真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~   作:youkey

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18話

 熊との遭遇といった波乱に満ちた登山を終え、ようやくありついた昼食。

 有馬たち非武闘派が、罠地獄(アスレチック)代わりの雑用の一環で作ったカレーだ。

 山の空気と、手作り感のあるテーブルが雰囲気も相まって、大変美味しい。

 それを味わいつつも、話題はやはり虎之助たちが討ち取った熊のこと。

 

「あの程度の熊におれの出世街道を阻めるはずがないのさ」

 

 話を聞きたいと群がる生徒たちに、自信満々に答える石田。確かに彼の一撃が大きかったのだが、まるで自分一人で討ち取ったかのような言い方だ。

 虎之助たちの働きも大いにあるのだが、もはやそれを指摘するのもバカバカしい。

 

「たく、オレたちが助けなきゃ今頃熊の腹んなかだろうに」

 

「それはお前もだろうが。今回は運が良かったものの、あのような事が毎回上手くいくと思うなよ」

 

「まあまあ。無事だったんだからいいじゃない」

 

 石田が大々的に話すせいで大多数の野次馬が向こうに行ってしまうが、気心の知れた面々は虎之助たちを囲んでいる。

 

「そうだな。くまをあいてに、ぶじだったんだからいうことない」

 

「あの熊は館長が捌いて夕食にしてくれるらしいぞ」

 

「ほな毛皮はどうするん? 捨てるんやったら、うちが欲しいねんけど」

 

「待て。あの美しい毛皮はこの私にこそ相応しい」

 

 この二人に所有権を主張する権利はないと思うが、食事は和やかに進む。

 午後からのトレーニングが、午前以上に過酷なものになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら走れ走れ! お前らの体力はその程度か! そんなんだから東高西低なんて馬鹿にされるんだろうが!」

 

 鍋島の怒鳴り声を浴びながら行なう準備運動。

 しかし、やっている事はただのランニング。それをひたすら一時間以上も続けている。

 各生徒の力量に合わせた重りを背負い、日差しのしたを黙々と走らされている。

 それは、登山のように劇的に体力を奪うようなことはないが、延々と同じ景色ばかりなので精神的な苦痛が凄まじい。

 

「ハァ。なんでこんなにアナクロなのかね」

 

「なんだ龍造寺、もうバテたのか。四万十川の鰻でも食って体力をつけろ」

 

「無駄話の分三週追加だぁ!」

 

 こんな風に連帯責任で、ドンドンと周回数が増える。のだがその程度で口を閉ざさないのは、懲りないと思うべきか個性が輝いていると思うべきか。

 そのせいでランニングが終わる頃には全員息が上がってしまっている。

 

「よーし、休憩が終わったら分野ごとに特訓だ」

 

 林間学校の強化メニューとして、午後からは生徒ごとに特技を伸ばす訓練になっている。

 虎之助たち、刀剣類を扱う生徒は武器コース。島のように長物を扱うコースに、射撃、格闘術などもある。

 

「射撃コースでは、森林の中での精密射撃だそうだ。障害物なぞ、国崩しに掛かればないも同じだというに」

 

「まだマシだろ。こっちなんて、島津先生の剣術だぞ。あの人のぶった斬りとかオレ合わないんだよなぁ」

 

 互いに、得意戦法とは合わない特訓に重い溜め息をつく。

 そういった苦手をなくすため、と言えば納得もできる。それでもやはり得意な方、好きな方を頑張りたいものだ。

 

「有馬や龍造寺よりはマシだと思うしかないか」

 

 今回の特訓では、普段の武術の時間と違い素人コースはない。なので武術の心得のない者たちも、格闘コースに組み込まれている。

 

「確かに大筒が撃てる分、大友は恵まれているな」

 

「そういうこった。じゃ、お互い頑張ろうぜ」

 

