真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~   作:youkey

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32話

 あちこちから武器がぶつかり合う剣戟が響き渡る戦場。

 しかし打ち合うのは歴戦の戦士ではなく、幼さすら感じさせる学生たち。

 ついに東西交流戦が始まったのだ。

 その戦場を虎之助は愛刀を握り締め駆け抜ける。

 振り下ろされる敵の武器を交わし、防ぎ、時たま体を打たれながらも足は止まらず真っ直ぐに川神学園の総大将へと向かう。

 

「東の大将! その首貰ったー!」

 

「ぬおおぉぉぉ!」

 

 虎之助の体に染み込んだ八双の構えから全力で振り下ろされた刀は真っ直ぐに敵大将を打ち据える。

 断末魔の叫びを上げながらゆっくりと倒れ、それきり動かなくなる川神学園の大将。

 周りの生徒たちもそのことに気がついたのか、一人また一人と戦いを止めていく。

 やがて戦場から一切の音がなくなる。

 いや、一つだけ足音があり、大将を討った虎之助へと駆け寄っていく。

 

「よくやったー!」

 

 言うと同時に大友が虎之助に飛びつき、そのまま力一杯に抱きしめる。

 

「大将首はとったぜ。コレで」

 

「ああ、分かってる」

 

 そのまま大友の顔が近づいてくる。

 

「トラ……」

 

「焔……」

 

 互いの名前を呼びながら近づく唇。

 

「トラ……」

 

「焔……」

 

「おいトラ」

 

 いきなり声が野太くなったかと思うと、ボーイッシュながら可愛らしい大友の顔が男臭さ溢れる長宗我部のものに変貌する。

 

「ミギャーーーー! 襲われる!!」

 

「ぬおお! 鼻がああぁ!」

 

 本能的に放ったヘッドバットは見事に長宗我部の鼻を打ち据える。意外と硬い人間の顔面に額を打ち付けた虎之助と、完全に不意打ちに鼻を潰された長宗我部の二人がそれぞれの患部を押さえてのたうち回る。

 

「君たちはいつでも元気だな……ゴホッゴホッ」

 

「ヨッシーあれはただのばかだよ」

 

 大村とあまごの声に虎之助が周囲に視線をめぐらせると、場所は戦場ではなくパイプ椅子の並ぶ体育館。それも見慣れた天神館のものではない。

 そこまで認識して虎之助はようやく先ほどまでのが夢で、現実では川神学園についただけで、まだ他の学年の戦いを応援していたところだと思い出す。

 

「あーそうだ。三年の試合が退屈で寝ちまったんだ」

 

 そう言って視線を向けたモニターには、本来写ってるはずの上級生の勇姿はなく、黒い鏡のように虎之助の姿が反射して映っている。

 どうやら彼が眠っている間に三年生の試合は終わってしまったようだ。

 

「確かに見所なかったな。あの川神百代もすぐに引っ込んじまうし」

 

 龍造寺が詰まらなそうに呟いたように、武神と恐れられる川神百代の対策に天神合体という、三年生たちが文字通り一丸となって戦う合体技を繰り出してまで挑んだのだが、百代の星殺しというなのビームで一掃されてしまった。その後は天神館側に見せ場もなく順当といった感じで負けてしまった。

 

「つぎはこうていで、いちねんのしあいだって」

 

「フゥ。どうにも美しい試合になるとは思えんな」

 

「一年はこっちも向こうも不作っぽいしな」

 

 三年生の敗北を引きずってテンションの上がらない男子がダラダラと歩く様子を大友が後方からイライラとした様子で見ている。

 

「なんだ腑抜けた顔をして。トラのヤツ大将首を取る気合がないのか」

 

 勢いで言ってしまったという感じはあったが告白をされ、付き合う条件を出してからここ数日の間の大友はいつに無く幼馴染を意識してしまい常に落ち着かない。

 それは条件を満たす今日には緊張もピークを迎えじっとしていられないというほど。なのに、肝心の虎之助は居眠りはするし、今も十勇士の男子とくっちゃべりながらヤル気がなさそうにしているのだから緊張は怒りに変わり始める。

 

「アイツは大友と付き合いたいんじゃないのか? それなのにだらだらと、それともアレは嘘だったのか? いやそんなはずは、でも……」

 

 ブツブツと虎之助への不満を口にする大友だが、それは思春期の少女らしくしだいに相手の気持ちを疑う不安へと変わっていき一人百面相状態に陥ってしまう。

 そんな大友の背後から宇喜多と有馬が少々下品な笑みを浮かべつつ忍び寄る。

 未だに虎之助への文句やらなんやらを呟く大友が気づくはずもなく、宇喜多の口が耳元へと近づく。

 

