絶対絶命
普通に生きているなら、生涯を通しても経験する人は余りいないであろう事。
この言葉を聞いて、人は何を思い浮かべるだろう?
地震や津波などの災害に直面した時?
何人もの人を殺した殺人鬼に遭遇してしまった時?
それも正しいだろう。
しかし、今この瞬間だけは、この男が最も当てはまるだろう。
全身は血の色に染まり、最早出血していない場所を探す方が難しい。
左腕は雷に撃たれた様に焼け爛れ、顔の左側面は凍りつき、目も二度と光を見る事は出来なくなっている。
身体の至る所の骨は砕け、瞬きの間に死んでもおかしくない状態。
しかし、それでも闘争心を尽かさず無事な右手で太刀を握り締め、眼前の敵を睨め付ける。
『■■■■■■■■■ーーー!!!!!』
宙に浮かぶ巨体。
全身の鱗は逆立ち、黒曜石の様な黒い光沢を放つ。
あらゆる属性を身に纏い、ヒトから神と呼ばれる存在。
煌黒龍 アルバトリオン
その身が放つ威圧感は、一般人が居れば呼吸すら難しくなるであろう物。
所々に傷を負い、一対の角の片方は根本から切断されている。
しかし、その生命力に一切の陰り無し。
その目に映る敵を滅さんと、衝撃波を伴う咆哮を轟かせる。
「嫌に…なるなぁ…!これだけやっても…まだ…余裕かよ…!」
男が息も絶え絶えに吐き捨てる様に言う。
わかっていた事だが…!!
生物…いや、存在としての
「まぁ、それが諦める理由にはならんがな…!!」
男が構える。
太刀を鞘に抑え、太刀を握り締め、右肩を前に出す。
居合、抜刀術。男が見せる構えはそう呼ばれるもの。
待つ。
右足の骨は折れている為、下手に切り込むよりもカウンターを狙う。
故に目の前の龍が間合いに踏み込むのを待つ。
狙うは後の先。
折れた右足で地面を踏み締める。激痛を無視し、深く集中する。
無事な左足で体を支える。さらに深く集中する。
龍の一挙手一投足全てを見逃さぬ様見る。
周囲から音が消え去る。
辺りから光が消える。
見えるのは前の龍のみ。
蒼い雷が放たれる。戦闘続行に関わる物だけを迎撃する。左半身に激痛が走る。
地面の岩を溶解させながら炎弾が向かってくる。刀身で軌道を逸らし、致命傷を避ける。右足の感覚が消える。
空気中の水分を全て凍らせながら極大の氷柱が飛来する。右半身を守る様に斬り伏せる。既に感覚を失った左手が千切れ飛ぶ。
痺れを切らした龍が右脚に赫黒い稲妻を走らせながら近付いてくる。
男は直感する。
この攻防が終わった時、自分は既に生きていないだろうと。
そう考えた刹那、左から龍の薙ぎ払いが来る。
ここしか無い、と確信した男は持てる全力の力で踏み込む。
狙うは頸。薙ぎ払いを避けきれずに右脚を持っていかれたが、男はそれを些事として跳ぶ。
ーーー銀閃が光る。
男がこの世界に転生して15年、培った技術、鍛えた力、育てた肉体、その全てを投げ打ち、全力で太刀を振り切る。
「オ、オオ、オオオオォォォォ!!!!!!」
『■■■■■…!?!』
感触は驚く程軽かった。
気付けば男の体は地に伏しており、太刀は半ばでへし折れていた。
男は消えゆく視界の中で龍を探す。
いた。
龍の頸は半ばまで斬れており、断面からは夥しい量の血が吹き出している。
明らかに致命傷だ。その証拠に龍は体勢を崩しかけており、直ぐにでも倒れそうになっている。
(けど…俺が奴の死体を見る事は無さそうだな…)
意識が薄れていく。当然だろう。最早致命傷と言える段階は当に過ぎており、死んでいないとおかしい状態なのだ。
俺は死ぬ。
だけど、奴も死ぬ。
前の世界では何も成せなかった人間が、神とまで呼ばれたモンスターを倒せたんだ。
何事もやってみるもんだなぁってしみじみ思うわ。
そんなことを考えながら、一条彩斗は二度目の生に幕を閉じた。
そして目を覚ますと南極に居た。
はて…?
Fate要素どこ…?
ここ…?