誰に頼ることもなく、一人で堂々と生きていること。
一日の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。花咲川学園に入学して既に二週間近くが過ぎた。
入学直後の忙しさも鳴りを潜め授業のスケジュールにも大方慣れてきた、であれば当然突き合わせる顔ぶれも固定化されてくる頃合い。
「亮介、放課後だね」
「放課後だな」
「今日こそ行くよね」
「どこにだ」
「楽器屋」
「行かないぞ、今日は無理だ」
「なんで? 一緒にギター弾こうよ、教えてあげるよ?」
「部活があるんだよ。それと、ギターを教えてもらう人はもう決まってるんだ。悪いけど今度の日曜日にしてくれ」
「えー」
花園たえ。入学してから最初に亮介が出会った少女。学校で一番話すのは誰かと問われれば亮介は間違いなくこの少女の名前をあげるだろう。
そして亮介が交友を持つ者は彼女だけではない。
「青葉君、おたえー。今日一緒に帰らない?」
「亮介は今日もモテモテだね、他の男子が妬いちゃうんじゃない?」
「パン屋だけに、か」
「何言ってるの亮介?」
「もう春なのに寒くなってきちゃった……」
「……俺は今そんなに変なことを言ったか?」
「自覚無しなんだ……」
戸山香澄、山吹沙綾。どちらも高校に上がってから出来た友人たち。沙綾に関しては以前より彼女の両親が営むパン屋の客としてある程度面識はあったものの、本格的に交友を持つようになったのは同じクラスになってからである。
「悪い戸山、今日は一緒には帰れないんだ。部活があってな」
「そっかー……あ、そうだ! それじゃあ今日の帰りに青葉君の部活、見に行ってもいい?」
「ああ、別にいいぞ」
「あ、それ私も行く。沙綾は?」
「私はパス、家の手伝いがあるから」
「まあそれは仕方がない、頑張れよ」
「「頑張って(!)」」
「あはは、応援ありがとうございまーす」
□□□□
沙綾を見送った亮介達はそのまま体育館へ向かう。とはいえ亮介は一度着替える必要があるため、香澄たちと別れて更衣室へ。手早く着替えを済ませて体育館へ行き、部員達と合流する。
「お疲れ様です」
「おう、遅かったな」
「キャプテーン! 青葉来ましたー!」
「また遅刻か青葉ァ! ペナルティとして筋トレとフットワーク5倍だ! 覚悟しやがれ!」
「うす」
「よーしそんじゃあ練習始めるぞー! 声出してけー!」
『オォッ!!』
花咲川バスケ部の練習メニューは至ってシンプル。ウォーミングアップから始まり筋トレにフットワーク、個々の基礎スキルや体力アップトレーニング、5対5に分かれて試合形式での練習等々。
しかし創部一年目で
「ハァ……ハァ……マジかよ青葉」
「息切れ一つ、してやしねぇ……」
「人間の、体力かよ、あれ……」
しかしその程度で音を上げる青葉亮介ではない。苛烈な練習メニューに他の部員達が大粒の汗を流し息絶え絶えといった様子で呼吸を整えている傍らで、亮介は涼しい表情で平然と練習をこなしていた。
そうして練習も一区切り付き、休憩も兼ねて亮介は今先輩部員と1on1をしていた。
「今日こそオレが勝つ! 今年入ったばっかの一年坊に負けっぱなしでたまるかよ!」
「そうですか、頑張ってください」
「ナメやがって! ここのエースはオレだ!」
ボールをつきながら相手の隙を窺う。右へ向かうか左へ向かうか、その一瞬の判断が勝敗を分ける。
「うわっ!!」
「速えっ!?」
そんな駆け引きなど何の意味も持たない。読みが合っていようがいまいが、相手が追いつけないスピードで抜いてしまえば同じことだからだ。
その埒外のスピードに周囲にどよめきが広がる。
「ナメんじゃねぇっ!!!」
先輩も負けじと食らいつくが、嘆かわしいことにあまりにもレベルが違いすぎた。
亮介はドライブのスピードを維持したままロールターンで相手を振り切り豪快にダンクを決める。
「キャー! 青葉くーん!」
「カッコいいー!」
「頑張ってねー♡」
素人目にも派手に映る
「いぇーい」
「おいコラ青葉ァ! テメェ手なんぞ振り返してんじゃねえぞバカタレが!」
「うす、すいません」
