紅色の裂び   作:カワード

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この作品は『逃れぬ劫火〜シュレイドの黒龍伝説〜』の過去編の話です。
本編に繋がる話でこれを読むと、よりキャラクター達の事が理解できると思います。

この話だけでも成り立っているので、本作品だけでも楽しめる話となっております!

全5話構成です。


1話「狩人」

 シュレイド王国とヴェルド王国が戦争を始める約14年前。

 

 シュレイド王国の外れ、真夜中のその森林の入口で、赤い長髪の少女は傷だらけになりながら、肉食の小型鳥竜種、ランポスと取っ組みあっていた。

 倒れたランポスに馬乗りで跨り、荒れた呼吸と鬼のような形相でその首を絞めている。

 

 体の小さい子どもが、何の武器も持たずに小型モンスターと戦っている光景は、誰が見ても異常に思うだろう。

 本来なら、ランポスに一瞬で殺される。

 

 だが首を絞められたランポスは必死に抵抗していた。

 そして、がむしゃらに振り回すランポスの爪が、少女の口元に引っかかり、その頬を切り裂いた。

 

 その痛みで少女は、怯み、裂かれた頬を押さえる。

 ランポスは、この隙を逃さなかった。

 少女を蹴飛ばし、立ち上がって、反撃する。

 今度はランポスの牙が少女の首を狙う。

 だが、その牙は、少女の目の前で停止した。

 

 滴る鮮血が、少女の額にピシャリと跳ねた。

 見ると、ランポスの頭には、ナイフが刺さっていた。

 このナイフが、ランポスの生命活動を停止させたのだ。

 

「こりゃ一体どうなってやがる?」

 

 少女が知らない男の声が聞こえた。

 その男は、いつの間に現れたのか、倒れたランポスの隣に立っていた。

 背が高く、細身だが、どことなく高貴な気配を漂わせるロングコートに身を包み、若々しくも数多の苦難を乗り越えてきたような、彫りの深い顔立ちをしている。

 

 男はシュレイド王国非公認の狩人だった。

 

 狩人はランポスの頭から刺さったナイフを抜くと、少女に問う。

 

「これ、お前⋯⋯一人でやったのか?」

 

 少女はその質問に対し、何も答えず、ただ呆然としていた。 

 

 狩人の言う、これ、とは、少女の周りの状況のことだった。

 そこには、頭をナイフで刺されて死んだランポスの死体だけではなく、おびただしい数のランポスの死体が無造作に転がっていた。

 この数は群れの全体を占めていてもおかしくはなかった。

 どの死体にも、つけられたばかりの生々しい傷跡があり、それらがランポス達の明確な死因を表していた。 

 

 そして、その死屍累々の中に混ざって、小さな男の子が倒れていた。

 彼もランポスの死体と同様、体はピクリとも動かない。

 

「アテル!?」

 

 少女はその男の子を見つけた途端、その子の名前を叫びながら駆け寄る。

 狩人の質問どころか、その存在すら気にしていなかった。

 少女はアテルと呼んだ男の子を抱え起こし、意識を呼び戻そうと涙声で何度も声をかける。

 

「アテル!アテル!しっかりしろ!頼む目を開けてくれ!」

 

 少女がどれだけ揺さぶっても、アテルに意識は戻らなかった。

 

「アテル⋯⋯」

 

「⋯⋯もう手遅れだ」

 

 狩人の無慈悲な言葉が、少女に現実を突きつける。

 アテルの首元には、ランポスの爪で引っ掻かれた、深い切り傷があり。

 既にそこから多くの鮮血が流れ出ていた。

 

 狩人は、それを見て、この状況をなんとなく理解した。

 

 少女は、アテルを守るために、たった一人でランポスの群れと戦い、勝利した。

 だが、アテルを守りきる事はできなかった。

 

 それにしても、彼女がランポスの群れを一人で壊滅させた事実だけは、未だに信じられなかった。

 

 この付近には誰もいない。

 

 つまり、誰も助けには来ていない。

 

 元より、ここはモンスターが出現したとしても、国の討伐隊が来る事はない、辺鄙な場所だ。

 

 少女は涙を流しながら、悔やんだ。

 

