カーストルーム・オブ・ザ・デッド   作:戦竜

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第12話 超越

綾小路たちと、スーパータイラントの戦いが始まった。

 

それは、これまで相手にしてきたゾンビとの交戦とは根本から性質が違っていた。

 

ゾンビは脅威だ。

数が多く、接近を許せば終わる。

だが、動きそのものは単調で、弱点も明確だった。

頭部を破壊する。

それだけで止まる。

だからこそ、冷静さを保ち、射線を整理し、

無駄撃ちを抑えれば、いまの綾小路たちでも対処は可能になりつつあった。

 

だが、目の前にいる怪物は違う。

 

こいつは、考えている。

 

理性があるわけではないのかもしれない。

だが、狙うべき相手を見定め、味方の連携が崩れる瞬間を嗅ぎ取り、

自分にとって有利な間合いと地形を選ぶだけの判断を持っていた。

 

しかも、圧倒的に強い。

 

トレンチコートを脱ぎ捨て、その下から現れた灰色の肉体は、

もはや「怪物」という一言で片づけるには異様すぎた。

膨張した筋肉。

異常に発達した肩と胸。

片腕だけが明らかに大きく変質し、

先端には巨大な鉤爪が形成されている。

皮膚は人間のものとは思えない色と質感をしていた。

灰色。

いや、灰色に見えるのは、もはや血色を失ったというより、

生物としての構造そのものが別物へ変わっているからだろう。

 

その異形が、最初に目をつけたのは――坂柳有栖だった。

 

綾小路はそれを見て、ほんのわずかに目を細めた。

 

予想外ではあった。

少なくとも、最も戦力として脅威が高いのは自分か龍園だと考えていた。

ところが、スーパータイラントの白濁した目は、

真っ先に橋本の背にいる坂柳を捉えた。

 

次の瞬間には、もう動いていた。

 

速い。

 

その巨体から繰り出される突進としてはあり得ない加速だった。

床を蹴った衝撃だけで、足元の埃が弾ける。

一直線ではない。

微妙に軌道をずらし、坂柳を庇う橋本ごと狩るつもりで迫ってくる。

 

巨大な鉤爪が振り上げられる。

 

「チッ!」

 

龍園が舌打ちしながら、すぐさまアサルトカービンの銃口を上げた。

連射。

 

【挿絵表示】

 

乾いた発砲音が廊下へ響く。

狙いは頭部。

一発や二発ではない。

止まるまで叩き込むという意志が、そのまま引き金の速さに出ていた。

 

弾丸がスーパータイラントの頭部へめり込む。

巨体が、ほんの一瞬だけ揺れた。

 

そのわずかな停止を見逃さず、堀北がアサルトライフルを連射する。

ひよりもハンドガンを構え、軽井沢も半ば反射的に引き金を引く。

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

三方向からの追撃。

 

火花のように弾着が散り、スーパータイラントの進行速度がわずかに落ちる。

 

それでも止まらない。

 

頭部を撃たれながら、なお鉤爪は坂柳へ向かって振り下ろされる。

 

しかし、その数秒こそが命を分けた。

 

橋本が叫ぶより先に、身体が動いていた。

坂柳を抱えるようにして、横へ転がる。

 

床へ肩を打ちつける。

痛みはある。

だが、止まるよりはいい。

 

鉤爪が空を裂き、さっきまで二人がいた床と壁を抉った。

 

重い衝撃音。

破片が散る。

 

橋本は、そのまま坂柳の身体を支えながら低く問う。

 

「無事か?」

 

息は少し荒い。

それでも声だけは落ち着かせようとしていた。

 

坂柳は、すぐに答えた。

 

「平気です」

 

その返事は思ったよりもしっかりしていた。

 

橋本が一瞬だけ目を見開く。

坂柳は床へ手をつきながら、わずかに苦笑する。

 

「意外そうな顔をしますね」

「いや……まあ、少しな」

 

