反応が良ければちょいちょい更新したい所存。
ーーーサプライズ忍者理論。
それは、シナリオの中で忍者が大暴れしたら面白いよな?となる場面は考え直すべき、という創作の一つの考え方。
当時、それを何の気なしに見て「ふーん。そんな考え方があるのかぁ」と思っていたが、今になって思う。
サプライズ忍者理論、便利すぎる。
例えばこの状況。
望まれない婚約を結ばれ、果てには結婚式を学生の身でありながら挙げることになった哀れな貴族のお嬢様がいる。
彼女は平民にも分け隔てなく接してくれ、さらには平民の子と友達になって遊んでくれるまでになったらしい。
楽しい学園生活だったが、次第に表情が曇る日も多くなってきた。
誰が何を聞いても答えてくれず、やっと答えてくれたと思った日にはもう手遅れ。
その日は結婚式の前日。
何もかもが遅い絶望的な状況だった。
平民の子は頭を悩ませ、考えに考え抜いた。
このままでは、彼女の太陽のような笑顔を取り戻せなくなると。
しかし、なんの力もない平民には到底覆しようのない状況。
結局、彼は己の無力さを嘆き死んだ顔で結婚式に参列するーーーはずだった。
彼が唯一誇れることが一つ。
前世の記憶を持っているということだ。
誰に言っても信じてもらえず、証拠として出せる知識もない。
何せ、こことは違う魔法も無ければ剣もない平和な世界の学生だったのだから。
知識だって大したものはなく、大体この世界の常識である。
故に戯言として処理されてきたが、ここでようやくその知識が火を吹くことになる。
サプライズ忍者理論。
どうしようもなく、面白くないこの状況。
忍者が場をぶっ壊してくれたらいいのに……。
ーーーあぁ、そうか。そうだな。忍者だ。
参列者の一人がその言葉を耳するが、それは直ぐに雑音として消えた。
その数分後、結婚式は大詰めの状況となる。
「ーーーでは、汝、リュミナ・ヴァンローゼは病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「……はい、誓いーーー」
「その結婚!ちょっと待ったぁぁぁぁぁあああ!!!」
新婦の誓いの言葉を遮るように何者かが大声を挙げる。
会場は直ぐに大混乱に陥り、誓いの言葉どころではなくなった。
どこだ、どこにいると群衆がその姿を探ろうと首を横に縦に振る。
誰かが見つけたのか指を差し「いたぞ!あそこだ!」と示した。
教会の高廊でステンドグラスを背にして立つ一人の不審者。
海のような濃い青でありながら僅かに煌めく高級感のある生地で全身を覆うヤベェ奴。
群衆が確認できるのはコチラをバカにするように睨みつける碧眼のみ。
下らない茶番は終わりだ、そう言いたげな瞳が次に指したのは新郎であった。
「だ、誰だ!貴様っ!」
「オレか?オレは……忍者だ!」
新郎の問いに簡潔に答え、群衆の混乱に乗じ、忍者は駆る。
高廊を飛び降り、人の間を抜い、警備兵を群衆を盾にしながら突破する。
あっという間の早技で、新郎から新婦の手を奪って握る。
「け、警備兵は何をしている!早くこちらへ来いっ!」
「悪いがこの結婚式、面白くないからこの忍者が割り込ませてもらった!」
「警備兵っ!!」
「次はもっと面白い結婚式をすると良い。そうだな、お前がオークと結婚すれば、少しはマシかもな!」
「っ、豚の化け物とっ⁈ーーーこの侵入者をっ!殺せぇぇぇえええ!!!」
忍者はそのまま新婦を抱きかかえると近くのスタンドグラスを割って逃走した。
警備兵がやっとの思いで新郎の前に到着した時には既に事態が取り返しの付かない状況になってからのことだった……。
///
「まさかこんなに上手くいくとは……」
ポツリと忍者か溢した言葉に新婦、リュミナは苦笑する。
「まさか、無計画で動いたんですか?」
「うっ、その……はい」
自信満々に動くさっきとは打って変わって自信無さ気に答える忍者。
ーーーあぁ、学園でも良く聞いた声。
彼には良き友人として最後の姿を見て貰おうと招待状を送っただけだった。
何かを変えて欲しいなんて微塵も考えていなかった。
彼が私の結婚を祝福してくれたら、それで良かった。
望まない結婚でも、彼だけは望んでいた。そう思えば多少はこれからの生活に希望を持って暮らせそうだと思ったのだ。
それが、こんな大立ち回りをするなんて。
愛おしく思い、その頬を撫でる。
「え、えっ⁈急になに⁇」
「いえ、埃が付いていたので」
「そ、そですか……」
この触り心地、おそらく
多分、教会のカーテンを引きちぎって加工した物だろう。
隅々まで教会を見ていなかったから確信は持てないが、平民だった彼にこんな上等な布を用意するのは難しいはずだ。
そこまでして、私の結婚を止めてくれた。それがまた愛おしくて……。