「アタシのせいだ⋯⋯アタシを庇って――」

 

 少女は裂けた頬の傷を痛々しく押さえる。

 

「そいつは、お前の家族か?」

 

 そんな少女に構わず言葉をかける狩人。

 

「⋯⋯弟」

 

「そうか。そいつぁは残念だったな」

 

「アタシのせいでアテルが⋯⋯くそっ!」

 

「お前のせいじゃない」

 

「⋯⋯え?」

 

「こんな国の近くにまで出没したモンスターを放っておいた、この国が悪いのさ」

 

「アタシがもっと強ければ!」

 

「お前は強い。だから生き残った。だが、弟を守れなかったのは、お前が守り方を知らなかったからだ」

 

「守り方?」

 

「そうだ。だがもう、守るものを失っちまった以上、それを知る必要はねぇ。お前はもっと戦う楽しさを知るべきだ」

 

「何を言ってるの?」

 

「お前はたった一人で、何の武器も持たずに、ランポスの群れを、全滅させる事ができた。こんな事は他の誰にもできやしない」

 

「そんな事、どうだっていい」

 

「いいや、お前はモンスターと戦うべきだ。その頬の傷が痛むだろ?奴らに付けられた傷だ」

 

「⋯⋯」

 

 少女は切られた頬をその手で強く押え、血を滲ませた。

 

「弟を殺したモンスターどもが、憎いだろ?」

 

「さっきから、何だよ!?アタシは、今、アテルが目の前で殺されて、心がぐちゃぐちゃなのに!殺せとか、楽しめとか、訳の分からない事ばっか言ってんじゃねぇよ!クソ野郎!」

 

 狩人は少女の目を見た。

 憎悪が目じりを吊り上げ、細くなった瞳孔はまるで獣のようだ。

 その敵意に満ちた目が狩人の心に刺さり、思わずニヤける。

 

「いいね、その目。その心、力だけじゃねぇ、ますます気に入った」

 

「黙れ!」

 

 少女は、そう言ってアテルの亡骸を抱えた。

 

「帰ろう。アテル」

 

「帰る?何言ってやがる、お前の戦いはまだ終わってねぇよ」

 

「え?」

 

「こんだけ多くのランポスを殺したんだ。もうじき、ボスが来る」

 

「ボス!?」

 

「そうさ、ドスランポス、こいつらの長だ」

 

 狩人がそう告げると、近くの茂みから、通常のランポスよりも低い鳴き声が聞こえてきた。

 

 茂みから悠々と姿を現したそれは、通常のランポスの倍近い体格をしており、体の至る所に古傷があった。

 殺された自分の仲間の死体に近づき、全滅した事を理解し、それを悲しんでいるように項垂れた。

 そして、震えながら頭をあげると振り返り、それを成したであろう、少女と狩人に向かって咆哮しながら、突撃してきた。

 

「いい機会だ、お前に狩りの楽しさを教えてやる」

 

 狩人は、少女の前に立ち、ナイフを構える。

 

「俺が、お前が負った傷と同じ傷を、奴にくれてやる!」

 

 ドスランポスは大きな口を開け、狩人に飛び掛かる。

 

 狩人はそれに怯むことなく、ナイフを横に振り切る。

 

 瞬間、交差し、互いに背中合わせで立っていた。

 

 だが、倒れたのはドスランポスの方だった。

 

 ナイフに着いた血を振り払い、倒れたドスランポスを見る。

 ドスランポスは少女と同じように、頬が裂け、下顎が分離していた。

 

 しばらくピクピクと動いていたが、次第に、全く動かなくなった。

 

 それを見た少女は、狩人の強さを思い知る。

 そして、その華麗なる一撃に憧れを感じた。

 

「⋯⋯凄い」

 

「だろ?」

 

「これで、全滅した?」

 

「多分な」

 

「それじゃ⋯⋯」

 

 ことが終わったと思った少女は、その場から立ち去ろうとした。

 だが、それに納得がいかない狩人は、なんとか、少女を説得しようとした。

 

「いやいやいや、待てって!分かった、憎しみとか、戦いの喜びとかは、とりあえずいいから、ちょっと俺の話を聞けって!」

 

「何?」

 

