ToLOVEる ~ 生まれ変わった意味を探して~   作:アイスが食べたいマン

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すみません。長いです。


~クイーンの反抗、彼の過去、気づく想い~

霧崎さんとの撮影日から数日後の朝。

 

「おはよ、優兄」

「…おはよう」

 

朝起きると隣には、俺の腕を掴んで寝ていた美柑が居た。

 

「…美柑、起きるから離して?」

「もう少しだけ、このままじゃだめ?」

 

美柑は俺の腕をギュッと掴み離さない、美柑は今日は学校がないからっと言って泊まりに来ていた為、朝早く起きる必要はなかった。

 

「もう少しだけだよ」

「やった!」

 

美柑は腕を抱きしめながら、俺を見る、すごく距離が近い。

 

「最近、泊まりに来る頻度増えてない?」

「…気のせいだよ」

 

絶対に気のせいなんかじゃない、美柑に春馬さんのことを話してから、確実に増えている。

 

「…優兄は睡眠薬を使ってるけど、まだ怖い夢を見るの?」

「まだ見るよ」

 

幻覚も未だに見る、だが、一つだけ変わったことがある。

 

(とらぶるクエストが終わってから、冬華教官の幻覚は出てこなくなった)

 

幻覚だけじゃない、夢にも出なくなった、理由は冬華教官と向き合えたからなのか、それとも冬華教官の本心を聞けたからなのか。

 

「前世でも、怖い夢を見てたの?」

「…そうだね、前世から見てる」

「…何時から?」

「優華さんが死んで少しした後かな、しばらく悪夢を見たよ、けど一時期見なくなった」

 

前世の俺は優華さんが死んだ後、暫くは優華さんが死んだ日の夢を見た、誕生日なんて最悪で、俺にとっては呪いの日だった。

 

「なんで一時期見なくなったの?」

「あいつが…親友ができてから、見なくなったよ」

 

輝が親友になってくれた日から、俺は悪夢を見なくなった。

 

「少しだけ話してくれたけど、親友さんはどんな人だったの?」

「…馬鹿みたいに真っ直ぐで、人の外出届けを勝手に提出して、色んな所を連れ回す…」

 

休日になると必ずと言っていい程、俺を連れ回す輝に最初は戸惑った。

 

「マイペースだけど、誰に対しても裏表がない、変な奴だよ」

「…もしかして、結構苦労してた?」

「最初はね、でも次第にそれが楽しくなっていった、次はどんな事をするのかって、休日が楽しみになってたよ」

 

輝と過ごしていくうちに、俺は確実に変わっていった、そしてあいつは背負ってくれた。

 

────君が背負っている物を僕にも半分背負わせてもらうよ

 

────背負えば、地獄をみることになる、最悪、死ぬぞ?

 

────君と地獄まで相乗りする覚悟なら、もうできてる

 

「俺を変えてくれた、最高の親友だよ」

「…そっか、優兄を変えた人か、一回でいいから会って見たかったな」

 

俺の話を聞いた美柑は、俺を変えた輝が気になったらしい。

 

「親友さんの名前、なんて言うの?」

「…虹崎輝」

 

俺は美柑に親友の名を告げて、ベッドから起き上がる。

 

「え…もう起きちゃうの、優兄?」

「さすがにそろそろ起きないとね?俺は下に降りて花の水やりと朝食作って来るから、美柑はゆっくりしてな?」

 

俺は花の水やりと朝食を作る為、下に降りる。

 

「優斗先輩、おはようございます」

「………」

 

下に降りると幻覚の駿がソファーに座っていた。

 

「…お前は俺の前に出てくるのか」

「どうしたっすか?」

「なんでもない」

 

俺は駿を通り過ぎて庭へ出る。

とらぶるクエストを終えて、冬華教官の幻覚が出てこなくなった代わりに、駿の幻覚が出てくるようになった。

 

「″アレ″完成したみたいっすね?」

 

ジョウロに水を入れて、花に水をあげていると駿が話しかけてくる。

 

「アレは完成したみたいですけど、時雨春馬の件はどうするつもりですか?」

「幾つかプランはある」

 

花に水をあげながら、俺は駿の質問に答えていく。

 

「戦いは避けられないかもしれないっすよ?」

「…わかってる」

「どうするつもりですか?」

「被害を最小限に抑えるなら、とある人の力を借りる必要がある」

 