「そんなにトラが気になるんか?」

 

「のあぁ!?」

 

 ボソリと囁く程度の声だったが、意識の全てを虎之助に集中させていた大友は驚き飛び上がる。

 かなりの大声だったうえに、十勇士ということで必要以上の視線を集める。その中に虎之助の目が入っていると気づいた大友は頬を羞恥の色に染めながら宇喜多を睨む。

 

「いきなり話しかけるな!」

 

「そう怒らんといて。友だちの恋愛に興味もっただけやん」

 

「二人の幼馴染だもん。ちゃんと結ばれて欲しいんだよ」

 

「うわわ! バカ! そんな大きな声で恋愛とかいうなよ!」

 

 呆気らかんと陽気に笑う宇喜多たちの声を遮ろうと、それ以上に大きな声で聞かれたくないワードを叫んでしまう大友。そこら辺も宇喜多の狙いなのだが、それに気づけるほどの余裕は今の彼女にはない。

 

「すまんすまん。これでも応援してるんやで」

 

「フン。どうだか」

 

「本当だって。信じてよう」

 

 ペコペコと頭を下げられるが、へそを曲げてしまった大友はそっぽを向いて相手にしない。

 それはそれで子供っぽくて見てる分には面白いが、あえて宇喜多はもう一歩踏み込む。

 

「見てみいや。トラかていつも通りにしてるけど、不自然なくらい喋ってるやろ?」

 

 無視すればいいものをついつい見てしまうのが乙女というところ。普段から落ち着きがあるとはいえない虎之助だが、確かに今日は少しでも間を埋めようとするように喋り続けている。

 

「言われればそうかもな」

 

「ほむちゃんのこと意識しちゃってるんだね」

 

「でも、今更」

 

「分かってへんなぁ。そこで今更意識するのが男の単純さや」

 

「そ、そうなのか?」

 

「確かにトラちゃんっぽいし、そうなんじゃない?」

 

「せやねんて。ほれ、今もチラッとこっち見たやん」

 

 宇喜多の思惑通り乗せられた大友が恐る恐る視線を向けると、ちょうどこちらを見ていた虎之助とバッチリ目が合う。

 とたんに二人とも真っ赤になると同時に顔を背け仲間たちにニヤニヤ笑われる。

 

「な。トラは普段から虚勢張ってるようなヤツなんやから、焔が緊張解いてやらなあかんよ」

 

「……まぁ、今回は騙されてやろう」

 

「そうそう。もっと私たちを信じて」

 

 しょうがない。不本意だと言う風を装う大友だが、頬の緩んだその表情をみれば虎之助が自分を意識していることが嬉しくてたまらないと誰でも分かるだろう。

 その顔のまま虎之助の下へと歩いていく背中はご機嫌で、尻尾があれば仔犬のように千切れる勢いでブンブンと振っていることだろう。

 しかし、それを止めざるおえないほどの強烈なプレッシャーが彼女をいや、そこら一帯を襲う。

 

「ほう。こうも堂々と刺客を送り込むとは東の連中も少しは気合が入っているではないか。それとも忍ぶだけの知恵もないのか」

 

「お気をつけください御大将。こやつ只者ではありませんぞ」

 

 島が庇うように前に出るが、石田はやれるものならやってみろと言わんばかりに威風堂々とプレッシャーを放つ刺客と思われる人物を待ち受ける。

 他の十勇士はもちろん、全ての天神館生徒の注目を集めながら現れたのは一人の少女。

 眼光は真剣のように鋭く、胸には日本刀が入っていると思われる竹刀袋を抱きかかえ、今にも「お命頂戴!」と斬りかかってきそうな雰囲気である。

 四方八方から敵意と殺気を浴びているというのに、それを気にしないどころか気づいた様子もなく刺客の少女は淀みなく歩みを進める。

 そしてついに西の総大将石田の前へとたどり着き。

 

「川神学園の生徒がよくも堂々と来たな。おれの首を取りにきたのだろう? 相手になってやろう!」

 

「あ、そういうのじゃありませんので。前失礼しますね」

 

 ペコリと頭を下げるとそのまま石田の横を素通りして今度こそ立ち止まったのはあろうことか、十勇士ですらない虎之助の目の前。

 

「ご無沙汰しております虎之助さん」

 

 躾の良さを感じさせる優雅なお辞儀をされても、九州の田舎者である虎之助には川神学園に知り合いがいるとは思えず狼狽するしかない。

 それが伝わったのか、少女もあからさまに慌てだし懐から黒い木馬のストラップを取り出し語りかけ始める。

 