橋本が短く返す。

 

坂柳は制服の乱れを最低限整えながら言った。

 

「身体的なハンデがあるとはいえ、

名家の令嬢として必要最低限の手ほどきは受けています」

 

その言い方には、かすかな皮肉が混じっていた。

自分をただの守られるだけの存在だと思われることへの、

静かな抵抗だったのかもしれない。

 

坂柳有栖は弱者ではない。

少なくとも、この学校で生き残ってきた時点で、

単純な庇護対象として見ていい相手ではない。

 

綾小路はスーパータイラントを見ながら、短く呟く。

 

「そうか」

 

なにかを納得した一言。

だが、その一言の中には明確な理解があった。

 

そして次の瞬間、綾小路は衝撃的な言葉を口にした。

 

「あの怪物は山内春樹だ」

 

その場の空気が、一瞬止まった。

 

堀北が真っ先に振り向く。

 

「……は?」

 

軽井沢も目を見開く。

 

「ちょ、ちょっと待って……今なんて?」

 

一方で、龍園とひよりと橋本は、きょとんとした顔をした。

 

「誰だ?」

 

龍園が苛立たしげに吐き捨てる。

 

ひよりも、静かに首を傾げていた。

2年Bクラス以外の人間にとって、

山内春樹という名はそこまで馴染みのあるものではない。

橋本に至っては、坂柳クラスの人間として

綾小路たちの内輪事情まで把握しているわけではなかった。

 

だが、坂柳だけは違った。

 

「ああ……」

 

どこか納得したような声。

 

「やはりそうでしたか」

 

その口元には、皮肉と苦味を混ぜたような笑みが浮かんでいた。

 

堀北が、スーパータイラントから綾小路へ視線を戻す。

 

「どういうこと?」

 

問い詰めるような声だった。

 

綾小路はショットガンを構え直しながら答える。

 

「まだ推測の域を完全には出ない問題もある」

 

そう前置きしながらも、その声音に迷いはほとんどなかった。

 

「だが、あいつは確かに退学した山内春樹だ」

 

軽井沢が、改めて怪物を見る。

 

灰色の皮膚。

肥大した筋肉。

白目を剥いた顔。

もはやまともな人間には見えない。

 

それでも。

 

「確かに……」

 

軽井沢が小さく呟く。

 

「言われてみれば……どこか、山内くんの面影があるかも……」

 

そうなのだ。

 

完全に別物になっている。

だが、顔の輪郭のどこか、鼻梁の形、頬の骨格、

そのあたり元の名残がわずかに残っている。

それが逆に不気味だった。

 

龍園が露骨に苛立つ。

 

「だから山内って誰だよ」

 

その言葉には、知らないことへの不機嫌さがそのまま出ていた。

だが、そこで会話を続ける余裕はなかった。

 

スーパータイラントが、今度は綾小路と堀北を標的として捉え直したからだ。

 

動き出す。

再び突進。

 

広い歩幅。

いや、歩幅というより跳躍に近い。

重い体が前へ出るたびに、床が軋む。

 

堀北が反射的に身を翻す。

 

ぎりぎりで躱す。

髪の先を鉤爪の風圧が掠める。

そのまま彼女は、体勢を崩さずにアサルトライフルを連射した。

 

【挿絵表示】

 

短く、鋭い音。

スーパータイラントの肩口、首筋、そして頭部へと弾丸が走る。

 

綾小路も同時に転がり、床へ片膝をつくような姿勢からショットガンを撃ち込む。

 

轟音。

 

散弾がスーパータイラントの上半身を大きく揺らす。

 

ダメージは入っている。

確実に。

だが、倒れるには至らない。

 

スーパータイラントが、再び坂柳へ視線を向けた。

白濁した眼球が、明確に個人を捉えている。

次の瞬間、低く、喉の奥を擦るような音が漏れた。

 

