概要:ベレリアント戦争初期、ファルマリアにて作成されたとみられるエルフィンド陸軍少将の手記。
作成時期:星歴876年11月1日夜
所蔵:オルクセン国内の個人蔵

※オルクセン王国史原作第3巻、もしくはコミカライズ版第18話『ファルマリア港攻略戦』読了後の閲覧推奨。

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【オルクセン王国史/二次創作】エルフィンド陸軍少将の弁明

 本日は星歴876年11月1日。現在時刻は手元の時計によれば22時。

 私の氏族の者たち、そして私自身のため、この文書を書き残しておく。

 

 私は██████・█████████。エルフィンドは███████の氏族長である。

 それと同時にエルフィンド王国軍にて少将の位にあり、ファルマリアの█████████として奉職している。とはいえ、後者はまだ3年しか経っていないが。

 

 すべてのきっかけは、あのオークどもが我がエルフィンドに戦争を仕掛けてきたことだ(電信によれば10月26日に宣戦布告されたとの由)。

 オークどもの艦隊がこのファルマリアに現れ、外港に停泊していた艦隊は文字通り全滅した。旗艦だったスヴァルタもオークどもに焼かれ、艦隊司令官のスタリウェン中将も亡くなった。リョースタと他数隻が数日前に出港し難を逃れていたのは不幸中の幸いだろう。

 

 オークどもがやってきたのは陸も同じだ。

 国境警備隊は壊滅状態に陥り、このファルマリアにもその生き残りたちが逃げ込んできた。

 

 当然ながら我らも防備を固めはしたし、ティリアンに電信で現状を伝えた。

 だがティリアンの回答はひどいものだった。なんとハルファン少将を指揮官としろというのだ。

 

 ハルファン少将についても書き残しておく。彼女は元からファルマリアにいた者ではない。

 確かに軍歴は長かった。私の記憶が正しければ、さすがにかのロザリンド戦に出たほどではないものの、もう数十年は少将としてやってきていたはずだ。

 だが彼女は先に述べた国境警備隊の生き残りたちを引き連れてここファルマリアへとやってきたのだ。つまり、他ならぬ壊滅した国境警備隊の司令官である。

 

 繰り返すが、私は███████の氏族長である。

 そして私の部下には███████の出身は数多く在籍しているし、███████の近隣の氏族からも兵を預かっている。

 それをオークどもを押しとどめられなかったばかりか、数多くの部下を失ったハルファンに任せろとティリアンは言っているのだ。

 

 ティリアンへ抗議はしたが、あちらがどう考えているかはもうわからない。

 未だに回答は返ってきていないし、何よりこのファルマリアはすでに陸でも海でも包囲されている。電信を伝えるべき電線も破壊されていると考えるべきだろう。

 

 このような状況であったところに、さらなる展開が待ち受けていた。

 オークどもは我らに降伏を勧告する軍使を送り込んできたのだ。降伏するならば命は保証する、と。野蛮なオークどもに降るのは確かに耐えがたい事ではある。しかし、検討はすべきではないかとは思ったのだが、ハルファンはその軍使を即座に追い返し、彼が視界から消えるや否や、彼が持ってきた降伏勧告文を破り捨てた。

 

 我らの意見を聞こうともせず、だ。曲がりなりにも階級で見れば同格である我らに対し何たる態度か! 

 そもそも既に総司令官気取りというのも気に入らなかった。ティリアンは確かにそうせよと指示をしてきたが、我らはまだ認めてはいなかったのを綺麗に忘れ去ったらしい。

 

 なればこそ、私と█████少将(ファルマリアの████████として着任している陸軍少将だ)はすべきことをした。

 繰り返すが、ハルファンは多くの部下を失っている。オーク相手にそのような事になっているという事は、相当まずい戦いをしたはずだ。しかもそのような有様だというのに徹底抗戦を唱えている。そのような無能者に、我が氏族と近隣の氏族の者たちの命を任せるわけにはいかない。なので消えてもらった(実際手を下したのは部下だ。事が済んだら労ってやらねば)。

 

 █████少将はその後幾人かの側近と共にファルマリアを離れた。

 ティリアンの陸軍省へ直接面談に行くと言っていたが…実際のところはおそらく違うだろう。そのような真似など、我々のような少将如きが、しかも中央の白銀樹出身でもなく政府上層部にツテもない我々ができるわけがないのだ。いったいどこへ逃げるつもりなのだろうか。

 

 だが、彼女の行動は私に何をすべきか気づかせてくれたのも事実だ。

 

 17時頃、食前に私は側近たちと話をした。私の意見を伝えるためだ。

 海にはオークどもの艦隊が待ち受け、陸も着々と包囲が進んでいる。そうなればファルマリアは持つまい。

 私には███████と近隣の集落から預かった兵を無駄死にさせない責任がある。そしてそれだけでなく、このままでは我々の故郷、我らが白銀樹も危ない。であるからには、我々4000名はオークどもの包囲がまだ終わらないうちにファルマリアより撤退し、███████と近隣の集落の守りを固めるべきである。

 

 一番最初に声をあげ、ざわつく部下たちを抑えてくれたのは参謀長である██████中佐だ。

 

