真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~   作:youkey

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30話

 天神館襲撃。

 その衝撃的なニュースを我々死合マガジン編集部が知ったのは、インターネットの動画共有サイトyoutubeに投稿された一本の動画だ。

 そこに映し出されていたのは、我々も何度も取材で訪れた天神館。しかし純和風だった景観は一変しており、荒らされていない場所を見つけることのほうが難しい有様。中でも一際目を引くのが、校舎にデカデカと書かれて『ブッチギリ』という落書きである。

 このキーワードから真っ先に連想したのは、仏智霧学院だ。

 武術をはじめとする各分野で名を馳せる天神館。そして隣町の位置関係にある、西日本有数の不良校として名高い仏智霧学院。この両校を襲撃事件で結びつけることは、おかしくは無いだろう。

 それを裏付けるかのように次々とインターネット上に流出する画像の数々。そのどれもが天神館の名誉を傷つけ、仏智霧学院の影を臭わせる。

 パソコン越しではこれ以上の推測は難しいと、現地へと向かった取材班だが、そこで再び衝撃に襲われた。なんと、我々が到着した時には、仏智霧学院が陥落していたのだ。

 両校の関係者は口をつぐみ、学生たちからも詳細は聞けなかった。

 しかし、仏智霧学院の経営陣が天神館の鍋島正氏を特別指導者として迎え入れた事実と、断片的な情報から推測するに、天神館の学生たちによる仇討ちがあったと考えられる。

 前日の天神館の醜態を覆すかのように流れる仏智霧学院陥落の情報、わずか一日で立案決行された攻略作戦。それを実戦で指揮していただろうこと、迅速に戦闘を収束させるための諜報活動。

 考えれば考えるほど多くの要素を求められたであろうこの戦闘。しかし、学生たちから取材できた限りでは天神館の学生、しかも一年生たちだけでそれをやってのけたのだ。

 学生の強さは東高西低と定説になりつつある昨今だが、西にはまだこれほどに気骨ある学生たちがいるのだと痛感させられた気持ちである。

 彼らに敬意を表し、古の英雄たちに因みこう呼びたい『西方十勇士』と。

 週刊死合マガジン記者 雷電

 

 

 

 

 

「西方十勇士か……。まあ、おれの出世街道に相応しい名ではあるな」

 

 仏智霧学院との抗争が載った武術家御用達の雑誌、週刊死合マガジンから視線を上げた石田が満足そうに頷く。

 この記事に書かれた天神館の学生、しかも中心人物の一人だったのだからそのリアクションは当然だろう。それは他のメンバーも同じで、誰もが誇らしそうに顔を綻ばせる。

 

「あれだけネットに情報をばら撒いたんだ。このくらいは当然だろう。ゴホゴホ」

 

「ヨッシーはまだびょうじゃくせっていやるのか」

 

「弱いフリは兵法の基本だろ。基本」

 

「なにを腑抜けたことを言うておるか。だからトラは軽んじて見られるのだぞ」

 

 確かにその通りだと、和やかに笑う一同。こうやっていられるのも、先の抗争に勝ったという心のゆとりから。

 そんな緩みきった空気の中、未だに雑誌を読んでいた有馬がポツリと零す。

 

「ところで十勇士って、誰なんだろうね?」

 

『それはもちろん』

 

 声を上げたのは有馬以外の全員。

 石田、島、大友、虎之助、長宗我部、毛利、尼子、あまご、鉢屋、宇喜多、大村、龍造寺。合わせて十二人。

 それに対して西方十勇士とはもちろん十人だろう。

 なんとも言えない沈黙が続き、互いに視線だけで牽制し合っている。

 

「ふん。大将であるおれと島以外はどうでも良い。お前達で決めていいぞ」

 

 勝手に自分を確定枠に収める石田だが、それに異論を唱える暇は無い。

 天神館を率いる大将としてそれだけの働きをしたというのはもちろん、自尊心の塊である石田の意見を変えられるのは島くらいの物。そんな不可能に近いことに挑戦するくらいならば、残りの枠に入った方が賢い選択だ。

 

「この記事を元にするならゴホ。情報戦担当だった俺も確定だなゲホゲホ」

 

 わざとらしく咳き込みながら、自分にしかない点で食い込んでくる大村。ソレに続けて今度は鉢屋が前に出る。

 

「ならば拙者も確定だな。仏田の居場所を突き止めたのだからな」

 

 特殊な働きをしたのはこの二人だけ。残りは多少の違いはあれども、一部隊を率いる将でしかない。そんな中で真っ先に動いたのは虎之助。

 もっとも、彼の行動は自分を売り込むような物ではないが。

 

「いや、忍者がそんな堂々と顔売っていいのかよ? もっと忍ぼうぜ」

 

 鉢屋の足を引っ張る発言。誰かを蹴落としても勝てばいいのだ。

 