正直巻き込みたくなかったが、その人は時雨の真相を解き明かそうと動いているようだからな。

その人も一人で動けば致命傷を受けるが、俺と協力すれば、お互いに被害を最小限に抑えられる可能性は高い。

 

「もし、その人が協力してくれなかったら、どうするつもりっすか?」

「これに関しては賭けだ、もしその人が協力する気がなければ、その人が動く前に俺一人で何とかする」

「マジすか?めっちゃ大博打っすね」

 

駿は驚いたように俺を見る。

 

「それともし、アレを使うなら大した威力は出ないので、気をつけてくださいね?」

「言われなくても、それくらいわかって…っていないのかよ」

 

花の水やりを終えた俺が振り返ると、そこには誰もいなかった。

 

「優兄、朝ごはん作るの私も手伝うよ」

「わかった、じゃあ一緒に作るか」

 

二人で朝食を作り、食べた数時間後、俺はリビングのソファーに座っていた。

 

「優兄、この中ならどれが好き?」

「…何この状況?」

 

隣に座っていたはずの美柑はいつの間にか、俺の膝を枕にして寝っ転がって雑誌を読んでいた。

 

「なんで膝枕?」

「そんなこと気にしなくていいから、早く教えてよ、どれが好き?」

「いや、そんなことって───」

 

俺と美柑が話しているとチャイムの音が聞こえてくる。

 

「誰だ?美柑ちょっと行ってくる」

「…あっ」

 

美柑に断りを入れて立ち上がり、玄関へ向かって扉を開ける。

 

「はい…って沙姫さん?」

「優斗…しばらくお世話になりますわ!」

「…はい?」

 

家の前には鞄を持った沙姫さんが、息を切らして立っていた、沙姫さんはなんだから切羽詰まった様子だ。

 

「急に言われてビックリしましたがとりあえず、事情は中で聞きますね」

「ありがとう、あなたは話が早くて助かりますわね」

 

お邪魔しますわと言いながら沙姫さんは中へ入っていく。

 

「…体育祭の時の人、優兄なんでその人がここにいるの?」

「あら?あなたは確か御門先生の診療所にいた…」

 

美柑はスポーツフェスタの時のことを思い出したのか

 

「優兄の彼女の結城美柑です」

「彼女っ!?」

「…いや違うから」

 

俺の腕を抱きしめて、美柑がとんでもない発言をする、美柑は最近俺への好意を完全に隠す気がない。

 

「沙姫さん、この子は結城美柑、リトの妹です」

「…わたくしは天条院沙姫ですわ、あなた、まさか優斗の事が…」

「好きですよ、だから、天条院さんにも渡すつもりはありません」

 

美柑の俺の腕を抱きしめる力が強くなる。

 

「…そう、貴方が羨ましいですわ」

「え?」

 

美柑の言葉を聞いた沙姫さんは下を向く、美柑も予想外の答えで驚いていた、今までの沙姫さんなら、対抗していたはずだ。

 

「…沙姫さん、何かありました?」

「実はわたくし…家出してきたんですの……」

「え?家出って、どうしてですか?」

 

沙姫さんの言葉に美柑が反応する、家出って何があった?

 

「突然、お父様から海外留学しろと勧められたんですわ、嫌だと言ったけど…一度言い出したら聞かない人だから……」

「………」

「でも、私も今回ばかりはどうしても退けなくて、思わず家を飛び出してしまったの…」

 

沙姫さんは俯きながら全て話終える。

 

「そういうことなら、しばらく家にいていいですよ」

「…優斗、ホントに宜しくて、迷惑をかけることになりますわよ?」

「困った時はお互い様です、いいよね?美柑」

 

俺は美柑の方を見る、俺の家なので美柑に断りを入れる必要はないけど、これなら美柑も許してくれるはず…

 

「まあ、優兄は優しいからそういうよね…その代わり、私も天条院さんが優兄の家にいる間、私も居るから」

「…別に居なくても沙姫さんなら、大丈夫だと───」

「籾岡さんに襲われそうになったのは、どこの誰だっけ?」

「………」

 

美柑が俺を見る目が怖い。

 

「…まあ、そういう事なので、しばらく家に居ていですよ、沙姫さん」

「ありがとう、優斗」

 

