ガールズ&パンツァー Interview Log ~戦車道少女たちの記録~   作:Colonel.大佐

16 / 16
File15 サンダース大付属高校 ナオミ

サンダース大付属高校 ナオミ

〔サンダース大付属高校在学時には短くなっていた髪もすっかり長くなり、彼女の佇まいは当時と比べると一際変わっている。サンダース大付属の副隊長を任され、その正確無比の射撃から幾多もの学校から恐れられた彼女は、現在はサンダース大付属の片隅にあるダイナーで働いている。しかしつい最近になり戦車道の日本代表メンバーとして選抜され、今後は練習スケジュールに追われながらも新たなステージに向かって前へ進む予定だ。取材場所となった閉店後のダイナーのカウンターで、彼女は当時を懐かしむように高校時代の思い出を語った〕

 

 サンダース大付属に入ってからシャーマン戦車は一通り乗ったけれど、その中でも一番良いと感じたのは愛車だったファイアフライだ。英軍に貸与されたシャーマンのうち、ドイツ軍の重戦車に対抗するべく改造を施された車両で、17ポンド砲を搭載した最強のシャーマン戦車。ヴィットマンのティーガーⅠを撃破したのもこのファイアフライだと言われている。

 攻撃力は抜群で、大抵の車両なら弱点を突けば撃破も出来た。サンダース在籍中に黒森峰のパンターやティーガーⅡを撃破できた事もあったし、大体の戦車なら弱点を狙わずとも当てさえすれば正面でも側面でも撃破できるくらいの威力もあった。だからこそサンダースでは切り札として重宝された。さしずめ通常のシャーマンが「盾」とするならファイアフライは「槍」だ。

 もっとも、ファイアフライの難点はその攻撃力の高さにもある。17ポンド砲の威力は驚異的で、装甲に秀でている戦車を揃えたチームでもそれは大きな脅威で、どの試合においても恐れられて、同時に憎まれた。最優先目標としてフラッグ車の次に襲われる事も多かったから、その点は戦争と戦車道もそう変わらない。

 ただ、私はこれを欠点としてではなく長所と見る事にした。探さなくても向こうの車両はやってくる、狙われるからこそ叩き潰せる、生き残らなきゃいけないからこそ頑張れる。サンダース大付属のシャーマンの中でも異端児であるファイアフライを操り、1両でも多くの車両を撃破する事が最善の方法だった。

 そして、砲手として照準器を覗きながらの戦車道を続けていくうちに、気がつけば副隊長になっていた。

 

 ――どうして車長にはならなかったのですか?

 

 まあ、色々ある。

 ファイアフライの砲手として“槍”になったからには指揮に集中しすぎて狙撃を疎かにするという行為は何としてでも避けたかったし、それにファイアフライのメンバーはいつも固定で長らく同じ車両で苦楽を共にしていたチームメイトだったから、安心して任せられたという事もある。

 それに、私が直接隊長からの指示を遂行する時は簡潔に指示を飛ばすだけでもチームメイトはファイアフライを正確無比に操縦させてくれた……つまり全ての歯車がピッタリとかみ合ってるから、私は車長になる必要もなかったし、チームそのものが完璧な戦車だったから、誰が車長であるべきだとかそういう話じゃない。

 

 ――副隊長への抜擢にはどういう経緯がありましたか?

 

 それについては単純に隊長から信頼を置かれていたからだろう。

 ファイアフライに搭乗する前から、たまたま砲手の試験で好成績が出たから隊長の目に留まって「隊長職のサポートをしてもらいたい」って誘いがかかった。それから1、2ヶ月ほど補佐をしていたら正式に副隊長としての辞令が届いた。そんな感じ。

 でもサンダース大付属は大世帯で、車長だけでも相当な数の選手がいる。副隊長の仕事も楽ではなくて、隊長と副隊長の2人体勢ではどう考えても部隊運用に限りが見えていたから、その後で偵察や情報収集に長けてる選手の中からアリサを抜擢して副隊長2人・隊長1人の体勢に切り替えた。あまりドラマチックな話じゃなかったけれど。

 とはいえ3人体勢の指揮になっても強豪サンダースはいつもと変わらずと言った感じだった。アリサの手腕で勝利を手にする場面は増えたものの、あれは後々に問題を呼んだし、さすがに物量か質で攻める学校相手には苦戦を強いられる事も多々あった。だからこそ色々な好敵手と巡り合う楽しさもあったけれど。

 

 ――ライバルになる選手がいたと?

 

 それはもう。

 撃破スコアは伸びに伸びていたけど、それでも高校の戦車道では全国一とまではいかなかった。大抵、そのスコアを競うように色々なチームにライバルがいた。

 記憶する限りで、私のライバルに値する選手は2人いた。その中の1人がプラウダ高校の副隊長だったノンナだ。

 彼女の乗車はIS-2。重戦車であるがファイアフライとコンセプトは同じ、ドイツ戦車の強固な装甲を撃ち抜くための切り札。T-34が中心のプラウダでも極めて異質な存在。だからこそ共感する部分も多かったし、彼女もまた砲撃における比類なき精度で砲手としての名声を常に轟かせていた。

 使っていた戦車と比較して私とノンナを「西と東のスナイパー」何て呼ぶ娘もいたけれど、そう言われるのも無理はなかったし、どちらが砲撃において上なのか、その頂点を極めたくて戦ってみたいという気持ちもあった。

 幸いにも在学中に直接対決した事がある。プラウダとサンダースとの練習試合で、あのIS-2と直接対決した事はあった。両校が持てる最大の戦力をぶつけ合った大乱闘だったけど、その中で私のファイアフライは確実にIS-2を見つけ、また、向こうもこちらを見つけてぶつかって来た。