「そうだぞこの野郎! オレの観客横取りしやがって!」
「テメェは黙ってろ毒島ァ!」
「痛ッて!? 何すんですかキャプテン!」
歓喜一色。もはや下手なアイドルよりも脚光を浴びてしまっている状態の亮介に対して、流石に他の部員達も我慢の限界が来てしまったらしい。
それらをあまり気にしない部員もいるものの、やはり練習の邪魔と感じてしまう者たちの方が多いようだ。
「相変わらず大人気だな青葉は」
「逆になんでそんな無表情でファンサできんのかが分からん、鼻の下一つ伸びてるところ見た事ねえぞ」
「俺あんまり女性に興味ないんで」
「ひっでえ事言いやがるなこのイケメンは……」
「……あー、ところで青葉、一つ聞いてもいいか?」
「はい?」
先輩達の次の言葉を待つように首をかしげる亮介。
「お前のそのシャツ、どうにかならんか?」
「入部当初から気にはなってたがやっぱり触れずにはいられないよなソレ……」
「そんなダメですかこれ? 友達が選んでくれた奴なんですけど」
「ダメっつーか色んな意味でアウトっつーか……」
先輩部員達が指摘するのは亮介の練習着に使われているTシャツ。問題はそこにプリントされている柄にあった。
先輩たちが苦言を呈するのも無理はないだろう。公衆の面前で【被虐の歴史~マゾヒストリー~】とデカデカとプリントされたシャツを着ていれば至極当然のことである。
「そのイケメン顔でそのクソダサTシャツ着るのやめてくんないか」
「脳がバグる」
「ギャップ萌えがギリ成立しないんだわ」
流石の亮介も他の部員から口々に諭され流石に堪えたようで。
「……分かりました、換えのシャツ着てきます」
「なんか悪いな」
「悪いのは確実にあいつの方なんだけどな」
先輩達に言われ渋々といった様子で更衣室へ着替えに行く。数分経って戻ってきた亮介が着ていたのはこれまたデカデカと
【俺】
とプリントされたTシャツであった。何故かドヤ顔である。
「すいません、練習続けましょう」
「お前マジか」
「なんでそれで代打行けると思ってんだ」
「許されてるのはお前の顔であってドヤ顔じゃねえ」
「これもダメですか? 流石にもう手持ちないですよ」
「いっそ上裸のがマシだろそれは……」
後輩の服装センスに頭を抱える先輩達。そんな先輩をよそ目に見物に来た生徒達に手を振る亮介。
もちろんその中には約束通り練習を見に来た友人たちの姿もあった。
「フォッフォッフォ、練習頑張っておるようじゃの亮介」
「何キャラだそれは」
蓄えた顎髭をさするような仕草をしながら亮介に声をかけるたえ。
「青葉君お疲れ~……そのシャツ何?」
「気にしないでいいぞ」
続く香澄も労いの言葉をかけつつ、視界にチラつく主張の強いTシャツに困惑の色を隠せず思わず問いかけてしまう。
「気にしない方が無理だと思うけど」
「すっごく失礼なこと言うかもなんだけど、青葉君ってもしかして服のセンスがあんまり……」
「
「へぇー、そうなんだ……え、誰!?」
「……知らない制服だ、この辺の人じゃないよね?」
ふと会話の中に混じる異分子の声。亮介が女子と話していることなど日常茶飯事ともはや気にすらしていなかった花咲川バスケ部員達も、流石にこの騒ぎになんだなんだと意識を向け集まってきていた。
「……アイツ、黄瀬涼太か!」
「え、あの『キセキの世代』の!?」
「海常に入ったって聞いたが……神奈川の奴がなんだってこんな所に?」
「
「ん? ああそうか、お前は高校から始めたから知らないんだったな。去年まで帝光中学校で猛威を振るっていた10年に1人の天才が五人同時にいた世代、それが『キセキの世代』だ。あいつはその内の一人、黄瀬涼太」
「へぇ、面白そうじゃないっすか」
そう言って不敵な笑みを浮かべる者がここに一人。
「神奈川の人だったんだ、亮介の知り合い?」
「ああ、中学の頃の友達。久しぶりだな黄瀬」
「久しぶり。こっちはお友達っスか? モデルやってるんでご存知かもだけど一応、海常高校の黄瀬涼太っス。よろしく」
「私は花園たえ、よろしく」
「私は戸山香澄! よろしくね、黄瀬君!」
そこにいたのは『キセキの世代』黄瀬涼太。突然現れたかと思えば亮介と肩を組んで親しげに話し始める姿に、花咲川バスケ部は呆気にとられてしまう。
