真剣で私に恋しなさい!S ~西方恋愛記~   作:youkey

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長らく更新が無かったことを最初にお詫び申し上げます。
そして、ようやくの更新だというのに、主人公もヒロインも登場しません。
B面的要素が強く、かといってIFでもない。そのため,5話とさせていただきます。


35,5話

 日の暮れた工場内に怒号が響く。

 忙しない業務ではなく、事故が起きたわけでもない。少年たちが移り行く戦況を、慌しく、半ば怒鳴りつける勢いで報告しているのだ。

 

「中央を抜けて敵がドンドン押し寄せてくる! このままじゃ防衛線が破られる!」

 

「西の本隊も消耗してきてる! 立花はどこにいるんだ!」

 

 芳しくない情報の数々に、本陣に控える天神館の生徒たちの顔に焦りが浮かぶ。

 ソレを聞いているのか、大将である石田はデンと座ったまま身じろぎ一つしない。彼は自分の采配に絶対の自信があるし、それで敵将を討ち取れずとも、逃げ延びて引き分けに持ち込むことが出来るとも思っている。

 

「毛利と龍造寺が討たれたのは予想外でしたな」

 

「ネットでも完全にやられてしまった。トラを待つか、本隊に大将を討たせてしまうか」

 

 この二つが、ここまで天神館を追い詰めた要因。一つは大友がだした交際のための条件、大将首を虎之助が取るということを実現させてやるために、前線に出てきた川神学園の大将を討てずにいること。もう一つは、入り組んだ中央部を任されていた十勇士の二人、毛利と龍造寺が敗北したことである。

 

「ふむ、東の大友はどうなっている? あちらの戦況しだいで、まだココも持つだろう」

 

 石田に問われ、控えていた部下に確認を取る島。だが、焦りを押し殺したような、不自然な無表情の部下から耳打ちされたとたんに、驚きを顔に浮かべる。

 幼少の頃から連れそう主には、わざわざ言葉にせずともそれだけで伝わる。

 

「突破されたか」

 

「それだけではありません」

 

「ゴホゴホ。まだ何かあるのか?」

 

 東の戦場を受け持つ将は大友一人だ。一般兵に被害も出ただろうが、戦線を維持できないのだから報告するほどの人材はいないはず。

 

「大友の救援に立花が向かったそうです。そして、恐らくは立花も……」

 

 その一言に、顔を強張らせる石田と大村。

 そもそもが今回の交流戦は虎之助が敵大将を討つということを前提に進められている。だというのに、肝心の虎之助が居なくなったのでは、これ以上の戦いに意味はない。

 

「コレは……終わったなゴハッ!?」

 

 いち早く諦めたのか、白眼をむいて机に突っ伏す大村。

 その様子を横目に、おもむろに立ち上がった石田は、そのまま無言で本陣から出て行こうと歩き出す。

 

「御大将どちらに?」

 

「逃げる」

 

 短い一言に本陣が揺れた。

 

「戦を捨てるおつもりですか!?」

 

 慌てふためき詰め寄る島。そんな腹心へと、言い聞かせるように石田は言葉を紡ぐ。

 

「そもそもが立花に大将首を任せたことが間違いだったのだ。そして、おれは自分の失敗を認められる男よ。ココは姿を隠し、引き分けに持ち込むのが最上だろう?」

 

 言っていること自体は至極まっとう。己の非を認め、損害を最小限に留めようというのだから、大将としては何一つ間違えていない。残念なのは、ソコに申し訳なさが欠片も篭っていないことか。

 

「それは……確かにそうですが。ですがもう少し皆への労わりの言葉を」

 

「お前が言うのでは仕方が無い。お前達、時間稼ぎを期待してやらんでもない」

 

 世間ではソレを労わりとは決して言わない。

 

「では行くぞ島」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる島を引き連れて、颯爽と本陣を後にする石田。

 その足取りに迷いはなく、まるではじめから決めていたかのように真っ直ぐに歩いていく。

 

「すでに逃亡先の目星が?」

 

「当然よ。おれほどの男になれば、人目につかず業務に関わらない、設計ミスのようなスポットを事前に押さえているのだ」

 

 よく言えば万全を期す、悪く言えばセコイことに十分に力を注ぐことを、恥ずかしげもなく行なえる石田。その迷いない思考が大将の器ということか。

 隠れ場所までの道は、事前に調査済み。目前にまで迫っているという川神学園の生徒との遭遇に注意を払いつつも、順調に退避を進める二人。ようやく目的地が見えてきて気が緩んだその時だった。