 休憩も終わり、それぞれのコースへと向かう。

 虎之助の参加する、武器コースの担当をするのは毎日顔を見ている担任の島津豊久。

 武術担当教師は伊達ではなく、彼の大太刀を使った豪快な剣術は並みの剣士では受けることすらままならないほどだ。

 

「俺(おい)が見本を見せる。お前たちはそれに続くんじゃ」

 

 いいながら木刀を構える豊久。狙っているのは、目の前の樹木だろう。

 一度呼吸を整え、目標へと駆け出す。

 

「イヤァァアアアァァァァ!」

 

 気合の叫びと共に振るわれる木刀。全体重、全力を乗せた一撃は、木刀とは思えない威力を生み出し、衝突事故のような音を響かせる。

 衝撃に耐え切れなかった木刀がへし折れているが、同じくヒビが走る樹木。

 ゆっくりと傾くそれは、徐々に加速して行きついには倒れてしまう。

 

「一撃になんもかんも込めて振り下ろせ。悪いが、俺(おい)にはこいしか教えられん」

 

 もはや講義でもなんでもない。力任せの剣技を見せられただけ。

 いや、同じ系統の剣術を使うものや、パワー志向のものには大変参考になったらしい。目を輝かせて、島津の動きを真似ている。

 しかし、虎之助の剣術は機動性を生かした物。そのため、一撃に全てをかける島津の剣は、あまり参考に出来ない。

 

「なんだ貴様はやらんのか」

 

 どうしたものかと、とりあえず他の生徒たちを眺めていた虎之助に声を掛けてきたのは石田だ。

 

「オレのやり方と違うからな」

 

「ならばどうだ。おれの稽古の相手を任せてやらんこともないぞ」

 

「稽古相手?」

 

 自尊心の強い石田が、信頼する島以外と稽古をしているところなんて見たことがない。

 午前中の熊との遭遇は、予想以上に彼の心境に影響を与えたのか。

 

「動かぬ木を叩くよりも、標的は動いたほうがいいからな」

 

 それでも石田は石田だった。基本的に自分が上というところまでは直らないらしい。

 引っかかる言い方ではあるが、虎之助としてもこのままサボるよりはマシだ。豊久に許可を貰う。

 

「島津先生。石田と組み手やっていいですか」

 

「石田と立花か。存分にやるとよか」

 

 許可を得て、向かい合う二人。

 その組み合わせの珍しさから、周りの生徒たちも自然と注目する。

 間に立った豊久が腕を振り上げる。あれが降りた瞬間が始まりだ。

 呼吸さえ忘れたかのような沈黙。それを、豊久の腕を振り下ろす音が破り、二人が同時に動く。

 

「せいやぁー!」

 

「見え透いた攻撃よ!」

 

 袈裟切りに振り下ろす虎之助の木刀を、バックステップで回避する石田。

 攻撃直後を狙い、石田が篭手を打つ。虎之助は、それを素早く振り上げた木刀で弾き、次の攻撃を振るう。

 

「もう一丁!」

 

「らしくないな。何が狙いだ?」

 

 真っ向から剣を振るう虎之助の姿勢に、怪訝そうな目をする。それもそのはず、虎之助の基本的な戦い方は誰かの援護。

 大友の砲術、長宗我部のパワー、そういった他者の攻撃を不意打ちや奇襲で援護するのが彼の得意とするところ。

 だから一対一でも絡めてや不意打ちが出てくるのだが、今回は真っ向勝負を挑んできている。何かしら罠を張っているとしか思えない。

 

「なーに、お前程度ならコレで十分ってことだよ」

 

「ハッ。そんな安い挑発でおれが乱れると思ったか」

 

 冷静なまま全力で木刀を振るう。

 たった今、豊久が披露したものと同じ剣技。さすがにまったく同じ威力とまでは行かないが、全てを掛けたその一撃は虎之助の体を弾き飛ばす。

 

「のわぁ!?」

 

「せっかくおれが相手をしてやっているのだ、少しは楽しませろ」

 

「それじゃぁ、行くぜおら!」

 