そんな彼らを尻目に世間話を続ける亮介たち。
「いやー、相変わらず青葉っちの知名度ハンパないっスね。名指しで会いに来たって言ったのに普通に案内してくれるんスもん」
「俺は普通に学校生活してるだけだぞ」
「とか言ってるんスけどどうなんスか実際?」
「普通の人は名前呼ばれてもファンサとかしないと思うな」
「動いてるだけで悲鳴があがってるの見た事あるよ!」
「らしいっスよマイケル・ジャクソン」
「俺フレディ・マーキュリーの方が好き」
なおも談笑を続ける亮介達を呆然と見つめる部員達。しかし
「久しぶりの再会っぽいところに口を挟んで悪いが、世代を代表する天才様がこんな所に一体何の用だ?」
「え? あー、用って程のこともないんスけどね。ちょっとお願いついでに挨拶しておこうと思って」
「お願いだぁ? つか青葉、お前『キセキの世代』と知り合いなら先に言えよ」
「知り合いじゃなくて友達です」
「そそ! オレ達親友っスもんねー! ねー青葉っち?」
「そうだな」
肯定の言葉を返す亮介に黄瀬も何かを思い出したようにあ、と声をあげる。
「ねえ青葉っち、オレ今度の日曜日に黒子っち達のいる高校と練習試合があるんスよ」
「誠凛高校な」
「そうそう、そんでもし予定が空いてたら試合見に来てほしいなーって。オレがどれだけ強くなったかを見てもらいたいんス」
「……日曜か」
ちらり、とほんの一瞬たえに視線を向ける。
「ごめん、その日は予定があってな。観戦には行けねえ」
「……え! え!?」
「なんだよ」
二度、三度、と目を丸くしながら亮介達に交互に顔を向けながら黄瀬が驚きを露わにする。中学生の頃の亮介を知っていればまずありえないことだったからだ。
「青葉っちが休日に女の子と一緒に遊ぶ……!? 一大事っス、皆に連絡しなきゃ!」
「そんな騒ぐことでもないだろ。中学の時だって桃井やお前らと一緒に遊びに行ってたりしたじゃねえか」
「え、桃っちはノーカンっしょ」
「殺されても知らねえからなお前」
あまりの感動に今にも小踊りしだしそうな勢いでむせび泣く黄瀬に対して流石の亮介も困惑を隠せない。
それに追い討ちをかけるようにして発言する者がもう一人。
「ねえ亮介、桃井って誰?」
「中学の時のマネージャー」
「ふーん……可愛い子?」
「結構」
「……ふーん」
亮介が返答が気に入らなかったのか答えの度にたえの声が低くなっていく。しかしこの手の質問に関してはどう答えても不平不満が出ることは承知済みのため、気にせず会話を続けることにする。
「まあそういうわけだから、見には行けねえ。ストバスくらいなら時間あれば付き合うけど」
「んー、まあしょうがないか。言いたいことは言えたし、とりあえず今日はこの辺でお
「そうか。次来る時は連絡くらいしろよ、缶コーヒーくらいなら奢ってやるから」
「お、マジっスか? あんがとっス!」
用件も済んだので体育館を後にしようとする黄瀬。しかしその背中に待ったをかける声が一つ。
「待てよ色男。せっかく来たんだ、ちょっと相手してけよ」
花咲川バスケ部2年 PF
「えー……この流れ、もう誠凛でやったんスけど……」
「オレとやるのは初めてだろ?」
「それはそうっスけど……この人青葉っちの先輩っスか? 止めてほsめっちゃ嫌そうな顔してる!?」
端正な顔をこれでもかと歪めて拒否の意を示す亮介。
「めんどい……」
「どんだけ嫌なんスか!?」
「なんだよ、自信ねえのかイケメン野郎?」
「……分かったっス。負けても文句言わないでくださいね」
はぁ、とため息をついてコートへ行きボールを構える黄瀬。乗り気ではないようだが、少なくとも煽られた分のやる気は湧いているらしい。対する毒島も
「『キセキの世代』だかなんだか知らねえが、お前に勝てりゃ青葉に勝てる可能性も少しは上がるってもんだろ」
「分っかりやすい魂胆でむしろ清々しいっスね。ただ……」
「あン?」
「
そう言うや否や黄瀬は目にも止まらぬ速さのドリブルで毒島を抜き去る。
「速っ……!」
(さっきの青葉にも負けてねぇ……! これじゃさっきと変わんねぇじゃねぇか……!)
