歪んだ呪力
雪は、いつの間にか止んでいた。
崩れた建物の外。
静かな空気だけが残っている。
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夜卜は、幸せそうに眠ってる。
呼吸はある。
ただ、意識がないだけだ。
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「……大丈夫」
小さく呟きながら、緋色はその頭を膝に乗せる。
冷えた指で、額に触れる。
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「無茶、しすぎ」
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返事はない。
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しばらく、そのまま時間が流れる。
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雪解けの雫が、ぽたりと落ちた。
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そのとき。
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「歪んだ呪力を察知して来てみたら——」
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軽い声が、背後から落ちる。
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「君たち、すごいね」
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振り返る。
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そこに立っていたのは——
五条悟。
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一目で分かる。
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“強すぎる”
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緋色はゆっくりと立ち上がる。
夜卜の頭を、静かに地面へ戻して。
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「呪霊は祓いました」
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一礼。
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「ご迷惑をおかけして、すみません」
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五条は、少しだけ首を傾ける。
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「ああ、違うよ」
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軽く笑う。
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「歪んだ呪力ってのは——」
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一歩、近づく。
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「君たちのこと」
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空気が、張り詰める。
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緋色の指が、わずかに強ばる。
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その瞬間。
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「……っ」
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背後で、夜卜が息を吸う。
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目が開く。
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視界が揺れる。
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自分の白い肌が赤で染まっていくのを見た。
白い肌?
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違う。
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これは、自分の記憶じゃない。
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「……起きた?」
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緋色の声。
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なのに。
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どこか、遠い。
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「……ああ」
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ゆっくりと体を起こす。
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五条の姿が、視界に入る。
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「お嬢ちゃん、名前は?」
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軽い調子。
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でも、逃げ場はない。
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「……雨宮、緋色」
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間を置かず、答える。
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五条は、ほんの少しだけ視線を細める。
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「雨宮、ね」
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短く繰り返す。
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「聞いたことあるな」
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わずかな間。
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「……雨乞いの家系か」
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独り言みたいに呟く。
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視線が、緋色へと落ちる。
「なるほど」
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小さく頷く。
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「だから水なのか」
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納得したように言う。
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視線が流れる。
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夜卜へ。
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「君は?」
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「……壱岐、夜卜」
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一瞬。
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ほんの一瞬だけ。
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空気が変わる。
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「へぇ」
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それだけ。
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だが——
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見られている。
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理解された。
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そんな感覚。
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「なるほどね」
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五条は小さく笑う。
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「大体わかった」
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ゆっくりと、指を鳴らす。
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「悪いけどさ」
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その声は、相変わらず軽い。
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「そのまま帰すわけにはいかないんだよね」
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一歩。
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踏み出す。
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「ちょっと試そうか」
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目が合う。
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「壊れるかどうか」
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瞬間。
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消えた。
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「っ——!」
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反応するより早く。
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衝撃。
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夜卜の身体が吹き飛ぶ。
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地面に叩きつけられる。
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息が詰まる。
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「……弱いね」
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声だけが近い。
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緋色が動く。
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「——縛」
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布が走る。
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しかし——
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「遅い」
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一瞬で断たれる。
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「精密だね、綺麗でいい術式だ」
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五条の声。
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「だからこそ、ズレてるのが分かる」
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夜卜が、立ち上がる。
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頭が痛い。
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視界が揺れる。
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それでも。
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「……来るな」
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緋色に向けて、低く言う。
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「でも——」
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「いいから」
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一瞬。
緋色が頭を抱えて、倒れる。
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緋色が止まる。
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その隙。
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五条が踏み込む。
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「ほら」
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「混ざってる」
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拳が振り下ろされる。
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夜卜は反射で動く。
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緋器、と呼んで緋色を刀にする。
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だが——
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形が揺れる。
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定まらない。
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境界が、曖昧になる。
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「それ」
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五条が、わずかに目を細める。
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「もう始まってるね」
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次の瞬間。
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視界が、白く弾けた。
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地面。
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動けない。
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音が遠い。
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最後に見えたのは——
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緋色が、手を伸ばしてくる姿。
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そして。
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「うん」
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五条の声。
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「アウトだね」
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少しだけ、間。
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「でも面白い」
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意識が落ちる。
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「連れてくね」
ついに物語が動き始めます。強くなるのに、代償なしなわけないよね?自分の考えたプロットに首を絞められています。
書き方変えてほしいですか?
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どちらでもいい