呪術高専の校庭。
広い。
何もない。
ただ——
視線だけがある。
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夜卜は立っている。
その少し後ろに、緋色。
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距離は近い。
でも。
触れてはいない。
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「じゃ、軽くやろうか」
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前に立つのは、
五条悟。
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軽い声。
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「お互い様子見でいいよ」
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その一言で。
空気が変わる。
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対面には、パンダ。
少し離れて、まきと乙骨。
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狗巻が小さく呟く。
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「しゃけ……」
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開始の合図はない。
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それでも。
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動いた。
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パンダが踏み込む。
速い。
重い。
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夜卜は避ける。
最小限で。
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「お、いい動き」
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軽く言う。
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次の一撃。
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受ける。
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腕で。
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鈍い音。
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押される。
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(重い——)
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一瞬。
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選択がよぎる。
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“使うか”
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視線が、わずかに動く。
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緋色を見る。
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緋色は——
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止めない。
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ただ。
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見ている。
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静かに。
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「……使わなくていい」
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小さな声。
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でも。
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夜卜は動かない。
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次の一撃が来る。
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避けきれない。
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踏み込まれる。
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その瞬間。
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「——壱岐」
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声が落ちる。
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五条。
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時間が、一瞬だけ引き延ばされる。
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「それ」
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わずかに顎で示す。
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緋色の方。
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「使うなよ」
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軽い声。
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でも。
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「壊れるから」
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その一言で。
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空気が、冷える。
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夜卜は、何も言わない。
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ただ。
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一歩、下がる。
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受け流す。
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避ける。
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パンダが笑う。
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「へぇ、やらねぇのか」
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少し首を傾げる。
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「よくわかんねぇけどさ」
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「なんかあるんだろ?」
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興味。
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でも。
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核心には届いていない。
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夜卜は答えない。
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代わりに。
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動く。
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踏み込み。
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最短。
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打つ。
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軽い。
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でも、正確。
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「お、いいね」
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パンダが受ける。
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その瞬間。
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わずかに、揺れる。
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夜卜の中で。
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境界が。
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混ざる。
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(……まずい)
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一瞬の違和感。
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視界が、ブレる。
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呼吸が、合わない。
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そのとき。
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手が、触れる。
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ほんの一瞬。
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緋色。
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「……大丈夫?」
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小さな声。
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それだけで。
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整う。
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呼吸が。
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視界が。
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夜卜は、軽く息を吐く。
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「……大丈夫だ」
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誰に言ったのか。
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分からない。
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でも。
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緋色は何も言わない。
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ただ。
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少しだけ、距離を戻す。
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パンダが目を細める。
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「今の、なんだ?」
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乙骨も見ている。
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まきも。
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誰も、分からない。
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でも。
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一つだけ分かる。
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「……繋がってる」
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乙骨が、小さく呟く。
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言葉にするには曖昧なもの。
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それでも。
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確かにあった。
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五条が、くすりと笑う。
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「でしょ?」
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軽い声。
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でも。
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目は、笑っていない。
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「面白いよ、この二人」
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その言葉だけが。
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少しだけ、重かった。
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夜卜は何も言わない。
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緋色も同じ。
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ただ。
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また、隣にいる。
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それだけで——
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崩れなかった。
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さっきよりも、静かだった。
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視線が、集まっている。
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理由は一つ。
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今、立っているのが——
緋色だからだ。
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夜卜はいない。
少し離れた場所で、見ている。
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距離がある。
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でも。
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完全に切れてはいない。
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「じゃあ次」
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前に立つのは、
五条悟。
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「優太」
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呼ばれたのは、
乙骨憂太。
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「……はい」
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前に出る。
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視線は、外さない。
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「……一人で、やるんですか」
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五条は軽く頷く。
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「うん、一応ね」
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その言い方だけが、少し引っかかる。
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「……始め」
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動いたのは乙骨。
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速い。
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振るう。
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止まる。
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見えない“線”。
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「——一線」
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空間が区切られる。
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越える。
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ズレる。
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「……っ!」
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遅れる。
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「——縛布」
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絡む。
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止まる。
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引きちぎる。
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それでも。
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遅れる。
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面。
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狼。
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噛みつく。
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距離が開く。
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緋色は動かない。
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ただ。
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整えている。
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戦場を。
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乙骨が息を整える。
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「……やりづらい」
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小さく。
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「次で、決める、」
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両者が動き出す。
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その瞬間。
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ほんの一瞬。
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緋色の意識が、揺れる。
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視線が——
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探す。
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無意識に。
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そして。
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口が、動く。
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「——貸して」
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言いかけて。
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止まる。
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「……あ」
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気づく。
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ここには、いない。
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今は——
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一緒に戦っていない。
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ほんの一瞬の空白。
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それだけで。
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呼吸が、わずかにズレる。
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乙骨は、それを見逃さない。
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踏み込む。
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速い。
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強い。
呪力任せの身体強化。
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境界を、押し越える。
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歪みを、無理やり。
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それでも——
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止まる。
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ほんの一瞬。
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その“遅れ”
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緋色は、取り戻す。
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視線が戻る。
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揺れが、消える。
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手が上がる。
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「かしこみかしこみ申す、」
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空気が変わる。
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「咎持つ者を囲い断ち、」
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閉じる。
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円。
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「誅の理をここに示せ——」
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完成——
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直前。
極の番
誅伐の——
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「はい、そこまで」
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止まる。
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すべて。
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五条悟が、立っている。
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「それは、今はダメ」
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軽い声。
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でも、完全に遮断する。
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緋色は、ゆっくりと手を下ろす。
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乙骨が息を吐く。
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「……今の、何ですか」
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「……危ない」
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正しい理解。
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夜卜は、何も言わない。
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ただ。
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見ている。
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緋色を。
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緋色は、戻る。
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何もなかったように。
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でも。
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ほんの少しだけ。
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さっきより、近い。
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五条が、軽く言う。
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「分の悪い賭けはおすすめしないな。」
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「やめときな」
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二人は、何も言わない。
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ただ。
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隣にいる。
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それだけが、変わらない。
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