それは、記録として残っていない。
正確には——
残されなかった。
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壱岐家の起点は、禁忌だった。
人と神。
本来、交わらないはずのもの。
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壱岐家初代当主、壱岐ひよりは、それを越えた。
理由は、きっとありふれたものだったのだろう。
壱岐ひよりは夜卜と同じ名を冠するあの禍津神と繋がりたいと思ってしまった。
記録は残っていない。
ただ一つ、断片だけが残っている。
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「境を、越えた」
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その結果、何が起きたのか。
誰も正確には知らない。
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ただ——
その血を引く者は、例外なく“境界”に触れた。
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ある者は、死者の声を聞いた。
ある者は、触れたものの“形”を変えた。
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そして。
一人。
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完全に、越えた。
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名は、残っていない。
残されていない。
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その者は、人の魂に名を与えた。
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意味を与え。
形を与え。
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“器”にした。
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それは、神の領域だった。
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人の手で、触れていいものではなかった。
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結果——
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消えた。
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人も。
土地も。
記録も。
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まるで最初から、存在しなかったかのように。
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それ以降。
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壱岐家には、いくつかの言葉が残された。
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「境を越えるな」
「魂に触れるな」
「名を与えるな」
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そして、壱岐家の血を引く者、壱岐夜卜もまた同じ。
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重い扉が閉まる音が、やけに響いた。
そこは札が張り巡らされた部屋だった。
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窓はない。
外も見えない。
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最低限の机と椅子。
それだけ。
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「まあ、形式上ね」
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軽い声。
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振り返ると、そこにいる。
五条悟。
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「君も一応、“そっち側”だから」
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視線が、部屋をなぞる。
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「ここ、前にも使ってたんだよ」
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「面白いやつ入れるのに」
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冗談みたいに言う。
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でも。
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笑えない。
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「壱岐、ね」
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五条が呟く。
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「壱岐と名乗る君が、変な呪力出してたから連れてきたけど」
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一歩、近づく。
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「やっぱり」
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視線が落ちる。
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緋色。
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「その子」
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「普通じゃないよね」
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「……ああ」
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「人でしょ?」
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沈黙。
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否定しない。
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五条は小さく息を吐く。
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「やっぱりか」
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壁に寄りかかる。
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「壱岐家ってさ」
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「昔、やらかしてるんだよね」
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「人のくせに、神の真似事したやつがいる」
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「魂に触れて」
「名前つけて」
「形にした」
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「結果」
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つばを飲み込み。
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「消えた」
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静かに言う。
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「全部」
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「人も、場所も、記録も」
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夜卜は黙って聞いている。
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「だから隠された」
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「壱岐って名前ごとね」
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視線が、戻る。
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「で、君は優秀だったんだね。」
「だから、やった。いや、できちゃったかな。」
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「完全にアウト」
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軽い声。
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だが、目は笑っていない。
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「しかもさ」
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「中途半端なんだよね」
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「神でもないし、人でもない」
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指で示される。
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夜卜自身。
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「だから不完全で——混ざってる」
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「記憶とか、感情とか」
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「そのうちさ」
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夜卜と緋色、両方を指す。
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「分からなくなるよ」
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「どっちがどっちか」
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沈黙。
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「……それ」
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夜卜が口を開く。
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「緋色は助からないってことか?」
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五条は、すぐには答えない。
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そして。
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「手遅れじゃない」
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短く言う。
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「まだ、ね」
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その一言だけで、十分だった。
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空気が重くなる。
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「……どうすればいい」
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ようやく出た言葉。
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五条は肩をすくめる。
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「簡単じゃないけど」
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「方法はある」
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「だからここにいる」
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視線が合う。
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「壊れる前に拾った」
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軽い口調。
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でも。
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それは事実だった。
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「安心していいよ」
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少し笑う。
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「ちゃんと見てるから」
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そして。
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「最悪の場合は——」
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間。
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「消す。もちろんその子もね。」
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静寂。
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冗談には聞こえない。
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「で?」
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五条が軽く首を傾ける。
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「このまま壊れる?」
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「それとも——」
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ほんの少し、口角を上げる。
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「抗う?」
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選ぶのは。
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夜卜だった。
どうですかね?一応呪術廻戦0までの展開は思いついて自分なりに満足しているんですけど、楽しんでくれると嬉しいです。
書き方変えてほしいですか?
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はい
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いいえ
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どちらでもいい