ポータルから出た先は、荒野だった。
空は灰色にくすんでいた。地表には生命の気配がなく、乾いた風だけが吹いている。遠方に見えるのは、巨大な影、そしてその周囲には夥しい数の魔物達。
「――『前』の記録通りの風景だが……魔物の数が少し多いか」
「随分と物騒な景色ね」
「今から私達がやることも負けず劣らずさ――ルクス、クロエ」
「ああ、やろう」
「任せてください!」
クロエによる全力の支援がソフィアにかかる。高まる魔力、それを向ける先は前方の群れ。ここまでは以前から行っていた殲滅用の布陣。そして――
「書き換える――『この魔法は目に見える全ての魔物に届く』」
それなりの脱力感。同時に白い光がソフィアを包んだ。
(範囲の拡大、これだけならなんとかいけるか。後は威力が足りるか……)
ソフィアの短杖を持つ手に、力が漲る感覚。自分の体が、いつもより大きくなったような。
「――よし、これなら、いけるな」
短杖を正面へ向けた。その先には――魔王。
「群れの中央にはおあつらえ向きに巨大な的。外すわけがないね――一掃する」
一息。
「ウィンドストーム!」
突如として現れたのは巨大な竜巻。寸分違わず魔物達の外周に展開されたそれは凄まじい力で標的を中心に引き寄せていく。宙を舞い、地面に落ち、また吹き上げられる。脆い魔物はそれだけで消滅していく。
「――凄まじいな」
「キミの力だよ。これまでの魔法とは規模が違いすぎる――さて、次だ」
暴風に耐え、あるいは抵抗している魔物。中心にいる魔王は未だ不動のまま。
「これで一掃だ。フレアストーム!」
今度は炎だった。魔物を捕らえる竜巻に打ち込まれた、巨大な炎。それすらも巻き込み、風が炎を纏った。
「打ち合わせはしたけど……本当に恐ろしいことするわね」
燃え上がる竜巻が消えた時、そこに残っていたのは焼け焦げた大地と魔王だけだった。
「――よし、予定通りだ。最終決戦といこうじゃないか」
「はい。いよいよですね……」
「世界を救う――後のことはともかく、まずはあたし達の使命を果たしましょう」
「あぁ!全員で勝って、生きて帰るぞ!」
決意と共に歩みを進める。前方では魔王の巨体からあふれ出した影が、新たな魔物を形作っていた――
僅かな数で襲い掛かる魔物を退け、たどり着いた目標――魔王。その足元からは今もなお魔物が生み出されている。
魔王。人の形をとるも、その巨体は人にあらず。顔に相当する部位では目のようなものが鈍い赤を放っている。どこからともなく、『声』が響いた。
「接近するオブジェクトを確認。周囲の被害レベル、甚大。明確な敵対者と認識する」
――それは宣言であった。世界に終末をもたらす機構が、稼働し始める。
「当機の識別名は『フィニス』。世界の終末、その具現。魔王、フィニスである。敵対者の集団に勇者を確認。これより世界の終焉を開始する」
抑揚がない、温度がない、意思がない。ただ自身の役割を果たすための言葉。しかし、その巨躯から放たれる圧は正しく脅威的であった。
「まずは検証だ。ウィンドバレット」
「こっちも、行くわよ!」
風の弾丸が空気を切り裂き、着弾する。半歩遅れて、突出したアイリスの剣が魔王の装甲に激突した。
「損傷、微細。反撃を開始する」
「おっと!思ったより硬いわね……これは骨が折れそう」
巨体相応のサイズの拳が振るわれる。素早く距離を取り、再び四人が集まる。
「――傷が、残ってるな」
「『前』の時とは違う、ということでしょうか?」
攻撃に参加せず観察に徹していた二人の目には、ごく僅かではあるものの魔王の体につけられた傷が映っていた。
「――ふむ、勇者の剣以外でも攻撃は通るか……とはいえ、この硬さだと結局は書き換えによる突破が最も有効になるだろうね」
「よし――やってみる」
「こっちでできるだけ引き付ける!クロエ、危ないときはお願いね!」
「お任せください!」
ルクスが前へ出た。アイリスとソフィアが魔王の側面から攻撃を仕掛ける。
(攻撃自体を通すために書き換えを使用する。なら、当てるのは俺自身の力で――)
全力で踏み込み、翡翠の輝きを宿した剣を魔王へ向けて振るう。
「斬る。魔王だろうとこの剣は切り裂く!」
対象の硬度を無視して切り裂く記述を書き入れる。
――魔王の体は堅牢で、傷をつけるのは至難の業だ。
――魔王の体は堅牢■■、■■なら■■ことが■■■。
――魔王の体は堅牢だが、聖剣なら斬ることができ■――――ジジッ
(あれ?)
