真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~   作:youkey

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34話

「ハァァァ~」

 

 海を眺めながら深い溜め息をつく大友。

 思春期の少女らしい姿と言えるが、今が交流戦の真っ最中ということを考えると不謹慎とも言える。

 しかし、それを咎める者は誰もいない。

 その溜め息の理由が、本陣から連絡のあった「敵大将を西側戦場にて確認した」という彼女の望む、虎之助が大将首を取るということへのマイナス要素だからだ。

 二人の関係、本人たちは隠していたつもりの気持ち。それらをしる同級生たちは当然、今回の大将首を取る約束も知っている。

 それが開戦直後に暗雲が立ちこめ始めたのだから溜め息の一つ位は許せると言うもの。

 だがそれは天神館の事情であって、川神学園はお構いなしに攻めてくる。

 

「お、斥候からか。……あん? ちょっと落ち着けって。おい、おい!」

 

 偵察に出ていた生徒からの連絡が入ったのだが、どうにも様子がおかしい。それに気がついた周りの生徒たちも集まるが、結局は斥候からはまともな報告を受けられなかったらしく通信が途切れてしまう。

 

「なんだったんだ?」

 

「お、おい! アレ見ろ!」

 

 疑問に思ったのもつかの間、その答えはすぐに姿を現した。

 最初にそれに気がついた生徒の声につられるように全員が視線を向けると見えるのは張るか彼方の砂埃。

 視力の良いものしか正体が分からないほど小さかったそれだが、こちらに向かっているらしく、しだいに姿と足音が大きくなる。

 それは肉。肉の壁、いや肉の津波とでも言えばいいのだろうか?

 熊飼 満を中心としたその一団は、良く言えば全員恰幅がよい、悪く言えば肥満体の、とにかく重量級の一団。

 それがスクラムを組んで走る様は押し寄せる津波そのもの。

 

「うおぉぉぉ! コレが終わったら焼肉食べ放題ぃぃぃ!」

 

「ぎゃあぁーー!」

 

 熊飼たちの異様な迫力に呆気に取られていた天神館生徒たちだったが、前のほうにいた生徒が肉の津波にのまれる叫びで我に変える。

 おそらく斥候もあのような運命をたどったのだろう。

 

「ヤベェってアレ止めないと!」

 

「どうやって!?」

 

 単純に質量からして勝てる気がせず、狼狽して騒ぐ天神館の姿に、熊飼たちの後方にいるポニーテールの少女、川神 一子も同情してしまう。

 

「凄いわね圧殺部隊。なんだか向こうが可哀想になってきちゃうわ」

 

「直江の策だ。お前が気にすることじゃないだろ」

 

 一子と話ながらも、源 忠勝は周囲への警戒を怠らない。

 先ほどまでの敵は偵察目的で単独だったが、今度は集団で固まっている。ということはその集団を指揮するために実力者、噂に聞く十勇士クラスがいないはずがない。

 その警戒は正しく、しかし遅過ぎた。

 すでに彼女の射程に入ってしまっているのだから。

 

「大友家秘伝……国崩し!」

 

 野牛のごとき勢いで行進する圧殺部隊の足音をかき消すような大友の声。それと共に轟音と爆煙が圧殺部隊を文字通り吹き飛ばす。

 全員が100kgは超えようかと言う巨漢たちが空を舞う異様な光景の下で少女は威風堂々と立ちはだかる。

 

「天神館二年一組! 西方十勇士が一人、大友 焔! ココから先は蟻一匹通さんっ!」

 

 言うが早い、素早く次弾を装填した砲筒を一子たちへと向ける。

 先ほどは圧殺部隊が盾になったが、今はそれもない。

 

「固まってるのは不味い。バラけるぞ!」

 

「わかったわ!」

 

 忠勝の指示に他の川神学園生徒たちも蜘蛛の子を散らすように四方八方に駆け出すが、それでも半数は国崩しの爆発に巻き込まれる。

 

「せいぜい逃げ回るがよい。今にトラがお前達の大将を討ち取ってくれる」

 

 虎之助なら必ずやり遂げると信じて。大友は進むことを考えず、その場を死守する。

 

 

 

 

 

 

 

 建物が密集する工場の中心部では、物陰を移動する人影と風斬り音が静かな攻防を繰り返していた。

 風斬り音の発信源の二人、毛利と龍造寺は無表情のまま人影に向かって、それぞれ投擲と射撃をたんたんと続ける。

 

