生徒の自主性を尊重する天神館では、委員会や部活動と言ったものも盛んだ。
そのため新入生が入ったばかりの今の時期は、放課後になったとたんに昇降口は勧誘の嵐が吹き荒れる。
「風紀委員は常に新戦力を求めています! 一緒に学校の風紀を守りましょう!」
「日本男児なら相撲でごわす! ちゃんこ食って強くなるでごわす!」
「普通の人間に用はない! 宇宙人! 超能力者! 未来人! カムヒア!」
おかしな連中が紛れ込みながらも、皆熱心に一年生を勧誘している。
そんな活気溢れる様子に圧倒されながら、虎之助たちは各活動を物色していた。
なかには早速入部したのか、クラスの連中もいる。
「本格派オイルレスリング同好会だ! 今入部すれば特別に阿波牛を食わせてやるぞ!」
「当アニメ研究同好会では夏冬のイベント参加はもちろん、積極的に活動している。少年誌しか読まないといったライトな者も大歓迎だ。気楽に見ていってくれ」
なかなかにディープな部活ながら、あの二人の勢いで入部してしまいそうなのでアレには近づかない。
ある程度見て回ったところで、目当てのモノを見つけた有馬が声を上げる。
「明奈はやはり図書委員会に入るのだな」
「もちろん。ココの図書館て凄いんだから。トラちゃんもたまには漫画以外も読んでみるといいよ」
「そうだな。何かお勧めがあったら教えてくれ」
出来ることなら本だけを頼む。そんな言葉を飲み込みつつ答える。
きっと、言ったところで理解して貰えず、図書室で仕入れた知識(フレンドリーファイア)は撃たれるのだろうから。
入会手続きに行く有馬を見送った虎之助たちは、そのまま連れ立って他を見て回る。
「さて、オレたちはどこに入ろうかね」
「大友は思い切り体を動かせるところがいいぞ」
「じゃ文化系は飛ばして、あっちのほうから行くか」
二人で同じところに入るということは決まっているのか、極自然に二人の希望を統合して行き先を決定する。
しかし、大抵の運動部は男女に分かれているのだから、二人で一緒に入れるような場所は少ない。
それでも可愛らしい外見の大友は、ぜひマネージャーになってくれと言われるが、彼女は自分も運動したいため断固拒否している。
「どいつもコイツも大友を舐めおって! 何が仕事をしなくていいから、だ! 大友は人形ではないぞ!」
「まったくだな。天神館って言っても、ああいう輩はいるんだな」
「トラはあのようなたわけになるでないぞ!」
「ならんから安心してくれ」
憤慨する大友を宥めつつも、虎之助は内心では一安心していた。
彼女が相手にしないだろうとは思っていても、大友に他の男が群がるのはいい気持ちはしない。
それを一蹴する様子は、僅かな不安も一緒に吹き飛ばしてくれる。
「しかしコレであらかた見ちまったな。後残ってるのは」
いいながら校庭へと視線を向けると、そこではサッカー部が練習をしている。
「サッカー部じゃ、また大友はマネージャーとか言われるか」
「ままならんものだ」
不満げな大友だが、珍しくそんな彼女に気がつかない虎之助はまだサッカー部を見ている。
「なんだ? トラはサッカー部に入りたいのか?」
「いや、そうじゃないけどさ。小さい時はよくサッカーやってたなと思って」
「おお、懐かしいな。よく空き地に集まってやっていたな」
「あの時からオレたちのコンビは無敵だったな」
「ははは、そうだな。大友たちの相手は皆諦めていたものだ」
話しているうちにドンドンと思い出す幼少期の思い出。
空き地の横に住み着く黒犬との交流、上級生との戦い。そして、初めて虎之助に感じた異性。
僅かに赤くなる頬を隠すように大友もサッカー部へと顔を向ける。
そこではサッカー部員たちが汗を流して真剣に練習し、その傍らでは女子マネージャーが懸命に声を掛けて応援したり、雑用に勤しんだりしている。
先ほどの勧誘ではまるで、マネージャーというのはチヤホヤされているだけのお飾りのようだった。しかし、実態はもしかすると選手以上に大変なのかもしれない。
そうやってマネージャーというモノへの認識を改めると、虎之助の部活動をサポートするのも悪くないと思えてくる。
(前に明奈に借りた漫画みたいに大友たちも……)
有馬に読まされたスポーツラブコメを思い出し、顔をニヤケさせる大友。
「なあトラ。お前が入りたいと言うなら大友がマネージャーをやっても」
振り返ると、虎之助は謎の一団に拉致されているところだった。
唖然とする大友が我に帰った頃には、すでに人ごみに紛れて見失ってしまった。
凄い勢いで人ごみを掻き分けて、たどり着いた先は校舎裏の奥まった場所。
「なんだお前らは! こんなところに連れ込んでどういうつもりだ!」
得体の知れない集団に警戒した虎之助が威嚇するように声を張り上げる。
しかし、相手は拉致してきたクセに妙にフレンドリーな様子で語りかけてくる。
「いやいや、先ほどは失礼した。お主を同志と見込んだもので、ちと強引な勧誘をさせてもらった」
集団のリーダーと思しき男がそう言う。勧誘ということは彼らも何かしらの部活動なのだろうが、それにしてはこんな場所に連れ込む理由がない。
「あんたら何者なんだ?」
未だに得体の知れない彼らに慎重に問う。それを待ってましたとばかりに胸を張った答える男。
「フフフ。我らこそは天神館の闇を司りし騎士団、エロイヤルナイツが五柱の一つ錯乱坊なり!」
あまりにもアホらしい名前に、大よそどういった集団か検討がついた。
