天座の書架と白紙の勇者   作:maki@

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自由の物語/新たなる世界

 天座の書架に、静寂が満ちていた。

 

 ルクスは、言葉もなくその場に立ち尽くしていた。

 

 書架を照らしていたエクリプスの黄金の輝きが、役割を終えてゆっくりと収まっていく。周囲に立ち並ぶ膨大な書架の本たちは静かに光を失っていったが、その背表紙は変わらず鮮やかに世界の色彩を宿していた。真紅と蒼穹と翡翠。その他にも数え切れないほどの無数の色が、無数の物語が、静かにそこに在った。

 

(終わった――のか)

 

 緊張が解け、膝から一気に力が抜けた。大理石の床に、ゆっくりと膝をつく。

 

 その時だった。

 

「随分と、派手にやってくれたわね」

 

「――っ!?」

 

 静寂を破って、聞き覚えのある声がすぐ近くから聞こえた。

 

 ルクスは弾かれたように顔を上げる。

 

 そこに――滅び去ったはずの女神ミュトスが、静かに佇んでいた。

 

 しかし、その姿は先ほどまでとは決定的に違っていた。世界を圧殺するような神としての絶対的な威圧感が、綺麗に消えている。すべてを見下して余裕に満ちていた観測者の目ではなく――どこか、心地よく疲れたような、しかしひどく穏やかな、優しい目をしていた。

 

「お前は……消えたんじゃなかったのか」

 

「もうすぐ完全に消えるわよ。でもね、最後にどうしても、あなたと少しだけ話したいことがあったの」

 

 ミュトスはそう言うと、近くの書架の出っ張りに小さく腰を下ろした。その飾らない姿は、これまでの高慢な女神のそれとは、あまりにもかけ離れていた。

 

 彼女は静かに、自分の白い手を見つめながら口を開いた。

 

「これまでの事と、これからの事。その両方をね」

 

「何をいまさら……」

 

「そうね。あなたの言う通りよ。私はただ自分の楽しみのためだけに、無数の世界を都合よく弄んだ。何百もの過酷な物語を、ただの薄っぺらな娯楽として安全な場所から消費した。登場人物たちの命懸けの苦しみも、美しき喜びも、全部、ページの『外側』から観測して、それで勝手に満足していたの」

 

「そうだ。お前は俺たちをただの玩具にしていた」

 

「でもね」

 

 ミュトスが顔を上げ、まっすぐにルクスを見た。

 

「あなたの最後にくれたあの剥き出しの感動だけは、これまでと全く違ったのよ」

 

「……何が言いたい」

 

「物語の『内側』から魂で感じる本物の感情というものを、私は長い生の中で、初めて知ったわ。他でもない、あなたのおかげでね」

 

「……」

 

「……身を焦がすほどの怒り。生をあきらめるほどの悲しみ。未来を閉ざすほどの絶望――全部が、初めてだった」

 

「それで、お前のしてきたことが許されるわけじゃないぞ」

 

「最初から、そんなこと言い訳にするつもりはないわ」

 

 ミュトスは静かに首を振った。

 

「ただ、初めて知ってしまったのよ。本物の、胸が張り裂けそうな『生きた感動』というものをね。私のしてきたことは、決して許されることじゃない。あなたたちが受けた苦しみは、紛れもない本物だった。そして、それを強いてきたのは私。それは、最後にきちんと認める」

 

「なら」

 

「ただ、一つだけ。消える前に私に聞かせて」

 

 ミュトスが、吸い込まれそうなほど真っ直ぐにルクスを見つめた。

 

「あなたは……あなたの紡いだ物語は、幸せだったかしら」

 

 ルクスは少しの間だけ、沈黙した。これまでの138回に及ぶ旅路、その全てを思い返す。

 

「苦しかったよ。理不尽だった。何度も大切なものを失いかけた」

 

「――そうでしょうね」

 

「でも」

 

 ルクスは、ミュトスをまっすぐに見据えた。

 

「アイリスに、ソフィアに、クロエに出会えた。アッシュの――『俺』の願いを、受け取れた。そして、この書架にある全ての物語の想いと繋がれた。俺たちの生きた時間は――何一つ偽りのない、本物だったんだ。だからそこだけは、お前に感謝してる」