「ハズレ引かされたな。あいつ等全然攻めてこないじゃないか」

 

「まったくだな。あんな隠れて逃げ回るだけの美しくない連中を相手にしないといけないとは……。帰っていいか?」

 

 はじめこそ狩り気分でスコアを競っていた二人だが、相手が逃げに徹し始めると中長距離戦が得意な二人では追い切れない。

 その結果、川神学園の進行は止めているものの二人のヤル気は急速しぼみ、いまや無駄話の片手間程度に攻撃している始末だ。

 当然それは攻撃されている側にも伝わり、逆に川神学園側のヤル気を奮い立たせる。

 特にバンダナを巻いた少年、風間 翔一は舐められていると憤慨し今にも飛び出そうとしている。

 

「離せよガクト! あいつ等に一発かましてやるんだ!」

 

「待てってキャップ! あんな遠くからピュンピュン攻撃してくる奴ら相手にどうするつもりだよ!」

 

 筋肉質の少年、島津 岳人が暴れる翔一を羽交い絞めにしながら諭す。

 飛び道具はおろか、近距離武器すら持たない素手の彼らでは分が悪いどころではないのだから彼の言い分は正しい。だが、正しいからといって万人がそれに従うとは限らない。

 むしろ翔一はそういった正論に真っ向から跳ねっ返るような性格。

 

「忘れたのかよガクト……。俺は風だぜ!」

 

 一瞬だけ大人しくなった翔一に油断した岳人が力を緩めた隙に抜け出す。

 そのまま隠れていた物陰から飛び出した翔一は毛利に比べれば近くにいる龍造寺目掛けて駆け出す。

 

「お、耐え切れずに出てきたか。あいつは俺が貰うから手出しするなよ」

 

 毛利に話しかけながらも視線を翔一から外さずに薔薇を構える龍造寺。

 悪ふざけにしか思えない行為だが、それが悪ふざけでないのが天神館の実力。

 ダーツの矢のように投げ出された薔薇は的確に翔一の急所目掛けて飛んでいく。それも一つではなく三つ。

 喉、肝臓、左脇と多少避けようとも体のどこかには当たるように狙った攻撃だが、翔一の思考はその一段上を行った。

 

「こんなもん風に当たるかー!」

 

 翔一が回避のために選んだのは右でも左でもない、前だった。

 プールに飛び込むように勢い良く前方に跳んだ翔一は薔薇のトライアングルを紙一重で避けきったが、そこはプールではなくアスファルト。手からつっ込む翔一はまともな着地も出来ないまま不恰好に転げ回る。

 

「あれを避けるのかよ! でもま、次を考えてなきゃ意味ないけどな」

 

 翔一の動きに驚愕しつつも、脅威とは認めずに落ちつた様子でもう一輪薔薇を構える龍造寺。

 そう、彼は脅威ではない。脅威は彼の横から襲い掛かった。

 

「いい男ゲェェェトッ!」

 

 龍造寺の真横から飛び掛るのはかなり濃いガングロメイクの少女、羽黒 黒子。

 その姿からは想像も出来ないほど切れのいいタックルで龍造寺の下半身にしがみ付くと、たちまちマウントポジションを取る羽黒。

 

「ゲェ! 離せ俺はブスに掴まれると力が激減する!」

 

「照れちまって可愛いじゃねえか。毒霧をゼロ距離で飲ましてやんよ! 唇出しやがれ!」

 

「や、やめろ! やめてくれぇー!」

 

 悲痛な叫びが夜空に木霊するが、惨過ぎて誰も直視できない。

 男子は同情から、女子は憧れのアイドルの穢れるところを見たくないとい思いから、みなが目を背けているその光景をただ一人眺める毛利。

 

「哀れな。せめてこの私が美しく仇をとってやろう」

 

 普段から喧嘩の絶えない二人だが、それでも互いを認め合う間柄であることには違いない。

 だから醜態を終わらせてやろうとクロスボウを羽黒に向けるが、引き金を引く直前に衝撃を受け狙いがずれる。

 

「一体どこから!?」

 