とたんに、彼らと真面目に話しをするだけバカバカしいと思えてきて、虎之助は無言で立ち去る。
「おお待たれよ! 我らの仲間になれば、他のエロイヤルナイツメンバーが集めたエログッズをお手ごろ価格で手に入るのだぞ! お宝満載だ。お主もそういったものが入用であろうに」
ソレはつまり、性的欲求がたまりやすいと思われているということ。もっと簡単に言えば「お前はモテないだろ」ということ。
確かに、そこにいるだけで女が群がると言えば嘘になるが、あったばかりの奴らにそこまで言われる覚えは、虎之助には欠片もない。
「テメェらだけで勝手にやってろ!」
文字通り変態どもを一蹴して今度こそ立ち去る。
まだ大友がサッカー部を見ていてくれればいいが、急がなければこのまま合流できないかもしれない。
拉致されたため道順をちゃんと覚えておらず多少迷ったが、校庭まで戻ると大友はまだそこで待っていてくれた。
しかし、その隣には女垂らしこと龍造寺が。
「やあ、どごーんちゃん。こんなところで何やってんの?」
「どごーんちゃん? それは大友のことか?」
「そうそう。あの館長に撃ってた大砲すごかったから」
「おお、あの大筒の凄さが分かるか!」
「そりゃ、あれだけ景気良くぶっ放してればね。で、どうだい? 良ければこのまま俺と何処か出かけない?」
「いや悪いが、トラが戻ってくるのを待っているところなのだ」
「トラ? ああ立花ね。あんなヤツ放っておいて俺といいことしようぜ」
そういって大友の手を握ろうとする龍造寺。
すぐ後ろまで来ていた虎之助は、とりあえずその後頭部を殴り飛ばすことで、会話するだけの理性を保つ。
「あんなヤツとはなんだこらホスト野郎」
「トラ。お前どこまで行ってたんだ」
元々ああいった軟派な行いを好かない大友は、龍造寺に目もくれない。
殴られた頭をさすりながら、そんな二人を見比べると龍造寺は一人で納得したように顔をニヤケさせる。
「ああ、そういうことね。男の嫉妬は見っともないぜ」
「お前の節操のなさよりはマシだよ」
「へいへい。それじゃお邪魔虫は退散しますか」
手をひらひらと振って、次の女子を口説きに掛かる龍造寺。その女子は今のやり取りを見ていただろうに、満更出ない様子。こんなだからこの男が調子に乗るのだろう。
それを見て溜め息をつく虎之助だが、大友は何故か嬉しそうに笑っている。
「どうした?」
「嫉妬したことは否定しないのだな」
指摘されて、自分の言動に気がついた虎之助の顔が、一気に赤くなる。
確かに大友に気安く近づく龍造寺にイラっときたが、油断し過ぎていた。
「お、見ろよ焔。あの部活よさそうじゃないか」
照れ隠しに適当な部活を指差して話題を逸らす。大友も気分がいいのか、それに引っかかってやる。
しかし、指差した先を見たとたん、その気持ちも吹き飛ぶ。
そこで勧誘をしていたのは、水泳部。それだけなら問題はなかったのだが、
「新入部員募集中でーす。カナヅチでもお姉さんがやさし~く教えてあげるから、入部よろしくお願いしまーす」
あからさまに狙っているだろう、スタイルの良い女子生徒があろうことか水着でビラ配りをしている。
しかもその水着というのがスクール水着や競泳水着ではなく、ビキニなのだからいい訳しようがない。
「トォ~ラァ~」
怒りの形相で振り返る大友。その手には奇しくも、今しがた龍造寺が褒めた大筒が握られている。
「まあ待て。あれも立派な部活動だと思わないか? 四月とはいえまだあの格好はつらいだろうに」
「いい訳無用! チェストオォォォォオオオォォォ!!」
有無を言わさぬ砲撃が虎之助を襲う。
それは、この人ごみにおいて的確に虎之助一人を捉え、周囲には爆音と煙しか伝えない。
突然の砲撃に、唖然とする周囲の者にお構いなしで続く二撃目、三撃目。
ようやく大友の気が済んだときには、黒こげの虎之助と硝煙だけが動き、皆固まっている。
そんな中で、観衆から飛び出し大友に駆け寄る者たちが。
「あなたこそ私たちが求めていた人材だ!」
翌日。虎之助と大友は朝早くから走っていた。
二人は教室を通り過ぎると、そのまま階段を駆け上がり校舎の屋根の上に出る。
「トラ時間は間に合ったか?」
「始業一分前。ギリギリだったな」
生徒としては、この時間には教室にいなければいけないのだが、二人は昨日勧誘された活動のためにこの場に来なければいけなかった。
校舎の屋根に取り付けられた鐘の横で天に向かって大筒を構える大友。
「カウント行くぞ。二十秒前。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、発射!」
「始業の大筒、でぇりゃあぁぁぁああぁぁ!」
朝早くから景気良く打ち上げられる大筒。
さすがに戦闘用のものではなく、運動会などで見られる白煙を上げるものだが音は砲撃そのもの。
天神館中に響き渡る砲撃音は、本日の始業を知らせる。
「うむ。放送委員会の仕事もいいものだな」
「これ以上ないくらいに焔向けだな」
これが、昨日勧誘された活動、放送委員会に託された仕事。
元は立派な鐘を鳴らしていたそうだが、それが壊れて困っていたところに、大友の砲撃を見てひらめいてしまったらしい。
コレが、新たな天神館名物『砲撃で知らせる始業』となるのは、もう少し後の話。
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