「どどどどうしましょう松風!? 虎之助さん私のこと忘れているようですよ!」

 

「ありえねー。まゆっちを忘れるとかコイツ何様のつもりだよ。調子こいてると一発食らわせるぞ、コラァ」

 

 腹話術だろう。小心者の少女と口汚い木馬の会話というシュールな光景に先ほどとは別の意味で天神館生徒たちが注目する。

 そんな中、虎之助は少女いやさ松風と言うらしい木馬の台詞の中から心当たりを見つけてしまう。

 

「まゆっちって……黛? まさか由紀江ちゃん?」

 

「やはりもう何年も会っていないのにいきなり来るとか図々し……。あ、思い出していただけましたか!」

 

「遅ぇぞティーガー。今回は見逃してやるけど次にまゆっち忘れたりしたらDIEするぜ」

 

 さらりと脅迫をしている松風に対して子供を叱るように注意する由紀江を見て、彼女を思い出した虎之助は改めて頬を引きつらせる。

 直接会ったのは何年も前のことだが、少なくともそのときはこのような奇癖はなく、今の彼女と昔の彼女を両方知る虎之助の困惑は周囲の比ではない。

 

「ハハ、ハ。本当に久しぶりだね。最後にあったのはうちの爺ちゃんの葬式だから七年前くらい?」

 

 笑いはカサカサに乾いてしまったが、それでも話をしようと挑んだ彼はなかなかに度胸があると言えるだろう。蛮勇とも言うが。

 

「そうなりますね。虎蔵さんには父上共々お世話になったと言うのに、アレ以来お墓参りにも行かず申し訳ありません」

 

「まゆっちもその辺凄い気にしてっから許してやってくれよ」

 

 由紀江本人はとても申し訳なさそうにしているのに、松風が気安く、むしろ上から目線で言ってくるものだから普通に気にするなとも言いづらい。

 

「まぁ。爺ちゃんもそういう堅苦しいのは嫌いだったしさ」

 

「そう言って貰えるとありがたいです」

 

「見た目に寄らず懐広いじゃんティーガー。見直したぜ」

 

「でさ」

 

 再開の挨拶もそこそこに会話を遮る虎之助。その視線は松風だけに注がれていて、その場にいる由紀江以外の全員が聞きたいであろう質問を代弁する。

 

「この松風? 何?」

 

 掌の上に乗る松風をズビシと指差された由紀江だが、その反応は奇癖を指摘された羞恥でも、電波過ぎて何を当たり前のことをと不思議がるでもない。

 ついうっかりしていたと照れるだけで、改めて松風を差し出してくる。

 

「これは私としたことがご挨拶が遅れましたね。コレは九十九神の松風です」

 

「おっすオラ松風まゆっちの友だちだぜ。よろしく頼むぜティーガー」

 

「……よろしくな松風」

 

 挨拶をしながらも周囲に視線を泳がせ助けを求める虎之助。だが視線があった端から顔を背けられ、十勇士すらも目を合わせてくれない。

 頼みの綱の幼馴染がすぐ後ろにいるのだが、虎之助の中の直感が今は振り向くなと叫ぶのでそれに従う。

 

「しかし川神学園に来てるとは思わなかったよ。地元に進学したと思ってたよ」

 

「地元でもよかったのですが、少々思うところがありまして思い切ってこちらに」

 

「ぶっちゃけ地元とかまゆっち腫れ物扱いでさぁ。友だち出来なくてこっちまで出てきたんだよ」

 

 恥ずかしい事実を松風に暴露されて慌てふためく由紀江だが、腹話術なんだから自分で言ってるんだろうとはツッコまないのは優しさ。

 この話題は地雷にしかならないと感じた虎之助は由紀江が自慢できるだろう武術方面へと話を移す。

 

「まぁ、由紀江ちゃんは剣の才能凄いしココのほうが合ってるかもな」

 

「そうですね。この学園なら皆さん武術に慣れていると思ったのですが……」

 

「それ以外がてんでダメで友だち百人計画絶賛行き詰まり中なんだよ」

 

「だったらこの交流戦なんていい機会じゃん。活躍すれば向こうから話し掛けてくれるでしょ」

 

「はい。皆さん大変ヤル気ですので私も微力ながら頑張ろうと思います」

 

「むゆっち無双でいいとこ見せて友だちガッポガッポて算段さ」

 

「そうかぁ。由紀江ちゃん昔から才能あったしきっと上手くいくよ」

 