「クソッタレ!!」
先刻の焼き増しのような光景に毒島は既視感を覚えるが、だからこそさっきと同じ轍を踏んでなるものかと即座にゴールへ駆け付けて相手を待ち構える。
地上戦では勝ち目が無いと悟り空中戦で勝負をしかけるつもりの毒島に対し、その腹積もりを読み切った上であえて黄瀬はその勝負に乗る。
両者絶好のタイミングでダンク/ブロックに跳び、ゴールポスト上でボールを押し合う。しかしその拮抗もほんの一瞬、すぐさま押し切りゴールへ叩き込む。
「なっ……」
「毒島が……マジで手も足も出なかった……」
「これが『キセキの世代』……!!」
眼前で起こった凄まじいプレーにどよめきが起こる。わずかな期間で二度も辛酸を舐めさせられた毒島の表情は屈辱に塗れていた。
「んー……これなら誠凛の彼の方がもうちょいマシだったかな……」
「そんな……青葉だけじゃなくこいつにまで……」
「いやいや、この程度でオレらに勝とうとか思い上がりも良いとこっスよ」
「ンだとこの……!」
一触即発。今にも取っ組み合いが始まりそうな張り詰めた空気に亮介が待ったをかける。
「もういいだろ黄瀬、汗で制服濡れるぞ」
「こんなんじゃウォーミングアップにもならねーから大丈夫っスよ!」
「そうか。で、どうだった? ウチの先輩は」
「んー? まあ正直拍子抜けっつーか、あんだけ息巻いて喧嘩売ってきた割には大したことねーっつーか」
「まあ、流石にお前が相手じゃな」
何かを思い悩むようにうーん、と唸る黄瀬。その表情には落胆の色が強く表れていた。
「……ねえ青葉っち、やっぱり
「え、嫌だけど」
「もうちょい躊躇ったりしてくんねっスか!?」
それなりに真剣に切り出した話をにべもなく切り捨てられた黄瀬は涙目になって抗議する。しかし亮介は取り付く島もなく言い放つ。
「前も言っただろ、海常は遠いんだよ。なんだ神奈川って、舐めてんのか」
「真隣っスけど!? 電車でもそんなかかんないっスよ!」
「徒歩が最低条件だカチ殺すぞボケ」
「ひっでぇ!? ……じゃあオレが東京の高校だったら来てくれたんスか?」
「なら最初から同じ
オブラートに包もうとしない様子の亮介に黄瀬は憤慨するが、これ以上は平行線になるだけと察して会話を切り上げる。こういう時の亮介は意地でも意見を変えないことを誰よりも理解しているからだ。
「はぁ……まあいいや。そんじゃオレ今度こそ帰るっスからね」
「ああ、また来いよ。あとそれから」
「ん?」
「練習試合、頑張れよ」
「……あいよっス! それじゃ、彼女ちゃん達もバイバイっス~!」
「え!? 彼女!?」
「バイバーイ」
「おい待て黄瀬、彼女じゃねえ」
去り際に黄瀬から投下された爆弾に三者三様の反応を見せる。謂れのない彼女発言を訂正させようとする亮介だが、 足早に去っていった黄瀬を追いかける程の熱量はなかった。
「ふふ、彼女って言われちゃったね」
「……昔からこういう時に茶化すのが好きな奴だからな、あんまり気にしなくていい」
「なる? 彼女」
「ならねえ」
「おたえと青葉君ってやっぱり……!!」
「違えっつってんだろ」
人の話を聞かない者ばかりで辟易としている亮介。そうこうしている内に休憩時間が終わってしまったので、ひとまず練習を全て終わらせてしまうことにした。
ちなみにだが、これ以降の練習中部員達からの質問攻めが止むことはなかったらしい。
□□□□
部活が終わりすっかり日も暮れて、星が
「時間無ぇー……あんまり遅くなると母さんが飯作りだしちまうから急がねえと……」
