見せたらお前の仲間にどんなこと言いふらされるか分からんからな」
カティアは一応冒険者であり碧玉将級と言う高位のランクに位置している。*4それに加えて社交的な一面を持っているため伝手は多いのだ、こいつに顔を見せたら何て言われるか分からないからな。
「全く…そんなことしないのに……それにアンタノスベルクに知り合い居ないでしょ?」
「う゛」
「確か王都の方に知り合いは居るって聞いたけど……どうせ会いに行く時間も無いでしょ?」
「う゛ぅ゛!」
カティアは俺に対してグサグサと心にナイフを刺してきてしまった。俺は逃げるように残っているワインを飲み声を遮断する。
「あ、逃げた」
「…うるさいな」
俺の口にブドウの味が広がり鼻には鋭いワインの匂いが侵入し、それから少し経つと後味としてほんのりとした苦みが口の内に広がった。
俺は一度に全て飲み干すと再度カティアに向き直る。
「ふぅ……やっぱり此処で飲むワインは何時もと違うな」
「なら良かったわ静かな場所で飲むのはスパイスになるのよ」
カティアは俺に対してどや顔をしながら自信満々に語りだした、こうなると長いので俺はカウンターに代金を置きそそくさと退出しようとする。
「ちょちょ!?まだ話は終わってないわよ!?」
彼女はこちらに向かって走ってこようと……おい待て!カウンターを飛び越えてこようとするな!!
「また今度聞くから!」
「ちょ!待ちなさい!
あのバーでの小さい騒動から翌日、俺はギルド場にてあんなにもバチバチとしていた勇者から謝罪を貰った後個室にて話し合っていた。
「……それで?月乃何であんなことしたのか聞いても良いか?」
デジャブを感じる光景に俺は苦笑を溢すと、勇者はゆっくりと口を開いた。
「ちょっと……話し合いをしようと思ったら……体が勝手に動いちゃって……」
「「「「……」」」」
俺は口を仮面の下にてあんぐりと開けたまま絶句した。当然である通常はあんなにも命を失う可能性が有ったのだ、それの理由が反射的な行動が原因だと?
流石に今すぐにここで戦闘をおっぱじめるつもりは無いが、俺は腑抜けた気を切り替えて問いただす。
「体が勝手に動いちゃって……ねぇ?」
「ッ!」
俺が声を上げると勇者……月乃と呼ばれる女性は体を跳ね上げ先程より一層緊張の面持ちを高め、背筋を伸ばした。
「……正直、冒険者を始めてから人間関係で荒事は起こしたことは何度かある。流石にさっきみたいに命の危機に瀕したことは無かったが……」
俺の発言に勇者と魔法使いは一つ一つにあからさまな反応を示している。
「別に結果論になるが……死んでないからな!俺が今言えることはないさ」
「っえ゛?」
俺の言葉に勇者は予想だにしていなかったのか死にかけの蚊のような声を上げた。視線を上げ顔を見ると勇者の目じりには涙が浮かんでおり魔法使いは驚愕の表情で固まっていた。
「ほ、本当に良いのか?私達はお前を殺そうとしていたんだぞ…?」
「ああ、正直言ってああやってい命を失いかけることは何度かあったんだ、あれくらいどうってことないって言ったら噓になるが……」
勇者達はどちらも信じられないという顔をしており、正直言って俺も何故こんな選択したのかは分からないが本能がそうだと告げているゥ!*5
「ま!これで謝罪は終了だ!辛気臭いのは苦手だからな」
「えぇ……」
これが俺の勇者達との初めての会合であった。
勇者side
私は今強烈な消失感に襲われていた。
その原因は先日私が行ってしまった行動が原因であった。その被害者である彼は私達が謝罪しに行った際にあっさりとした対応であった。
「……ごめんフィアナ」
「もう過ぎたことだ月乃……それに今更どうにも出来ないだろう?」
私は横に居る相棒であるフィアナに意味もない謝罪をした。帰ってきた答えは前世でも聞いたことがあるような言葉であった。
私達が謝罪した彼は『謝罪は終了だ』と言った瞬間に突如として姿を眩ませた。その後に入ってきた副ギルド長に聞くと、彼は誰かから謝罪を受け取る際はこのように突如として消えることが多いようだ。その際副ギルド長はこめかみに青筋を浮かべていたが見ないことにした。
そして私は消失感の中に未だに残っている疑問をフィアナに投げかけた。
「ところでフィアナ……彼が消えた瞬間に何か魔法の予兆みたいなのは有った?」
私が現在最も疑問に思っていることはこれであり、この世界には魔法の種類がある。主な魔法として火、水、電気、風、自然、氷、がありこれ以外として私のチームメンバーの聖女であるソフィアが聖の魔法を保持している。聖の魔法は回復を主軸とした魔法であり、身体強化はサブであることが多い。これ以外で言えば闇の魔法がありこれは対霊魔法である、今現在確認が出来ているのが魔物狩りの時代にアンデット達の大半を絶滅させた人物が該当するのだとか。これ以外には居るには居るのだが数は少ないと言う。
私が考えに耽っているとフィアナから回答が返ってくる。
「いいやそれらしき反応は無かったな」
「そっか……」
私の中に候補としてあったのは空間魔法であり、これは特異魔法に該当し特異魔法は本来の魔法学に囚われない物で空間魔法は文字通り空間を操り好きに操作ができるというチート魔法で存在した事例が確認されている。
しかしそれ以外で言えばアーティファクト以外が無いがアーティファクトはこれもまた発動の際に特殊な波長が確認されるのである。
「……それにしても不思議な人だったね」
「月乃……」
「あっ!違う違う馬鹿にしてる訳じゃなくてね!?」
実際不思議な人物である。自分でいう物ではないが私と会った人物は少なからず怯えを感じる、しかし彼はそんな物を一切感じなかったまるでこの状況でも自分は死なないと確信しているようであった。
「
「それはそうだな」
全ての光を吸い込むかのような暗闇に包まれたローブに人を判断する材料の一つである顔は機械仕掛けの仮面が装着されていた。仮面はこの世界には合わない物であったが大方アーティファクトであろう。
「これからもっと考えて進んでくれると嬉しいのだが……」
「出来たらね!」
フィアナがそう文句を溢すと私は彼女の豊満な体にダイブした。
「それしない奴じゃないか……」
虚構跳躍の首飾り
嘗ての魔物狩りの時代に産み落とされたアーティファクトの一つ、死を司る神は自らを誇示するための魔法を残そうとする術を考えたのだという。空間を理解し世界へと広げた神は皮肉にも自らの魔法に殺された、これは神からの怨念でもあるのだろうか。
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