 あらぬ方向へと飛んでいく矢など見向きもせずに周囲へと視線を走らせる毛利。記憶が確かなら、彼を狙撃できるような場所には誰もいなかった。

 何度も目を左右させてようやく狙撃手を見つけた毛利だが、その狙撃ポイントまでの距離はおよそ100m弱。

 その狙撃手、椎名 京が持つ武器が毛利と同じクロスボウならば驚きはしないが、彼女の武器は弓。クロスボウの射程が200mほどに対して弓で100mという距離は簡単に当てられるものではない。

 

「バカな……。この距離で当てたと言うのか? どうやって」

 

 すぐ隣にいても聞き取れないような小さな呟き。しかし、目が命の弓兵の京は唇の動きを読み取り返事を返す。

 

「愛する大和の信頼に答える。そのためなら私はなんだって出来る」

 

 言い終わると静かに矢が射出される。もちろん毛利にもその矢は見えていたが、回避行動をまったく取ろうとしない。

 何故なら毛利にも京の唇の動きが読めたからだ。

 

「愛、か……。いささか陳腐だが美しい」

 

 そのまま矢を受け入れるように両腕を広げる。

 

「美しい敗北ならば……。それもまた、よし」

 

 自分の美学に従い毛利 元親、敗れる。

 しかし、それをはたから見ている者に伝わるはずもなくどう写るかと言えば。

 

「なあ。あいつ一人で面白いことやってるぜ!」

 

「やめとけキャップ。ああいうのには関わらないのが一番だって」

 

 満足げに横たわる毛利にちょっかいを出そうとする翔一を呆れながらも引き止める岳人。

 騒がしさに隠れていた他の生徒たちも戦闘終了と分かり続々と出てくる。

 その中の一人、クリスティアーネ・フリードリヒはまったく活躍が出来なかったことが残念なのか、表情が優れない。

 

「京ばかりか羽黒まで十勇士を討ち取るとは。自分もこうしてはいられない! 早く敵の本陣へ行こう!」

 

 鼻息荒くレイピアで真っ直ぐに天神館本陣がある方向を指し示すクリスティアーネだが、それを眼帯の女性、マルギッテ・エーベルバッハに止められる。

 

「お待ちくださいお嬢様。本陣から指示が来ています」

 

「そうなのか?」

 

 本陣からの指示ということで他の生徒たちも集めてマルギッテが全員に通達を始める。

 

「風間 翔一の部隊はこのまま敵本陣に攻め込み撹乱を。お嬢様の部隊は苦戦中の川神 一子の部隊の援護へ向かってくれとのことです。各員分かりましたね」

 

「了解!」

 

 そのまま綺麗に二方向に分かれる翔一たち。

 戦況は確実に動いている。しかも天神館に不利な方向へと。

 そんな状況でようやく、虎之助は目的の相手のいない川神学園本陣へとたどり着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 忙しなく携帯電話でメールや通話をしていた直江 大和だが、それも一段落ついたらしく電源を切ってポケットに仕舞う。

 

「よし、これで七割がた俺たちの勝ちは決まったな」

 

「おや? そんなに楽観できるほどなのですか?」

 

 背後から現れた眼鏡の少年、葵 冬馬が大和の尻へと意味深な視線を向けながら、安易な戦況予測に懐疑的な声を上げる。

 

「楽観なんかしてないさ。最大の脅威である十勇士を二人も倒せたことが大きいな」

 

「なるほど。それは確かに敵の戦力も士気も下がっているでしょう」

 

 自分たちの作戦通りに動く戦場に黒い笑みを浮かべる。その意味も分からず冬馬にくっ付いてきた白髪の少女、榊原 小雪もケタケタと乾いた笑い声を上げて一層妖しげな雰囲気を醸し出す。

 

「トゥラトゥラトゥラー!」

 

 それをぶち壊すように、本陣の背後の海から勢い良く水飛沫が飛ぶ。

 

「――いきなり後ろから現れるとは」

 

 いち早く水飛沫の正体に気づいた冬馬が半分呆れたような声を上げる。続いて大和たちも気がつくが、反応は似たようなもの。

 ココに来ることを想像はしても、まさか本当に来るとは思っても見なかった存在。

 

「ぬははは! 海を泳いで回り込んできたわ」

 

「九州男児の遠泳能力舐めんなよ!」

 

 十勇士の一人長宗我部宗男と立花虎之助のコンビだ。大和たちのローテンションもお構いなしに虎之助は威勢よく啖呵を続ける。

 

「天神館二年一組、立花虎之助! 川神学園の大将首を貰い……に? 大将どこ?」

 