 

「そう……」

 

 ミュトスが、愛おしそうに微笑んだ。それは、ルクスが初めて見る、作り物の演出ではない、一人の人間としての心からの笑みだった。

 

「なら、私の紡いできた身勝手な物語も、そんなに悪くなかったわね」

 

「お前の物語、だと?」

 

「そうよ。私だって、この果てしなく長い時間の中で、物語を紡いできたの。観測者として、あなたたちを動かす絶対的な存在としてね。きっと、それが私の物語だったのよ」

 

「どこまでも身勝手な物語だな」

 

「ええ、本当にその通りね」

 

 ミュトスは、ルクスの言葉を否定しなかった。

 

「でも、最後にこんなにも美しい結末を特等席で迎えられるなんて、全く思っていなかったわ。予想外。想定外。そして――とても、面白かった」

 

「……」

 

「白紙の勇者が、みんなの愛で自分の本当の色を見つける物語。……それは、私が今まで何万もの物語を観測してきた中で、一番美しかったわ」

 

 ルクスは、何も言わずにただ彼女の言葉を受け止めた。

 

「もう、本当にお別れの時間かしらね」

 

 ミュトスの透き通るような身体が、足元からゆっくりと、光の粒子に変わりに始めていた。

 

「最後に、一つだけ」

 

「なんだ」

 

「私がいなくなれば、この書架を管理する主がいなくなる。そうなれば、ここに収められた無数の物語たちが、全部行き場を失って崩壊してしまうわ」

 

ルクスは改めて、周囲を埋め尽くす果てしない書架を見渡した。

 

無数の背表紙。無数の名もなき物語。それぞれの色が、静かに優しく輝いていた。

 

「身勝手なことを言えば、あなたに『ここ』を引き継いでほしいの。ここにある本の一つ一つに、それぞれの愛おしい物語がある。そして、それぞれの生きている世界がある。それを見守る、新しい管理者の役割が必要なのよ」

 

「なぜ、俺なんだ?」

 

「そもそも『ここ』に自力で入れる人間なんて、どこを探してもそうはいないわ。……なにより、私はあなたの優しさに、完全に魅せられてしまったから、かしらね。あなたならきっと、私のような残酷な読者にはならないでしょう?」

 

「自分で言うか……」

 

「どうかしら? もちろん強制はしないわ。あなたには何の義務も責任もない。あくまでもこれは、死にゆく私の身勝手なわがままだから」

 

 ルクスは、書架に眠る本たちの淡い輝きをじっと見つめた。そして、アッシュの最期の笑顔を思い出した。

 

「……わかった、やるよ」

 

「……そう」

 

「この天座の書架を管理する。ここに眠るすべての物語の歴史を、俺の手で最後まで見守る。それが、俺にできることだ」

 

「……本当にいいの? ずっと一人で、ここに縛られるのよ?」

 

「あぁ」

 

 ルクスは書架を見渡しながら、確固たる意志を込めて言った。

 

「この書架にある全部の物語たちが、俺に戦うための力を貸してくれたんだ。もう、知らない仲じゃない。なら、今度は俺があいつらを見守る番だ。それは――神の義務なんかじゃない。俺が自分自身の意志で、やりたいことなんだ」

 

 ミュトスが、もう一度、今度は少女のようにはにかんで微笑んだ。

 

「そう。なら、この世界のその後を、全部頼むわ」

 

「一つだけ聞かせてくれ」

 

「なに?」

 

「お前は、本当にここで消えるのか」

 

 ミュトスは少しだけ首をかしげて考えた。

 

「どうかしら。これでも一応は最上位の神様だし……完全に無に帰すとは思えないけれど――少なくとも、この『世界の元凶たる女神』としての形は、ここでおしまいよ」

 

「そうか」

 

「未練はこれっぽっちもないわ。最後に、あなたから最高の生きた感動をもらえたもの」

 

 ミュトスの身体は、すでにほとんど眩い光へと変わっていた。

 