沙姫さんは今日初めて笑った、少しだけいつもの沙姫さんに戻った気がする。

 

 

 

その頃、とある会社では。

 

「そうか…沙姫め…駄々をこねおって…」

 

とある会社で、一人の男───天条院劉我は自身の右腕である九条戒と連絡していた。

 

「すでに学校や住居の手続きは終わっている、あとは沙姫だけだ、迅速に処理したまえ、私が決めた事なのだから」

[わかっております、旦那様]

 

通信を受けた戒は続けて答える。

 

「どこに行ったかわかるか?」

[それが、あの時雨優斗の元へ行ったようで…]

「…なに、時雨優斗だと?」

 

劉我は時雨優斗と聞くと驚きの声をあげて、机にあった資料を見る。

 

「この男と会うのは危険だ、今すぐ連れ戻せ」

[ご心配なく、お嬢様はまもなくお戻りになられます、沙姫様を連れ戻すためにもっともふさわしい者を向かわせましたので……]

「…そうか」

 

戒との通信が終わると劉我は椅子に座り資料を眺める、資料には時雨優斗調査報告書と書かれていた。

 

「…時雨優斗、お前の過去を調べても、時雨春馬に引き取られる前の記録は全て見つからなかった」

 

劉我が持っている資料には、全てが不明と書かれており、天条院家の力を持ってしても何一つ優斗に関する記録は出てこなかったことがわかる。

 

「…時雨優斗、何故お前が養子に選ばれた?お前じゃないと行けない理由があるのか?」

 

劉我は手に持っていた資料を握りつぶす。

 

「奴を止める為の鍵は、この男にあるはずだ」

 

席を立ち、窓を見ながら劉我は呟く。

 

「時雨春馬、お前は何としてでも私が止める」

 

 

 

 

「まぁっなんて美味しい料理ですの!!」

 

あれから数時間が経過して、俺達は夜ご飯を食べている。

 

「うちのコックより美味しくてよ!優斗!美柑!」

 

料理を食べた沙姫さんは俺達を見て言う。

 

「優兄の料理は、世界一美味しいからね!」

「美柑!あなたも結城リトの妹にはもったいないですわ!」

「…だってさ!優兄!!」

「嬉しそうだね、美柑」

 

沙姫さんの言葉にえっへんっと美柑はドヤ顔をしながら言う、よかったな、美柑。

 

「美柑に料理を教えたのは、優斗でして?」

「まあね、美柑に料理を教えて欲しいって、言われてからずっと教えてる」

 

美柑もあれからかなり上達して、正直もう教えることなんてくらい立派になった。

 

「あなた達は本当に仲がよろしいのね」

「美柑が赤ん坊の時から一緒にいますからね」

「将来は優兄のお嫁さんになりますから仲もいいにですよ」

 

美柑は沙姫さんに見せつけるように、俺の腕を抱きしめて言う。

 

「………」

 

俺と美柑を見た沙姫さんは黙って俯いたままだった。

 

「優兄、どうかしたの?」

「…え?」

 

夜ご飯を食べ終えて、沙姫さんは風呂に入り、俺はソファーで美柑に膝枕をしていた。

 

「悩んだ顔してるよ」

「いや、別に何も…」

「私に話して、優兄」

 

美柑は膝の上から俺を見上げる、その目は俺を捉えて離さない。

 

「…沙姫さんの元気がないって思ってさ」

「優兄…」

「前世と今でも俺は父親に振り回されてるからさ、沙姫さんの気持ちもわかるんだ」

 

前世で人生をめちゃくちゃにされた俺だから言える、権力者の父親は恐怖でしか無かった、少し前の俺だって抗わずにその運命を受け入れていた。

 

「ここまで逃げてきたって事は、少し前の俺と違ってまだ諦めてない」

「………」

「けど、沙姫さんは父親に抗うのを怖がってる」

 

俺は美柑の頭を撫でる。

 

「沙姫さんが悲しむところを見たくない、助けたい」

「…はぁ、優兄ってホント優しいよね、だからライバルが増えていくんだよ?」

 

わかってる?っといいながら、美柑は俺の頬を指で突っついてくる。

 

「優斗、おフロ上がりましたわ」

「じゃあ、美柑、風呂入ってきな?」

「…優兄と一緒に入りたい」

「今日は───」

 

俺が美柑に諦めてと言おうとした時、チャイムがなる。

 