「英雄でしたら最前線で大活躍してる頃だと思いますよ?」

 

 当たり前のように言われたその一言に今度は虎之助たちが凍りつく。

 ココまで泳いできたのは無意味というか、むしろ無駄。骨折り損もいいところだ。しかもそれに追い討ちを掛けるように冬馬がさらに言葉を続ける。

 

「まぁ、それでも念のために兵を備えておいて良かったです」

 

 それを合図に周囲に待機していた川神学園生が次々と姿を現し、虎之助たちを取り囲む。

 人数だけを見るならば彼らが圧倒的に不利だが、その顔に浮かぶのは焦りよりも苛立ち。

 

「さっさと前線に行かなきゃ行けないのに面倒くせえな」

 

 負けるなどと欠片も思っていないのだ。その自信が伝わったのか川神学園が緊張感を高めるが、この男は張り詰めた空気をぶち壊す。

 

「まあ、待てトラ。ココは俺に任せておけ」

 

 言いながらも腰にくくり付けていた壺の蓋を開け、その中に入った油を頭から勢いよく被る。全身にくまなく油を纏った長宗我部の体が不気味に光る。

 

「ヌルヌルだ! ここの奴らは俺のオイルレスリングで蹴散らしてやろう!」

 

 ボディビルダーのように己の肉体を誇示する長宗我部。それだけで萎縮してしまいそうな迫力だが、何故か川神学園生は安心したような表情をする。

 

「ちゃんと海に向けて飛び込んでくださいよ」

 

 長宗我部に見向きもしないで懐から何かを取り出す冬馬。

 

「我こそは西方……ん、今何か言ったか? 優男」

 

 ようやく周りの様子がおかしいことに気がついた長宗我部だが、時すでに遅し。もはやそれを回避することは出来ない。

 

「オイルレスラーが何人かいると聞いたので、これも念のため用意しておいた甲斐がありまし、た」

 

 そのまま着火したライターを躊躇なく投げつける冬馬。それは放物線を描いて長宗我部の足元にぽとりと落ちる。

 頭から被ったためにたっぷりと零れた油に引火すると、一気に燃え広がり瞬く間に全身を炎に包まれる。

 

「ぬぐわあああああ! 俺に構わず行けトラ!」

 

 火達磨のまま冬馬へと突撃する長宗我部。その勇敢な姿を見ながら虎之助は、

 

「じゃあ頑張れよ!」

 

 力強く親指を突きたて健闘を祈るのも一瞬。周りの生徒たちが反応できないほどの鮮やかさで駆け出す虎之助。

 身のこなしはもちろん、仲間を見捨てる行為に唖然とする。しかし虎之助のこの行動など分かりきっている長宗我部は動じることなく冬馬にその腕を伸ばすが。

 

「僕が倒しちゃうよーん!」

 

 冬馬の背後に控えていた小雪が全力で蹴り上げる。打ち上げ花火のような勢いで空を飛ぶ長宗我部だが、小雪はそれ以上の速度で飛び上がり彼の上空に出る。

 そのまま体の回転を加えた必殺の踵が長宗我部の顔面にめり込む。

 海へと向かって落ちていくのを確認しながら着地した小雪は、今の動きからは想像も出来ないほど無邪気な表情で冬馬に向き直る。

 

「ちゃんと海に落としたよ」

 

「よしよし。ユキはいい子ですね」

 

 先ほどまでのことが嘘であるかのようなほのぼのとした親子然とした様子だが、未だに地面に残る炎が現実だと訴える。

 その様子に気後れしながらも大和が二人に声を掛ける。

 

「敵を容赦なく焼くとは……凄いな」

 

「でないと大和くんがヤキモチを焼きそうで……」

 

「それは絶対にない。それよりも逃げたやつをどうにかしよう。みんなアイツを追――」

 

 大和が指示を出している最中に再び飛び散る水飛沫。まさかと思いながらも視線を向ければ、そこには所々に黒こげが残る長宗我部。

 

「あれでまだ戻ってくるとは。敵もなかなかしぶといですね」

 

「言ってる場合か」

 

 負傷しているとはいえ十勇士。しかも海に落ちたことにより先ほどのように火をつけることも出来ない。

 だというのにそれが理解できない生徒が不用意に近づいていく。

 

「今のうちに倒せば大金ぼ――」

 