「――ねぇ、最後に一つだけ、きちんと謝らせてくれる?」

 

ミュトスが、最後にまっすぐにルクスの目を見つめた。

 

「ごめんなさい、ルクス。あなたたちの人生の苦しみを、ただの安っぽい娯楽として消費したこと。それは、決定的に間違っていたわ。あなた達にとっては、紛れもなくたった一つの、本物の命だったのに……」

 

「……」

 

「でもね、あなたたちの紡いだ物語は、本当に最高に素晴らしかったわ。感動したの。それだけは、嘘じゃないわ」

 

「……そうか」

 

「……あぁ、叶うなら、私も、あなた達のように本物の感情を抱えて、生きてみたかった――未練はない、って言ったけど。それだけは、心残りかしら。

 

「――いつか」

 

「え?」

 

「いつか、お前がどこかの世界に生まれなおしたら。俺がちゃんと見守ってやる。ちゃんと『生きて』るか、見ててやるよ」

 

 ルクスのその言葉に呆気にとられるミュトス。

 

「――もう、そういうところよ?でも、そんなあなただから、安心して任せられるわ――」

 

 キラキラと、美しい光の粒子が書架の空間へと散った。

 

 天座の書架に、今度こそ完全な静寂が訪れた。

 

 

 

 ルクスはしばらく、彼女の消えたその場所で立ち尽くしていた。

 

 改めて広大な書架を見渡す。無数の物語が、静かにそこに在った。

 

(ここが……これからの俺の居場所か)

 

 覚悟は、すでにできていた。しかし、その管理者としての仕事を始める前に。

 

 ルクスは書架の中心にしっかりと立ち、静かに目を閉じた。

 

 すべての世界を、新しく始める。女神ミュトスが完全にいなくなった、新しい世界を。与えられた役割に縛られない、誰もが主人公になれる、自由な世界を。

 

(一つだけ、願いをかけよう)

 

 エクリプスが、主の意志に応えて静かに暖かく輝いた。新たな書架の管理者による、最初で最後の物語への書き込み。

 

 黄金の光が、書架全体の空間へと、祝福のように優しく広がっていく。

 

 それから、黄金と聖剣エクリプスを、静かに鞘へと納めた。きっと、この剣を抜く機会も、もう二度と訪れることはない。

 

(すべての物語に――幸福な結末が訪れますように)

 

 それが、白紙の勇者が最後につかみ取った、心からの願いだった。自分の物語だけではない。この書架に眠る、神に消費されていったすべての物語に。かつて理不尽に苦しんだすべての存在に。今度こそは、幸せな未来が訪れるように。

 

 眩い光が、書架のすべてを優しく包み込んだ。

 

 やがて光が収まると、書架の本たちが、それぞれの色で静かに輝きだした。

 

 新しい物語が、いま、一斉に幕を開ける。

 

――◇――

 

 柔らかな朝の光。人々の日々の賑やかなざわめき。ほほを優しく撫でる、心地よい若草の風。

 

 ここは『リベルタス』。役割に縛られない、多くの人が行き交う自由の街。

 

 今、この新しい街に、一人の少年が力強く足を踏み入れる。

 

「ここが、リベルタス……」

 

 少年の名はルクス。一振りの剣を腰になびかせ、珍しそうに街の雑踏を散策していた。

 

「ちょっと、あんた」

 

「ん?」

 

 背後から快活にかけられた声に、ルクスは自然と振り返る。燃えるような美しい赤い髪を風になびかせた少女が、大きな籠を抱えてこちらを真っ直ぐに見ていた。

 

「なんだ?」

 

「あんた、外から来た人でしょ。これから学園に通う人? この辺りじゃ見たことない顔だわ」

 

「あぁ、そうだが……それがどうかしたか?」

 

 少女の赤い目が、すっときつくなる。背後に手を回し、籠の中からなにかを取り出すような鋭い動作。

 

(なんだ? いきなり何をする気だ?)

