真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~   作:youkey

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22話

 天神館が襲撃された翌朝。

 普段ならば学校にてホームルームが始まっている時間。だが、天神館一年生たちは仏智霧学院の前に集結していた。

 臨時休校となったため学校をサボった訳ではないが、学生寮待機という指示を無視しての行動だ。

 鍋島をはじめとする、武闘派教師陣の実力を知るならば愚行としか言えないが、彼らの顔にはそれだけの覚悟があった。

 懲罰を覚悟の上で、仏智霧学院へと報復に参じたのである。

 では何故朝まで待ったのか? こちらが一年生しかいないのに対して、向こうは三学年全てが揃っている。

 昨日の一件で負傷者が出ているとしても、確実にこちらよりも多いだろう。

 ならば、深夜に寝込みを襲うなどの不意打ちが望ましく思える。だが、そこに一つの異論が入った。

 

「不良がちゃんと寝てるはずないだろ。あいつ等は夜通し遊び歩いて、朝方寝付くような生活だぜ」

 

 ということだ。確かに、武術に通じる者として規則正しい生活を送る天神館と違い、無法の地ではそちらのほうがしっくりと来る。

 なので襲撃時間は大幅に遅れ、今まさに攻め入ろうと言うところ。

 軍を率いる大将として、先頭に立つ石田の前にそびえ立つ巨大な鉄の門。本来ならば凶暴な不良たちを閉じ込める牢獄も、今では不良たちを外界から守る要塞。

 コレをどうにかせねば、拳一つとて届くことはない。

 昨晩は有馬によって人間爆撃が推されていたが、果たして採用された作戦は?

 静かに掲げられる石田の右腕。それに合わせるように、真っ直ぐに構えられる大友の砲筒。

 朝日を浴びて頼もしく輝く大筒を一瞥し、石田は顔に浮かぶ自信を深める。

 

「コレより仏智霧学院への侵攻を始める! 開戦の花火を上げろ!」

 

 力強い宣言と共に振り下ろされる右腕。それを合図に大友が引き金を絞る。

 

「大友家秘伝、国崩しでりゃああぁぁああぁぁぁ!!」

 

 開戦の花火に相応しく、仏智霧学院全体に轟く砲撃音。

 その前には、堅牢な鉄門も堪えようもない。歪に曲がった門は、すでにその責務を果たせなくなった。

 

「全軍! 進めぇーっ!」

 

 門を押し広げ雪崩込む天神館一年生。軍は三つの部隊に分かれて流れていく。

 一つは正門にとどまる部隊。彼らは背負った角材やベニヤ板を組み立て、簡易なバリケードを築いていく。

 天神館の最大戦力である大村ヨシツグは、石田に大将を譲る建前である病弱設定のためにそのバリケードの内側に留まる。

 

「目には目を。ネットにはネットだ。ゴホゴホ、敵を制圧次第メールで写真を送ってくれ。俺が全力で情報をばら撒く」

 

 広大なインターネットに流れた天神館の汚名を返上するための策の一つ。こうすることで、後の名誉回復はもちろん、それを見た仏智霧学院の生徒たちから士気を奪える。

 制圧部隊に声を掛ける大村の横では、この場に残った生徒たちへと島が声を張る。

 

「我らはここに本陣を敷き、敵を敷地内に閉じ込める! 決して突破されることは許されぬゆえ、気を引き締めよ!」

 

 バリケードの内側。中央に置かれた椅子に深く腰掛けた石田の横で島が皆を鼓舞する。

 短期決戦が望まれるため、防衛に割かれた人員は少ない。それに不安を感じる者も少なくないが、島の言葉と余裕溢れる石田に勇気付けられる。

 

「おれの出世街道がこんな場所で止まるはずがない。安心していろ」

 

 自意識過剰とも言えるほどの彼の自信が、かつてないほど頼もしく見える。

 そして、この場に残った中には、彼に負けず劣らず自信に溢れる者が。

 

「美しい私もいるのだ。お前達はただ私の武技を魅ていればそれでいい」

 