「どうせ行く宛ても無いんだろ?とりあえず、俺のところに来い。な?」

 

「アテルを弔ったら、いいよ。クソ野郎って言ったけど、アンタには助けて貰ったし。話くらいは⋯⋯聞く」

 

「よし!決まりだな。お前、名前は?」

 

「⋯⋯リヴェ」

 

「そうか、俺はゴーズ。それじゃ、弟を弔いに行こうぜ」

 

こうして、少女のリヴェと、狩人のゴーズは、出会った。

 

※※※

 

 シュレイド王国の国境沿いにある小さな村、そこにリヴェは住んでいる。

 

 リヴェは村に着くと自分の家に戻り、アテルの墓を作って、丁寧に埋葬した。

 

 木片に名前を彫って立てただけの簡素な作りの墓だが、アテルの好きだった本を、一緒に添えた。

 

 ゴーズは、自分を雇っている主を呼びに、自身の拠点に帰ろうとした。

 

「リヴェ、これから、俺はお前の事を主に報告してくる。その間に、さっきの事を王国軍の兵士どもに言いつけるなよ。面倒な事になるからな」

 

「⋯⋯」

 

 ゴーズが、墓の前から立ち去ろうとすると、そこに第三の人物が現れた。

 

「随分と長い狩りだったな」

 

「主!」

 

 ゴーズに主と呼ばれた、その人物は、青紫の高貴な服装で、ジャラジャラとした貴金属のネックレスや指輪をはめており、それが自身の位を現していた。

 年齢は若いが、大貴族の息子、ミゲスである。

 

 彼はゴーズの雇い主であった。

 

 ゴーズの帰りが、いつもより遅いため、自らの足で近くまで出向いていたのだ。

 

「仕事は終わったのか?お前の役目は墓を作ることじゃない、墓に入れる死体を作ることだろ?」

 

「まぁ、色々あってな。仕事はもう完了してんだ。聞いて驚くなよ。今回の仕事はこのガキが一人で終わらせたんだ!」

 

「は?なんの冗談だ?」

 

「冗談だったら、俺はとっくにあんたの元へ帰ってる」

 

「ほぉ、詳しく話せ」

 

 ゴーズはことの経緯を、ミゲスに説明した。

 

 リヴェはそれを黙って聞いていたが、今でも自分がモンスターの群れを殲滅させた事は信じがたかった。

 

「ゴーズ、それでお前は、このガキをどうするつもりだ」

 

「あぁ、俺の部下にする」

 

 ゴーズの突拍子もない発言に、リヴェは驚愕し、声を荒らげる。

 

「はぁ!?何を勝手に!?」

 

「いいだろう?お前も行くあては無いんだ」

 

「アタシは何も良くない!」

 

 言い争う、二人を見てミゲスは、呆れたようにため息をついた。

 

「話が飛躍しすぎだ。まぁ、部下だろうが弟子だろうが、好きにすればいいが、面倒は自分で見ろよ」

 

「いよっしゃー!良かったなリヴェ!」

 

「だから、アタシは何も良くないってば!」

 

 その発言を聞いた、ミゲスは怒ったようにリヴェの胸ぐらを掴んで顔を近づけた。

 

「リヴェって言ったか?お前はこの状況を、まるで分かってねぇな。本来なら俺たちの仕事は王国軍に知られちゃならない、違法な狩りだ。だから、目撃者は誰だろうと殺してきた。本来ならお前はとっくに殺してる」

 

「まぁ、リヴェは目撃者ってよりは当事者だけどな」

 

「黙れ。お前がドスランポスを殺すところは見てるんだから、どの道、目撃者でもあるだろうがよ」

 

「痛ぇ!離せよ!」

 

 リヴェの頬に受けた傷が、激しく痛む。

 

 だがミゲスは、それを全く気にせず、リヴェをさっき作り終えたばかりのアテルの墓に投げつけた。

 

 墓はリヴェの体に押し潰され、バラバラになってしまった。

 

「がはっ!」

 

 その叩きつけられた衝撃で吐血した。

 

「おい!何を!?」

 

 ゴーズはミゲスの行動に困惑した。

 