「あ、あの?今度はなに故、頬を撫でるのです?」
「ちょっと埃が」
我ながら無理がある。リュミナはそう思ったが忍者は何も言わないので大丈夫だろう。
「それより、重くないですか?」
「え?」
「ほら、ずっと私を抱きかかえて森を走っているから」
「あぁ、それは大丈夫」
全然軽いよ、声を笑わせて忍者は言う。
全く、とんだ強がりさんだ。
リュミナは知っている。
彼は剣も魔法も点でダメ。剣はまともに振れないし、打ち合いになれば腰が引く。だから魔法に走るもコントロールがめちゃくちゃでよく的を外す。強いて言えば支援魔法だけは完璧だ。お陰で、そればかり練習するから体力なんて無いに等しい。
そんな貧弱な彼が今もリュミナを抱きかかえて走れているのは身体強化魔法を自身にかけているからだろう。
身体強化は只人が訓練を積んだ剣士よりも体が強くなる一方、常時魔力を消費するという欠点がある。
魔法使いが、緊急でやむを得ず使う近接戦用の魔法だ。
それをこんな長時間。そろそろ忍者の魔力も限界なはずだ。
「私はこれで大丈夫です、よっ」
無理矢理忍者から降りるリュミナ。
「ちょっと!」
「ほら、大丈夫」
「全く、とんだお姫様だ。普通はこのまま抱きかかえられてるものだろ?」
「生憎、お姫様というタチでは無いので」
「さいで」
「それより、聞きたいことが二つあるんですけど」
「何か?」
リュミナは頭を回す。
やはり、記憶のどこにも引っかからないものがある。
彼と過ごした日常にその影はどこにも無かったはずだ。
確信を得ると、口を開いた。
「ニンジャって何ですか?」
「あー、そう言えば忍者はいなかったのか。この世界」
彼はいつもいつも変な行動ばかりする。
料理を食べる前に手を合わせるとか、寮では靴を脱いで部屋専用の靴に履き直すとか。
けれど、こんな全身を覆い隠すような格好を見るのは初めてだ。
おまけに謎の単語を発しながらときた。
リュミナの疑問は最もだろう。
忍者も説明を考えているのか、頭を掻いて唸っている。
「まぁ、そうだな……簡潔に言えば、気に入らない場面をぶっ壊してくれる存在?」
忍者の中でもイマイチ忍者という言葉に説明がつけられていないのか、言葉尻が少し上ずる。
「なるほど」
当人が理解していないものはこれ以上聞いても無駄である。
リュミナは切り替えて二つ目の問いを投げかける。
「それで、今はどこに向かっているんですか?ここは森で出口が見えないんですけど」
「あっ!」
反応を見るに、芳しくない答えだと分かる。
そう言えば忍者は無計画で動いていたのだ。
つまり、遭難しているということになる。
なるほど、これはーーー
「不味い!」
「美味しい」
「「ん?」」
何やら二人とも別の言葉を発したようだ。
互いの言葉で相殺された結果上手く聞き取ることは出来なかったが、忍者が慌てていることから察するに「不味い」と言ったのだろう。
不味い、か。彼らしい。私が貴族だからちゃんと無事に送り届けなければ、なんて思っているはずだ。
リュミナは笑いたくなる気持ちを抑えて、ここは忍者に合わせることにした。
「大変なことになりましたね」
「あ、あぁ。え、それよりさっき美味しいって言わなかった?」
「大変なことになりましたね!」
「一応、来た道に印は付けてるから戻れはするんだけどーーーやっぱり、美味しいって言わなかった?」
「大変なことになりましたね!!」
「……了解、もうそういうことで良いよ」
一先ず納得してくれたようだ。
さて現状、二人でここから抜け出すことが最適解になる。
が、リュミナとしてはそれはどうでも良い。
二人で過ごせるならそれもまた悪く無いと考えているからだ。
一緒に喋って、木の実でも食べて穏やかに過ごす。それで良いでは無いか。
まぁ、彼はそれを目指していないから実現は不可能だろうが。
それに食べれる木の実とか水源とか森の安全性。これらを考慮するとやはり現実的に厳しいか。
リュミナは諦めて息を吐く。
それが忍者の目にどう映ったのか、えらく慌て出した。
もう慌て過ぎて謎の踊りでもしているみたいだ。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
「そそそ、そうは言っても!勝手に連れ出した挙句行方不明って!不味いって!」
「連れ出した時点でもう不味いですけどね」
「そうなんだけど!そうなんだけど!」
忍者は木に登ろうとしたり、木の棒を倒して道を決めようとしたり。
これはもう真実を伝えるべきか。
このままじゃ彼が空回りし過ぎて逆に危ない。
リュミナは懐から一つ巻物を取り出した。
「これを見てください」
「スクロール?」