 

「敵大将発見!」

 

 辺り一帯に響く叫び声。互いに背中を合わせながら周囲を警戒する石田と島。

 しかし人の気配はなく、おびき出すためのハッタリかという思いが頭をよぎるが、すぐさま裏切られる。

 

「風間翔一! 風の如く参上!」

 

 工場の外壁を伝って移動して来たのだろう。頭上を飛び越えて風間翔一が降り立った。

 しかも、風間の着地点は、狙いすましたかのように石田たちの進路を塞ぐ位置取り。そのことに、交流戦が始まってはじめて動揺を見せる石田。

 敵は一人。島と二人掛かりならば負けるとは到底思えないが、風間の叫びを聞いた川神学園の生徒が集まるのは時間の問題だろう。そうなると、用意していた隠れ場所は使えなくなる。

 

「ちっ。雑兵がおれの邪魔をして」

 

「どう致します? 今から新たに隠れ家を探しますか?」

 

「そんな暇はあるまい。仮にも九鬼の作った工場。早々に空きスペースなどありはしない」

 

「俺を無視するんじゃねぇ!」

 

 襲い掛かる風間に、会話を打ち切った二人がその場を飛びのく。

 二人が左右に逃げたため、丁度挟み撃ちにされる位置取りになってしまう風間。だが、危機感がないのか不敵な笑みを浮かべると、迷わずに石田へと向かって拳を振るう。

 

「ふん。将を見抜く目は持っているか。だが!」

 

「うわっと!?」

 

 迎え撃つ刀を紙一重で避ける風間。しかし、その背後から島の槍が迫る。

 

「不意打ち御免!」

 

 軽快な身のこなしが売りの風間だが、避け様への一撃。それも背後からとなると、反応こそ出来たが回避にまでは至らなかった。

 首筋へと叩き込まれた槍の一撃に、風間の意識は途絶えた。

 

「ご苦労。よくやった島」

 

「ありがたきお言葉。しかし今はお急ぎを、すぐにでも東軍が集まってまいります」

 

「分かっている。急ぐぞ」

 

 促されてその場を後にする石田。その方向は、以外なことに戦場へと向かっていた。

 

「御大将自身が向かわれるので?」

 

「煩わしいことだが、事ここに至っては他に方法もあるまい。おれ自身の手で、東の奴らに目にモノ見せてやろう」

 

 口では面倒くさそうに言いながらも、心の片隅に戦いへの高揚があったのだろう。口の端を緩めながら、石田が戦場へと向かう。

 

 

 

 

 

 夜の闇に包まれた工場の上空を、夜空よりも黒い影がぶつかり合う。

 東西を代表する闇の一族出身者、忍足あずみと鉢屋壱助。二人の忍者だ。

 風斬り音だけを残し、幾度となく交差する二人だったが、それも唐突に終わりを告げる。

 

「クッ!? やるな風魔よ」

 

「オメーとは年季が違うんだよガキが」

 

 その言葉に偽りはない。現実でこそ鉢屋が膝をつく結果になったが、相手は幾多の戦場を生き延びた傭兵忍者だ。

 術技を磨いた時間の差は約十年。実戦経験の数と濃さに至っては、比べようもない。その忍足を相手に、有効打こそ入れていないものの、ココまで打ち合っただけでも今後の伸びしろに期待が持てるだろう。

 

「じゃあな。オメーに構ってるほど暇じゃねえんだよ」

 

 動けないと核心できるほどの一撃だったのだろう。背を向けて歩き始める忍足。

 ダメージの抜けない体に鞭を打って後を追おうとする鉢屋だが、ある人物を視界に捉えたとたんに笑みを浮かべる。

 

「フッ。確かに暇はないようだな」

 

「あ? 何言ってんだ?」

 

「主を守れぬとあっては忍失格だと言っているのだ」

 

 嘲弄する言葉に怒りを覚えつつも、主のことを出されては無視もできない。戦場へと視線を向けると、いつの間に援軍が着たのか。拮抗していた状況は崩され、西軍が大きく攻勢に出ているではないか。

 特に猛威を振るっているのは、忍足の主人である九鬼英雄と同じ立場、西軍の総大将を勤める石田。

 

「御大将が出たか……。ではトラはもう……」

 

 鉢屋の呟きの意味は分からないが、そんなことを気に留める余裕はない。

 高い工場の屋根から、一飛びで戦場に降り立つために力を溜める。

 ソレを妨げようにも鉢屋は一歩も動けない。そう“一歩”も。

 

