ガールズ&パンツァー Interview Log ~戦車道少女たちの記録~   作:Colonel.大佐

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File04 聖グロリアーナ女学院 ダージリン

聖グロリアーナ女学院 ダージリン

 

〔待ち合わせとなった喫茶店にて私は彼女――聖グロリアーナ女学院戦車道の元隊長、ダージリンと呼ばれた女性と会う事が出来た。規律と美しさに溢れた騎士道精神ある戦車道を推し進めていた聖グロリアーナを体現するかのような上品な物言い、ときおり柔和な笑顔も覗かせるが、節々に毅然とした空気が滲み出ている。聖グロリアーナを卒業した後は、彼女もまた他の選手達と同じくプロの戦車道へ身を投じる道を選択した1人である。彼女は無冠の強豪とも言われる聖グロリアーナ戦車道の歴史に名を残す偉業を達成した人物でもある。黄金期の大洗チームを唯一敗北へ追い込んだ、ただ1人の指揮官なのだ。〕

 

 ある日、いつものようにアッサムとオレンジペコと共にお茶をしていた私の前に、電話が鳴りましたわ。

 電話の主は大洗女子学園の生徒会広報。話の内容は「戦車道を復活させたので貴校と練習試合を行いたい」というもの。サンダースやプラウダのような学校なら、まず断りを入れるような無名校からの試合の誘い。しかし我が校は学校は受けた勝負には逃げないのがモットーで、大洗女子学園から練習試合の申し込みに私は了承の返事をしましたわ。

 相手は最近になって戦車道を復活させた無名校、練習試合とは名ばかりの練習にすらならない試合になると誰もが思っていましたわ。すぐに編成表を作り、相手校に連絡を入れて、戦車を整備して優雅に紅茶でも飲みながら待つ。ただそれだけ……

 もちろん我が校の隠し手は使わないで、使用する戦車はやや低速(※1)のチャーチルやマチルダのようなオーソドックスな一軍戦力のみ、ちょうどいい機会だからと1年生や2年生を中心に経験の浅いメンバーを連れていって、その日の午後には勝って帰る。あの時は「戦車道を始めてすぐの素人相手で特に何もしなくても勝てるだろう」と踏んでいた……

 

 ――実際はどうでしたか?

 

 ほとんど私の予想通り。

 ピンク色に塗装されたM3リー中戦車に、ソ連軍の戦車のようにスローガンを書いた八九式中戦車……確か「バレー部復活」と書かれていたような。それに、金色に塗装された38t、目立つ幟を付けて派手な塗装を施された三号突撃砲……あれでは「私を撃ってください」と言っているようなもの……その時点で「大洗は素人の集まり」という疑念は確信に変わりましたわ。彼女たちは戦車を知らない、戦車道に関しては無知に等しいと。

 試合で撃破される事前提の塗装に対して、誰もそれに気が付かないし、それに異を唱えていない。この試合は確実に勝てると踏んだわ。

 それから試合が開始され、私は全員に前進を命じた。ちょうど四号戦車が遠距離から砲撃を開始し、撤退を始めた辺りで「これは囮を利用した罠である」と即座に見破り、あえてその罠に頭からはまる事を選択しましたわ。相手の砲撃は当たらず、目だつような塗装は格好の的になり、待ち伏せ場所をやすやすと突破した私達はそこで信じられない光景を見た……自らの戦車を見捨てて逃げるチームを。

 戦車内部はカーボンでコーティングされているから安全な事に変わりはない、こちらの主砲の威力を考えても、被弾で行動不能になっても乗員はかすり傷一つ負うことも無い筈……それなのに彼女達は車両を放棄して逃げ出す事を選択したの。戦車道で一番してはいけない愚かな行為。ここまで来ると呆れを通り越して哀れみすら浮かんでしまったわ。でも試合において手加減は無用、私の号令と共にM3リーは撃破された。紅茶を飲みながら、私は勝利を確信していた……

 この時点で38tも履帯が外れて行動不能に。残るは3両、こちらは5両。数では完全にこちらが優勢になったわ。でもこの瞬間から、相手チームに動きの変化が現われ始めた……そう、具体的に言うと動きに戸惑いが無くなったの。今までバラバラで言う事を聞いていなかったチームが纏まって行動を開始した。その時点で、この迷走する状況を打破するべく指揮系統が誰かに引き継がれた事は明白。市街地へ撤退し、形勢を立て直そうとする大洗女子学園の本隊を追跡する事にしたわ。