 愛用のクロスボウを磨きながら、毛利が言う。

 大友の持つ砲筒の大火力が派手なせいで、遠距離と言えば彼女のほうをイメージされがちだ。しかし、応用の幅や取り回しの良さなどではクロスボウのほうが圧倒的に上。

 優美に空を舞う龍の装飾が施された得物に見惚れるその目は、それでいながらすでに敵を狙う猛禽類の鋭さを宿している。

 ただのナルシストではない。自己陶酔するだけの物を、この男は持っているのだ。

 そんな頼もしすぎる様子に、安心した様子の鉢屋も自分の仕事に取り掛かる。

 

「では拙者も任務に取り掛かる。敵大将の情報を探ってくる」

 

 それだけ言い残し、始めからその場にいなかったかのように忽然と姿を消す。

 恐らく、次に彼が本陣に戻る時には敵の親玉の居場所を知らせに来る時だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところは変わって、二つある制圧部隊の片方。尼子姉弟と宇喜多が将を務める部隊は学生寮を目指していた。

 下手をすれば全校生徒を相手にする可能性もある場所だが、ここに割り振られた人員はそこまでの大人数ではない。

 と言うのも仏智霧学院の学生寮は、その特異性から全室の窓に鉄格子がはめられている。

 もはや刑務所にしか見えないこの建物では、人の出入りは制限されている。そのため、どれほど人数が多かろうとも一度に戦える数は限られている。

 だからこそ少数精鋭での突撃部隊が編成されていた。

 

「学生寮が見えてきた! 宇喜多の隊は裏側の駐車場だったな」

 

「単車乗り回されたら敵わんからな。全部スクラップにして、屑鉄屋に売り捌いたるわ!」

 

「たのもしいな。わたしたちも、まけてられないな!」

 

 豪快に笑う宇喜多に釣られて、微笑みを浮かべたあまごが部隊への激励のために振り返る。

 そこにいるのは、学生寮制圧のために編成された特別部隊。かなりの危険が付きまとう部隊ながら、その殆んどが志願者だと言うのだから大したものだ。その精鋭たちが、

 

「おおお! 尼子たちには指一本触れさせないぞ!」

 

「俺たちの尼子を汚させるな!」

 

「あまごタンは俺が守る!」

 

 尼子姉弟のどちらもに特別な感情を抱く変態(せんし)たちだった。

 志願理由の大部分が私情なのだが、それでも厳しい選考基準を突破した猛者には違いない。誰からともなく尼子姉弟の親衛隊、『尼子衆』という呼び名までついてしまっている。

 彼らの雄叫びを、好意ではなく厚意と受け取っている尼子たちに、僅かばかりの同情をしながら宇喜多の部隊が離れていく。

 

「まずは俺たちが突き進む! 尼子たちはその後からついて来てくれ!」

 

 姉弟に少しでもいいところを見せようと張り切る尼子衆。だが、早くも彼らの行く手を阻む者がいる。

 学生寮の唯一の出入り口を塞ぐように仁王立ちの大男。

 身長二メートルは超えようかという長身に、それに見合うだけのガッシリとした体格。まるで巨木のような男は、木刀を片手にジロリと睨みつける。

 

「やはり来たか。仏智霧学院二年、不動(ふどう) 命(みこと)が相手をしよう」

 

 そう言って木刀を構える不動。しかしそれは重心が後ろの足に置かれ、腰の引けた不可思議な構え。

 それを多人数への怯えから来る、守りの構えと思った尼子衆の一人が躍り出る。

 

「一番槍もら、っ!?」

 

 勢いよく振り下ろされた尼子衆の木刀を受ける不動。それは拮抗することなく、尼子衆が押し切られてしまう。

 剣術家とは思えない、がに股になって上半身を前のめりに突き出す不恰好な攻撃。

 だと言うのに、選りすぐりの精鋭は押しつぶされるように弾き飛ばされてしまう。

 

「な、なんだ今のは!? 凄い力だったぞ!」

 

 弾き飛ばされた者が狼狽しながら喚く。それもそうだろう、あの巨躯から怪力を想像していただろうがそれ以上だ。

 その秘密は彼の不恰好な構えにある。

 

「あれはたしか……。まにわねんりゅう」

 

 頭の中から剣術に関する知識を引っ張り出したあまごが思い至る。

 馬庭念流。他の流派では機動力が損なわれるために嫌われる、腰を落とした構えが特徴的な守りを重視した流派である。

 最低限の機動力以外を犠牲にしたその構えは、守ればあらゆる攻撃に耐え、攻めれば岩をも両断する剛力を生み出す。

 