彼がここまで急いでいるのには理由があった。何を隠そう彼の母親、それはもうとてつもなく飯が不味い。
どのくらい不味いかと言うと、辛いものが苦手で有名な姉である青葉モカが「激辛料理を食べる方がマシ」と言うレベルである。
「姉ちゃんが泣きそうになりながら飯食ってるのは見たくねえからな……もうちょい速めに走るか」
そう言って一段階加速する*2。 このスピードであれば夕飯の準備及び母親が料理を作ろうとする時間までには家に着くだろう。
人にぶつからないよう細心の注意を払いながら住宅街を駆け抜ける。視覚と聴覚から入ってくる情報を逐一整理して最大限人を避けるルートを突き進む。
道路、ガードレール、塀の上。果ては屋根伝いに飛び回って最高効率で家を目指すことで、下校からわずか5分で帰宅に成功する。
「ただいま……」
「おかえりりょーくん~~!!」
「良かった……! 亮介が間に合った……!!」
「死に目に会わずに済んでよかったよ」
どうやらギリギリのタイミングだったらしい、おそらくあと1分遅れていれば家族の犠牲は免れなかっただろう。
基本的に落ち着いていて間延びした話し方をするモカが切羽詰まり涙目になって出迎えていることから彼女らの焦燥が伝わってくる。 ひとまず母を止めることを最優先事項として亮介は足早にキッチンに向かった。
「あら亮介、おかえりなさい」
「ただいま母さん、とりあえずその包丁置いてくれ」
「そんなに気遣わなくてもいいのに、たまには私が作ってあげるわよ?」
「俺はともかく姉ちゃん達の最後の晩餐にはまだ早えんだ」
やる気満々の母を宥めてリビングへ行かせる。ひとまず終末が過ぎ去ったことにホッと一息ついてから夕飯を作り始める。
必要な具材全てを流れるように切り分けていき、フライパンに詰め込んで調味料を加えて鍋を振るう。たったこれだけであっという間に野菜炒めの完成。既に出来上がっている味噌汁と白米をよそって野菜炒めを皿に盛り付けたら、 本日の晩御飯の完成である。
「出来たぞ」
そう呼びかけられ続々と席に着く家族たち。
「お腹減った~」
「今日は死ぬかと思ったよ」
「明日こそは私が作ってあげるからね!」
「「「あ、大丈夫です」」」
「えぇっ!?」
家族から総スカンを食らって若干涙目になってしまう母親。そんな母親を尻目に亮介達は夕飯にありつく。
「いただきまーす。……んま~」
「相変わらず亮介の飯は美味いな」
「ほんと、自慢の息子だわ~」
「お粗末さま」
時折会話を挟みながらも家族たちの箸が止まる様子はない。自らの作った料理を幸せそうに頬張る家族たちを横目に見ながら残りの家族へのご飯を用意する。
ザラザラと音を立てて餌入れにキャットフードを注ぎ、その上にベーコンを載せたものを二つ用意し片手に一つずつ持って家族たちを呼ぶ。
「
「「ニャー!」」
名を呼ばれて駆け寄ってくる2匹の猫たち。それぞれ名前を『
双子なのか2匹とも基調となる色は異なれど三毛猫であり、斑が白色、黒が名の通り黒色を下地とした色合いをしている。名前の由来はそれぞれモカが見た目で名付けたのが黒、当時読んでいた少年雑誌に掲載されていた漫画に触発された亮介が姉に習い漢字一文字で名付けたのが斑である。
「残さず食えよ」
「りょーくん甘やかしすぎじゃない~? 見てよこのまんまるぼでー」
「まんまるじゃダメなのか? 俺はこういうモチモチしてる奴の方が好きだぞ、可愛いし触感いいし」
「いや~、可愛いのは分かるんだけど健康状態とかね~?」