 立ち上がると同時に、砂利を投げつける。

 その程度は予想済みの石田は、一振りで砂利を叩き落とす。すると、先ほどまでそこにいた虎之助が姿を消している。

 

「ようやくらしくなったか。どこに隠れた?」

 

 素早く周囲を見渡すが、虎之助の姿は見えない。

 どこに隠れたかは分からないが、奇襲を警戒して木を背に構える。動きが制限されてしまうが、コレで少なくとも背後からの攻撃は心配する必要がなくなる。

 

「さあ、どこからでも掛かって来い。返り討ちにしてくれるぞ」

 

 その言葉に反応するように、ギャラリーの背後からけたたましい音と共に石田に襲い掛かるモノが。

 

「花火だと!?」

 

 いつの間に隠したのか、草陰にロケット花火の発射台が隠されていた。

 次々と殺到し弾ける花火の光と音には、さすがの石田も意識を奪われる。息を殺しながらそれを待っていた虎之助が樹上から飛び出す。

 

「トゥラトゥラトゥラーー!」

 

 落下するままに振り下ろされる木刀は、さすがの石田でも受けきれない。

 体勢を崩した彼に、虎之助は飛び跳ねるようにして体当たりをかます。

 

「見たか! これが師匠直伝のロケット花火だ!」

 

 ココで言う師匠とは祖父虎蔵のことではない。独力で剣術の修行に励んでいた虎之助が出会った第二の師匠と呼ぶべき相手から習い教わった技術。師匠は花火を巧みに操り、とある喧嘩屋ランキングで、上位の一人として名を連ねていたほどだ。

 

「くっ! 舐め過ぎたか。食らえ電撃!」

 

 馬乗りになって、止めの一撃を入れようとする虎之助。その足を掴んだ石田は、熊にそうしたように電撃に変換した気を送る。

 

「みぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーー!」

 

 電撃を防ぐなぞ、相当に気の扱いを極めるか、専用の防具を身につけなければ無理だ。抵抗も出来ずに電撃に晒されるしかない。

 人間相手ということで、加減されたのであろう。電撃が終わっても、辛うじて虎之助は一人で立てた。

 

「今のはさすがのおれでも冷りとしたぞ。さあ、構えろ」

 

 言いながら再び木刀を構える石田。虎之助が訳がわからないという顔をしていると、ニヤリといやらしく笑う。

 

「このおれがあの様なギリギリの勝負で納得するはずなかろう。もう一度、今度は完璧に叩き伏せてやろう」

 

 救いを求めるように豊久に視線を向ける虎之助。

 

「はよう構え」

 

 しかし、この教師も武士だった。特訓には一切の妥協を許さない。

 結局、石田の気が済むまで相手をさせられる虎之助だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓に勤しんでいるとあっという間に夕暮れになる。

 各コースで汗を流した生徒が、宿泊するログハウスへと続々と帰ってくる。

 虎之助はその中から、ある生徒を探していた。周囲はいつも通りに大友のことを探しているのだろうと気にしないが、今回は少々違っていた。

 

「おーいハチ。ちょっといいか」

 

 目的の生徒、鉢屋を見つけ、呼び止めながら駆け寄る。

 

「どうした? 大友ならば拙者とは別のコースだぞ?」

 

 忍術という特殊な技術を扱う鉢屋。選ぼうと思えば射撃コースも選べたが、今回は格闘技コースだったため、大友とは別だ。

 

「いやそうじゃなくて仕事を頼みたい」

 

「依頼か。悪いが友人と言えども報酬は貰うぞ」

 

「寮の机にエロ本が一冊ある」

 

「話を聞こう」

 

 色々とあって生涯童貞を硬く誓った鉢屋。あの日以来、金銭以外にも童貞を守るためにそういったエログッズでも仕事を請け負うようになっていた。

 そんな鉢屋に、虎之助は周囲を警戒しながら依頼内容を耳打ちする。

 

「女湯を覗けるスポットを調べて欲しい」




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