「悪いがここは、誰一人通さんぞ」

 

 鉄壁の剣士が守る学生寮に、尼子たちが挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学生寮に守りが置かれていると言うことは、当然のように他の制圧地点にも強者が配置されていた。

 まずは、宇喜多の部隊が向かった駐車場。

 そこには、本来並ぶはずの教員の車は一台もない。代わりに止まっているのは、やたらと車高が低くされていたり、不要としか思えない大きなウイングと長く伸ばされたマフラーのついた族車と呼ばれる物ばかり。

 横に並ぶバイクも、やたらと長かったりキラキラしていたりと似たようなもの。完全に生徒たちに占領されてしまっている。

 

「おーおー。これは予想以上に大漁やな。ほなお前ら、とっとと潰して売っぱらうで!」

 

 並ぶ族車をスクラップに変えようと、ハンマーを振り上げる宇喜多。しかし、獣の咆哮のごとき排気音を響かせながら、横合いから飛び出す一台のバイクがそれを阻止する。

 思わず飛びのいた宇喜多の目に映るのは『威堕天』の文字。

 

「俺らの単車潰されるなぁ、黙ってられねぇなぁ。ねぇちゃーん」

 

 天を突くかのように長く伸びたリーゼント。地面に擦るほどに長い特攻服。

 背中にチーム名『威堕天』を背負う、絵に描いたような暴走族がそこにいた。

 

「なんやお前は。うちらの邪魔する言うか」

 

 間延びした喋り方は滑稽だが、二百キロは超えようかと言うハーレーダビッドソンを操り宇喜多に襲い掛かったのだ。

 操縦技術、バランス感覚、マシーンを押さえつけるための膂力。どれをとっても並みの武術家以上かもしれないもの。

 

「当たり前よぅ。てめぇらぁ俺たち威堕天ぐぁ。轢きころぉすぅ」

 

 どこに隠れていたのか、次々と姿を現すバイクが宇喜多たちの周りを取り囲む。

 唸りを上げるエンジン音と、眩いライトの光。まるで獣に囲まれたかのような、異様な威圧感を放つ。

 

「こりゃ、貧乏くじ引かされたかもなぁ。他の奴らは楽してるんやないやろな」

 

「威堕天総長ぅ、飯田(いいだ) 鉄也(てつや)いくぞぅ!」

 

 エンジンを唸らせて襲い掛かる飯田率いる暴走族。それに、怯むことなく宇喜多たちも武器を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最も多くの人員が割り当てられた校舎制圧部隊の前には、やはり学生寮とは比べ物にならない数の敵が待ち受けていた。

 正面玄関を覆い隠すように展開する敵部隊の数は、ざっと見ただけでも天神館の制圧部隊の倍はある。

 天神館対仏智霧学院の戦いにおいて、先手を打ったれ二、三年生を潰されたことがココに来て目に見えた差となって現れた。

 

「なんだかバッチリ待ち構えられてんじゃん。ヤバイんじゃねえの?」

 

 奇襲を狙ったが、相手はそれも予想済みかのような、いや予想していたのだろう部隊展開の速さ。

 龍造寺が情けない声を上げるが、他の者たちは顔にヤル気を漲らせる。

 

「なあに、待ち構えているのなら全てなぎ倒すまでよ」

 

「その通りだ。ここは大友に任せて貰おう!」

 

 自分ひとりで全てを相手にしてやると言うかのように、ずいと前に出る長宗我部。だが、ソレを制した大友が自慢の大筒を構える。

 互いに高威力が売りの二人だが、ここは砲撃の出番だろうと大友に活躍は譲られた。

 その姿に、先ほど聞こえた轟音の正体に思い至る仏智霧学院たち。撃たせまいと突撃を始めるが、遅すぎた。

 

「連続国崩しぃぃぃ!」

 

 気合の咆哮と共に、次々と撃ち出される砲弾の雨。

 なす術もなくそれに飲み込まれていく仏智霧学院が弱いわけではない。単純に歩兵と砲撃の相性の問題だ。

 あらかた吹き飛ばしたところで、後は残敵掃討だろうと砲撃をやめる。

 そのタイミングを待っていたのか、砂煙から人影が飛び出し大友へと向かって走る。

 