食事を終えて混ざってきた姉の苦言も意に介さずせっせと猫たちに餌を与えている亮介の横顔をモカはじっと見つめる。あらん限りの慈愛を込められたその視線に気づく者は食事を終えてモカの膝元で毛繕いをする黒猫以外おらず、好機とばかりにその横顔に焦点を当て続ける。
そういえば、とモカは思慮に耽る。いつからであろうか、己の弟がこんなにも感情を露わにするようになったのは。幼き日の
「……ねえりょーくん、ご飯も食べ終わったしそろそろお風呂入ろ~?」
「ん、そうだな。斑達も入るか?」
「「ニャー(!)」」
「やだってさ~」
「……残念だ」
斑達から拒否されたのがそれなりに堪えたのか、しょんぼりと肩を落としながら風呂場へと向かう。そんな弟の後ろ姿にゾクゾクとした感覚を腹の
□□□□
「「あ"~~~~………」」
二人揃って間抜けた声を出しながら湯船に浸かる。亮介の身体が大きいためか湯船から溢れ出したお湯がザバザバと音を立てて床にぶちまけられた。
「ふー……さてりょーくんや、今日の学校は如何でしたかな~?」
「んー……特に話すような内容は無いかな……」
「え~? ほんとに~?」
「……あー、黄瀬が来てたなそういえば」
「え、きーくん来てたの? せっかくなら
「俺に用があったのにわざわざそっち行く理由もないだろ、しかも女子校に」
「残念~」
花咲川に来訪した思わぬ客人に驚き、同時に自分には会いに来てくれなかったことに肩を落とすモカ。
自身の身体に背をもたれさせながらしょんもりとした表情をしている姉の頬を指で挟みながら亮介も問いかける。
「そういうそっちは? なんか面白いこととかあった?」
「今日はねー、ひーちゃんがまたコンビニスイーツの食べ過ぎで体重増えたって嘆いてたよ~」
「明日辺り『ダイエットメニュー考えて~!』とか言われそうだな」
「モカちゃんも頑張ってひーちゃんにカロリーを送り届けますかね~」
「カスのイタチごっこやめろよ」
両者一通り今日起こった出来事の報告を済ませ、一息つくように湯浴みを続ける。チャプリ、チャプリとお湯が波打つ音が静かな風呂場に響き渡り、身体に染みついた疲労が湯船に溶け出していく。ふと、亮介がモカの身体をプニプニとつつきだした。
「いやーん、りょーくんのエッチ~。どうかした~?」
「いや、別に」
「ん~? 何か言いたいことでもあるのかね~? 正直に白状したまえよ~」
「……姉ちゃん、ちょっと太」
それ以上セリフは続かなかった。理由を説明する必要はない、何故ならそれは亮介の頬に赤々と刻まれた紅葉が何よりも雄弁に語っていたからだ。
「りょーくんさいてー」
「悪い、ちょっと気になって」
「……そんなに太った~?」
「正確に言えば肉が付いてきたって感じだな。正直姉ちゃんの身体っていつ見ても細くて華奢で少し心配になるくらいだったんだが、今は全体的にムッチリして安心感がある。バンドやってて筋肉が付いたってのもあるんだろうけど二の腕とか脚周りの太さが以前とは段違いで、飯をたらふく食わせてきた甲斐があるなって思うよ。これならライブ中に折れちまうかもなんて心配はもうしなくて済みそうだな。お腹周りはほぼ変化なしなのは流石姉ちゃ」
「ストップもういい大丈夫。それ以上何も言わないで」
「分かった」
(そういえば最近下着がキツくなったような……。ダイエットしなきゃかな~……)
「あ、あと個人的に1番嬉しいのはケツがデカくな」
紅葉が一段と赤みを増した。
「あたしもう出るから~」
「ん、じゃあ俺も出るか」