 

 ルクスは無意識に身構えて警戒を強める。そして、少女が勢いよく取り出して突き出したのは――

 

「はい、これ! うちの店で取れた、一番新鮮な果物!」

 

「……はい?」

 

目の前に差し出されたのは、みずみずしく、色鮮やかな輝きを放つ果実だった。

 

「外の街から新しく来た人には、歓迎として必ず渡すようにしてるの! うちの店、すぐそこにある青果店だからね! 今後とも末長くごひいきに、ってことで!」

 

「あ、あぁ。そういうことか……。ありがたくいただくよ」

 

「よし! じゃ、あたしは忙しいからこれで! また学園の近くでよろしくね!」

 

「あぁ、よろしく……って、君! 名前は!?」

 

 そのまま足早に立ち去ろうとする少女の背中に、ルクスは思わず大声をかけていた。名前も知らなければ、また会うことができるかわからないからだ。

 

「おっと! そうね、忘れてたわ!」

 

 くるりと振り返った赤い髪の少女は、朝の光の中で、輝くような最高の笑顔を浮かべて告げた。

 

「あたしはアイリス! そこにある青果店『アペリトール』の一人娘よ! よろしくね、ルクス!」

 

「ルクスだ。……また必ず、店に行かせてもらうよ」

 

 今度こそ手を振って別れる二人。いただいた果物を手にして再び歩き出すルクスだが、ふと一つの古びた店の前で足が止まった。

 

(書店、か。少し中を見てみるか)

 

 自身のある目的のため、世界の歴史に関する古い書物を求めているルクスは、『クエリトル古書店』と几帳面な文字で書かれた看板の下の扉を静かに開いた。

 

「いらっしゃい」

 

 出迎えたのは、ルクスとそう歳の変わらない、美しい青い髪をした少女だった。彼女は読んでいた分厚い本から静かに顔を上げ、じっとこちらを観察するように見つめる。

 

「おや、見ない顔だね。我が店に、一体何を求めて来られたのかな?」

 

「女神――ミュトスに関する、古い書物を探しているんだが」

 

「ミュトス……? ふむ、聞き覚えがないな。それは一体、なんの神だい?」

 

「わからない。ただ――以前見たいくつかの古い書物に、その名前が載っているんだ。俺は、その役割を持たないとされる謎の女神について個人的に調べている」

 

 少女から向けられる、値踏みするような視線。

 

「……もし冷やかしなら、さっさと帰ってくれ。今、ちょうどいいところだったんだ」

 

「冗談や冷やかしじゃないんだがな……。この街の学園に来たのも、その女神の研究のためだし」

 

「ほう?」

 

 本に戻ろうとしていた少女の顔が、興味深そうに再びルクスへと向く。そのまま、彼の全身を観察するようにしてソフィアの理知的な視線が動いた。

 

「なるほど、これから学園に入学する人間か。確かにあそこの巨大な図書室には、私も知らない貴重な本がたくさん眠っているらしいね」

 

「それは期待できそうだな。大人しく入学するまで待つとするよ……」

 

「――待ちたまえ」

 

 踵を返して出ようとするルクスの肩を、ソフィアの細い腕がガシリとつかんだ。振り返れば、先ほどの冷淡な様子が嘘のように、青い瞳を爛々と輝かせる少女の姿があった。

 

「話が変わったよ。キミが学園に通うというなら、一人の読書家として頼みがある」

 

「……なんだよ」

 

「私を学園の図書室に連れて行ってくれないか? 一人で行こうとしたら、生徒の付き添いがないと入れないと突っぱねられてしまってね」

 

「――自分でその学園に入学しようとは思わなかったのか?」

 

「別に私は、学園のくだらない授業を受けたいわけじゃないからね。ただ、浴びるほどにそこにある本を読みたいだけさ。もし私のこの頼みを引き受けてくれるなら、そうだね。キミのその『ミュトス』とやらの探し物を、私の脳をフル回転させて手伝うくらいはしようじゃないか」

 

 頭の中で損得の天秤が揺れる。そして、ため息を一つ。

 

「――わかった。その時はちゃんと手伝ってもらうからな」

 

「約束は違えないさ。私はソフィア。キミの名は?」

 

「ルクスだ。落ち着いたら、またここに顔を出すよ」

 

「あぁ、楽しみに待っておこう」

 

 確かな約束を交わし、今度こそルクスは外の通りに出た。

 

(さて、次はどこに向かうべきか――ん?)