 確かにリヴェは目撃者である。

 だが、まだ子どもであり、心にも体にも多くの傷を負ったばかりだ。

 ミゲスは他人に対し、いつも横暴だが、最低限の理性は持ち合わせている男だ。

 でも、これはやりすぎている。

 

「こいつは、ランポスの群れをたった一人でほぼ壊滅させたんだろ?これくらいでくたばるかよ。おい、リヴェ、聞いてるか?お前が生きる方法はただ一つ、俺たちに従う事だけだ」

 

「そうだとしても、主、これじゃ⋯⋯」

 

「家族を失い、俺たちに脅され、それで恐怖に屈するなら、その程度のやつだったって事だ。だが、あの目を見ろ」

 

 リヴェは顔を上げ、ゴーズとミゲスを、強く睨みつける。

 ミゲスの脅しにも暴力にも絶対に屈しないと、その目は語っている。

 

 頬の傷がズキズキと痛むのはアイツらのせい。

 弟を失ってしまったのは、アイツらが来るのが遅かったから。

 その上、あの高価な服を着たやつは、アテルの墓をぶっ壊した。

 

 何故、自分はそんな奴らに従わなければならないのか?

 

「さてと、こいつをどう納得させるか――」

 

「おい!お前ら何をしている!」

 

 そこに王国の兵士が数名、騒ぎを聞きつけやって来た。

 近くにいた、村人が呼んだのだ。

 

「今頃、おいでなすったか」

 

「ちっ、派手にやりすぎたか」

 

 だが、兵士達がミゲスの服装を見て、その態度を一変させる。

 

「ミゲス伯爵!?」

 

 ミゲスの父は国内で強い権力を持つ、大貴族であった。

 当然、その息子である当人も、兵士からすれば、位の高い人物であるため、態度を改める必要がある。

 

「ごきげんよう、兵士諸君。こんな、遠い所まで遠征ですか?はるばるご御足労様」

 

 貴族としての立場があるため、ミゲスは喋り方を変えた。

 

「い、いえ、ミゲス伯爵こそ、大貴族であらせられる貴方が何故このような場所へ?そして、その子どもは?何があったんですか?近くにいた村人から、見慣れない大人二人が子どもを虐めていると報告があったもので。どういうことか説明して貰えますか?」

 

 兵士は相手が大物貴族の息子である事を理解しているが、それでも自分の仕事を全うしようとした。

 何より、こっちの背後あるのは国だ。

 一貴族のミゲスよりも、立場は大きい。

 

 それだけではなく、ミゲスは兵士たちにとって嫌われている存在でもあった。

 ミゲスの父が死んでから、ミゲスは貴族である自分の立場を利用して、兵士たちに隠れて、国家反逆でも企んでいるのではないか?と、悪い噂が流れていたのだ。

 

「あなた達には関係ありませんよ。このガ――子どもは」 

 

 普段の口調のせいでボロが出た。

 

 兵士は、ミゲスを問い詰める。

 

「それだけじゃありません。更にこの付近の森林の入口で、数十頭のランポスの遺体が見つかりました。これが人の手によるものなら、違法な狩りです」

 

「証拠は?」

 

「ランポスの遺体の頭には、刃物で刺されたような鋭利な傷口がありました。伯爵がお連れしている、そちらの狩人の仕業では無いのですか?」

 

 ミゲスは、ゴーズにヒソヒソと兵士にバレないように問う。

 

「おい、ランポスはほとんどリヴェが素手で殴り殺したんじゃなかったのか?」

 

「でけぇドスランポスは俺が殺った。あの状況じゃ、仕方無かった」

 

「ちっ!」

 

 ミゲスは苛立ち、不機嫌な顔を晒した。

 

「違法な狩りに、子どもへの虐待。伯爵⋯⋯あなたはご自分の立場をご理解されていますか?国の末端とは言え、ここの村人にとってあなたは、完全に悪者ですよ?」

 

 兵士にとってこの出来事は、ミゲスの悪評を立てるいいキッカケになると思った。

 

「一介の兵士が、ろくに調べもせず、自分たちの都合のいい事ばかり言いやがる。相手にするのは実にアホらしいが」

 

 ミゲスは喋り方を気にするのが面倒になった。

 

「何!?」

 

「そもそも何で、モンスターを狩る事が違法なんだ?」

 

