石田三郎を大将として結束した天神館一年生たちだったが、そのままの勢いで殴りこみに行くほど考えなしではない。
逸る気持ちを抑えて、まずは学生寮に戻り作戦を練る。
総大将石田が最奥に座り、その両隣には島と大村。その三人からさらに主要メンバーが並び、円形になって会議を始める。
「で、なんでオレの部屋なんだよ」
何故か虎之助の部屋で。
六畳間には精々が五人集まれるほどのスペースしかないと言うのに、十人以上もが詰め込まれている。
そして、入りきらなかった虎之助は他の生徒と共に戸を開いて廊下に出ている始末だ。
「食堂やロビーに集まっては教員に見つかってしまうだろうが。そしておれの部屋を貴様らに荒らさせるつもりはない」
正論と我が侭を平然と並べる。こういった我の強さが、大将として未熟と言われるのを本人は自覚しない。
それで当たり前のように虎之助の部屋に集まる、他の者も他の者だ。
「そう言えばトラよ。昨日の報酬だが、引き出しの中だったか?」
「報酬? 何か依頼を出していたのか?」
「ただの野暮用だ。全然気にする必要なんてない。ハチもソレは後で渡すから今は忘れてくれ」
虎之助の部屋に入ったことで思い出したのだろう。他の生徒、と言うよりも大友の目の前でエロ本を取り出そうとする鉢屋を全力で止める。
すでに生涯童貞という覚悟を決めている彼ならともかく、虎之助は普通に恋愛がしたい。
ココでそんな物を出されては、少なくとも天神館にいる間は色恋沙汰とは縁が切れるだろう。
そんな、割とくだらないことをやっている隙に石田が作戦会議を進めてしまう。
「コレが鉢屋の仕入れた、仏智霧学院の見取り図だ」
どこから、どうやって。そこら辺を聞けば、非合法な気配がするがとりあえずは精密な図面が広げられる。
それは一見すると普通だが、妙な違和感を与える図面だった。
敷地の中にあるのは校舎と体育館にプール。全寮制のため学生寮も同じ敷地だ。
一応仏教系の学校らしく、本堂などの一般的ではない施設もあるが、違和感の正体はそれではない。
「あれ? このガッコーいりぐちがひとつしかないぞ?」
「ホンマやな。コレ間違いやないんか?」
全ての施設を囲うようにぐるりと走る壁は、正面を除いて一切途切れていない。
普通に考えれば普段閉じているとしても、裏門や車両用などの出入り口があるはずである。
「いや、それで合っているんだ。元が不良更生校。脱走防止のために六メートルの塀で覆われていて、塀の上には電流が流れている有刺鉄線がある」
大村に仏智霧学院のホームページを見せられると、そこに載っている写真は堅牢な正門と高い塀。それはもはや刑務所か何かを連想させるほど。
「ならば何故、奴らがこちらにまで来ているのだ?」
「まさかあの野蛮な連中に流麗な脱走技術があるとでも言うのか?」
コレだけを見れば、脱走不能の陸の孤島としか思えない。
だが実際には、彼らは休日はもちろん、平日の昼間から学校を抜け出している。
「ここの正門は教員用IDで開閉を管理している。そして残念ながらソレを生徒たちに奪われているそうだ」
まさに無法地帯。想像以上に荒れている状況に、誰からともなく息を飲む。
ただ偏差値が低く不良が集まっているのではない。不良を更生させるために作られた学校だ。当然、教師だって彼らの暴力に抗える人選をされている。
それなのに強奪した上に今でも保持しているのだ。つまりはソレ以上の暴力を保持しているということ。
加えて天神館を襲った手際を考えれば、集団としての統率も取れている。
想像以上の敵の脅威。しかし石田は不敵な笑みを零す。
「フ、数だけの落ち零れかと思えば存外面白そうではないか」
「なかなかどうして。敵として不足なしだな」
「たまにはこういうワイルドな娘もいいよな」
石田だけでなく、次々と自信ありげな言葉を紡ぐ。
さすがは天神館生徒。敵が強大ならば、恐れるのではなく心躍るのだ。
「では、改めて作戦会議と行こうか。まずは侵入をどうするかだな」
「裏門でもあればそれで決まりなんだがな」