 余裕ぶった台詞だが、大きな手に頭をつかまれ続きが言えなくなる。

 その生徒を片手で持ち上げた長宗我部が顔を上げ、その場にいる全川神学園生に向けて吼える。

 

「あいつの邪魔は誰にもさせん! 先に進みたければこの長宗我部宗男を倒していけ!」

 

 言葉の勢いのままに投げ返された生徒は泡を吹いて気絶してしまっている。それほどまでの怪力なのだ。

 

「ココからが本当の十勇士だ」

 

 驕りでも虚勢でもない。その事実に大和たちはただ戦慄する。

 

 

 

 

 

 

 

 長宗我部を見捨てて逃走した虎之助だが、さすがにそのまま戦場に飛び出すようなバカな真似はしない。

 物陰に隠れると、防水鞄から戦闘に使う花火を取り出し、服の下に仕込んでいく。

 手馴れた様子で準備を進める虎之助だが、微かな物音に刀を取る。だが、その相手は見知った相手らしく、すぐに刀を置くと準備に戻りながら話しかける。

 

「確かアマの親衛隊だよな。どうしたこんなところまで?」

 

 相手は西の戦場から虎之助に大将の存在を伝えに来たあまごの部下だが、出発した時よりも大分焦った様子だ。

 

「こんなところでのんびりしてる場合じゃないぞ!」

 

「敵の大将が前線にいるんだろ? そのくらい知って」

 

「川神学園の連中が本陣にまで攻めて来てるんだよ! いつまでもお前に大将首残しておく余裕はないぞ!」

 

 それを聞いて虎之助の顔色が変わる。各戦場には十勇士が配置されていて早々には突破されるはずはない。

 可能性が高いとすれば唯一十勇士が一人しかいない東側だが、そこにいるのは大友。

 傷つき倒れる幼馴染の姿を想像してしまった虎之助は、その想像を振り切るように親衛隊員に詰め寄る。

 

「一体どこの戦場が突破された!」

 

 まるでその親衛隊員が大友に害なしたとでも言わんばかりの、鬼気迫る様子に萎縮しながらもたどたどしく報告する。

 

「ちゅ、中央の、毛利と龍造寺が……」

 

「なんだあいつらか」

 

 倒されたのが毛利たちと分かったとたんに、虎之助は手を離すと戦支度に戻る。そこに今さっきまでの殺気は欠片もない。

 

「それだけか?」

 

 恐怖から開放されたというのに、これで終わりかというように尋ねる。

 

「別にあいつ等がやられたって、オレが大将首取ればそれで勝ちだろ」

 

 気負った様子もなくあっさりと言い切る虎之助。普段から十勇士と共に戦い、昼間には剣聖の孫であることまで再認識した。

 そのことを思い出した親衛隊員が不思議な信頼を覚える。しかし、それもけたたましく鳴り響く携帯電話の着信にかき消される。

 

「はい。立花との合流でしたら……。え? 本当ですか!?」

 

 完全に親衛隊員に興味を失っていた虎之助だが、そのただならぬ様子にさすがに顔を上げる。

 

「どうした?」

 

 尋ねるがなぜか返事は返ってこず、ただ通話の終わった携帯電話と虎之助の顔を何度も見比べる。

 それは伝えるべきか悩んでるようだったが、虎之助はなおも聞く。

 

「何か動きがあったんだろ。いいから早く言えよ」

 

 急かされたこともあり、ようやく諦めたように口を開く。

 

「それが……東の戦場に敵の援軍が現れて大友さんが危ないと……」

 

 聞いた瞬間、その場から飛び出す虎之助。そうなるだろうと予想できていたため、辛うじて追いかけられた親衛隊員が大声を上げる。

 

「おい! 大将はどうするんだ!」

 

 そう言われてようやく虎之助もそのことを思い出す。

 いくら石田たちが強くとも、本陣を攻められながらのんびりと大将首を残しては置けない。というか石田の性格ならば待っていてくれない。

 かといってピンチの大友を見捨てることなど虎之助に出来るはずがない。

 

 

 

 西か――――

 

「俺の妹になってくださーい!!」

 

「わたしはおとこだーー!」

 

「金くれる言うんは、嘘かー!」

 

「にょわぁーーー!?」

 

 

 

 

 東か――――

 

「南蛮人! どこから湧いてでてきた!?」

 

「補給部隊はクリスお嬢様の部隊が撹乱しています。弾はそれが最後と知りなさい」




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