 実際に虎之助は幼い頃に由紀江と手合わせした際にはものの見事に打ちのめされたのを思い出し、本心から励ます。

 手加減とかなしに完全に実力で年下の女の子に負けたのだからお世辞ではない。

 

「ありがとうございます! 虎之助さんも二年生の試合に出るんですよね? そちらも活躍を期待しています」

 

「ま、ティーガーの実力は予想つくから怪我しない程度に頑張んな」

 

「オレなりに頑張るよ。そろそろ戻らなくていいの?」

 

「あ、それでは失礼します」

 

 来たときと同じく、綺麗なお辞儀をすると背を向けて帰っていく。その間も松風と楽しそうに自画自賛の会話を繰り広げ多くの同情の視線を集めた。

 だが、一人残された虎之助に集まるのは好奇と叱責の視線。特に由紀江に半ば無視された石田と背後の大友の視線が痛い。物理的にダメージを感じるほど痛い。

 

「トラ」

 

「な、なんだ……ですか?」

 

 大友の声に平静を装う虎之助だが、振り返らずに語尾も敬語になってしまっているあたりにこの後の自分の運命を感じ取っているのかもしれない。

 それを覚悟と受け取った大友はもはや何も言わない。ただ静かに愛用の砲筒を構える。

 しかもその構えというのが狙いをつけるものではなく、大きく振りかぶって虎之助の頭をかっ飛ばす構え。

 

「何を敵の女をいちゃついておるかぁー!!」

 

「待ッ! 大砲は殴る物じゃないだろ!?」

 

 前に倒れるように砲筒のフルスイングを回避した虎之助がそのまま昆虫のように這って逃げようとするが、その背中を容赦なく踏みつけ身動きを封じられる。

 息苦しさを感じながらも顔を上げると、そこには怒りの形相の石田が。

 

「あれほどの力量を持つ者がどうしておれを無視してお前ごときに挨拶にくる?」

 

 今度は虎之助も周囲に助けを求めない。それが無駄だということは先ほど嫌というほど思い知ったし、そもそも石田を止められる存在なんて一人しかいない。

 

「早く吐いて楽になってしまうのだな」

 

 その島でさえお手上げらしく、諦めを勧められる。

 

「吐くって、そこまでのことじゃねぇよ。あの子、黛十一段の娘なんだよ」

 

 黛の名前に周囲が一斉にざわつき始める。

 それもすだろう、黛といえばこの平成の世で剣聖の称号を得たほどの剣豪。

 虎之助ごときがその娘と知り合いだと言われても、どうやれば繋がりが出来るのか予想も出来ない。

 

「剣聖の娘なんて、どうやって知り合ったんだよ?」

 

 完全に楽しむ側に回った龍造寺がなかなかやるな等と茶化してくるが、その度に大友からのプレッシャーが増すので虎之助としては辞めて欲しいところだ。

 そのために続きを話そうとするが、それよりも先に有馬が思い出したように声を上げる。

 

「ああ、そういえばトラちゃんのお祖父さんって剣聖だったね」

 

「そのような設定もあったな。拙者としたことが失念」

 

「おいコラ。人の家系を設定いうな」

 

 普段の虎之助の言動の俗っぽく、小物臭さいことから天神館生徒たちは信じられないモノを見る目を向ける。まぁ、仲のいい十勇士ですら忘れていることなのだから、彼らが知らないのも無理はないだろう。

 

「とにかく、その黛十一段が爺ちゃんに会いに来たんだよ。その時に由紀江ちゃんとも知り合ったんだ」

 

「なるほど。そういうことならば許してやろう」

 

 何故許されなければいけないのかは不明だが、とにかく機嫌の直った石田が足をどけてくれたおかげでようやく立つことが出来る。

 大友の怒りも収まったが、今度は逆に怒ってしまったことが気まずく彼女から虎之助の下へは行きづらい。。

 出来る男ならばすぐにでも大友の下に駆け寄り、お世辞やら弁明やらで機嫌をとるのだろうが、虎之助にそんな話術も度胸もない。

 

「よーし一年ども。オレの記憶にある限り黛流の動きを教えてやるぞ」

 

 結果逃げるように、いや完全に逃走する。

 しかもそのネタが久しぶりに再開したばかりの知り合いの情報を売り渡すというのだから、男として不甲斐ないばかりか人として酷い。

 

「ああもう。なんでトラはココでにげるかな」

 

「アレも個性とは言え、不甲斐ないものだ」

 

 聞こえない振りを続ける虎之助への非難が止まらないまま、東西交流戦は一年生の部に突入する。




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