「ヒャッホーイ! 敵将いただきだぜー!」

 

「させるかよ!」

 

 砲撃直後の硬直を狙った見事な襲撃だったが、大友の横で彼女の代わりに周囲を警戒していた虎之助に防がれる。

 刀と金属バットがぶつかり合い、かん高い音を立てて相手が弾き飛ばされる。

 曲りなりにも剣術を齧った虎之助相手に、ただバットを振り回すだけの不良では鍔迫り合いにもならない。

 けれども、相手の顔に浮かぶのは満面の笑み。

 

「さすがは天神館! だが、足元がおろそかだぜハハハ!」

 

 その言葉に視線を下ろせば、いつの間に忍び寄っていたのか。前髪の長い少年が、やはり金属バットで虎之助を狙っている。

 慌てて対処するが、ソレを防ぐために完全に虎之助の動きが止まってしまう。

 

「……狙い通り」

 

「は?」

 

 聞き取り辛い、ボソリとした呟き。

 虎之助がその言葉の意味を知ったのは、少年の後ろから更なる人影が飛び出した時だった。

 

「アタイが本命だゴラァァァ!」

 

 少年を踏み台にするようにして、高々と飛び上がったのはポニーテールをなびかせた少女。

 大上段に構えられた金属バットを、落下の勢いそのままに大友へと振り下ろす。

 

「食らえコラァ!」

 

「ぬっ! 何のこれしき!」

 

 怒涛の連続攻撃に、反応の遅れた大友がバットに打たれる。

 片腕を痛めながらも、大筒を振り回して反撃に出る。しかし腕へのダメージからか、それはただ振り回すだけで軽々と避けられてしまう。

 更なる反撃をされる前に、前髪の少年とポニーテールの少女が下がる。

 最初に飛び出した少年と三人並んだところで、金属バットを構えて虎之助たちと対峙する。

 

「長男、三好(みよし) 晶(あきら)だヒャハハハ」

 

「……次男、三好 秀治(しゅうじ)」

 

「妹の三好 蘭子(らんこ)だオラァァァ!」

 

 同じ苗字に、晶が緑、秀治が青、蘭子がピンクと色違いのジャージ。

 そのことから三人が兄妹なのだとすぐに分かる。

 

「三人合わせて阿修羅三兄妹と呼グボっ!?」

 

「その恥ずかしい名前やめろって言ってんだろうが晶ニィゴラァァァ!」

 

 三人の名前の頭の文字を合わせて阿(晶のあ)修(秀治のしゅ)羅(蘭子のら)三兄妹というのだろう。

 だが、晶とは違い蘭子は気に入っていないらしい。兄の鳩尾につま先をめり込ませながら名乗りを妨げる。

 そんなコント染みたやり取りを見守りながら、天神館側では対処を決めかねていた。

 

「どうしたものか。俺のオイルレスリングで叩き潰してやろうか?」

 

「あの蘭子ちゃんも、そばかすとか垢抜けない感じがいいな。ちょっと口説いてくる」

 

「商売道具の顔潰されるぞ。物理的に」

 

 言葉だけを聞けばふざけているようにも聞こえるが、その顔に油断はない。

 国崩しの砲撃を掻い潜り、援護に徹した虎之助の守りを突破して大友に一撃を入れたのだ。

 チームワークだけで言えば、天神館でもトップクラスの大友、虎之助コンビに勝るとも劣らないだろう。

 三人だけとは言え、一軍に匹敵すると見たほうがいいだろう。

 誰が相手をすべきか、慎重に話し合う。それに一番大きな声を上げるのは大友。

 

「アヤツらの相手は大友に任せて欲しい。先ほどは油断したが、今度は抜かりはしない! 見事に討ち取って汚名返上してくれようぞ!」

 

 打たれた腕を擦りながらも、強い闘志を持って立候補する。

 すでに一撃してやられているとは言え、大友の実力は皆が知っている。

 それに、彼女の砲撃を生かすならば校舎に攻め込むよりも屋外での戦闘のほうが好ましい。

 

「そうだな。オレもアイツには一撃入れなきゃいけないし、ここは任せてくれ」

 

