ギルガメッシュVS宿儺   作:stein0630

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宝具の群れが、一斉にその切っ先を傾けた。

 

空が落ちた。

 

剣、槍、斧、短剣、名を知らぬ異形の刃。一本一本がそれぞれ別の殺意を持ちながら、ただ一つの意志に従って宿儺へ殺到する。密度で言えば雨など生ぬるい。鋼鉄の暴風そのものだった。

 

宿儺は笑ったまま、鎖の巻きついた右腕ごと前へ踏み込んだ。

 

「逃げぬか」

 

「逃がす気もなかろう」

 

ギルガメッシュが鼻で嗤う。

 

宿儺の足元から石畳が砕けた。初撃の槍を躱しざま、左の二腕が別々に動く。片方で飛来した剣を弾き、もう片方で指を払う。

 

何もない空間に、斜めの裂け目が走った。

 

三本の宝具がまとめて断たれ、その後方の倉庫壁にまで筋が刻まれる。だが、全部は止まらない。切れたものもあれば、刃が触れた瞬間に嫌な重みを返してくるものもある。

 

宿儺の脇腹に、一本の短槍が浅く刺さった。

 

「ほう」

 

感心したように言って、宿儺はそのまま槍をへし折る。血が噴くより先に肉が蠢き、裂傷は閉じた。

 

ギルガメッシュの赤い瞳が、そこで初めて明確に細まった。

 

「再生か。ますます虫けらじみている」

 

「貴様の玩具が鈍いだけだ」

 

「強がるなよ、雑種」

 

返答と同時に、宿儺の右腕に巻きついた黄金の鎖がさらに締まった。単なる拘束ではない。引かれるたび、肉体ではなく、もっと奥――霊的な核そのものに楔を打ち込まれるような不快な重さが走る。

 

宿儺は鎖を見た。

 

「ただの鉄ではないな」

 

「ようやく気づいたか。鈍い」

 

ギルガメッシュは梁から一歩も動かない。

 

「その首輪は、神気を帯びた者ほどよく締まる。もっとも、貴様のような呪物崩れにも十分すぎるがな」

 

宿儺は鎖を一度、軽く引いた。

 

音が鳴る。

 

それだけで済んだ。千切れない。硬い、というより、理屈そのものが別だ。断てる物体の感触ではない。

 

「面白い」

 

その言葉の直後、宿儺は逆に鎖を思い切り引いた。

 

ギルガメッシュの足元の梁が砕ける。王の身体がわずかに前へ泳いだ、その一瞬だけを狙って、宿儺は身体を低く沈めたまま滑るように距離を詰める。

 

宝具の雨は、近距離ではむしろ撃ちづらい。

 

そう判断した動きだった。

 

ギルガメッシュの口元が、僅かに上がる。

 

「獣め。だが考えぬわけではないか」

 

黄金の門が、今度は宿儺の進路そのものに開いた。

 

真正面、至近距離。

 

現れたのは刃ではなく、分厚い盾じみた板状の宝具だった。宿儺は減速せず、そのまま蹴り砕く。轟音。破片が舞う。その死角から短剣が喉を狙い、別方向から鎚が膝を砕きに来る。

 

宿儺は上体だけを傾けて短剣を避け、膝を狙った鎚を脛で受けた。

 

骨が軋む。

 

だが折れない。

 

「近い方が好きか、金ピカ」

 

「貴様ほどではない」

 

ギルガメッシュの左右に、新たな門が四つ咲く。そこから飛び出した鎖が、今度は宿儺の左肩、腹、足首へと絡みついた。

 

宿儺の動きが、初めて明確に鈍る。

 

その隙に放たれた一本の剣が、今度は深く、肩口から胸へ斜めに食い込んだ。

 

血が飛ぶ。

 

しかし宿儺は、そこでようやく獰猛に歯を見せた。

 

「そうだ。それでいい」

 

刺さった剣を、自分からさらに押し込む。

 

ギルガメッシュの目が僅かに動く。わずかな違和感。普通の相手なら後退する。だがこいつは逆だ。痛みを情報に変え、間合いを奪いに来る。

 

その一拍の揺らぎを、宿儺は逃さなかった。

 

顔を上げる。四つの眼のうち、二つがまっすぐギルガメッシュを捉える。

 

指が鳴る。

 

ギルガメッシュの目前、空間が裂けた。

 

今度の斬撃は、武器ではなく、梁そのものを断ち割っていた。視界の障害物として残していた上部構造がまとめて落ちる。落下の陰に紛れ、宿儺が鎖を引きずったまま跳ぶ。

 

「――図に乗るな」

 

ギルガメッシュの声が、わずかに低くなった。

 

落ちてきた鉄骨が、到達する前にいくつもの宝具で粉砕される。だがその破片の中から、宿儺の拳が出た。

 

単純な殴打。

 

だが重い。空気が鳴る。

 

ギルガメッシュは身を捻って避け、黄金の籠手で受け流した。衝撃で鎧の表面に火花が散る。直後、宿儺のもう一つの腕が下から顎を狙い、さらに別の腕が腹へ肘を打ち込む。

 

「下郎が、触れるな」

 

「触れられているのは貴様だ」

 

二撃目はギルガメッシュが後方へ退いて外した。三撃目は、門から引き抜いた細身の剣で受けた。

 

