真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~   作:youkey

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今回から大友以外の十勇士も登場する一年生編をお送りいたします。


一年生編
10話


 天神館。それは武の総本山『川神院』にて川神 鉄心の教えを受けた鍋島 正が、その教えをより広めるために福岡に設立した学校である。

 生徒の個性を尊重する自由な校則、鍋島独自の思想に基づくユニークな行事や授業で注目を集め、西日本を中心に広く人材を集めている。

 

 成長した虎之助と大友は、そんな天神館へとそろって進学していた。

 西国武士を自認する大友と祖父からの教えを誇る虎之助。

 この二人ならば、決闘システムや武術の授業、鍋島館長自ら稽古をつける強化合宿など、武闘派の名に恥じないこの学園を選んだのはなんら不思議ではない。

 意外なのは、自他共に認める運動音痴の有馬もまた、天神館に進学したことか。

 

「また一緒になれてよかったね。これで安心できたよ」

 

「弱肉強食なんて教訓の学校だからな。有馬なんて油断するとあっという間だもんな」

 

「うむ。同じクラスなのだから、何かあればすぐに大友たちに言うのだぞ」

 

 武闘派としてのイメージが先行しがちの天神館だが、実際には広い分野で人材を集めている。そのため、有馬のような非武闘派の生徒も数は少ないが存在する。

 しかし、館長からしてバリバリの武人のため、どうしても肩身の狭い思いをしてしまいがちなのだ。

 

「二人のこと頼りにしてるね」

 

「頼れ頼れ。不届き者なんぞ、この大筒と!」

 

「この兗洲虎徹で成敗してやるさ!」

 

 カツーッンと小気味いい音を立てて互いの武器を交差させる二人。

 往来のど真ん中で危険物を振り回しても、周囲の誰も注意しない。それどころかその武器を値踏みするように観察していたりと、武術方面での異常さは川神学園以上かもしれない。

 

「いざという時はよろしくね。そろそろ行こっか」

 

「おお、もうそんな時間か。入学式で騒ぐでないぞトラ」

 

「焔こそいきなり大砲撃つなよ」

 

「大友がいつそんなことをした!」

 

「ほとんど毎日オレに撃ってるだろ!」

 

「まあまあ。急がないと入学式遅れちゃうよ」

 

 この程度の痴話喧嘩はもはや日常茶飯事。一々構ってられないのは今までの経験から分かっているので有馬も適当に流す。

 そんなこんなをやりながら歩くうちに、体育館にたどり着く。

 一般的な体育館とは若干造りが異なり、神棚やら木刀、木槍が掛けられていて武道場と言った雰囲気。

 そこに所狭しと並ぶ新入生も武術を身に着けている者が多く、まるで出陣を待つ兵隊のようだ。

 彼らの視線はそれだけの威圧感を持っていて、並みの人間ならば耐えられないだろう。しかし、壇上に上がった男はその視線を一身に受けて平然としている。

 白いスーツに、ロングコートという装い。入学式だというのに葉巻をくわえる豪胆さ。

 左のこめかみに走る傷が決め手となって、極道者を思わせる。しかし、この男こそが元武道四天王にして天神館館長、鍋島正である。

 

「あー、新入生諸君。入学おめでとう。今年度は例年稀に見るほど粒ぞろいで大変期待している」

 

 壁を超えた者とも呼ばれる、超人の域に居る鍋島から手放しの賞賛を向けられ表情を緩ませる新入生たち。

 

「天神館では弱肉強食を教訓として、生徒同士の競い合いを大いに奨励している。諸君ならば分かっているだろうが、勝ち取ってこそ意味があるってもんだ」

 

 己の武に自信があるのだろう。不遜な笑みを浮かべる者も多い。

 しかし、それを見て取った鍋島は意地の悪い笑みを浮かべると、彼らの笑みを奪う。

 

「だが、昨今の風評では“東高西低”と言われてまかり通っている。お前ら恥ずかしくないのか? 恥ずかしいだろう。だったらお前らが西の実力見せてやれ! とりあえずは、武神川神百代がいる川神学園あたりを攻めてみろや。口実だったら俺がいくらでも作ってやる。西国武士の気骨見せてやろうぜ!」

 

 ロックフェスか、そうでなければ独裁国家の演説。どちらにせよ入学式とはとても思えない雄叫びが体育館に木霊する。

 これが、天神館の平常運転なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必要以上に熱気溢れる入学式を終えた虎之助たちは自分たちの教室、一年一組で担任を待つ。

 他県からやってきた者が殆んどのため、顔見知りで小さなグループを作って会話するものが多い。

 虎之助たちも他に知り合いが見当たらず、三人で固まっていた。

 

「いやぁ。予想以上であったな鍋島館長は」

 

「風格が只者じゃないよな。さすが壁を超えた者」

 

「凄かったよねぇ。この学校には、あんな人がいっぱいなのかぁ」

 

「「いや、それは違う」」

 

 いくら何でもあのレベルと同じに扱われては命が危ない。

 けれども、有馬にはソレすら謙遜に聞こえてしまう。

 

「またまたぁ。二人も凄いのに」

 

 一切の他意のない笑顔に、二人はただ顔を引きつらせるしか出来ない。

 

「覚悟をしておけトラ。いつ死地に行かねばならぬか分からんぞ」

 

「問題ない。こちとら覚悟だけは出来てる」

 

 二人の会話を聞いても、有馬は首を傾げるだけ。

 その姿に、思わず卒業まで無事で居られるだろうかという不安が頭をよぎる。

 しばらくすると教師もやってきて全員が席に着く。

 