「英雄様! すぐにあずみが参り、ま……す?」

 

 溜めた力を一気に解き放とうとしたのだが、頭の奥に響くような不快な口笛の音に視界が傾く。それが、自分の体が倒れていくためだと気がついた時にはすでに地面に倒れ付していた。

 脚に力を入れて起き上がろうとするのだが、頭に響く口笛がそれを許さない。耳障りな音に平衡感覚を乱され、ぐらつきすぐさま倒れてしまう。

 

「コレは、尾張の!?」

 

 驚きに目を見開く忍足。その様子に、してやったりと愉快そうな肯定の声が掛けられる。

 

「そう、父が尾張忍者と調査室の仕事を共にした際に、盗み取ってきた術だ」

 

「テメこの野郎!!」

 

 噛み付かんと言わんばかりの剣幕で怒鳴りつけるが、鉢屋は気にせずに口笛を吹き続ける。

 皮肉にも、ついさっきの忍足と同様に相手が動けないと言う確信があるのだから。

 

 

 

 

 

「どうしたどうした! 川神学園の実力はそんな物か!」

 

 高笑い上げながら石田が上機嫌に刀を振り回す。一振りごとに川神学園の生徒を薙ぎ払いながら敵将九鬼英雄を目指して突き進む。

 もちろんその背中を狙う生徒は無数にいるが、ことごとく島に阻まれる。

 ある者は槍の一撃で意識を奪われ、ある者は壁として立ちはだかる島に攻撃を防がれ、さしてある者は石田たちに気を取られすぎて天神館の生徒に背後から襲われて次々と脱落していく。

 石田を基点に裂かれていく人波を、後方から眺めながら西軍の将たちは余裕を見せながら雑談に花を咲かせていた。

 

「おうおう。御大将張りきっとるなー」

 

「なんだかんだいって、いしだもメダチたがりだからな」

 

「一銭にもならんのにようやるわ。うちにはとても真似できへん」

 

「うきたはもうすこしヤルキをだしたらどうだ? ゼンリョクでせめこめば、そうそうとめられないだろう」

 

 呑気に言葉を交わしながらも、戦場に立っているという意識は捨てていない。

 視線は戦場全体を見渡し、戦線に穴があけば駆けつける準備は出来ている。本人たちの身の安全にも気を張っているが、尼子姉弟の両方を愛する尼子衆と、ふくよかな女性を愛する宇喜多のファンたちという、天神館二年生の中でも選りすぐりの変態紳士集団が優秀すぎた。

 

「あまごたんに触れようなんぞ二千年早いんだよ!」

 

「俺たちですら背中を流すのを遠慮して眺めてるだけなんだぞ!」

 

「宇喜多さんにただ働きはさせん!」

 

「彼女の完璧なボディラインを崩す訳にはいかんのだ!」

 

 下心というなの鋼の忠誠心を持った彼らの守りを突破できる者など早々に居ない。

 唯一あまごを少女と誤認した井上だけが、尼子衆を上回る愛の力を振るっていたが、それも性別を確認する間でのこと。男と知った瞬間に、愛の大きさゆえに自滅して沈静化してしまった。

 

「ま、どっちにしても御大将が本気になったんやから、うちらの仕事はもう無いやろ。ただ働きなんてバカのすることや」

 

「それはキョクロンだとおもうんだがなあ?」

 

 などと言っている間にも宇喜多の言葉が現実味を帯びてくる。

 東軍の人波を切り開いていた石田がついに対岸、九鬼の元へとたどり着こうとしていた。

 

「待たせたな東の大将! このおれが直々に介錯してやろう!」

 

 石田の振り上げた刀に、東軍も西軍も決着を核心した。だが、そんな瞬間でもなお九鬼は不敵な笑み、王者の貫禄を崩さない。

 

「フ、予定よりも早く投入されたか」

 

 この局面にそぐわない表情と台詞。奥の手を隠しているのかという疑念が頭をよぎるが、それ以上に石田の頭を占めたのは怒り。西日本を手中に収める石田鉄鋼の御曹司にして、天神館十勇士のリーダー。そんな自分を歯牙にもかけないその態度に、警戒も冷静さも吹き飛び、渾身の力で刀を振り下ろす。

 その瞬間だった。

 

「お逃げください!」

 

