うららかな放課後の時間。
天神館から程近い商店街では、部活動に所属しない生徒で賑わっていた。
そんな中を虎之助は、珍しく男三人組みで歩いていた。しかしそれは本人の意思ではないのか、顔には面倒臭そうな表情が張り付いている。
「この私が何故このような雑務をせねばならんのだ」
「仕方ないだろ。買出し役だったハチを潰しちまったんだから」
「その点については俺にも責任がある。謝ろう」
本来ならば鉢屋が頼まれていた買出しの仕事。なのだが、その鉢屋は昼休みに危険物を食べさせられ絶賛気絶中。
だからしかたなく、くじ引きで当たってしまった虎之助と毛利が代わりに買出しに出ることになった。大村は危険物に責任を感じて自主的について来てくれた。
「ヨッシーのせいじゃないさ。多分ハチの責任だ」
「その通りだ。頭を下げる暇があるなら、軽やかに仕事を済ませてしまおう」
「そう言ってくれると助かる。さて、はじめは何からだった?」
貴重な放課後をこんなことで潰したくないのは全員同じ。虎之助の預かったメモを覗き込み、品物を確認する。
「えーと、工務店でチェーンソー三つ」
「おい。私たちは林間学校の買出しに来たのではないのか。なんだその薄汚い肉体労働のための買い物は」
滅多なことでは買う必要のないだろう品物がいきなり出てくる。
毛利の疑問はもっともなのだが、虎之助も冗談で言っているのではない。とりあえずそのままメモを読み上げる。
「次はアーミーナイフ四本に、乾パン三袋」
「まるでサバイバルの準備だな。天神館の林間学校は厳しいと聞いていたが、よほどのようなだな」
世間一般の楽しいキャンプのイメージからかけ離れた、厳つい雰囲気に思わず息を飲む。
噂では、この林間学校で天神館第一期生はログハウスを造らされたと言う。そこからどれだけエスカレートしているのか、想像するだけで恐ろしい。
「ふう、やはり美しい私が出るべき行事ではないか。サボろう」
「館長の本気のお仕置きを受けたいなら、好きにすりゃいいんじゃね?」
「目に見えた災難は華麗に回避だ。美しき者は愚かな真似はしない」
「懸命な判断だな。館長クラスの人間なら、片手で竜巻を起こせる」
サボった瞬間に、命がないと思ったほうがよさそうだ。
仕方なくリストを上から順番に買っていく。途中いくつも、学校関係者が行かない様な店が続く。
「オレたち本当に林間学校の買出しに来てるんだよな?」
順番に買い揃えていき七つ目、猟銃の弾丸を鍋島宛に注文したところで改めてぼやく。
ココまで来ると、もはやサバイバルを通り越している。ゲリラ戦の準備と言われても納得できるだろう。
「私たちの常識の方がおかしいのではないかと思えてしまうな」
「コレが天神館ということで納得するしかないだろう」
納得というか、諦めに近い境地で溜め息をつく。
そんな風に三人が自分を見失い始めた時だった、大村が何かを見つけ目を輝かせる。
「な!? あ、あれは幻の!」
何ごとかと虎之助と毛利も視線を向けると、そこにあったのは一軒のうらぶれたゲームセンター。
駅前にあるような繁盛している店とは違い、電飾は切れ掛けているし、並ぶゲームも一昔前のラインナップになっている。
「小汚い店だ。こんな場所がどうしたというのだ」
「何かレアモノでも眠ってたか?」
「レア中のレアだ!」
そこまでオタク趣味に明るいという訳ではない二人が気軽に尋ねるが、大村のテンションは尋常ではない。
大村がオタクというのはとっくに了解している。それでも、ここまでの状態は初めて見たので、正直引いてしまう。
「アレを見ろ! マシンガーだぞ! 復刻版じゃない、初期だ。ケース越しでは確証できないが、もしかすると初版かもしれないぞ!」
バンバンとクレーンゲームの筐体を叩きながら熱弁を振るう大村。
虎之助たちも、そのロボットを見た覚えがあるほどの有名なもの。だが、ケースの中にあるのは彼らが生まれるよりも前に発売されただろう古臭い商品。
