真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~   作:youkey

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11話

 入学初日から本格的な授業があるはずもなく、連絡事項ぐらいしかない。

 その後は昼食を取り、学生寮へと戻って荷解きだ。

 六畳ほどの洋室にはベッドや机、本棚といった最低限の家具が備え付けられ、小さいながらキッチンも付いている。

 その中央に置かれた三つのダンボール箱が、実家から送っていた虎之助の荷物。

 

「一人部屋とは、気楽でいいや」

 

 生徒の個性を伸ばすための方針の一つで、天神館の学生寮は生徒一人に対して一部屋が与えられている。

 気にしなければならないルームメイトもおらず、虎之助は乱雑に荷物をダンボール箱から取り出していく。

 まず一箱目は衣服。制服の予備や私服、下着などを出すと、クローゼットを開き一つずつしまっていく。

 

「ついでだから着替えちまお」

 

 着ていた制服をそのままクローゼットにしまい、代わりに収納前の部屋着に袖を通す。

 まだ慣れない制服は堅苦しく、着慣れたジャージのゆったりとした感触に思わず一息つく。

 けれども荷物はまだまだ残っている。

 続いて手をつけた二箱目に入っていたのは書籍類。教科書だけではなく、家から持ち込んだ漫画の類も入っている。

 それを本棚の上から適当に並べていく。書物に対して深いこだわりがないため、教科書は教科書。漫画も、掲載誌別に分けるだけで巻数が入れ違っていたりもする。

 こういったのを読書家の有馬に見つかるとお小言が飛んでくるのだが、どうしても直らないのだからしょうがない。

 最後の一箱に入っているのは、目覚まし時計やゲーム機と言った雑貨。

 コレは、先の二箱のように中身を全て同じ場所に、とは行かないで一つ一つ収納場所を考えていく。

 すると、ダンボール箱の底に入れた覚えのない茶封筒。マジックで大きく『次郎より入学祝い』と書かれている。

 

「おじさんから? 一体何を……」

 

 封を開けて中身を出すと、それは一冊の雑誌。

 綺麗なお姉さんが表紙を飾り、その周りには卑猥な文字が並ぶ。所轄エロ本。

 虎之助は無言で封筒の中に戻すと、テープで厳重に封をしなおす。それを机の引き出しにぶち込むと、覆い隠すように小物を敷き詰める。

 こんな物が大友に見つかった日には、命が危ない。

 

「あの人はオレを殺すきか。まったく」

 

 危険物は後日処分すると心に誓い、時計を見ると夕食までには時間がある。

 どうやって時間を潰そうかと考えていると、扉をノックされる。

 部屋を訪ねてくるような知り合いはまだ大友と有馬くらいしか居ないが、あの二人にしてはノックの音が少々強過ぎる。

 誰かと思うのだが、でない訳にはいかない。

 

「はいよー。どちらさんですかー」

 

「隣の部屋の者だ。挨拶代わりに高知のカツオを、とお前は同じクラスの立花」

 

「そういうお前は確か鬼頭(おにこうべ)」

 

「長宗我部だ! とりあえず、隣は俺の部屋だ。これからよろしくな」

 

 初鰹にはまだ早いが、挨拶代わりとしては立派過ぎるカツオ。それを捌かない状態で丸々一匹渡されても困るのだが、とりあえず冷蔵庫にぶち込む。

 すると、招き入れてもいないのに長宗我部も部屋に上がりこむ。

 見られて困るものはすでに隠しているので、虎之助としてもこれからの友好のために茶の一杯でも出すのはやぶさかではない。もっとも、入居初日で水くらいしか出せないが。

 

「なんにもなくて悪いな。とりあえず水だ」

 

「なあに気にするな」

 

 渡された水道水を一息で飲み干すと、長宗我部は部屋をぐるりと見回す。

 基本的なつくりは彼の部屋も同じだろうから別段目を引くものはない。

 

「ふむ、荷解きは終わったようだな」

 

「持ち込みたい物もそんなにないしな。そっちは終わったのか?」

 

「大よそは終わったな。問題は四国の名産品が部屋に納まりきらないことだけだ」

 

 教室でもナルトを配り、今もカツオを持ってきた。それでまだ部屋から溢れるほどの名産品とは、この男は何をしに天神館にやってきたのやら。

 とにかく、彼も荷解きが終わり暇になったのだろう。他の部屋にも挨拶のカツオを配った後らしく用もないのに居座る。

 先に沈黙を破ったのは長宗我部。ここは虎之助の部屋なのだから当然だろう。

 

「晩飯の前に風呂でもいかないか? 荷解きで汗をかいただろう」

 

 春の陽気のなか部屋で動き回っていたため、汗だくとまではいかないが確かに汗をかいている。

 どうせなら夕食前にスッキリしておいたほうがいいかもしれない。

 

「それはいいな。確か風呂は一番奥だったな」

 

 という訳で下着と洗面用具を持って共同浴場を向かう。

 考えることは皆同じらしく、虎之助たちのほかにも浴場に向かう生徒は多い。

 そんな中でクラスメイトである龍造寺を見つけて風呂に誘うが、断られる。

 

「悪いな。これから収録なんだよ」

 