――魔王の体は堅牢で、聖剣でも傷をつけるのは至難の業だ。
手応えがなかった。
剣を振った。甲高い音と共に弾かれた。魔王は揺らぎもしない。
「――なに、が……?」
「ルクス!ぼさっとしない!」
「――っ!?」
魔王の正面で茫然と隙をさらすルクス。当然それを見逃す魔王ではなかった。矮小な敵対者に速やかな反撃が行われる。
「させません!」
迫る拳の前に光の壁が現れる。拮抗し、しかしぴしり、と罅が入る音。
壁を砕き、その奥へと手を伸ばす魔王だったが、すでにそこに標的の姿はなかった。
「助かった!ありがとう!」
「これが私の役割ですから。それより――」
「斬れなかった――書き換え自体ができなかった……?」
「――これ、は……」
解析魔法の光を灯しながら、ソフィアが近づいてくる。
「記述が、固定されている」
「固定?」
「外部からの上書きを一切受け付けない。内側から外側へ向かって、全ての干渉を弾く記述が重ねられている。キミの書き換えに際しての記述の揺らぎがかき消されていた」
「つまり、あの巨体と真っ向から戦わないといけない?」
「今のところは、そうなるな」
「――そっちいくわよ!散りなさい!」
視線を向ければ魔王が腕を振り上げていた。
全員が跳んだ。腕が地面を叩いた。地表が砕ける。衝撃が足元まで伝わった。
「とはいえ悪い知らせばかりでもない――」
ソフィアが着地しながら叫んだ。
「私やアイリスの攻撃が多少なりとも傷をつけている。つまり『前』の魔王のように勇者の剣でなければ傷つかない、というわけではなさそうだ」
「まさか、聖剣の力に合わせて、性能が調整されているのか……?」
「おそらくそうだろう。勇者との戦いにおいて必ず優位に立てるように作られている……」
「――やっかいね!」
アイリスが魔王の攻撃を剣で逸らしながら叫んだ。弾く力が強い。体が押される。
「くぅっ……!このままじゃジリ貧よ!どうする!?」
「こちらの攻撃では魔王の装甲を抜けない以上、まずはそこを超えるしかないが……」
「――一つ、考えがある」
そう呟いたのはルクス。手の中の聖剣が強く光を放つ。
「クロエ、さっきと同じだ。俺の聖剣と君の神聖魔法、二つ同時に俺の体を強化する。そこに――」
「ルクス、まさか――」
いち早くソフィアがその提案の内容に勘付く。
「俺自身の身体強化魔法も掛け合わせる。異なる三つの強化を重ねたら、凄い力になる……と思う」
「――試す価値はある。ただし、危険も伴うぞ。キミの体がそれに耐えられるのか、失敗したらまず戦闘不能になる」
「だが、このままじゃ削り倒されて終わりだ。やるしかない」
「――わかりました」
「――っ!?クロエ!?」
諫めようとした矢先の肯定に目を剝くソフィア。
「大丈夫です。ルクスさんなら、必ず成功させて、帰ってきてくれる――そうですよね?」
あまりにもまっすぐな目。曇りのない、純粋な信頼が向けられていた。
(――裏切れないな、これは)
「もちろんだ。クロエも、ありったけのやつ、頼むぜ」
「お任せください!」
「~~あぁ、もう!失敗したらただじゃおかないからな!地獄から引っ張り出して実験台にしてやる!」
吠えながら魔王の牽制に向かうソフィア。ルクスとクロエは思わず苦笑してしまう。
「――よし、行くぞ」
「はい。女神様――どうかご加護を!」
まずはクロエの支援魔法。いつも通り身体能力が大幅に向上する。さらに自前の身体強化魔法をかけ合わせる。
(今回は加減なしだ。まっすぐ行ってぶった斬るだけだし全力で行く!)