 砲撃の精度は確かに凄まじかった。私もあと一歩の所だったけれど……結果はドロー。最終的にどちらが最強か、白黒をつける事は出来なかった。

 そして、もう1人は大洗女子学園の五十鈴華。

 彼女については、当初は謎が多かった。まずアリサが入手した情報では、例の四号戦車に搭乗している選手の一人で、最近になって結成された大洗女子学園の隊長車に乗っている……これだけの情報だった。でも、華道について造詣のある後輩の一人がこう指摘した。「華道でも有名な家元の子女なのでは?」って。もっと詳しく調べてみたらその通りだった。でも何でこんなお嬢様が戦車道なんかに?とにかく、彼女に関しては殆どノーマークだったけけど隊長車の乗員なら警戒にこした事は無いとした。少なくとも、西住流家元の娘が指揮している車両は前の聖グロリアーナとの試合では圧倒的な撃破スコアを有している。

 そして、例の全国大会一回戦目だ。

 私の乗るファイアフライはいつものように獲物を探して走り回っていた。もっとも、あの時はアリサの“女の勘”が悪い方向へ働いていた。無線傍受の件を逆手に取られて、ワンサイドゲームで終わる筈がそうはならなかった。1両撃破、さらに追い討ちをかけるようにフラッグ車が大洗女子の本隊に追い回された。それでも車両総数は優勢だったが、ケイは自らのスポーツマンシップに則って、この反則の穴埋めをするみたいに同数車両での戦いに試合をシフトさせた。

 それでも、私はこの試合に勝つ気は満々だったし、負けるつもりも無かった。後方からフラッグ車を追う主力を追撃し、大洗の車両をファイアフライで1両ずつ喰っていった。八九式中戦車、M3リーは行進間射撃だったけれど、上手い具合に当てる事が出来た。これで3対5、後はいかに逃げる相手を仕留めて行くかにかかっていた。

 そこで、彼女たちは博打に出た。四号戦車で危険な位置まで移動し、そこからフラッグ車を仕留めるという作戦だ。四号戦車はまだ戦力として脅威だったが、四号が撃破された時点で大洗の戦車は三突と38(t)のみになる、そうなるとこの数の差をひっくり返すのはまず無理な話だ。そこで、あえて撃破されて巻き返しが出来なくなる危険性を冒してでもフラッグ車を一発で仕留めるという博打に出た。

 リスクに高い賭けに出てまで勝利を掴もうとするその姿勢も気に入ったけれど、この状況は同時にサンダースの敗北という危険性もはらんでいた。だからこそ、その逆境に燃えている自分もいた。ケイから四号の攻撃を任されたのはまさに思ってもいないチャンスだった。

 チームの「槍」として前に出た四号と、同じくサンダースの「槍」として後を追うファイアフライ。似たもの同士の対決だ。

 その後ろ姿を照準に捕らえ、ファイアフライは主砲を発射した。そのわずかな瞬間を捉えた四号が、砲撃を回避した瞬間に思わず舌打ちしていた。こっちの予想は当たっていた。この四号はやる、西住流によって鍛え抜かれた精鋭だってね。

 急いで次弾が装填される中、四号は射撃ポジションへ付いた。タレットリンクが回り、砲塔がフラッグ車を捕らえようとしていた瞬間に次弾が装填され、四号の車体後部に穴を開けた。

 撃破判定の白旗が上がり――博打は見事に成功をした。あのタイミングの1発勝負、負けるか勝つかの瀬戸際というプレッシャーを物ともしないような、驚異的な一撃。

 

 ――あの勝負は見ていました。さぞ惜しかったでしょう。

 

 惜しい……まあ、そういう気持ちもあった。

 負けて悔しいのは当たり前で。勝利は何事にも変えられないし、敗北ほど苦い屈辱はない、勝負の世界ではごくごく自然な事だ。

 だが、あの時は両者とも出せる限りの全力を以って最後の一瞬に望んだ。その最高の瞬間に立ち会った以上、負けだろうが勝ちだろうが気持ちよい事に変わりは無い。全力で戦いに望んで、全力で戦って出た結果だ。負けても悔いは無い試合だった。

 試合が終わった後になって、ようやくあの四号の砲手が誰であったか知る事が出来た。その人こそが、彼女だった。

 確かにミスショットもあるし、前の試合映像ではチャンスを逃した場面もあった、だが、その後の四号戦車の撃破スコアで驚異的な数字を叩き出したのは他ならぬ彼女の砲手としての功績と見ていいだろう。そんな逸材の砲手――好敵手に値する名手と、思わぬ形とタイミングで巡り合えたのは奇跡だと言ってもいい。

 会って話をする機会こそ少なかったが、後になって彼女の口から思いもよらない話を聞けた。砲手を始めたのはあの試合前の、ほんのわずかな期間のみ。それでも、砲撃の基礎知識を西住流から習った彼女は仲間との練習に励んだ僅かな時間でノウハウを築きあげた。

 そして、彼女は砲手としての器量の他に度胸も持ち合わせていた。砲手は射撃のセンスの他に、いかなる状況においても取り乱さず、プレッシャーや一刻も早く撃ってしまいたいという焦りとも戦わなければならない。彼女はそうした焦りや恐怖心やプレッシャーを全て抑えるだけの強い気力と度胸が備わっていた。曰く「華道で培った集中力があればこそ」だそうだ。その意味では華道という意外な部分で培った才能が生きたと言える。

 今思えば、彼女との直接的な対決も未だに適っていない。出来る事なら彼女の乗るあの四号と、今度は直接対決してみたいものだが……選抜チームに入った今なら、可能性としては無くはない。その時が来るのを楽しみに待ちたいな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。