美少女しかいない部活で、部員全員から「私だけは味方だからね」と耳打ちされたんだが 作:古野ジョン
「お疲れ様ですー……って、あれ」
ある日の放課後。いつも通りにブースのドアを開けると、そこには一人で椅子に座る瀬峰の姿があった。見慣れたポニーテール姿で、発声練習の原稿を手にしている。
「お疲れ様、遊佐くん」
「他の二人は」
「優花さんは部活動委員会の用事だって。ひまりさんは先生に呼ばれたらしいよ」
「そっか」
あたりを見回してみると、たしかに先輩と愛宕の荷物が置かれていた。恐らく数十分もすれば戻ってくるのだろう。
「で、今日は何かあるんだっけ」
「いつもと同じ。私たちは練習」
「分かった」
じゃあ俺もデータ整理の続きでもしておくか。この間は謎の閉じ込め騒ぎでそれどころじゃなかったしな。
俺はデスクトップパソコンの前に座り、電源ボタンを押す。やや間があってからモニターのランプが灯り、OSのロゴが表示された。このパソコン、そろそろ新しいのに変えた方がいいと思うけどなあ……。
「ねえ、遊佐くん」
「ん?」
背後から声を掛けられた。キーボードを叩いてパスワードを入力しながら、俺は返事をする。
「部活には慣れた?」
「えっ? まあ……慣れたけど。機材もだいたい把握できたし」
「そっか。ごめんね、雑用ばかりさせちゃって」
「いいよ別に。あんまり喋るのとか得意じゃないから」
やっぱり二人きりのときはいろいろと話をしてくれるんだな。一応クラスメイトでもあるけど、普段の瀬峰は他の女子と一緒にいることが多いし……あまり話す機会がない。
「ところで、ちょっと聞きたいんだけど」
「なに?」
「遊佐くんはさ。……優花さんとひまりさんのこと、どう思ってる?」
「へっ?」
意外な質問に、フォルダを開く手が止まってしまう。振り向いてみると、瀬峰は原稿に目を落としたままこちらを見ようともしない。
「どうって……別に、ただの先輩と後輩だよ」
「……そうなの?」
「うん。それが何か?」
「……」
瀬峰が黙り込んでしまった。別に変な回答をしたつもりはないんだけどな。
「どうした?」
「えっと、……か、可愛いな~とか思うの?」
「え?」
「優花さんとかひまりさんとかのこと、可愛いな~とか思わない?」
……何を聞かれているんだ? 志津川先輩はお姉さんの魅力って感じで素敵だと思うし、愛宕は小動物みたいで可愛らしいとは思うけど。それを馬鹿正直に答えるのは何か恥ずかしいな。
「ま、まあ……可愛いんじゃないか」
「どのあたりが?」
「どのあたりって……そんなの言えない」
「言えないことなの?」
「語弊があるだろ、それ」
瀬峰はむーっと頬を膨らませ、不満を露わにしていた。そんな顔をされてもこっちだって困るんだけどな。いったいどんな回答を求めているんだ……。
「……とにかく、可愛いとは思ってるんだ」
「そりゃあ……まあ」
あの二人を可愛くないと言うわけにはいかないだろう。
「じゃ、じゃあさ……」
瀬峰は髪をそっとかきあげ、こちらにちらりと視線を寄越す。そして、呟くように……口を開く。
「……私は?」
「何が?」
「私のことは、その……可愛いとか、思う?」
「えっ……」
……可愛いに決まっている。こんなすらっとしたスタイルで正統派美少女で髪型が爽やかポニーテールが可愛くなかったらそれはこの世界が間違っている。だけど、それを直接言ったら流石に話が――
「お疲れ様でーすっ!!」
「ひまりさんっ!!?」
ブースのドアが開くと同時に、愛宕が元気よく入ってくる。これはタイミングが良かったのか、あるいは悪かったのか。その答えなど分からないが、ひとつ言えることは――突然の入室に驚く瀬峰の顔は、普段とギャップがあって可愛いということだった。
「あれ? 何か話してました?」
「えっと、それは……」
瀬峰は言葉に詰まっている。さて、何を答えたものだろうか――