「……ぁ……り……す……」

 

誰もが、一瞬だけ動きを止めた。

 

風でも、錯覚でもない。

明らかに言葉の形をしていた。

 

坂柳の表情が、わずかに揺れる。

 

「いまのは……」

 

軽井沢が息を飲む。

 

ひよりも、信じられないものを見るように目を見開いていた。

 

スーパータイラントは、再び唸る。

 

今度はより濁り、崩れた音。

 

「ぁ……り……す……さか……や……」

 

完全な発音ではない。

舌がうまく動いていないのか、言葉は歪んでいる。

それでも――

 

確かに、坂柳有栖を呼ぼうとしている。

 

その事実だけは、誰の耳にも明確だった。

 

龍園が低く吐き捨てる。

 

「……気色悪ぃな」

 

橋本の背にいる坂柳は、わずかに目を伏せた。

 

その表情は、恐怖というよりも――どこか納得に近いものだった。

 

綾小路は、動揺することなく怪物を見据える。

 

「間違いないな」

 

静かな断言。

 

「……あいつは山内春樹だ」

 

綾小路はそのままショットシェルを装填しながら、

まるで会話の続きを淡々と引き取るように言った。

 

「1年生の拠点を襲撃した大型個体も、真鍋志保だ」

 

その名前に、今度は龍園とひよりが明確に反応した。

 

「……は?」

 

龍園の目が細くなる。

 

「真鍋……だと?」

 

ひよりも、さすがにその名を知っていたのだろう。

表情が硬くなる。

 

龍園クラスにいた女子生徒。

山内と同じく、退学した者。

その名前と、さっきまで自分たちを追い詰めていた怪物が結びつく。

 

理解した瞬間、背筋へ冷たいものが走る。

 

退学者たち。

ゾンビではない大型の怪物。

そして、その面影。

 

綾小路は、無機質な無表情のまま断言していく。

 

そこに感情の揺れはない。

だが、だからこそ逆にその言葉は重かった。

 

ひよりが問いかける。

 

「どういう、ことですか……?」

 

彼女の声には、静かな混乱があった。

 

だが、その問いへ答えるより早く、

スーパータイラントが今度はひよりへ狙いを変えた。

 

接近。

速い。

 

ひよりは、直前まで会話へ意識を割いていたぶん反応が遅れる。

 

避けきれない。

 

その瞬間、綾小路のショットガンが火を噴いた。

 

至近距離からの一撃。

 

【挿絵表示】

 

スーパータイラントの顔がわずかに揺れる。

 

同時に、堀北がひよりへ体当たりするように飛び込んだ。

二人まとめて床を転がる。

ひよりの呼吸が乱れる。

だが無事だ。

 

堀北が短く言う。

 

「大丈夫?」

 

ひよりは、驚いたような顔で一度だけ瞬きをしてからうなずいた。

 

「……はい」

 

綾小路がショットガンを構え直したまま、短く告げる。

 

「話は、こいつを倒した後だ」

 

龍園がニヤリと笑う。

軽井沢も、震えを押し込みながら銃口を上げる。

 

二人が同時に発砲する。

スーパータイラントは、それをまともに受ける代わりに大きく後退した。

 

次の瞬間、窓を突き破る。

 

ガラスが飛び散る。

破片が光を反射しながら校庭へ散っていく。

 

「逃げた……?」

 

軽井沢が反射的に言う。

だが綾小路は、即座に首を横へ振った。

 

「違う」

 

その目は、砕けた窓の向こうを見据えていた。

 

「自分に有利なフィールドへ移動しただけだ」

 

その通りだった。

 

廊下は狭い。

射線も限られる。

そこでは、綾小路たちの連携射撃が機能しやすい。

 

だが校庭は違う。

広い。

障害物が少ない。

スーパータイラントの機動力と跳躍力が最大限活きる。

 

つまり、あちらはまだ戦う気だ。

 