 言いながら虎之助が睨みつけるのは蘭子。自分が攻撃される分には気にしない彼だが、大友に攻撃を入れた蘭子には少なくない怒りを覚えている。

 そんな二人のヤル気と、実力を考慮してしばし考え込む一同。

 校舎全体を制圧しなければいけないこともあって、この場は二人に任せる。

 

「では任せたぞ。健闘を祈る」

 

「蘭子ちゃんのアドレス聞いておいてくれよ」

 

 激励の言葉を残して、部隊を引き連れていく長宗我部と龍造寺。

 三好兄妹は、コントも終わったというのにソレを平然と見送っていく。

 

「素通りさせただと? 奴ら以外にも守備戦力がいるというのか?」

 

「ハハハその通りだぜ! お前らがココでやられる間に、あいつ等もぶっ倒されるのさハーハッハ!」

 

 笑いながら、再び襲い掛かる晶。彼の背後に重なるように続く秀治と蘭子の姿が隠れる。コレが、先ほどの連続攻撃の正体。

 牽制役の晶が最初に一撃を入れて相手の意識を奪う。続く秀治が下段攻めで足を止める。そして、完全に動きが止まったところを蘭子が仕留める。

 確かによく出来たコンビネーションだ。だが、ネタがばれていればそれなりに対処も出来るというモノ。

 

「お前の後には弟が来るんだろ? そして、最後は妹!」

 

 最初と同じく足止めをされた虎之助の上を蘭子が跳び越していく。

 それに合わせるように、懐から取り出したロケット花火を向ける。服の下には幾つものホルスターがぶら下がり、ロケット花火がしまわれている。

 ホルスターに取り付けられた発火装置によって、抜くと同時に点火済みのそれは蘭子目掛けて飛んでいく。

 

「なんだコラァ! 危ねぇだろうがオラァ!」

 

 自分の行動を棚上げし、怒りの声を上げる。その間に狙いを定めた大友の大筒が火を噴く。

 しかし、それは自由に動ける長兄の晶には丸分かり。素早く蘭子の足を引っ張り、砲弾の軌道から助け出す。

 

「そっちもコンビでの戦いが得意か。面白そうじゃんかよハハハ!」

 

「……どうせ倒す」

 

「テメェよくもやりやがったなオイ! ぶっ殺してやんよ!」

 

 虎之助たちの実力を計算しなおし、三好兄妹が顔を引き締める。

 それはこちらも同じ。ただの連続攻撃ではなく、他の者のカバーまで視野に入れているコンビネーション。

 ただの不良ではないと思っていたが、予想以上だ。

 

「今のを凌ぐか。気を引き締めろ! 本気で挑まねばこちらが討ち取られるぞ!」

 

「おうよ! 攻撃はオレが止めるから、全力で撃ちまくれ!」

 

 再び、それぞれの得意フォーメーションでぶつかり合う。

 その間にも、校舎に突入した部隊は、それぞれの戦いを始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 包丁をはじめとした、武器に転用可能なものを多く保管する家庭科室。

 そこも制圧対象の一つとして、龍造寺の部隊が任されていた。

 

「家庭科室発見! 俺が様子を見てきます」

 

「はいよ。気をつけてな」

 

 一応は部隊長の地位にある龍造寺だが、彼の戦力的価値は女子に対する圧倒的制圧力にある。

 なので、部下に守られるように部隊の中心に引き篭り、行動も部下任せ。

 一見すると怠け者のダメ上司に見えるが、余計なことをせずに有能な部下が自由に出来るというのは理想的環境の一つのパターン。

 彼は彼で立派に将の役割を果たしていた。

 それでも不足の事態は起こるもの。部下が様子見に行った家庭科室から悲鳴が上がる。

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 鶏を絞め殺したかのような絶叫。ただ事ではない、もしかするとココにも正面玄関の三好兄妹のような戦力がいるのかもと、龍造寺が部下と共に突入する。

 そこにいたのは、

 

「おやまあ。今日はお客はんがおおいどすなぁ」

 

 穏やかな笑みを浮かべた美女だった。腰にまで伸びる黒髪と相まって、自然と大和撫子という言葉が思い浮かぶ。

 しかし、彼女の足元では股間を押さえて泡を吹く部下の姿が。

 誰がやったのかは一目瞭然。だが、彼女は笑顔を崩さない。

 