生憎と入り口は正門一つ。その上、塀が高過ぎて他からの侵入も難しい。
彼らを逃がさないための牢獄が、今ではそのまま彼らを守る砦になってしまっているのだ。
学校への殴りこみと言うよりも、城攻めに近い要素は戦闘要員たちには戦略を出すのが難しい。
そこで、スポットライトが当たるのが頭脳労働担当の有馬明奈。
「塀で囲まれてるなら兵糧攻めが安全だけど、そうも行かないよね」
「不良校とは言え学校。我々の勝手で封鎖などしては、警察を呼ばれて終わりだ。出来るだけ短期決戦が望ましいな」
堅牢な守りを迅速に突破する。
そんな無茶な要求に対して、有馬は顎に手を当てて考え込む。
いかに学力のみで天神館の一組に入ったとは言え、彼女の知識の大半は書物から得たもの。
実戦経験を伴わないそれでは、今の状況に対してどれが適切か判断しきれない。
「基本はやっぱり、梯子とかやぐらで壁を乗り越えるかな」
確かに戦国時代劇や西洋ファンタジーで城を攻める際には、そうやって城壁に上り戦うシーンがよく見受けられる。
だが、それは壁の上に人が立つスペースがある場合だ。さらに言うならば、電流なんて決して流れていない。
「それには電流が流れておるのだぞ」
「あれ? みんな電気はダメ?」
そんな、曇りない眼で見つめられても、電気が大丈夫な生物のほうがこの地上では圧倒的に少ない。
もしも電流を突破出来たとしても、そこは地上六メートルの高さ。建物で言うと二階よりも高いくらいの位置から飛び降りなければならない。
受身を取らねば大怪我を負いかねないと言うのに、電流で痺れていてはそれすら危うい。
「まあ、電流が大丈夫だろうと、それでは一度に突入できる数に限りがある。それではすぐに敵に囲まれてしまうだろう」
決して電気はダメとは言わないのが石田らしい。それでも、一応は無茶だと諌めてくれた事だけで皆の中で石田の株がグングン上がっていく。
その横では、有馬が再び頭を捻り新たな|無茶振り(フレンドリーファイア)を装填している。
「あ、そうれなら空から部隊で降下すれば」
「そんな飛行機どこにあるんだよ」
そんな物があるなら、部隊降下だけでなく、いっそ爆撃か催涙ガス噴霧でけりがつけられるだろう。
「チョーさんが投げるとか? ハッちゃんが大きな凧を揚げるとか?」
無茶を言っているのは分かる。分かるが、だ。
それでも僅かに期待してしまうものがある。
有馬のみならず、一同が期待を込めた視線を二人へと向ける。
「う、うぅむ。投げて投げられんことはないと思うが、一人ずつ。それも着弾点は保障できんぞ」
最悪の場合は部隊降下ではなくて、人間砲弾になるということか。
「凧は偵察用。こういった強襲作戦には不向きゆえ」
飛ぶことは飛べるらしい。それでも、凧というのは飛んでいるだけのもの。飛行機やグライダーのように自由に移動は出来ない。
またもや作戦が却下され、さらに知恵(フレンドリーファイア)を捻り出そうとする。
なんとしてでも、それは阻止せねばならない皆は有馬以上に必死だ。
「俺が適当な女の子を口説き落として手引きさせるぜ」
「そのようなことせずとも、拙者の忍術を使えば敵を惑わすことなど容易い」
「武士がそんなふしだらな手を使えるか!」
「いや、そいつ等武士やのうてアイドルと忍者やで」
「であっても天神館としての誇りがあろう!」
「やっぱりチョーさんがみんなで爆撃を」
「まあまあ焔! 一時の不名誉に耐えることも必要だぞ!」
「そうだぞ! ワタシたちのほこりよりも、てんじんかんのほこりだ!」
「ええい! 黙れ黙れ! 一度落ち着かんか凡俗ども!」
会議は踊る。踊るだけ踊って、纏まる気配がまるでない。
昔の人は言った物である。『踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆ならば、踊らにゃ損損』。
だが、結局は阿呆なのである。
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