そしてここで確実に仕留めなければ、次の脱出時に必ず邪魔になる。

 

それはこの場の全員が直感で理解していた。

 

「追うぞ」

 

龍園が短く言う。

誰も異論はない。

 

一斉にマガジンを確認し、交換が必要な者は走りながら交換する。

堀北が手際よくアサルトライフルのマガジンを差し替える。

軽井沢は少し手間取りながらも、自分のハンドガンの装填を済ませる。

ひよりも同様だ。

橋本は坂柳を支え直しながら移動する位置を調整する。

 

そして、一行は校庭へ飛び出した。

 

外気は冷たかった。

 

校舎内の血臭と粉塵に満ちた空気と比べると、

校庭の空気は少しだけ現実味を取り戻させる。

だがその外も、当然安全ではない。

 

砕けた窓の破片が散らばる地面。

遠くでは倒れた校舎の一部。

校庭の端には、まだ動かない死体のような影も見える。

 

その中央付近。

 

スーパータイラントが、堂々と立っていた。

 

待っている。

そうとしか思えなかった。

こちらが追ってくることを前提に、より殺しやすい場所で構え直している。

 

「性格悪いな」

 

龍園が笑う。

 

「上等だ」

 

その言葉が終わるより先に、スーパータイラントは動いた。

 

上へ。

跳んだ。

 

人間の身体能力ではあり得ない高さ。

重力の感覚を一瞬だけ無視したような跳躍。

 

そして、狙いは綾小路。

 

まっすぐ落ちてくる。

巨大な鉤爪が上空から振り下ろされる。

 

龍園が撃つ。

堀北が撃つ。

軽井沢も、必死に引き金を引く。

 

弾は当たる。

だが、今度は止まらない。

 

空中からの一撃は、そのまま綾小路へ届こうとしていた。

綾小路は、ほんのわずかな動きだけでそれを躱した。

 

大きく跳ばない。

派手に避けない。

最小限だけ重心をずらし、鉤爪の軌道の外へ身体を滑らせる。

地面へ着地すると同時に、ショットガンを脳天へ叩き込む。

 

轟音。

 

スーパータイラントの頭が大きく仰け反る。

よろめく。

そこへ、全員の一斉掃射。

 

龍園のアサルトカービン。

堀北のアサルトライフル。

軽井沢とひよりのハンドガン。

橋本まで坂柳を一瞬下ろし、ハンドガンで応戦する。

 

弾丸が降る。

スーパータイラントの全身へ集中する。

 

それでも、倒れない。

一歩、また一歩と踏みとどまり、まだ前を向く。

 

「……っ」

 

堀北が息を詰める。

 

次の瞬間、スーパータイラントの白濁した視線が、再び一点に収束した。

 

坂柳有栖。

 

迷いがない。

まるで他の全員など視界に入っていないかのように、その存在だけを捉えている。

 

「来る……!」

 

橋本が叫ぶより早く、怪物は踏み込んだ。

 

龍園が連射する。

堀北もアサルトライフルで迎撃する。

軽井沢とひよりも必死に引き金を引く。

 

だが――止まらない。

 

弾丸を受けながら、なお一直線に坂柳へ迫る。

 

その軌道を見た瞬間、橋本は躊躇しなかった。

 

「っ、させるかよ!」

 

坂柳の前へ割って入る。

 

その背中越しに、鉤爪が振り抜かれた。

 

鈍い音。

 

次の瞬間、橋本の身体が大きく揺れた。

 

胸元の制服が、一直線に裂ける。

布が裂け、その下の皮膚も同時に切り裂かれていた。

 

「――ぐっ……!」

 

押し殺しきれない声が漏れる。

 

橋本は一歩、二歩と後退し、膝をつきかけながらもなんとか踏みとどまった。

 

血が滲む。

 

だが、致命傷ではない。

傷は浅い。

致命的な深さではない。

 