 私達が前進を開始する後ろでは、38tから脱出した大洗の生徒会広報……後で聞いた話では“副隊長”が何か喚きながら外れた履帯相手に格闘をしていて、私はこれなら放って置いても害は無いだろうと判断した……実際、私の判断は半分間違いで半分正解だったわ、この話は後々語るとして……

 大洗の市街地に追いついたのはいいものの、相手は市街地の入り組んだ路地や住宅街に逃げ込みこちらは不利。そこで私はひとまず市街地への突入を中止して地図を確認、マチルダを先行させて相手の出方を伺った。これなら存在も出さずに一方的に撃破できるだろうと思ったわ、でも。

 

 〔彼女は紅茶を一口啜り、カップを置く〕

 

 私に紅茶のカップを割らせたのは彼女達が初めてだった……先行した仲間のうち、1両が餌食になって、もう1両は燃料タンク破壊という損傷を受けた。素人相手にここまでやられたのは私達のミスか?いえ、あれは彼女たちの戦車道に対する非凡なセンスの片鱗だったわ、指揮官は手ごわく、彼女たちは戦車道に対する才能があると。

 ただし、戦術はまだ未熟で迷いがありましたわ。生き残った三号突撃砲、八九式は苦も無く撃破でき、私は生き残った四号戦車を追い掛け回した……全力で。

 工事現場という袋小路に追い込んで、キューポラから身を乗り出した私は始めてそこで、試合中の隊長の顔を見ましたわ。追い詰められた事に対する焦燥感、それでも瞳の中に見える闘志。彼女が歴戦のつわものであった事は間違いなく、それでも私は最後のトドメを刺そうとして……そこへ、あの38tが履帯を修理して現われた。

 結論から言えばあの38tは至近距離から砲撃を外し、一斉射撃で撃破されましたわ。でもその一瞬の隙が追い詰めた四号戦車に反撃のチャンスを与えてしまった。たちまち1両が撃破され、私は再び四号戦車を追いかけたわ。

 私の前を先行していたマチルダが全て撃破されるのを目撃した瞬間、私はこう思い知らされた……相手は素人ではなく、追い詰められた狼のように獰猛なベテランだと。

 あの突撃を見て私は即座に、この突撃がチャーチルの側面をついた奇襲攻撃になると判断した。それから直ぐにアッサムに砲塔を回転させるよう命じた。刺し違える覚悟があるのなら、こちらも応じるまで。決着を付けるなら今しかない、と。

 間違いなく狙ってくるのは側面、先ほど打ち込まれた被弾跡。砲塔を旋回させながらその瞬間を待ち、砲声が鳴った。

 

 〔彼女はまた紅茶を啜る、口元に微笑みを浮かべながら、カップを再び置いた〕 

 

 紙一重の差で私達のチームが勝利したわ。

 もしあの場面で私の読みが外れていたら、チャーチルは撃破され、私は学園艦に「戦車道を始めたての無名校と戦って敗北した」という汚名と共に帰還する事になっていたでしょう……あれほどまでの接戦は今まで経験した事が殆ど無い、まさに名勝負でしたわ。

 それから私は考えを改めて彼女達にもう一度挨拶をしようと顔を出した、その時はじめて、あの四号戦車の車長であり隊長がみほさんだと知りましたわ。彼女の姉……まほさんとは今まで試合で幾度と無く戦ってきたけれども、彼女の戦い方はまほさんとはまるで正反対で……

 それから私は、彼女たちを好敵手として認めましたわ。紅茶を送り、またいつか試合で再戦しようとも。

 聖グロリアーナはありとあらゆる学校と対戦したけれど、少なくとも当時全盛にあった彼女たちに勝てたのは私達だけ。全国大会優勝のトロフィーこそ取れなかったけれども、だからこそ私は胸を張って言えるわ、あの勝利こそが一番の栄光だったと。

 

(※1……チャーチル、マルチダ共に低速の戦車であるが聖グロリアーナは一部エンジンに改良が加えられている)

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