美少女しかいない部活で、部員全員から「私だけは味方だからね」と耳打ちされたんだが 作:古野ジョン
部内における俺の役割は「雑用」に近い。機材を手入れしたり、パソコンで書類を作成したり。もともと機械いじりは得意だし、朗読やアナウンスに興味があるわけでもなかったから、部活での時間はそういう作業に費やすことがほとんどだった。
今日はブース内のパソコンに向かい、ひとりで黙々とデータの整理をしている。何年も使っているものだから、定期的に容量を開けないと動作がすぐ重くなってしまうらしい。
「お疲れ様でーすっ!」
「あらひまりさん、お疲れ様」
元気よくドアを開いた愛宕に対して、窓際に立っていた瀬峰が返事をしていた。一方で、その近くの椅子に座る志津川先輩はなんだか難しい顔をしている。
「あれーっ、優花センパイどうしたんですかっ? 可愛い後輩が来ましたよ~っ?」
「ああ、ひまりちゃん。ごめんね、ちょっと先生方に頼まれたことがあって」
「えっ、まさか……!? あたしたちの美声を見込んで学園アイド――」
「百年早いわよ」
「いでっ!!」
瀬峰のデコピンを食らい、愛宕はわざとらしく額を押さえて痛がっていた。属性違いの美少女が集まってるし、フリフリの衣装を着せて踊らせれば人気が出そうな気はするな。……絶対怒られるから言わないけど。
「それで、結局なんなんですか~っ?」
「ああ、えっとね……」
愛宕の問いかけに、志津川先輩が改めて説明を始めた。俺もさっきからパソコンの画面に集中してたから、先輩と瀬峰が何の話をしていたのか把握してないんだよな。でもまあ、多分関係ない話だろ。俺は作業に戻るとするか。
「……必要な機材があって……部室棟の方に行かないといけなくて……」
不要なデータをごみ箱に移動させている間も、志津川先輩の言葉が断片的に耳に入ってくる。詳細は分からないが……どうも、先生方が放送部の機材を借りたいという話らしい。しかしスタジオ内を探してみても該当するものが見つからない、とのこと。
「あたし、まだ部室棟の場所とか分かってなくて……」
「すいません優花さん、私もあまり行ったことがなくて……」
「大丈夫よ~、私が部室棟まで行ってくるから」
どうやら志津川先輩が一人で探しに行くことになったようだ。部室棟ってのは……たしか文化部が使う建物だよな。放送部は例外的にスタジオで活動しているから、部室棟の部屋はただの物置として使っていると聞いた気がする。
「優花さん、ひとりで大丈夫ですか?」
「そうですよ優花センパイ、ついていきますよ」
背中越しに三人の会話が聞こえてくる。愛宕と瀬峰が先輩のことを心配しているらしい。まあたしかに、一人だけだと大変そうだよな。
「ありがとう。でも大丈夫よ、だって――」
「へっ?」
――気づいた時には、左肩を掴まれていた。不意打ちされたような気分になり、思わず後ろに振り向く。するとそこにいたのは、柔らかな笑みを浮かべた志津川先輩だった。
「雅くん、一緒に行きましょう?」
「へっ?」
「やっぱり男手も必要だと思って。いいかしら?」
言われてみれば……俺が行かないのも変な話だよな。重い物を運ぶ必要もあるかもしれないし、ここは手伝った方が良さそうだな。
「分かりました。お供します」
「良かった~。じゃあ二人とも、お留守番よろしくねっ」
先輩に手を引かれるまま席を立ち、出口の方に向かって歩きだす。データの整理はまたあとにするか。今はさっさと探し物を――
「待ってくださいっ!!」
「ん~?」
不意に聞こえた声に、俺と志津川先輩が同時に振り向いた。そこにあったのは、少し俯きながら俺たちをじっと見る瀬峰の姿。
「どうしたの~、咲季ちゃん?」
「な、なんで遊佐くんと二人で……」
「え~? 力仕事を手伝ってくれる人がいた方がいいでしょ?」
志津川先輩がニコッとほほ笑んだのと対照的に、瀬峰はなんだか不満そうな顔をしている。そばで見ていた愛宕はというと、きょとんとして二人の顔を交互に見ていた。
「じゃあっ、そのっ……」
瀬峰は口をもごもごとさせ、言葉に詰まっている。しかし、開き直ったかのように顔を上げて――大きい声を張り上げた。
「やっ、やっぱり先輩にそんなことさせられませんっ! 自分が遊佐くんと行きますっ!」
「あら~」
「えっ?」
「さっ、咲季センパイ!?」
志津川先輩は「参ったわね」と言わんばかりに頬に手を当て、愛宕は驚いたように目を見開いた。こうして、仕事(あるいは俺)の押し付け合いが始まったのであった……。