「俺(おい)がお前らの担任になる、島津豊久じゃ。武術の授業ば担当しちょる」

 

 なまりが酷いのが特徴的だが、それ以上に力強い眼差しと服の上からでも分かるほどに鍛えられた肉体が生徒たちの注目を集める。

 彼もまた武士の血を引く者で、多くの不動産を持つ九州の有力一族の一員だ。もっとも、そんな一族の中でも武士の気骨が強すぎるために鍋島のもとで教鞭を振るっている。

 

「そいじゃあ、端から自己紹介していけ」

 

 どこの学校でも見るような入学初日の光景。しかし、そこは天神館。自己紹介一つとっても普通じゃない。

 初っ端から双子が同時に立ち上がる。他の学校ならば双子は別のクラスにされるだろうが、ここでは完全に成績で振り分けているため平気で同じ教室にされる。

 健康的な小麦色の肌をした、若干幼さを残した美少女二人が続けて名乗る。

 

「私は尼子晴。漢字で書くほうで、姉だ」

 

「わたしはあまごはる。おとうとで、ひらがなでかく」

 

 驚きは二つ。姉と“弟”と片方が男だと言うことと、姉弟で同じ名前ということに驚く一同。それでも、微妙な発音の違いを聞き分けてなんとか納得する。

 

「有馬明奈です。運動は苦手だけど、読書が好きです」

 

 虎之助たちは心配していたが、学校全体が厳つい雰囲気なせいだろうか。

 有馬の挨拶は好評で、周りも歓迎の色が濃い。

 

「石田三郎だ。おれの出世街道を邪魔するものは容赦しないのでそのつもりでいろ」

 

 同い年とは思えない貫禄に満ちた口調でもって、ものすごい上から目線でそれだけを言うと石田はすぐに席についてしまう。周りがざわめくが、担任によって自己紹介が続けられる。

 

「うちは宇喜多秀美いうねん。金に困ったら安心安全の低金利で都合してやるさかい、よろしゅうな」

 

 人のよさそうな笑顔と、胡散臭い関西弁が商人臭さを漂わせる挨拶。

 冗談か何かだと思った回りの生徒は笑うが、本当に現金と借用書を取り出したあたりで笑えなくなる。

 

「大友焔だ! 特技は砲撃! 火力が欲しければ大友に言うがよい!」

 

 自慢の大筒を構える大友。上がる声は感心と呆れが半分半分だが、それでも大筒は皆の注目を集めずには居られない。

 

「大村ヨシツグ。好きなゲームはオータムだ。クリハンではどんな武器も扱うので気軽に誘ってくれ」

 

 天神館において、有馬以上に異質な自己紹介だろう。

 オタク丸出しの紹介に、小バカにしたような目を向ける者もいるが、病弱なほどの色白な肌からは想像も出来ない鋭い眼光に身をすくませる。

 

「それがしは三郎様の側近、島右近。先ほどは三郎様が失礼いたした」

 

 石田のことを様付けで呼びながら周囲にコレでもかと頭を下げる島。

 先ほどの石田の態度に腹を立てた者も多いが、二周りは年上な外見の島にこうも恐縮されては怒りを納めざる終えない。

 ようやく順番の回ってきた虎之助は、武闘派にバカにされないように意気込み立ち上がる。

 

「立花トリャッ!?」

 

 意気込み過ぎたのか、思いっきり舌を噛んでしまった。

 ヒリヒリとする舌を庇いながら続ける自己紹介は、何とも情けないものになってしまう。

 

「たひはなとりゃのふけら。おろしふ」

 

 今日顔を合わせたばかりのクラスメイトたちは呑気に笑っているが、大友は身内。自分の恥じのように顔を染めて震えている。

 そんな温まった空気の中で次の男が高笑いと共に自己紹介という名の郷土アピールを始める。

 

「四国で最強の男、長宗我部だ。とりあえずは我が家で作っているナルトでも食ってくれ」

 

 そういってクラス中にナルトを配って歩く長宗我部。

 なかなかに上質なすり身を使ってるらしいナルトは筋骨隆々な長宗我部からは想像も出来ない繊細な味で好評だが、舌を噛んだばかりの虎之助には鉄の味しかしなかった。

 

「拙者は鉢屋壱助。見ての通り忍びだ。報酬しだいでどんな依頼もこなして見せよう」

 

 ココに来てようやく、武術のプロフェッショナルらしい紹介が聞ける。

 外見からして黒尽くめで顔までマフラーで隠した、ザ・ニンジャという風体の鉢屋はとても頼もしく、つい仕事を依頼してみようかという気持ちにさせられる。

 

「私の流麗な名は毛利元親。美しくない者は私に触れるな」

 

 プロフェッショナルの直後に出てくる色物。

 美しい長髪に合わせて顔のつくりは整っているため先ほどまではチラチラ女子の視線を集めていたが、この一言でそれも全てが逸らされた。

 

「お、最後は俺か。エグゾエルで一番のイケメン、龍造寺隆正だ。寺ちゃんと呼んでくれ」

 

 最後に飛ばされるウインクに一部の女子たちが黄色い声を上げる。

 国民的アイドルユニット“エグゾエル”のファンなのだろうが、同級生にその態度はどうなのだろうか。

 アイドルに興味のない女子や男子たちからは冷たい目で見られているが、本人たちはいたって気にしない。

 そこら辺のマイペースさも、天神館らしさか。

 こんな個性的過ぎるメンバーに囲まれて、虎之助の天神館生活が始まった。




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