それでも――

 

綾小路の視線が、わずかに鋭くなる。

 

「……橋本」

 

短く名を呼ぶ。

 

橋本は歯を食いしばりながら、無理やり口元を歪めた。

 

「大したことねえ……かすっただけだ」

 

強がりだった。

 

だが、その言葉を聞いて安堵する者は誰もいない。

 

この場にいる全員が理解している。

 

ゾンビ、そしてこの怪物たちの感染性。

 

どれだけ浅い傷でも関係ない。

 

血が触れた時点で――

 

それはもう、終わりへのカウントダウンが始まったということだ。

 

坂柳が、ほんのわずかに目を見開く。

 

「……橋本くん」

 

その声には、これまで見せなかった種類の揺れがあった。

 

橋本はそれに気づきながらも、振り返らない。

代わりに、再び銃を構える。

 

「気にすんな」

 

短く、吐き捨てるように言った。

 

「まだ動けるうちは、戦えるだろ」

 

その言葉は、半分は強がりで、半分は事実だった。

感染したからといって、すぐに動けなくなるわけではない。

だが確実に、終わりは近づいている。

その現実だけが、静かに全員の胸へ沈んでいった。

 

堀北が悔しそうに唇を噛む。

 

「なにか、決定打が欲しい……!」

 

その通りだった。

 

今の集中砲火は強い。

だが、削るだけだ。

止めきれない。

 

そこで龍園が、ふっと口元を歪めた。

 

「あるぜ」

 

懐へ手を入れる。

取り出したのは、一つの手榴弾だった。

 

普通のものではない。

見た目からして構造が違う。

 

龍園が短く説明する。

 

「特殊な感圧式信管を使ってる」

 

綾小路が一瞬だけ視線を向ける。

理解した。

龍園は、その理解を待っていたかのように笑う。

 

「衝撃に極端に弱い特殊な液体爆薬が入りだ。

外殻が破壊されて内部が露出した状態で強い衝撃を受けると、

一気に連鎖反応を起こす。口ん中に入れて、あとは外殻を撃ち抜きゃいい」

 

それだけで十分だった。

 

「ただし、確実に起爆させるには正確に外殻を撃ち抜く必要があるぜ」

 

射撃精度が、そのままトドメに直結する。

 

「ククッ……気に入らねえが、あの生意気なゴリラの置き土産だ」

 

龍園は長髪をかき上げながら、獰猛に笑った。

 

宝泉和臣。

 

1年生を率いる暴力の塊のようなあの男は、

最後まで2年生を助けるために動いたわけではない。

むしろ利害でしか動かず、必要とあらばこちらすら切り捨てる人間だった。

 

それでも、その宝泉があえて龍園へこの武器を託した。

 

敵対していた相手。

気に食わない先輩。

同じ支配者側の匂いを持つ男。

 

その龍園に手榴弾を渡したという事実は、単なる偶然ではない。

 

宝泉は心のどこかで、龍園の実力を認めていたのだ。

 

誰にでも預けられる代物ではない。

投げ込む胆力と、そこへ繋げる判断力。

そして、相手が確実に仕留めると信じられるだけの

盤面を作れる人間でなければ意味がない。

 

その条件を満たす相手として、宝泉は龍園を選んだ。

 

綾小路は小さく頷いた。

 

龍園が行く。

アサルトカービンを連射しながら、正面からスーパータイラントへ突っ込む。

 

無謀に見える。

だが、それを無謀で終わらせないだけの連携が、いまの彼らにはあった。

 

堀北、ひより、軽井沢、橋本が、龍園に当てないように射線を調整する。

 

頭ではなく、足元。

脚。

爪。

動きを乱すための狙撃。

 

スーパータイラントがそれに反応し、わずかに身をよじる。

痛みなのか、苛立ちなのか、口が開く。

 

その瞬間。

龍園は再び獰猛な笑みを浮かべた。

 