「そ、それは⋯⋯生態系に影響が出――」

 

「ほぅ、生態系の影響か、そりゃ良くないよな。例え人を殺すモンスターだとしても、多く殺してしまえば生態系に影響が出るもんな」

 

「え⋯⋯えぇ」

 

「そいつが、どれだけ人を殺しても、自分の目の前で人を殺しても、関係ないよな。モンスターの方を殺しちまったらマズイもんな。それが国の意向だからな」

 

「⋯⋯」

 

 兵士は俯いたまま、言葉が出てこなかった。

 

「人々を守る役割の兵士が、人々を襲うモンスターの肩を持つ。本当に意味不明だよ。なぁ、ここの村、ランポスの被害が多かったんだろ?村人さんよ」

 

「⋯⋯そう、です」

 

 兵士を呼んだ村人は渋々、頷いた。

 

 モンスターの件に関して、兵士は反論する余地が無くなった。

 

 兵士は、思考を巡らせる。

 まだ付け入る隙はある。子どもだ。あの子の虐待を指摘すればいい。

 そうすれば、ボロが出る。

 

 兵士がそう考えている時、ミゲスはチラッと後ろを確認した。

 何かの物音が聞こえたのだ。

 

「だったら、その子はなんです?私は見ましたよ、あなたがその子を乱暴に投げつける様を!」

 

「ん?あぁ、それはな⋯⋯」

 

 ミゲスは、その場から一歩横に逸れる。

 そうすることで、見えたのは、拳を掲げて殴りかかろうとしているリヴェと、それを後ろから抱えながら必死におさえているゴーズの姿だった。

 リヴェの、傷口は開き、そこから再び血が流れているか、それもお構い無しで、ミゲスを睨みつけていた。

 体にも力が入っている。

 大きく見開いた血走る目と、鋭くて細い瞳孔が、彼女の獰猛性を主張している。

 

「うぐぐ!」

 

「おい!よせ、リヴェ!」

 

 リヴェは今にもゴーズの手を振りほどいて、襲いかかっていこうとしていた。

 

「なっ!どうなって!?」

 

「俺はこいつから、自分の身を守るために、投げ飛ばしたんだ。立場を分からせるためにな」

 

「こんな子どもが⋯⋯」

 

「今日はもう帰れ。これ以上の口論は時間の無駄だ」

 

「この⋯⋯くっ!今日のことは見なかったことにします!」

 

「じゃあな」

 

 兵士達は、やむなくその村から撤退していった。

 

 ミゲスは、また不機嫌な顔でリヴェの方に向き、その手で痛々しいその頬の傷に触れた。

 

「殺してやる!」

 

「威勢だけじゃ、この世界は生き残れねぇ。この傷も、弟の死も、とても苦しいもんだ。だがその苦しみを乗り越えて生きるためには、何よりもまず威勢が必要だ。いいぜ、殺されてやるよ」

 

「はぁ!?」

 

 リヴェはゴーズに抑えられながらも抵抗している状態だったが、ミゲスのその一言で、踏ん張っていた力を緩めた。

 

「主?」

 

 ゴーズも不思議そうな顔をしていた。

 

「俺を殺したいんだろ?今はそれでいい」

 

「おいおい、それじゃ、俺が苦労するだろ」

 

「言ったよなゴーズ。面倒は自分で見るって。俺が殺さてたらまずいのはお前の方だろ?頑張って見張ってな」

 

「え!?」

 

「おい待て!」

 

 責任を全部、ゴーズに押し付けたミゲスはその場から立ち去った。

 

「リヴェ⋯⋯これは相当面倒なことになったぞ」

 

「あいつはどこへ行った!?」

 

「教えられねぇな」

 

「あぁ!?」

 

「まぁ、少なくとも、俺たちからは離れねぇよ」

 

 ゴーズはリヴェを鍛え、ミゲスの仕事がこなせるような狩人に育てあげたい。

 リヴェは、ミゲスに対しての憎悪。

 

 主従関係とは思えない感情を抱えたまま、ゴーズとリヴェの生活が始まった。




いかがだっでしょうか?
次回は明日投稿予定です!
読んで下さりありがとうございました!
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