 そういって足早にさるのだが、女子が話しかけた時は笑顔で対応している。女たらしとしては見事としかいいようがない。

 そんなこんなでやってきた共同浴場は、学生寮の施設というには立派過ぎる作りだった。

 壁面には見事な富士山が描かれ、湯船も普通の物だけでなく、ジャグジーや薬湯、打たせ湯。さらにはサウナまで完備している徹底っぷり。

 

「おお、コレ本当に学校かよ。金かけてるな」

 

「なかなかに見事ではないか。こんぴらを思い出す」

 

 予想以上に広い風呂場にテンションの上がった二人。しかし、もう子供ではないのだからいきなり湯船に飛び込むような真似はしない。

 蛇口の前に並んで座り、まずは体を洗う。ココまではよくある光景だった。ココまでは。

 

「後ろを向け。背中を流してやろう」

 

 いきなり長宗我部がそんなことを言い出した。

 家族ならあるかもしれないが、友人同士ではあまりしないであろう提案。それほどに仲がいいならまだしも、これから仲良くなろうという間柄では踏み込み過ぎだ。

 

「そのくらい自分でやるって」

 

「遠慮するな。ほら、あいつ等もやっているだろ」

 

 当然の拒否を遠慮と取ったのだろう、長宗我部が指差した先では石田が島に頭を洗ってもらっている。

 

「お痒いところはございませんか?」

 

「ない。いつもながら気持ちよい」

 

 随分となれた様子で頭を洗う島の姿は、まるで子供の世話をする親のようだ。

 アレは友人同士とは少し違うきもするが、実際にやっている者たちがいるのなら遠慮するのも悪い気がしてくる。

 少しだけ迷った末、虎之助は長宗我部へと背中を向ける。

 

「じゃあ、お願いするか」

 

「任せておけ。いくぞ」

 

 タオルにボディソープを垂らすと、力強く背中を擦る。

 少々力が強過ぎる気もするが、それはそれで慣れてくると程よく体がほぐれて心地よい。

 そんな風に気を緩めた時だった。

 長宗我部はタオルではなく素手で虎之助の体に触れる。

 

「ほう、体は小さいが、なかなか鍛えているな」

 

 外見のイメージ通りの、ゴツゴツとした手が、イメージとは程遠い滑らかな手つきで背中を撫で回す。その感触は、怖気となって虎之助の体を駆け巡る。

 

「みイィィィぎゃああぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その叫びは壁を超え、隣の女湯にまで届いていた。

 

「今のってトラちゃんだよね?」

 

「まったく。アヤツは騒がなければ気がすまないのか」

 

 虎之助たちと同じような理由で早めの風呂に来ていた大友たちが呆れた様に溜め息をつく。

 この叫びは彼が悪い訳ではないが、そんなこと彼女の知ったことではない。

 

「少しは成長したかと思っていたが、まだまだ子供のままだな。昔から広い湯船を見ると喜んで飛び込むようなたわけだからな」

 

 まるで親になったかのような言い様だが、そこまで虎之助のことを案じていると思うと有馬の口から自然と笑いが零れる。

 

「何を笑っているのだ? 大友は面白いことなど言っていないぞ?」

 

「気にしないで。それに、騒がしいのはこっちも同じだよ」

 

 有馬の視線の先では、宇喜多がいくつもの入浴剤を並べて叩き売りを行なっている。

 

「この入浴剤は美容成分たっぷりで一時間つかるだけで肌ツルッツルやで! さらにこっちは香りつきでリラックス効果つきや!」

 

 どう考えても学生のすることではないが、あのような者もいるのだから叫びの一つくらいは普通に思えてしまうのが怖い。

 

「確かにアレに比べればまだましだが」

 

 宇喜多に悪い納得のしかたをする大友。

 この学校では小さなことを気にしていては周りについていけない。虎之助の叫びに納得した大友の横では、新たな騒ぎを感じ取ったのか尼子が突然体を振るわせる。

 

「ッ!? なんだ今の悪寒は……」

 

「なんや尼子? 体調が悪いんやったら、この薬湯がお勧めやで」

 

「いや、そういうのではないと思う」

 

 そう、その悪寒の正体は男湯にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男湯の一角で、体を固まらせる一団がいた。

 彼らの視線の先にいるのは同性である弟のほうのあまご。

 

「姉のほうがいいと思っていたが……」

 

「弟でも別に……」

 

「ついててもいいような……」

 

 警察に通報しなければいけないような呟きを零しながらあまごへと熱い視線を送る彼らこそ、後に尼子姉弟の親衛隊を勤めることになる尼子衆である。

 その視線の意味が分からないあまごは、ただ首をかしげるだけ。

 

「ん? どうしたんだあいつらは?」

 

 ソレをはたから見ている虎之助には、真実を教えるべきか、黙っているべきか分からなかった。

 

「あいつ等がどうかしたのか?」

 

 というか、隣の長宗我部が恐ろしくて他人を気にかけている余裕がなかった。

 先ほど体を触ったことに他意はないということだったが、彼の筋骨隆々の体を見ると、どうしてもあらぬ疑いが出てきてしまう。

 

「この学校大丈夫だよな?」

 

 残念なことに、その不安が消えないまま風呂を上がるのだった。




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