「美味いフルーツやるよ」

 

そう言って、手榴弾をその口内へ放り込む。

 

飲み込むまではいかない。

だが、口の中へ確かに入った。

 

スーパータイラントが反射的に噛み砕こうとする。

あるいは吐き出そうと舌を動かす。

 

そのほんの一瞬が勝負だった。

 

綾小路は、すでにショットガンの照準をそこへ合わせていた。

 

引き金。

轟音。

 

弾丸が、口内の手榴弾ごと撃ち抜く。

 

次の瞬間。

爆発。

 

内部からの炸裂だった。

 

スーパータイラントの頭部が、爆炎と衝撃に包まれる。

外から削るのとは違う。

内側から、完全に破壊された。

 

灰色の頭部はそのまま原形を保てず、爆発とともに粉々に砕け散る。

 

巨体が、ようやく崩れる。

膝を折り、前のめりになり、地面へ沈む。

 

完全に。

動かない。

死亡した。

 

静寂が戻った。

 

誰もすぐには言葉を発しなかった。

 

ただ、目の前の怪物がもう二度と立ち上がらないことを、視線で確認していた。

 

龍園が息を整えながら、短く呟く。

 

「さてと」

 

そのまま綾小路を見る。

 

「どういうことだ」

 

質問は、倒した怪物の正体についてだった。

 

綾小路は一度、小さく息を吐いた。

それはため息に近かった。

 

ショットガンを下ろし、ゆっくりと立ち上がる。

その無表情のまま、スーパータイラントの死骸へ一瞬だけ視線を落とし、

それから仲間たちを見た。

 

「大型クリーチャーの正体は」

 

そこで区切る。

 

「この学校の退学者たちだ」

 

軽井沢が、もう一度怪物を見る。

 

堀北の目が細くなる。

ひよりは息を飲み、橋本は黙って聞く。

龍園も今度は茶化さない。

坂柳だけが、すでにその答えへ辿り着いていた者の顔をしていた。

 

綾小路は続ける。

 

「この怪物が最初に坂柳を狙った理由は三つ考えられる」

 

坂柳が静かに目を伏せる。

 

「一つは、山内春樹がクラス内投票で坂柳に裏切られ、退学へ追い込まれたこと」

 

それは事実だ。

2年Bクラスの内輪の事情であり、外部の者には分かりづらいが、

坂柳有栖が山内春樹を切り捨てる形になった経緯は確かにあった。

 

「もう一つは」

 

綾小路の視線が、砕けた頭部の残骸へ落ちる。

 

「顔やさっきの声に、山内の面影が残っていたことだ」

 

完全に変貌していても、元になった人間の痕跡が消えきっていない。

それが坂柳への執着に繋がっていた可能性は高い。

 

「そして三つ目」

 

綾小路の声が、わずかに低くなる。

 

「この学校の闇そのものだ」

 

誰も口を挟まない。

 

「優秀な人材を育成する学校」

 

そう言ってから、少しだけ間を置く。

 

「それと同時に、ゾンビの発生源であるウイルスの大規模感染。

それに対応するために月城が複数用意していた武器庫」

 

そこまで並べれば、答えは一つしかない。

 

「ここから導かれる結論は――」

 

綾小路は、あまりにも静かな声で言った。

 

「この学校は、優秀な生物兵器を生み出す教育機関でもある」

 

風が吹く。

 

校庭の空気が、さっきまでとは別の冷たさを帯びたように感じられた。

 

誰もすぐには反論できなかった。

 

あまりにも突飛だ。

だが、ここまで見てきたものを並べれば、逆にその結論以外が不自然だった。

 

退学した生徒。

武器庫。

月城の存在。

ゾンビと大型クリーチャー。

 

学校。

試験。

教育。

 

そのすべての裏で、別の「育成」が行われていた。

 

それが、いま目の前にある真実なのだと。




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