「こんな時間に誰かな?」

「ちょっと見てくる」

 

俺が玄関に行き扉を開けるとそこには、九条先輩と藤崎先輩がいた。

 

「綾!凛!!」

「沙姫様、本当にここにおられたとは………」

「心配して捜してくれてたの!?ゴメンなさい!!」

 

沙姫さんは涙を浮かべて喜ぶが恐らくこの二人は、探しに来たわけじゃない。

 

「いえ…お父上の…劉我様の名により、あなたをお迎えにあがりました」

「え…」

 

天条院劉我の命令で、二人は沙姫さんを連れ戻しに来た。

 

「沙姫様、嫌なら力ずくでも…」

「凛…綾…どうして…」

 

九条先輩は沙姫さんに近づき手を伸ばす。

 

「っ!どうゆうつもりだ、時雨優斗」

「今のまま沙姫さんを帰す訳には行きませんから」

 

俺は九条先輩の腕を掴んで動きを止める。

 

「九条先輩は沙姫さんが、海外留学をしたくないことわかってますよね?」

「…わかっている…」

「なら───」

「だが、これが私の役目だ!!」

 

九条先輩は俺に掴まれていない腕で攻撃してくる。

 

「くっ!?」

「手荒ですみません、でも本当にそれでいいんですか?」

 

俺は九条先輩の攻撃を受止めて壁に押さえつける。

 

「このままだと、九条先輩は一生後悔しますよ?」

「黙れ!!君ならわかるだろ!前世でも今でも権力者の父親がいる君なら!!」

「………」

「私は代々天条院家に仕える九条家の人間だ、だからこそ沙姫様を連れ戻せと言われたら、逆らえない」

 

前世で散々奪われた、だからわかるよ、死ぬほどね。

 

「…そうですわ、でも、綾は…もともと天条院家と関わりがない家柄、わたくしと凛が海外留学をしてアメリカに行けば、綾は日本に残る事になる…」

 

そうか、だから沙姫さんは家出したのか。

 

「3人で一緒にいられなくなるのは…辛すぎますわ」

 

沙姫さんは涙を流しながら、自身の感情を告げた。

 

「…前に俺の過去を話しましたが、俺にはたった一人の親友がいました」

「ッ!」

「名前は虹崎輝、あいつとの生活は振り回されて大変だったけど、どれも楽しかった、ずっとこのまま一緒にいられたらって思ってしまうくらいにはね」

 

みんなに過去を話した時、俺は輝の名前は言わなかった。

 

「そんな楽しかった日常は、簡単に壊れて失った、任務で致命傷を負った輝を俺はこの手で撃った」

「………」

「あの日からまた悪夢を見続ける事になった、生まれ変わった今だって、この手に残ってる親友を撃った時の銃の感覚が!頭によぎる、死ぬ直前まで笑顔だった輝の顔が!!」

「…君は」

 

俺は過去を話した時、ここまで言わなかった、行ってしまえば、俺が止まらなくなる。

 

「親友を過去を変えたい!自分の持つ全てを失っても俺は過去を変えたいって、何度も何度も何度も思った!例えそれで俺が死んだとしても過去を変えたいと!!」

 

過去を変えるのは不可能だと分からされた。

 

「その生活を一度失えば二度と帰ってこない!死ぬほど後悔することになる!!九条先輩、それでもあなたは、その役目に囚われて沙姫さんを連れ戻しますか!!」

「…それはっ」

「過去は変えられません、一つの判断で親友すら失うことになる」

 

過去は死んでも変えられない、悪魔に魂を売ったとしても…

 

「けど、未来は変えられる!三人で一緒に居たいなら、みんなで最後まで抗え、自分の望む未来を手に入れる為に!!」

 

俺の感情、この世界に来てから、今まで自身の感情を告げたことはなかった、俺はこの人達に悲しい顔をして欲しくない、俺のように辛い思いをして欲しくない。

 

「…九条先輩は俺みたいに判断を間違えないでください」

「なぜそこまでする!私たちの為に!!」

「後悔して欲しくないから!九条先輩達に笑っていて欲しいから!幸せでいて欲しいから!!」

「なっ!?君はなんでそんな恥ずかしいことを───」

「これが俺の本心だからです!」

 

ぶつけてしまった、俺の感情の全てを。

 