「姉さま、いえ、少将のおっしゃる通りです。今ならまだ間に合うでしょう。皆で故郷を、我らの白銀樹を守りましょう。何より私も少将と同じく、4000名の同胞たちをこのような場所で死なせたくはありません」

 

 彼女のこの発言で決まった。我々はファルマリアを離れる、ということで全会一致となった。

 ██████中佐は███████の隣村の出身者であり、私の昔からの友人でもある。持つべきものは友だ。

 

 海兵隊の█████少将はファルマリアに立て籠もり徹底抗戦する腹積もりらしい。彼女の部下には我らの故郷の出身者はいない。好きにすればよい。何よりきっと彼女らがオークどもの目を引きつけてくれるだろう、我々にとっても都合がいい。

 

 我々はこのあと、23時にファルマリアより撤退する。そして夜闇に紛れオークどもを躱し、最終的には我らが故郷へ向かう。

 

 万が一の時のため、この手記は██████中佐に託すことにする。

 

 我らに白銀樹の加護があらんことを。

 

◆    ◆    ◆

 

 というわけで、こいつが君が求めていたモノの写しだ。もっとも、固有名詞とかは僕の判断で伏せさせてもらったけどね。いやまあ、一部の奴は調べりゃすぐわかっちゃうけどさ。

 

 え? なんでこんなもん、僕が持ってるのかって? 

 

 そのエルフィンド陸軍少将とその部下たちの末路は君も知ってる通りだけど、全滅したわけじゃない。文書の締めに「この手記は中佐に託すことにする」ってあるだろ? その中佐は生き残ったんだ。

 とはいえあんな末路だったからね、もはや故郷に、いやベレリアント半島には居場所はなかったんで、外国に行きたがってた。で、僕がそれを世話してやったところ、これをくれたわけさ。外国に行ったら名前を変えて、過去を捨てて生きるって言ってたな。「もうこの…元エルフィンド陸軍中佐という白エルフはいなくなりますので、彼女の過去が欲しければどうぞ。まあ別に焼き捨てても構いませんけど」とくれたのさ。

 

 彼女が今どこにいるのかって? それは僕も知らないな。

 今話したのはもう20年近くは前の話だし、それ以来会ってないし。キャメロットに渡航していったけど、彼女としてはキャメロットは単なる中継地点、また別などこかへ行こうと思うと言ってたな。そこから先はどうしたことやら。

 

 …ほうほう、原本を見たいって? 

 原本は当然ながら現代アールブ語で書かれているし、ついでに大急ぎで書かれたためか筆跡は荒くて読みにくいけど、それでも見たいのかな? 

 …なるほど。じゃあもってこよう、少し待っててくれ。

 

 ……待たせたね、これが原本だ。保存のためいくらか処置をした以外は何も手を加えていない、かのエルフィンド陸軍少将直筆の手記だ。

 こいつは門外不出だからね、ここの外へ持ち出すのはナシだ。内容についても慎重に扱ってくれ、原本だからさっきの写し兼低地オルク語訳版では僕が伏せておいたものもそのまま書かれている。例の少将には今更名誉もなにもないが、彼女の出身氏族とかにまで累が及ぶのは僕としては避けたいのだ。

 

 …どうかな、現代アールブ語で書かれている以外は、さっきの手記と変わらないだろう? 

 ああ、安心してほしい。こいつは冒頭に書いてある通り、あの日の22時頃に書かれたものだ。だからそれ以降に起きたこと、つまり他の連中…もう1人の陸軍少将の部下や、国境警備隊残党とかの一部が合流したことなんかは書かれていない。

 

 当然、彼女らがファルマリアを出たあとのこと、つまりアンファングリア旅団による追撃についても書かれていない。

 

 君が何を心配して原本まで確認したがったかは理解しているつもりだ。例の『決して起きてなどいないこと』について、あることないこと書いてないかって事だろう? 答えは否さ。問題ない。

 

 なんで目的がわかったかって? そりゃ紹介状見ればわかるさ、その御仁、僕の元上官だもの。そうじゃなかったら原本まではさすがに見せないよ。

 それに僕もとっくに退役した身とはいえ、もともとはそういう畑にいた身でもあるからね。一応僕は君の先輩にあたるってわけ。それにしても少佐、随分出世したなあ…ああいやこっちの話。

 

 君も知っての通り、こいつを書いた張本人はもういないし、こいつを預かった者もとうに外国に去っている。しかも過去を捨てたいと言ってたし、今更自分から何か言い出すこともないだろう。言ったところで証拠もないしね。

 

 結局のところ、こいつは…少なくとも今の視点からすれば、敵前逃亡した司令官の弁明以上のものではないよ。当時のエルフィンド軍の軍制…「氏族単位で兵士を出す」というやり方を鑑みると、「地元から預かった若者たちを無駄死にさせるわけにはいかない」とか、「地元を守らねばならない」とかといった理由はあるからまったく無責任な話というわけじゃないけれどね。ま、そんな事は今となってはどうでもよろしい。

 

 逃亡した陸軍少将の思惑。それに賛同し、ついていった部下たち。そして彼女らを捕捉したアンファングリア旅団の追撃。決して起きてなどいないこと。

 …すべては、歴史の闇の中に。


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