 一番の忠臣にして、唯一信頼を寄せる相手。島が石田の攻撃を妨害するようにつき飛ばす。

 他の者ならば、天神館の生徒だろうと十勇士のメンバーであろうと即座に裏切り者と呼んで反撃していただろう。だが、島である。

 あまりにも有り得ない出来事に、頭が真っ白になる石田。

 そんな石田を現実に引き戻したのは、戦場に響き渡る裂帛の気合。

 

「源義経ッ! 参るッ!!」

 

 天を突く煙突を、ほぼ垂直に駆け下りてきたポニーテールの少女、義経は勢いそのままに地面を蹴る。矢のごとき速度で向かったのは、直前まで石田が立っていた、そして今は石田をつき飛ばした島の立つソコ。

 

「御大将には触れさせぬ!!」

 

 迎え撃つように槍を突き出す。しかし、義経は地面に沈み込む様に身を屈めて避ける。そのまま駆け抜けるかのようにすれ違い様に脇構えに構えていた刀を逆袈裟斬りに振り上げ、島を一太刀で倒す。

 さすがに巨漢の島を軽々とは倒せない。煙突を駆け下りた勢いが無くなった義経は、石田へと視線を向けたまま九鬼を守るように位置取りをする。

 

「今日から二年S組に転入した義経だ! 助太刀させてもらう!」

 

 突然の乱入者に、西軍だけでなく東軍にも戸惑いの表情を浮かべる者が多い。そんな中、彼だけは義経の事情を聞き及んでいたのだろう、九鬼だけは泰然とした態度を崩さない。

 いや、もう一人だけ戸惑いを見せない男がいた。

 もっとも、彼の場合は戸惑いを感じる以前に、怒りに燃えていたから、戸惑う余裕が無かったのだが。

 

「島……。お前の仇はおれが取る!」

 

 側近を破った義経へと、射抜くような鋭い視線を向ける石田。

 普段から高圧的な雰囲気を醸し出す彼だが、今はそれにも増して威圧感を放っている。一般生徒には触れるどころか、近づくことすら出来ないほどのプレッシャーは、なおも膨れていく。

 

「見せてやろう東のッ! これが俺の奥の手だッ! 光龍覚醒ッ!!」

 

 プレッシャーは光に、電撃に変わり石田を包んでいく。あまりの眩さに思わず全員が目を閉じる。

 次に皆が目を開いたときには、髪を金色に変えた石田が刀を構えていた。

 

「それは! 命を削る荒技じゃなかったのか!?」

 

 武術に精通する者として聞き及んでは居ても、まさかソレを実践する人間がいるとは思っていなかったのだろう、義経が驚きの声を上げる。それもそうだろう、強さとは自分や周囲を守るための物。自分を死に追いやる技など、その大原則に反する。

 なのに石田は嗤う。

 

「それがどおした。勝利に犠牲は付き物だろうよ!」

 

 未だに驚愕の抜けない義経へと、石田の刀が迫る。

 辛うじて一撃目を防いだ義経だが、鬼気迫る勢いの連続攻撃になかなか攻勢に出れない。

 

「西では女よりも男が強い! おれが負ける訳にはいかんのよ!」

 

 古くから脈々と受け継がれてきた男の意地。武士の血を引くという西国武士の意地。天神館を率いる総大将としての意地。側近に守られた主としての意地。

 それらに背中を押され、一撃一撃に必殺の気合を込めて斬りかかって行く。

 

「まだだ。まだ行けるぞ! おれの限界はこんな物では!」

 

 刀を振るう度に威力が上がっていく。石田本人でさえ感じたことのない向上感に、更なる高みへと踏み込もうとするのを自覚する。

 受けるうちに義経も感じ取ったのであろう。顔から戸惑いをなくすと、入れ替わりに気迫を漲らせる。

 

「そうだ……。ソレが義経の戦う意味!」

 

 石田の刀を受け、そのまま弾き飛ばす。そして、返す刀が彼の脳天を打ち据えた。

 

「武士道プランのため、義経は負ける訳にはいかないんだ」

 

 残念ながら最後の言葉は石田へは届かなかった。

 完全に意識が途絶えていることを確認すると、九鬼が義経の前へと歩みだす。彼も東軍の大将として、逃げずに戦いの行く末を見守っていたようだ。

 

「西軍の大将は討たれた! 勝ち鬨を上げよ!」

 

 工場全域に届くようなその声に、各地で感性が上がる。

 かくして、天神館と川神学園による東西交流戦は、二勝一敗で川神学園の勝利で幕を閉じるのであった。




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