みしり、と剣を握る手に力が入る。既に未経験の強化幅に足を踏み入れていた。
「最後だ。『この体は誰よりも強く、速くなる』――!」
嚙み締めた歯が砕けそうになる。足元は陥没しかけており、僅かな動き一つで亀裂が入る。
(重い!でも……やれる!)
魔王へと飛び出す。一歩で間合いの内側に入り込んだ。
「――っあぁぁぁ!!」
一閃。
「一部損壊、戦闘継続に支障なし。迎撃する」
斬りつけた腕に深々とした斬撃痕が刻まれる。反撃の拳は軽く後方へとステップするだけで躱した。再度踏み込もうとして――ガクン。
「やるじゃない!この調子で――ってルクス!?」
「――やはり、負荷が大きいか……!クロエ、いけるかい!?」
「はい、すぐに回復します!」
「くっそ……こんな時に……!」
先ほどまでみなぎっていた力は霧散し、酷い倦怠感に包まれる。
(一回の攻撃でこれじゃあ、討伐まで保つわけがない。もう一つ、なにか突破口があれば――ん?)
歯噛みするソフィアだったが展開し続けていた解析魔法に妙なものが映りこむ。
(傷跡に翡翠の光――あれは、ルクスの書き換えの光か?だが、あれは魔王の内側から来ているような――)
「そうか!」
「何!?何か気付いたの!?」
「あぁ、この推測が正しければ、あと一回。あと一回だけルクスがさっきの攻撃を繰り出せればなんとかなるかもしれない」
賢者の瞳が魔王を倒す最後のピースを見つけ出していた。
「ルクスさん!しっかり……!」
後方ではクロエによるルクスの治療が続いていた。
(治りが遅い……!いえ、損傷が深すぎる……!)
「急がないと、二人だけに任せておくわけには――!」
「まだ動いちゃ駄目です!もう少しですから!」
目線の先ではアイリスとソフィアがギリギリのところで魔王の攻撃をさばいている。それどころかこちらに攻撃が向かないよう誘導までしていた。
「……よし。最低限、これで動けるようにはなったはずです。でも……」
「十分だ。あと少しだけ保ってくれたらいいんだから」
(必ず倒す。その後のことは、今はいい!)
