ガールズ&パンツァー Interview Log ~戦車道少女たちの記録~ 作:Colonel.大佐
大洗女子学園 角谷杏
〔第63回全国大会においてはプラウダ高校への堂々たる立ち回り、そして決勝戦におけるマウス撃破に貢献した大洗女子学園戦車道 ヘッツァーこと“カメさんチーム”の車長であった角谷杏選手。現在は戦車道とは関係の無い人生を歩んでいるが、それでも当時の選手仲間達とは頻繁に連絡を取り合っているという。幼さの残る顔立ちに飄々とした語り口、そして華奢な風貌から、彼女が大洗女子学園を引っ張り続けてきた生徒会長にして、あの大洗女子学園の戦車道再生の立役者であった事を想像するのは難しい。彼女は当時の事を懐かしげに、そして誇らしげに述懐していく。〕
あの頃は学園艦の統廃合に関する通達が文科省から出ていてね。実績も無く生徒数も少ない学園艦は廃艦にして統廃合するって案が学園艦教育局から出されていて、あたし真っ先にこう思ったね『ああ、ついにウチにもやって来たな』って。あの時の私は大洗女子学園の生徒会長を勤めていたんだ、生徒からの支持や投票もあったけど、実際は私が何でも出来るからって押し付けられた仕事だったけどね。でも生徒会長の仕事を始めてやっと現実が見えてきたんだよね、この学園艦は近い内に無くなるって。
生徒の数は年々減っていて、卒業していく数よりも入ってくる人数の方が少ないし、特に実績らしいものも無い。何か秀でた学科があるわけでもないし、著名人を排出した学校でもないし、何よりも突出するような特徴が欠けている。要するに「解体するならまずこの学園艦」と言われても仕方ない存在って事。
それに気が付いて、私は皆と一緒に頑張ってこの学園艦を残していこう、そう考えて色んな事を実行させてきた。それでも学園艦の教育局から派遣された担当官は、あっさりとあたし達の学園艦を潰すと話を持ち掛けてきた。
あの場には副会長と小山と広報の河嶋がいた、2人とも納得がいってなかったのは目に見えて明らかだったけど、私はその事実を聞きながら必死に廃校を阻止する方法を模索していた。担当官の口調は事務的で淡々として不愉快極まりなかったけど「昔は戦車道が盛んだった」という言葉に私はピンと来ていた。
だからこう切り返した…「戦車道の優勝校を廃校にはしないよね?」って。
私もニュース記事で世界大会を控えて文科省が戦車道の興隆を行おうと色々な活動を行っているという話は聞いていた。なら、その話に乗っかって「全国大会優勝」という文字を引っさげて学園艦の廃校を防ごうじゃないか、って事で私は戦車道の復活を目論む事にしたわけ。河嶋も小山も最初は無理だの何だの言っていたけど、廃校という大問題を前に2人とも腹を決めて、戦車道を復活させて全国大会で優勝しようという目的を掲げた。ちょうどその年、大洗に西住ちゃんが転校してきた。
――西住みほ選手の事ですか?
そうそう。
私も事前に情報は掴んでいたよ。何しろ戦車道の名家の出身で、あの黒森峰から転校してきた強い助っ人!戦車道の経験者皆無の大洗女子学園にとって心強い味方!書類に目を通しながら西住ちゃんのプロフィールを読み流して、私は廃校の阻止は夢物語じゃない事を核心した。したんだけど……実際に会ってみての第一印象は「本当にこの子が?」って感じだったんだよね。
おどおどしていて引っ込み思案で、本当に黒森峰で副隊長を務めていた子なのかって思った、本当は書類のミスなんじゃないかって思ったくらいだけど、情報通り本人である事には間違いなかった。
でもあの時の私に対する反応は妥当だったかもね。何しろ転校する前に黒森峰でトラウマを作っちゃって、それを気に戦車道から足を洗って、わざわざ戦車道のないうちにやって来たんだから。逃げ込んだ先で生徒会長から「戦車道をやれ」って言われたらああいう反応が返ってくるのは当然の事だったんだんよね。
そこから先、私はどうやったら西住ちゃんが戦車道をやってくれるのか、色々と考えてみたんだ。特典を付けるとか「戦車道はいいですよー」ってプロパガンダを打ってみるとか……あれでも全然人が揃わなかったんだけど……それでも西住ちゃんは頑なに戦車道を選んでくれなくてね。
で、あんまりやりたくない作戦を決行する羽目になった。
――やりたくない作戦とは?