 

 街に視線を巡らせていると、突如としてルクスの腰あたりに軽い衝撃が走った。視線を下ろすと、小さな子供が一人、床に盛大に転んでいた。

 

「……大丈夫か?」

 

「う、うわーーん! いたいよぅ!!」

 

「え、ちょっ、待て、泣くな……っ!?」

 

 突然大声で泣き出した子供に、完全にうろたえるルクス。周囲の通行人の視線が一斉に集まってくる。

 

「えっと……君、怪我はないか? どこから来たんだ?」

 

「うわーーん!!」

 

「お父さんかお母さんは近くに――」

 

「わーーん! おにいちゃんがぶつかったぁ!!」

 

「誰か――」

 

「わーーん!!」

 

(……どうしろってんだ)

 

 全く会話が成立しない。ルクスが頭を抱えて困り果てているところに、一人の翡翠の髪をした少女が足早に現れた。

 

「ルミナちゃん、どうかしましたか?」

 

「クロエおねえちゃん……っ!」

 

 泣いていた少女が、救いを求めるように駆け寄る。そのまま彼女の背中に隠れてルクスを睨みつけた。

 

「――君、この子の知り合いか?」

 

「ええ、そうです。……どうか、されましたか?」

 

「あぁ、この子がそこの角から飛び出してきて、ぶつかっちゃってな……。大泣きするもんで話もできなくて困ってたんだ」

 

「そうでしたか……。ルミナちゃん、街を歩くときは、ちゃんと周りを見ないとだめでしょう?」

 

「ごめんなさい……」

 

「謝るのは私に、じゃないでしょう?」

 

「うん。おにいさんも、ぶつかってごめんなさい」

 

「私からも、不注意ですみません。怪我はありませんか?」

 

「いや、こっちももう少し周囲を確認しておくべきだったんだ。悪いな」

 

 優しく諭すように子供に接する少女の姿に、ルクスはどこか胸が暖かくなるのを感じていた。

 

「ルミナちゃん、もうすぐ院のご飯の時間ですから、先に戻っていてくださいね」

 

「ごはん! わかった!」

 

 子供は一瞬で満面の笑顔になり、元気に駆けていく。その後ろ姿を、二人はゆっくりと見送った。

 

「それじゃ、俺もこれで」

 

「お待ちください。初めて拝見する顔ですが……もしかして、学園の方ですか?」

 

「この街の人は、全員が全員の顔を把握してるのか……? ルクスだ。さっきこのリベルタスの街に来たところだよ」

 

「ふふ、あまり大きい街でもないですから。私はクロエ。この街の孤児院『サルヴァトル』で働かせていただいています」

 

 そう言って優しくほほ笑み、美しい翡翠の髪を揺らす少女。

 

「ルクスさんがその学園に通われるなら、きっと、またすぐに出会う機会もあるでしょう。それでは」

 

「……? よくわからんが、その時はよろしく頼むよ」

 

 そんな不思議なやり取りの末、去っていく少女の背中を見つめる。

 

(それなりに時間を食ってしまったな。そろそろ、学園に向かうか……)

 

 ルクスは当てもなく歩くのをやめ、建物越しにも見える巨大な白亜の門に向けて歩き出した。

 

『アルカエオロギア考古学学園』――。門柱に刻まれたその大いなる学び舎の文字を見つめる。

 

(ここなら、俺の探している『なにか』がつかめるんだろうか)

 

 その時、腰に提げた一振りの剣が、かたり、と小さく震えた気がした。その銘はルクスも知らない、物心ついたときからいつの間にか傍にあった、まだ何色にも染まっていない白い剣。

 

(こいつから感じる、この不思議ななにか……その正体も、この学園でわかるといいんだが)

 

 まだ見ぬ未来への不安と、確かな期待を胸に抱き、たどり着いた巨大な門をルクスは真っ直ぐに、力強くくぐり抜ける。

 

 一人の少年が過去と向き合う物語。それが今、ここから始まるのだった――。

 

 

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