決意と共に聖剣を握りしめる。その手に小さくあたたかな手が重ねられた。
「クロエ?」
「ルクスさん。駄目ですよ」
静かな、しかし不思議と耳に通る声。
「ルクスさん自身も大切にしないと。全員で帰る、そうでしょう?」
「そ、れは……」
それはかつてルクスがクロエに説いた言葉。世界の救済よりも自分自身を大切にすることを願う言葉だった。
「今、魔王を倒すために頑張るのはいいです。でも、その先のことを捨てるのは駄目ですよ」
かつて勇者に救われた少女が、今度は勇者を導く言葉を紡ぐ。
「だって、今を頑張るのは、未来を生きるためなんですから」
すとん、と。それは胸の奥に落ちた。
(そうだ。俺が今すべきことは、この子を守ること。そして魔王を倒すことだ。でも、そう思った理由は――)
「――あぁ。その通りだな。俺は、未来を生きたい。君と一緒に、笑い合える『先』が欲しい!そのために戦うんだ!」
「はい!――はいっ!?」
「行こう!全員で、無事に帰るんだ!」
「悪い!待たせた!」
「っ!来たか!」
「遅いわよ!」
再び前線に戻る。勇者パーティが集合した。
「調子は?」
「万全だ。気力体力申し分ない」
「よし、なら作戦を伝える。これで決めるぞ」
「あぁ、俺は何をすればいい?」
視線を向ければ目を丸くしたソフィア。
「――どうした?」
「いや、何も聞かずに受け入れるんだな、と」
「信頼してるからな。君が出した答えはそうそう間違ってない」
「……そうかい。なら遠慮なく伝えさせてもらおうか。『前』の記録、そしてここまでの戦闘を分析して――」
そうして語り始めるソフィア。それを聞きながら、ルクスの手に力がこもっていく。決着の時は、近い。
(クロエを――仲間を守りたい。すべては、そこからだ)
騎士が現在に目を向けさせた。今、なすべきことを見定めた。
(魔王を倒す、世界を救う、そして、その先の未来をつかむ)
聖女に未来へ導かれた。なんのために戦うのかを思い出した。
(これまでの全部をぶつける、出し切る。俺にできる、すべてを)
賢者が過去から見つけてくれた。戦う策を授かった。
勇者の手の中で、翡翠の輝きが剣に宿る。
「一発勝負だ。必ず決めたまえ」
「外すんじゃないわよ!」
「どうか、ご無事で」
「――行ってくる」
白の光と翡翠の光が、ルクスの体を包んだ。先程と同じ三重の身体強化。体が軋みを上げる。魔王が正面から突進してきていた。
「さぁ、これで終わらせよう!ウィンドバースト!」
ソフィアが生み出す暴風がわずかにその勢いを削ぐ。
「こっち見なさい!あたしが、あんたを斬る!」
アイリスが魔王の正面へ踏み込んだ。防御を捨てた、全力の攻勢。剣を振り続ける。弾かれ続ける。それでも止まらない。
「損傷、軽微。対象を排除する」
魔王の注意がアイリスへ向いた。その一瞬。
「――ここだ!」
ルクスが駆けた。
三重の強化を経た、神速の踏み込み。地面を蹴るたびに地面が割れる。そのまま魔王の背後に辿り着く。魔王が振り返る――しかし、間に合わない。
剣を、装甲にねじ込んだ。力の限り、内側へと潜り込ませていく。
「損傷、重大。装甲の貫通を確認」
「これで、終わりだ!」
剣を通して魔王の内部に干渉する。記述を書き換え、その存在そのものを抹消する。
――聖剣によって魔王はその存在を崩壊させていく。
「干渉を確認、修正する」
――聖剣が干渉しようと、魔王の存在は揺るがない。
ルクスからの書き換えに対応して、魔王が動いた。聖剣が刺さっている箇所から翡翠の光が溢れ出す。その光に、ソフィアの策を思い起こす。
『魔王の記述は、固定されている訳じゃないようだ。そうとしか見えない速度で書き換えを行っている』
『あいつも、書き換えを?』
『そうだ、キミの攻撃に対応して、更に記述を上書きしている。さっきキミが斬った痕も、翡翠の光と共に塞がってしまっているね』
『――うわ、確かに消えてるな。で、それが分かったとして、どうすればいいんだ?』
『単純なことだよ。向こうが書き換えで対応するというなら――こちらも同じことをしてやればいい。つまり――』
「ここだ!ルクス!」
「あぁ、もう一回……!」
聖剣をより強く押し込む。魔王による書き換えの上書き。それに対応して更に上書きを行う。
――魔王に世界を書き換える力などない。聖剣の力を防ぐことはできなかった。
「再度、修、正――!?」
――魔王の存在は無欠である。干渉は無意味――――ジジッ
――既に世界を書き換える機能は失われている。もはや防御はできない。
『魔王がルクスに対応した隙に、世界の記述に干渉する機能そのものを封印する。これでこちらの書き換えだけが有効になる!』
「よし、後、は……!?」
最後にもう一度聖剣に力を籠める。改めて魔王の存在を抹消しようとし――全身から力が抜ける。
「ルクス!限界か……!」
「踏ん張りなさい!あと一息よ!」
(そう、あと一回、あと一回でいいんだ……!なのに、体が――)
主人の意思を無視して倒れこんでいく体。三重の強化に、大規模な書き換え。ルクスの体はとうに限界を迎えていた。
(まだだ。まだ、終われない……)
視界がゆっくりと暗くなる――その端に、翡翠が見えた。
「――ルクスさんっ!」
「――――っあぁぁぁぁ!!」
一歩、力強く踏み込む。倒れていく体が踏みとどまった。
(ここで、倒れたら――彼女を救えない!それだけは、認められない!)