あたしらが悪役になるって事。西住ちゃんにとっても辛い事だし、私達も正直気の進まない話だったけどね。どうせやるなら皆楽しく仲良くやるのが一番でしょ?だからあんまり選びたくない方法ではあったけど。
最終手段として生徒会室へ直々に呼び出して最後の揺さぶりを掛けるに至ったけど、嬉しい誤算だったのは西住ちゃんに同伴者がいた事だった。
もちろん資料や事前情報でその同伴者が誰だか解っていた、武部ちゃんと五十鈴ちゃん、西住ちゃんのクラスメイトで、多分、転校して初めて出来たであろう友達。その2人が私に対して躊躇い無く食って掛かって来たのを見てイケると踏んだ。
西住ちゃんの根幹であるトラウマを断ち切ってくれたのはあの2人だったし、西住ちゃんが戦車道を選ぶ切欠にもなってくれた。生徒会室で「戦車道やります」の言葉を西住ちゃんの口から聞いた時、私はようやく最初の関門をクリアしたと核心した。これで廃校を阻止できるって。西住ちゃん含めて、人はそんなに集まらなかったけど戦車道を希望する生徒もそこそこ集まったし。
まぁ、そんなの後に続く色んな難題に比べたら屁でもない問題だったんだけどね。
そもそも戦車が無かったし。
――全国大会では8両も出場していましたが……
ああ、あれ?
あれは学園艦で昔使っていた奴。まだ昔、戦車道が盛んだった頃に大洗女子学園が保有していた戦車の余りなんだよねー。
昔にも学園艦で運営危機があったらしくて、経済的な理由で強い戦車は軒並み売られてなくなっちゃったんだよね、後で情報を確認してわかったんだけど。で、西住ちゃんが戦車道やるって事になったんで始めようと思ったら、ガラクタばかりの薄汚れた格納庫に四号戦車が1台あるだけでねぇ……
戦車探そうか、って感じで早速集まってもらったみんなに戦車探しをしてもらった結果、たった5両がそこら中からスクラップ同然で見つかっただけ。四号に三突にM3リーに38t、八九式っていう、てんでバラバラの編成だったんだよね。昔に戦車道をやっていた時はどんな感じだったのかな。
ま、こりゃ無理そうだなって素人目にも解ったんだよね、幾らなんでもこれで全国大会を勝てる訳がない。でも新しく戦車を買う余裕も無いから当面は限られた戦車で戦うしかない、本当に参ったねあれは。
でもモノは試しって事で、私のツテで自衛隊から教官を呼んでもらって一から戦車を動かそうって事になったんだけど……いやー、まさかあんな事になるなんて。またしても誤算が……
――「あんな事」とは、何かあったんですか?
その時の教官が物凄い大雑把な人でねぇ……何かと説明に擬音が入るし「ガーっとやってドーンと撃てばどうにかなるでしょ」みたいな事しか言わないし……いや、後々しっかりした講義とか質疑応答とかあったよ?ただアレを最初にやらされた時に「あー、これはやっちゃたかなー」って感じはしたけど。
しかも基礎訓練や基礎講習からやると思いきやぶっつけ本番で試合!本当に無茶な、と思ったけど西住ちゃんの手助けもあったし、みんな自力で戦車を一生懸命に動かして何とか試合に持ち込めたよ。素人同然の集まりであの一歩を踏み出せただけで「やった!」という感じがしたけどね。更に西住ちゃんの強さというのもあの試合で確認できたわけだし。
今思えばみんなはよくやってくれた。もちろん一緒に戦ったあの戦車達も込みでね