金属と肉の衝突音が、異様な高さで鳴る。

 

宿儺はそこで理解する。

 

こいつは剣士ではない。だが近づかれても無力ではない。武器の選択そのものが技量の代わりをしている。最適な一本を、その場で抜いてくる。癖の違う無数の手札で、欠点を埋めている。

 

ギルガメッシュもまた、宿儺を見ていた。

 

ただの猛獣ではない。鎖で抑えられた状態でなお、雨の密度と武器の性質を読んで、斬るべきものと受けるべきものを瞬時に分けている。再生があるから突っ込んでいるのではない。受ける価値のある被弾だけを選んで、距離を奪っている。

 

気に入らない。

 

気に入らないが、つまらなくはない。

 

「貴様、誰の許しで我を測っている?」

 

「王だろう?」

 

宿儺が嗤う。

 

「なら、測られるくらいで吠えるな」

 

その瞬間、ギルガメッシュの背後に開いた門の数が倍に増えた。

 

宿儺の視線が一つ、そこへ流れる。

 

数だけではない。色が違う。先ほどまで雑に投げていた武器群より、明らかに質が重い。空気の軋み方が変わっている。一本ごとに、開かれた時点で場を圧する。

 

「ようやく本気か?」

 

「戯れ言を」

 

ギルガメッシュは冷え切った声で言った。

 

「まだ塵を掃く手間が増えただけだ」

 

放たれたのは三本。

 

一本は黒い槍。一本は、刃ではなく先端に鈎のついた歪な投擲具。一本は、宿儺ですら見た瞬間に「受けるな」と判断した、言いようのない嫌悪を滲ませる短剣。

 

宿儺は右へ跳ぶ。

 

黒い槍が地面を抉り、直後、遅れて炸裂するように石畳を爆ぜさせた。鈎のついた投擲具が軌道を曲げる。追尾。宿儺は舌打ちし、斬撃で叩き落とす。三つに割れた破片がなお別方向へ飛び、背後のコンテナを穿った。

 

最後の短剣は、消えたように見えた。

 

違う。速すぎたのではない。存在感が薄い。見落とさせる類の厄介さだ。

 

宿儺は首をわずかに傾ける。頬に熱が走る。遅れて血が流れた。

 

ギルガメッシュが笑う。

 

「今のは惜しかったな」

 

宿儺は血を指で拭い、その赤を見たまま言う。

 

「なるほど。全部が同じではない。雑にばら撒いているようで、混ぜているわけだ」

 

「当然だ。宝物庫を、田舎者の武器棚と一緒にするな」

 

「なら――」

 

宿儺が、ふっと視線を横へ流した。

 

冬木の市街。

 

灯りの並ぶ向こう側。

 

ほんの一瞬だけ、そこへ。

 

ギルガメッシュの目が、その動きを見逃さない。

 

見た、という事実だけで十分だった。

 

次の瞬間、宿儺は口元を深く吊り上げた。

 

「そこを壊されたくないらしいな」

 

金の雨が、明確に止まった。

 

止まったのは一瞬。だが、その一瞬は致命的に重い沈黙だった。

 

ギルガメッシュの顔から、愉快さが完全に抜け落ちる。

 

「……雑種」

 

「王様ごっこにも、愛着はあるか」

 

「勘違いするな。貴様のような腐臭が、我の視界の中で好き勝手に息をすることが不愉快なだけだ」

 

「同じことだ」

 

宿儺は鎖を引きちぎろうとはしなかった。

 

代わりに、その拘束を受け入れたまま、一歩ずつ市街地の方角へ歩き出す。

 

ゆっくりと。

 

わざとらしく。

 

「来いよ。守りたいのだろう?」

 

空気が変わった。

 

ギルガメッシュの周囲に、これまでとは比較にならぬ数の門が展開する。倉庫街の上空を、黄金が埋める。まるで夜にもう一つの天蓋が被さったようだった。

 

だが宿儺が見たのは、数ではない。

 

門の配置だ。

 

自分を囲むのではなく、自分と市街の間に、厚く置かれている。

 

遮断。迎撃。防壁。

 

「見え透いた挑発に乗ると思うか、痴れ者が」

 

ギルガメッシュはそう言った。

 

言いながら、その布陣自体が答えになっていた。

 

宿儺は笑いを堪えきれず、喉を鳴らした。

 

「いい。実にいい」

 

「何が可笑しい」

 

「弱みを見せた」

 

その言葉と同時に、宿儺の足元の影が、じわりと広がる。

 

ただの影ではない。黒い泥のように濃く、床の罅に沿って染み出し、周囲の瓦礫や血溜まりまで静かに呑み込んでいく。

 

ギルガメッシュの視線が、初めてその足元へ落ちた。

 

「……何だ、それは」

 

宿儺は答えない。

 

四本の腕のうち二本が、ゆっくりと印を結ぶように上がる。

 

その所作は大仰ではない。だが見た者に、本能的な警鐘を鳴らさせるだけの、嫌な完成度があった。

 

ギルガメッシュの背後、黄金の門のさらに奥。

 

そこに、他のどの宝具とも違う、異質な“鍵”めいた気配がわずかに開く。

 

王もまた、ここで手加減を終えると決めたのだ。

 

潮風が止む。

 

街の灯りが、遠く小さく瞬く。

 

そして、どちらからともなく、笑った。

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