プリプリと怒った様子で風呂から上がる姉を追いかけて亮介も風呂を出た。余談だが彼はこの後懲りずにモカの腹をつついてしまい紅葉を一枚増やしていた。
□□□□
「痛え」
あの後家族におやすみの挨拶をしてから自室に戻った亮介は姉に叩かれた両頬を
「流石に最後の一言は余計だったか」
そう自らの発言を
反省もそこそこに手持ち無沙汰を解消しようとするが、既に宿題も終わらせてしまっており特にやることもないためベッドに寝転がりスマホをいじり始める。
スマホを開いてすぐ目に入ったのは旧友からのメッセージであった。
「黄瀬からか……」
数瞬後、スマホから「ポコンポコンっ!」と続けざまに通知音が鳴る。
「……っはは」
送られてきた写真を見て思わず笑いが込み上げてくる。
「何をバカやってんだあいつらは……」
そう楽しげに呟きながらタプタプと画面のキーボードを押して返信を紡ぐ。
黄瀬との連絡を切り上げてスマホを閉じる。ベッドから降りて机へ向かい、その上にある一つの写真立てを手に取って物憂げに見つめる。
その中に入っていたのは在りし日の仲間たちとの思い出、全中二連覇を達成した当時撮影した記念写真であった。
「……俺も、頑張るよ」
そう独り言ちて写真を机の上に戻す。なんとはなしに部屋の窓を開けてベランダへ出て空を見上げ、瞳を輝かせる。大空に張り巡らされた夜闇を埋め尽くす程の満天の星々がそこにはあった。それらの星を一つ一つ数えながら彼は呟く。
「いつか俺も、あそこまで」
眠れぬ夜が、今日も訪れる。
2話目を投稿するのに二ヶ月かかってるらしいですよ
以下主人公のざっくりプロフィール
名前:青葉亮介
身長:195cm
体重:120kg
所属:花咲川学園高校1年
ポジション:SF(スモールフォワード)
背番号:6
誕生日:9月3日
星座:乙女座
血液型:A型
座右の銘:ありえないなんてことはありえない
家族構成:父・母・姉・猫2匹
好きな食べ物:姉が作ってくれたもの
苦手な食べ物:特になし
趣味:猫吸い・姉吸い・サブカルチャー全般
特技:肉体操作・Wikipediaのモノマネ
苦手なこと:他人の運転する乗り物に乗ること。変な異名で呼ばれること。
得意科目:特になし
得意なプレイ:特になし
オフの日の過ごし方:主に姉と一緒にいる。たまに関東圏のキセキ達と集まってゲームをしたりしている。
好きな女性のタイプ:姉ちゃん
バスケをはじめたきっかけ:帝光中入学時にバスケ部が強いと聞いて興味本位で
注目している選手:キセキの世代、特に黄瀬涼太
身体能力:10/10 技術:10/10 スタミナ:10/10
特殊能力:10/10 精神力:6/10 合計:46/50
ありとあらゆる分野において文字通り人類最高峰の才能を持って生まれたまさしく『神に愛された男』。そのせいで人生へのモチベーションが著しく希薄で、ほぼ姉と友人のためだけに生きてる状態。重度のシスコン。
めちゃくちゃ顔とスタイルがいい。存在が女たらしみたいな男。参考イメージは五条悟。
「努力と才能」に対しては一見紫原のような考え方をしているように思えるが実は割と黒子寄り。
幼少期のトラウマから眠ると悪夢を見てしまい極度の憔悴状態に陥ってしまうため、一度の睡眠につき五分しか眠れない。五分の睡眠を日に36回取ることで合計3時間睡眠で活動している。
実は死ぬほど乗り物酔いする。復活自体は割と早いが乗ってる間の弱り方が尋常ではない。具体的には乗り物に乗ってる間は黒子にすら力負けするレベル。