「うちは峠(とうげ) 弥勒(みろく)どす。どないぞよろしゅうお頼申します」

 

 男たちに囲まれながらも、まったく動じることなく名乗りあげる峠の胆力に、寒気にも似た恐怖が走る。

 だが、この部隊を率いるのはただの武将ではない。

 女性が相手ならば百戦百勝の超武将。ベッドの中では荒ぶる熊こと、龍造寺隆正である。

 

「へぇ、弥勒って言うんだ。名前通りのいい笑顔だ。どこか二人きりになれるところで俺だけに向けてくれないかい?」

 

 臆することなく歩み寄り堂々と口説き始める。

 これもまた、ある種の戦いなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こちらは家庭科室と並ぶ危険物の宝庫、化学室。

 刃物などのような目に見える凶器だけでなく、爆発物や毒物など取り扱いの心得があれば凄まじい脅威だ。

 ソレを押さえるために長宗我部の部隊がやってきたが、彼は扉を開こうとしない。

 

「どうした? 入らないのか?」

 

 いつまでも動かない長宗我部に、業を煮やした部下が扉に手を掛ける。

 しかし、それは長宗我部の巨大な手に掴まれて阻まれる。

 その行動に戸惑いを見せる部下たちだが、それに気遣う余裕もない言葉が零れ出てくる。

 

「やめておけ。お前では死ぬぞ」

 

 冗談で言っている様子はない。眉間に皺を寄せ、額には脂汗が滲む。

 恐らくは天神館で力で並ぶものはいない長宗我部が、コレほどまでに警戒する相手が待ち構えているというのか。

 それでも、この場で立ち止まる訳には行かない。

 意を決した長宗我部が扉にかけた指先に力を入れた瞬間、扉が弾けた。

 ど真ん中からヒビの入った扉は、そのまま乾いた音を上げながら左右で違う動きを見せた。左側は上に、右側は下に動くように歪み、そのまま螺旋を描くように回転しながら弾け跳んだ。

 扉を破壊したと思われる拳は回転していて、そのまま長宗我部の体を打つ。

 

「ぬぅおおおぉぉぉ!?」

 

 百九十センチを誇る巨体が宙を舞うほどの一撃に、一同が声をなくす。

 何よりも、予想以上の一撃の重さに驚愕を隠せない長宗我部が、呆然としながらも相手を確かめる。

 攻撃性を示すように真っ赤に染められた髪に、細いながらも鍛えこまれた肉体。体つきから察するに、ボクシングの経験者だろうか。

 

「ほほう、チンピラばかりかと思えばまともに鍛えているヤツもいるではないか」

 

「意味もない習慣さ。で、まだやるのか? 俺は別にこの学校がどうなろうと構わないんだが」

 

 やる気はないと言うアピールか、両手をひらひらとさせて続闘の意思を問う。

 普通に考えれば、あのパンチ力を体感した後では戦うという選択はないだろう。だが、長宗我部は普通ではなかった。

 天神館としての誇り、四国最強という自負、己の肉体に対する自信。それら引けない理由もたくさんある。だが、彼が戦うのはそれとは別の理由。

 ただ、戦いたいのだ。

 この強者と全力でぶつかって見たいという、武人としての欲求だ。

 

「今の不意打ちは効いた。だが、俺の本気を見て貰わねば、なっ!」

 

 お返しとばかりに振るわれる豪腕。

 唸りを上げるソレをを食らえば、ただではすまないだろう。だというのに赤髪の男子は詰まらなそうな表情で、ソレを軽々と避けてみせる。

 そのままカウンター気味に入る右拳。今度は体が浮くほどではないが、それでも長宗我部の体が仰け反る。

 

「やっぱりやんのかよ。面倒くせぇな」

 

「そう言わずに付き合え。俺も名は長宗我部宗男だ。お前の名は?」

 

「群田(ぐんだ) 良助(りょうすけ)。怪我してもしらねぇ、ぞ!」

 

 名乗りも終わったところで、素早い左拳が繰り出される。

 目にも留まらないそれは、ボクシングのジャブ。

 ここに、ボクサー対オイルレスラーの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、天神館の報復を予見していた仏智霧学院が、守りだけしか準備していない訳がない。

 正門を塞ぐように敷かれた本陣へと、攻め込む部隊がいた。

 