「そんな人形に価値があるのか?」
「金には代えられない価値がある」
目がマジだ。どれくらいマジかというと、それに命を懸けて人生踏み外すだろうくらいにマジの目だ。
というか、すでに財布を開いて百円玉を積み始めている。
「すまないが少し待っていてくれ」
その背中は、戦士の背中だった。
一年の中では間違いなくトップの実力だろうに、何故ここでそんなにオーラの無駄使いをするのか。
「アイツも大概だな。仕方ない、オレたちも少し遊んでるか」
「そうだな。どれ、私の美しいコンボを見せてやろう」
この時は、ほんの息抜のつもりだった。
それでも熱中してしまうのが少年というモノ。
「くっ!? またダメだっただと……。すまないが一万崩してくる」
「見よ! これこそ流麗なる無限コンボだ」
「て、こらそれただのハメ技だろ!」
気がつけばすでに一時間以上もこのゲームセンターで遊んでいる。
そうすると気がつくのだが、意外とこんな店でも客は着ているのだ。虎之助たち以外でも数組が来店している。
そんな中から、虎之助が見覚えのある学ランを見つける。
「お、アレって仏院か? 本当にここら辺うろついてるんだな」
「ああ、あの醜い連中か。アレはアレで堅牢な美しさが出せるであるだろうに、群れるだけで努力をしないやつらだ」
「それに、天神館は武闘派で有名だ。奴らも手出しはしてこないさ。気にするな」
その言葉の通り虎之助たちの視線に気がついても、彼らから手出しはしてこない。釣りに行ったときは私服だったため、絡まれたのだろう。
「ふぅん。で、ヨッシーはとれそうか?」
「あと少しだけ待ってくれ。もう一息で取れそうなんだ」
「よかろう。その間に今度は華麗なるシューティングテクを魅せてやろう」
「いやいや、それよりも俺の奥義を見せてやるよガキども」
ダンディなその声に、虎之助たちの背筋が凍る。
肩に置かれた手の大きさ、鼻腔をくすぐる葉巻の匂い。
みんなのナベシマン降臨である。
「買出しを頼んだはずだが、随分と楽しそうじゃねえか」
声色こそ優しいが、計り知れないほどのオーラが溢れている。
虎之助はもちろん、毛利の自己陶酔、大村の実力を持ってしても振るえが止まらない。
「怠け者の匂いがしたと思えばまったく。いい訳があるなら聞いてやるぞ?」
「そのような見苦しい真似、私には出来ほぎゃ!?」
潔くてもダメらしい。毛利が華麗に三回転しながら宙を舞う。
続いて大村。彼は受身をとってダメージを最小限に抑えたが、それでも膝が震えている。
最後になった虎之助。いい訳しなくてもお仕置きがくるのならと、ココで無駄に勝負に出てしまう。
「館長。実は買出しのついでにうちの学校のヤツが悪さしてないか見回りを」
「そりゃ、俺が今やってることだ。つまんねぇいい訳してんじゃねぇぞ!」
やはりマイナス効果だった、先の二人よりも強めの拳が振るわれ、空中コンボが入る。
「みぎゃ!? 何故オレだけ!?」
「いい訳の分だ。しっかりと反省しろ」
そのまま正座させられてお説教が始まる。
そんな天神館の面々を遠巻きに眺める学ランの仏智霧学院の生徒たちはコソコソと店の奥に消えていく。
店内からはまったく見えない、そんな隠れたスペースに潜り込んだ彼らは携帯電話を取り出す。数回の呼び出しの後に相手がでると、恐縮したように話し始める。
その内容は、今しがた鍋島の説教から零れ聞いた林間学校に関するもの。
話を聞き終えて相手も満足したのか、電話口から愉快そうな声が漏れる。
『そうかそうか。それでいい、全ては私の手の平の上だ』
武闘派で知られる天神館。今はまだその勇名に守られている。しかし、それは逆に敵を呼び込む旗印でもあるのだ。
虎之助たちの知らないところで、陰謀が渦巻いていた。
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