美少女しかいない部活で、部員全員から「私だけは味方だからね」と耳打ちされたんだが 作:古野ジョン
瀬峰はじっと俺たちのことを見つめている。一方の志津川先輩はというと、いつも通りに穏やかな笑みを浮かべている。
「だって、咲季ちゃんは部室棟のことなんか分からないんでしょう?」
「そっ、そうですけど……行ったこと自体はあります!」
「無理しなくていいのよ~、ねえ雅くん?」
「は、はあ……」
どうして瀬峰が急に意見を変えたのかは分からないけど……こっちとしては早く用事を済ませたいだけなんだよな。案内してくれるなら誰でも構わないし。
「いやっ、でも……! 優花さんをあんな埃まみれなところに……!」
「いいえ、それを言ったら私だって大事な後輩を埃まみれにしたくないわ~」
「そっ、それはっ……!」
俺は?? 埃まみれになってもいいってことですか?? それとも大事な後輩じゃないってことですか??
「とにかく行ってくるわ~。咲季ちゃんとひまりちゃん、お留守番よろしくね」
「ゆっ、優花さん!」
「雅くん、行きましょう?」
「は、はい……」
どうして瀬峰がこんなに焦っているんだろう。部室に二人で行くだけなんだから、何を心配することがあるって言うんだ。
「やっぱり私も行きますっ! そのっ、二人だけで行って閉じ込められでもしたら――」
「そんなわけないわよ~。咲季ちゃんは心配性だなあ」
閉じ込められる? 外から鍵を閉められたとしても中から開けられるだろうに。体育倉庫に二人っきりで――なんてのは漫画だからネタにあるのであって、現実はそううまくいかな――
「……あれ、ひまりさんは?」
「えっ?」
瀬峰の言葉に志津川先輩がハッとして、周りを見回す。言われてみれば……さっきまでいたはずの愛宕の姿が見えない。二人が言い合っているうちにトイレにでも行ったのか?
「……あら? ひまりちゃんから電話が来たわ」
先輩がスマホをポケットから取り出し、画面をタップした。どうやらスピーカーホンにしてくれたらしい。
「もしもし、ひまりちゃん? 急にどこ行ったの?」
『あっ、聞こえてますかー? いま部室棟にいるんですけどー!』
「「「……えっ!?」」」
三人揃って驚いた声をあげてしまう。愛宕は部室棟の場所を知らなかったはずだ。こんな短時間でどうやって?
「ひっ、ひまりちゃん? 私が行くって言ったでしょう?」
『んー……やっぱり先輩お二人に行かせるわけにいかないと思ったので! なんか走り回ってたら着きました!』
「えっ、ええっ!?」
あんな小柄な身体でとんでもない
『で、いま放送部の部室にいるんですけど……なんですかこの部屋? なんで体操用のマットとか敷いてあるんですか? ていうかこれ……枕?』
「えっ、ちょっ……それは、その……」
「……優花さん?」
「ちっ、違うの! 別にっ、私が敷いておいたとか……そんなわけじゃ……」
放送部の部室にマット? そして枕? いったい愛宕は何の話をしているんだ? いくら物置代わりに使っていたからって、そんな滅茶苦茶な状況があり得るのか……?
『あ~でも、あたし何の機材が必要なのかよく分からないんで駄目ですねっ! ごめんなさい、やっぱりそっちに戻ります~!』
「ひまりちゃん、だめえっ!!」
『えっ?』
志津川先輩は青い顔で大きな声を張り上げた。スピーカーの向こうからは、愛宕がドアを開けようとする音が聞こえてくる。
「だめっ、ひまりちゃん! ドアに手をかけたら――」
『すいません、よく聞こえな……あれ、開かない!? ちょっ、ドアが開かないんですけど!?』
「ああっ、だめって言ったのにい……!」
『なっ、なんで開かないんですか!? あれっ!? あたし鍵なんかかけてないんですけど!?』
何がどうなっているんだ? 愛宕が部室に入ったらマットが敷いてあって、しかもドアが開かなくなって……いやいや、何かがおかしい。これじゃまるで誰かが閉じ込めを意図して仕込んだみたいじゃないか。いたずら?
『ちょっ……本当に開かないんですけど! 助けに来てくださ~いっ!』
いやっ、まずは愛宕を助けに行かないと。教師にでもバレたら話がややこしいことになりそうだし。
「ちょっと俺、行ってきます。工具、持って行きますから」
「あっ、私も行くよ遊佐くん!」
「じゃあ先輩、留守番お願いします」
「ああ、うん……。ひまりちゃんのこと、よろしくね~……」
必要そうな工具を持ち、瀬峰とともに大急ぎでブースを飛び出す。俺たちを見送っていた志津川先輩の顔がとんでもなく引きつっていたように見えたのは……気のせいではなかったと思う。
ちなみに、部室のドアはあっさり開けることが出来た。そのとき、涙目で出てきた愛宕の頭を瀬峰が「よくやった」と言わんばかりに撫でていたのだけれど……俺にはさっぱり理由が分からなかったのであった。