「敵部隊を発見! 真っ直ぐにこっちに突っ込んでくる!」

 

 見張り役が声を張り上げて、本陣守備部隊へと連絡する。

 それに身構える一同だが、守備部隊の指揮を任された毛利が気だるげに立ち上がる。

 

「守りを固める我々にただ突っ込むとは、愚か過ぎて笑いも出んな」

 

 溜め息交じりに呟きながらクロスボウを構える。それに続くように構えられる、弓矢などの射撃武器。

 守りに重きを置いたこの部隊では、近づかせないことを第一に射撃特化にされていた。

 そこへ、盾の一つもなく突っ込んでくるのだから、自殺行為としか思えない。

 

「総員構え……。美しく、撃て!」

 

 さすがに刺さるような競技用ではなく、先端を丸めた特殊な矢だが当たればただではすまない。

 そんな矢が一成に放たれる様は、雨を通り越して嵐の様相。

 当然のように多くの仏智霧学院の生徒がそれだけで倒されていく。そんな中を、一人だけが平然て突き進む。

 頭を突き出して疾走する様は、あたかも石頭恐竜(パキケファロサウルス)。

 

「ほう、不恰好極まりないが中々骨のある。私の美しい技で仕留められることを、光栄に思うのだな」

 

 放たれるのは、彼の家に「一本の矢では外れるが、三本射れば外さない」という一般とは少々異なる三矢の教えと共に伝わる、三連矢。

 素早く放たれた三本の矢は、確実に同じ箇所を狙う。しかし、ソレを食らいながらも突進は止まらない。

 

「なんだと!? 私の美しい射撃が効かないというのか!?」

 

 毛利にしては珍しく慌てふためきながら、矢を乱射する。

 それをモノともしない突進は、ついにバリケードにまでたどり着く。

 そこからどうするのかと思えば、そのまま壁に突っ込みベニヤ板も角材も、もろともに突き破る。

 まさか、この守りを一人に突破されるとは予想もしていなかった本陣に衝撃が走る。

何よりもその特攻を行なったというのが、

 

「な!? こんな矮躯が私の射撃にたえたのか!?」

 

 毛利の驚きも仕方ないだろう。なにせ、バリケードを突き破ったのが、身長百五十センチにも満たないような小柄な少年なのだから。

 

「チビだからどうした! テメェら覚悟しろ!」

 

 小さいという身体的特徴は散々バカにされてきたのだろう、一気に怒りを爆発させて再び駆け出す。

 その威力を知った今では、突き出された頭が鉄槌のように見える。

 軽やかに横へと回避する毛利だが、その背後ではまたもや破壊音が響く。

 

「ち。避けるのだけは上手いじゃないかこのロン毛め」

 

 やはりダメージを受けた様子がない。

 そのあまりの石頭ぶりに、毛利の顔に笑みが浮かぶ。

 

「いいだろう。貴様はこの毛利元親が直々に仕留めてやろう、矮躯」

 

 言うが早い、早速矢を射るが、やはり石頭で弾く。

 

「大地(だいち) 次蔵(じぞう)だぁ!」

 

 本陣にまで侵入を許してしまった天神館。この戦いはどうなるのか。

 そして、仏智霧学院の親玉の行方は何処か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全部隊敵と接触しました」

 

 薄暗い室内に、少女の声が響く。

 長い前髪で顔の半分を隠した容貌は暗く、その声も見た目どおりに沈んだ印象がある。

 その報告を聞くのは、座禅を組んだ筋骨隆々の男。

 額に黒子があり、髪型もアフロと一見すると悪ふざけのようだが、その筋肉を見れば只者でないことが分かる。

 彼こそが、仏智霧学院のボス、仏田(ほとけだ) 一郎(いちろう)。天神館襲撃及び、この防御作戦を計画した男だ。

 

「私の予測と違う展開はないな大黒?」

 

 あるか? ではなくないな? という質問から、彼の自信が見える。

 そして、それに答える陰鬱な少女、大黒(おおぐろ) 空(そら)は小さく首肯する。

 

「はい。全て仏田さんの言うとおりに」

 

「だろうな。すべては私の手の平の上だ。フハハハ」

 

 室内に仏田の自信溢れる、悪どい笑いが木霊する。




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