「フ、愚問だな。この現代社会で生き抜くためには忍者の価値を売り込んでいかねばならぬのだ。それを言うならば外れるべきなのは龍造寺ではないのか?」

 

 そしてこの忍者も手段は選ばない。自分の保身のためにさらに別の仲間を売り渡す。

 

「俺に外れろってかい? おいおいそんなことしたら日本中の女の子が泣いちまうじゃないか」

 

「口ばかり達者なのは美しくないぞ。流麗に自分の実力不足を認めてはどうだ」

 

 このメンバーの中で、龍造寺ぬ腕が一段も二段も劣るのは本人も認めるところ。だからこそ真っ先に外されても文句は言えないのだが、ここで以外な人物から擁護意見が出る。

 

「待て。龍造寺の知名度を捨てるのは惜しい。おれの名とともに十勇士の名を広めるならば利用しない手はあるまい」

 

「なるほど。確かに天神館の名誉を取り戻すには良いかもしれませんな。さすがは御大将、ご名案です」

 

「さすがは御大将。他の奴らとは目線が違うね。という訳で後は誰がはいるんだい?」

 

 極めて打算的に決まったが、石田の判断なのだから意見するのは時間の無駄。

 

「龍造寺が決定ならば、そうだな。実力から言えば尼子たちを外すべきではないか? 勝利したとは言え、尼子衆と束になってようやくだろう」

 

「む。そうは言うが不動はそれだけの強者だったぞ」

 

「そうだそうだ! 尼子たちが外れる理由なんて無い!」

 

「俺たちの天使を全国区に売り出す邪魔はさせないぞ!」

 

 尼子たち本人以上に必死になる尼子衆に押されて、長宗我部ですら思わず引いてしまう。

 そんなやり取りを見てるうちに冷静になってきたのだろう、宇喜多が呆れ顔になる。

 

「んー。なんかどうでも良くなってきたわ。どうせ十勇士言うたかて、それで金が貰える訳やないし」

 

「ほう、では宇喜多は抜けるか? 悪いが俺は引く気は無いぞ。この名声、きっと四国の発展に大いに役立つはずだ」

 

「あ、なるほど。名前が売れれば商売もやり易うなるか。うちも十勇士は譲らんで!」

 

 あっさりと自分の前言を撤回する宇喜多。その図太さに呆れる一同だが、その間にも彼女はその無駄に回転のいい頭をフルに働かせている。

 

「と言うか、外す言うならトラやない? どうせいつも通り大友の援護してただけやろ?」

 

 因果応報とはこのことか。真っ先に仲間の足を引っ張りに掛かった虎之助が邪魔される番が回ってきた。

 

「いやいや、結構頑張ったぜオレ?」

 

「そうだぞ。トラが居なければ大友も負けていたやもしれん」

 

 ともに戦った大友が擁護してくれるのだが、援護に徹していたということには変わりない。便乗して矛先を向ける者も出て来る。

 

「ならば大友のオマケとしようではないか」

 

「たしかにトラとおおともはそんなかんじだな」

 

「なにおう。そんなこといったらアマたちだって姉弟で一人みたいなもんだろうが」

 

「なぁ、いっそのこと京都の納豆小町を入れないか? 美女は多いほうがいいだろ?」

 

「ただでさえあぶれてるのに、なに言うてるんやこのホスト?」

 

「ゴホッゴホ。まだ十人決まらないのか? もう天神館のホームページにアップの準備が出来てるぞ」

 

「おお、流麗な手腕。さすがは情報戦担当」

 

「待て! 何故すでにトラが大友のオマケに確定して書かれているのだ!」

 

「ああ、わたしたちもきょうだいでひとりぶんじゃないか!」

 

「ちょっとそこどいてくれヨッシー。ホスト野郎の代わりにオレの名前を」

 

「ええい、皆一度落ち着かぬか! それがしが纏めるゆえ、一人づつ意見を紙に書け」

 

 混沌として纏まるものもの纏まりそうに無い十勇士の選定を眺めながら、ことの発端である有馬は一人思う。

 

「別に十勇士に入らなくてもみんな凄いんだから気にすることないのに」

 

 結局、選定はその後二時間ほど続き、

 石田三郎、島右近、大友焔、長宗我部宗男、毛利元親、尼子晴、鉢屋壱助、宇喜多秀美、大村ヨシツグ、龍造寺隆正。

 以上の十名で落ち着いた。外された虎之助は援護専門、尼子姉弟は瞬間移動のトリックを効果的にするために一人と偽ることで、どうにか全員が納得したのである。

 かくして西方十勇士は結成され、天神館の顔と言えるほどの躍進をしていくのであった。




今回で一年生編は終了です。
チラホラと望まれていた例のアレを挟んでから、ようやく原作の時間軸である2009年『東西交流戦編』に入って行きたいと思います。

ご意見ご要望などありましたら、遠慮なくお願いいたします。
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