眼前には魔王に突き刺さったままの聖剣。それをつかみ、限界まで押し込む。
「消、え、ろぉっ!」
――勇者の聖剣が魔王を消し去る。世界に平和が訪れた……
世界が静寂に満ちる。誰もが動けず、声を発さない。その中で、無機質な声が響く。
「機能、停止。世界の終幕まで、後――」
光が、弾けた。
魔王が、内側から瓦解していく。
魔王を構成していた全てが、光となって溢れ出した。無数の粒子が舞い上がり、渦を巻き、空へと昇っていく。
「――うおっ」
支えを失った聖剣が宙に放り出される。それと同時にルクスの体が倒れこむ。
「ルクスさん!」
「ルクス!」
「――――」
クロエとアイリスが駆け寄る。ソフィアは消えていく光を注視していた。手元では凄まじい勢いでペンが動いている。
「大丈夫ですか!」
「――なんとか、生きてるぞ」
「それは見ればわかります!痛いところはありませんか!?もう、とんでもない無茶を――!」
「……困ったな。痛くないところがない。立ち上がれそうにないぞ……」
「かなり力を使ってたものね。今は寝てなさい」
そう言ってアイリスは空を見上げる。先程までの灰色ではない、美しい蒼穹の空。
「もうしばらくは時間があるわ。この世界がどうなるかは、わからないけどね」
「ソフィアさん次第、ですね……」
「ソフィア?」
忙しなく動いていたペンが止まった。
「記録、完了」
止まって、また動いた。今度はゆっくりと、確かめるように。
「――『次』に繋がる何かが、ここにある」
「――『次』に?」
「まだ確定はしていない。だが――残念ながらこの世界は『ここ』止まりになるだろう。世界の終わりを覆せるだけの材料が、この世界には存在しない」
それは、この世界が続かないことを宣言する言葉。物語の完結とそれに伴う漂白が、止められないことを意味していた。
「――そう、か」
「最後まで方法は探すが――成果は上げられないと思う。すまないな」
「あんたが無理ならあたしたちにだってできないわよ」
俯き唇をかみしめるソフィアにアイリスが寄り添う。
「ここで終わり、ですか……」
クロエの視線の先、ようやく立ち上がる力を取り戻したルクスの姿があった。
「――帰ろう」
ルクスが言った。まだ疲労が滲む、しかし明るい声だった。
「――そうね。まずはこの勝利を喜びましょう。少なくとも、あたしたちが世界を救ったってことは事実なんだから!」
アイリスがそれに追従した。沈んでいた空気がいくらか緩和していく。
四人はポータルに向けて歩き出す。自分たちの学園を目指して。
「――ソフィア」
歩きながら、ルクスが言った。
「あの記述の中に――何があった。少しだけでも、教えてくれないか」
ソフィアが少し黙った。
「――なら、一つだけ」
「ああ」
「この世界は――終わらない物語だ。私たちが知らない、もう一つの『軸』がある」
それだけ言って、手帳を抱え直した。
「詳しくは、全部の解析が終わってから話す」
それ以上は続かなかった。世界を救った賢者の頭には新たな問題が山積みになっていたのだった。