任務は、いつもと変わらないはずだった。今日も2人で任務をクリアして一緒に帰って、そんな日常がずっと続くと思っていた。
「3級、単体」
紙に書かれた情報。
それだけを見れば、危険はない。
「すぐ終わる」
夜卜が言う。
「油断しない」
緋色が返す。
それも、いつも通りだった。
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現場は、人気のない建物だった。
窓は割れていて、風が抜けている。
奥に進むほど、空気が重くなる。
「……おかしい」
緋色が呟く。
「何が」
「濃い」
短い言葉。
でも、それで十分だった。
呪力の密度。
明らかに、報告と違う。
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「引くか?」
夜卜が言う。
「……遅い」
その一言と同時に、空気が歪む。
現れる。
一体。
だが——
「……は?」
言葉が漏れる。
3級じゃない。
もっと上。
おそらく特級。
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動いた。
速い。
反応が遅れる。
「夜卜、下がって」
緋色が前に出る。
「いや——」
言い終わる前に、衝撃。
床が砕ける。
視界が揺れる。
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「——縛布」
緋色の声。
緋色の術式が発動する。
代々受け継いでいる巫女の術式。
空間に、布のような呪力が広がる。
呪霊の動きを拘束する。
一瞬。
「今」
夜卜が踏み込む。
刃を振るう。
だが——
「……っ!」
弾かれる。
硬い。
違う。
質が違う。
自分の無力さを呪う。
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「撤退」
緋色が言う。
「了解」
即答。
迷いはない。
背を向ける。
出口へ向かう。
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その途中で。
嫌な感覚が走る。
「——来る」
振り返る。
遅い。
もう、距離がない。
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「……くそっ」
避ける。
間に合わない。
理解する。
ここで、終わる。
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「——夜卜」
その声だけが、やけに近かった。
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次の瞬間。
視界が、遮られる。
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「……は?」
何が起きたのか、分からない。
ただ。
目の前に、緋色がいた。
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血が、落ちる。
音もなく。
ぽたり、と。
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「……なんで」
言葉が出る。
理解が追いつかない。
「なんで、お前が前に——」
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緋色は、いつもと同じ顔で。
少しだけ、息を乱して。
「……無事でよかった」
そう言った。
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「ふざけんなよ」
なんでそんなことを言うんだ。
お前がいなきゃ意味ないのに。
無力な自分が恨めしい。
今回何をした?
俺は足を引っ張っていただけじゃないのか?
声が震える。
「そんなの……いらねえだろ……!」
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「……そうかもね」
小さく笑う。
血が止まらない。
「でも」
一歩、よろける。
血が吹き出して。
少女の白い肌を染める。
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「あなたは、生きて」
その言葉の途中で。
力が抜ける。
愛する少女は目の前で赤い水たまりを作り続けている。
高専からスカウトに来るのはだれ?
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夜蛾
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五条
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まだこない(修行期間突入)