忍者はグルグルと回転していたのを止めて、その巻物を凝視した。
スクロール。魔法を閉じ込めた魔道具の一種で、使用に際し魔力が要らず、自身の習得していない魔法も使うことができる。
こんな風に巻物を解けば簡単に使える反面、使用は一度きり。他の魔道具が何度も使えるのに対してこちらはこのように魔法を魔力のインクで陣として描くことで魔法を使えるようにしている。
当然効果もインクが残っている間だけ。
「これって……」
「えぇ、第一級魔法ワープホール。私の家と繋がっていますよ」
「わーお」
「ほら、インクが消える前に早く入って」
「わ、分かった」
インクは徐々に消え始めている。
ワープホールを開いていられるのも後30秒が限界か。
突如として空いた空間の裂け目に惚けている忍者を急かし、中に入るよう誘導する。
入ったことを確認すると続いてリュミナもその裂け目へと入って行った。
「ふぅ。何とか着きましたか」
そこは見慣れた庭園。
二度と帰ってくることはないと思っていた地。
ぐっと背伸びを一つ。
すると、背後から物が落ちる声がした。
「お、お嬢様?」
「あら、メイヤ。今日も精が出るわね」
そこにいたのはメイドのメイヤだった。
この時間は庭の手入れを行う予定だったらしい。
そばに転がるジョウロがそれを示していた。
「ゆ、夢かしら?お嬢様は今日結婚式なはず」
「現実よ。ほら、ドレスを着たままじゃない」
「で、では、まだ結婚式が始まる前?」
「太陽を見て、もうお昼よ」
「ならば、私が会場に?」
「私が結婚式に呼べるのは一人だけだったでしょ?お父様もお母様も貴方も呼ばなかったじゃない」
新郎の下劣な罠により、結婚式に呼べるのは一人だけという条件を後から出されてしまったため、リュミナが呼べたのは学園の友達であった彼だけ。
きっと、結婚式を邪魔されたらたまらないと考えた新郎の罠だ。
この国では何人と結婚してもいいとされている。
しかし、その代わり貴族が結婚式を開けるのは生涯で一度きり。
年々ややこしくなる貴族の血縁関係を少しでも抑えることが出来たら、という国の目論みでできた決まり事だった。
そのため、今日みたいにリュミナの家族に結婚式を邪魔されたら新郎、いや、あの男はもう結婚式を開くことが出来ない。
貴族は結婚式を持って正式な血縁関係するため、男はもうリュミナに迫ることができない。これもまた同様に国の敷いた決まりごとだった。
当然リュミナも結婚できなくなったが、それは貴族として結婚できないだけ。
身分を落とせば良いので気にすることではない。
「抜け出して、これたのですね……」
涙を流しながらメイヤは膝をつく。
リュミナも今更ながらに自分が解放されたのだと実感した。
目尻に貯まる涙がその証拠である。
「ただいま、メイヤ」
「お嬢様!」
メイヤにこの顔は見られたく無い。
リュミナは顔を見られないようにメイヤを熱く抱擁する。
メイヤもまた同じ考えなのか、二人は落ち着くまでしばらくの間抱擁を続けた。
「返事が遅れて申し訳ありません、お嬢様。お帰りなさい」
「ふふ、ただいま」
ようやく一息つけた。
怒涛の展開であったことには違いない。
だが、何か足りない。そう、何かが……
「あっ!メイヤ、ここに人がいなかった?」
「人、ですか?」
「そう、私を連れ出してくれた人」
「いえ、見ませんでしたが」
「そう……」
「私、てっきり隙を見てニーヤ様から渡されたスクロールで帰って来たのだとばかり」
「お父様から渡されたスクロールで帰って来たのはそうなのだけど、あの男がずっと側にいて隙がなかったのよ」
「でしたらどうやってーーーあっ!」
「そう、連れ出してくれた人がいるの」
「その方はどちらに?」
「多分もう居ないわ」
やけに静かだと思ったが忍者がいなくなっていたのである。
空気の読める彼のことだからどこかで静関していると思ったのだが、リュミナが潜った瞬間に入れ違いになるようにあの森へ帰ったのだろう。
裂け目があった場所を見つめる。
来た道に印を付けているらしいから戻ることは容易だろう。
遭難するってことはないだろうが、あの会場に戻って無事な想像がつかない。
かと言って再びあそこに戻ることも出来ない。それは彼の意思を台無しにする行為だ。
出来ることは学園で再び会えることを願うだけ。
リュミナは祈るように目を閉じた。
「次会えたら逃げられないように首輪でも付けようかしら?」
「如何されましたか?お嬢様?」
「いえ、何でもないわ」
こうして、一人の少女にとって面白くない状況は忍者によって変えられた。
最も、変わったのは状況だけかと言えば違うのかもしれない。
が、そこにクビを突っ込むことは得策ではないだろう。
メイヤは一人、先の発言を聞かなかったことにした。