「諦めるんですか、優兄のこと?」

「…え?」

 

こちらを見て黙っていた沙姫さんに美柑が言う。

 

「優兄の事、好きなんですよね?天条院さんの優兄への想いはお父さんに海外留学に行けって言われて諦める程度のものなんですか?」

「それは…」

 

美柑の言葉に沙姫さんは言い淀む。

 

「私は優兄が好きです、例え優兄の過去に何があっても、優兄に婚約者がいたとしても、私にどんな事があっても大好きです、誰にも渡したくありません」

「…わたくしは」

「天条院さんも優兄の事、好きなんですよね?私が抱きついた時、負けたくないって顔をしてたのに、そんな簡単に諦めていいんですか?」

 

美柑が沙姫さんに追い打ちをかける。

 

「私は…優斗が好き!大好きでしてよ!!」

 

沙姫さんが叫ぶ。

 

「…諦めたくないですわ、優斗を諦めたくない…」

「…なら、優兄みたいに抗ってください、優兄が自分の感情を話したのだって、天条院さんに皆さんに悲しい顔を辛い思いをして欲しくないから、話したんですよ」

 

沙姫さんの言葉に美柑が言う、美柑まさか、俺の為に?

 

「…美柑」

「初めて見たもん、優兄が自分の感情を叫んでるところ」

 

美柑は俺を見る、美柑に全て見透かされてたな。

「沙姫様!!私も沙姫様と離れたくないです!!」

「綾…」

「………」

 

藤崎先輩は沙姫さんに抱きつき思いを告げる、俺から解放された九条先輩も、それを見て俯く。みんなきっと同じ思いだった。

 

「みんなが同じ思いなら、やることは一つです、話してください、お父さんに…大切な親友と離れたくないと」

「優斗…」

「…思いは伝えられる時に言葉にして伝えるべきですよ」

 

輝と俺が最後にお互いの思いを伝えたように…

 

「ぶつからなきゃ伝わらない事もあります」

 

俺と輝がお互いの意見が合わず、ぶつかり合って、戦ったように…

 

「もしダメなら、三人で家出でもなんでもすればいい、その時は俺の家に泊めますから」

 

ここまで言ったんだ、それくらいしないと割に合わないだろう。

 

「そうですわね、優斗の言った通りかもしれない」

 

沙姫さんは一度俯くがすぐに顔を上げ俺を見る。

 

「…話してみますわ…お父様に」

 

沙姫さんの顔に迷いが無くなった、これならもう大丈夫だろう。

 

「言っておきますけど、優兄は渡しませんよ?」

「わたくしも諦めませんわ!絶対優斗を手に入れますわ!!」

 

二人は俺の腕へと抱きついてくる、沙姫さんは俺への想いも、もう隠す気が無くなったらしい。

 

 

 

 

優斗の家から天条院家に向かった沙姫と凛はお互いの父親の前に立っていた。

 

「帰ってきたか、沙姫、今すぐ海外留学の準備を───」

「嫌ですわ!」

「…なに?」

「この街には大切なものが…友人がたくさんいますの!離れる訳には行きませんわ!!」

 

劉我に向かって沙姫は自身の思いを告げる。

 

「沙姫様、何を仰っていますか、凛、お前も───」

「父上すみません…父上の事は尊敬しています、しかし私達には絆がある、誰にも引き裂くことのできない絆が…」

 

凛も戒に向かって自身の思いを告げる、二人とも後悔しないために…

 

「お父様の命令でも聞けませんわ!!」

「…ダメだ沙姫、お前には海外留学をして貰う」

 

沙姫の話を聞いても劉我も譲らない。

 

「なぜですの!お父様!!」

「………」

「沙姫さんと九条先輩を守るためですよね?」

 

扉が開かれると同時に声が聞こえる、その場に居た全員の視線が声がした方へ向けられた。

 

「俺の予想ですが、あなたの目的は二人を海外留学させて、天条院家から引き離すため違いますか?」

「貴様、何処から入ってきた!」

 

戒が劉我を守るように前に立ち、戦闘態勢に入る。

 

「君はなぜここに…」

「一度、天条院家にはお邪魔したことがありましたので、簡単に侵入できましたよ」

「なに!?」

「まて、九条」

 

戒を片手で制止して、劉我は入ってきた人物を見る。

 

「話を戻しましょう、二人を引き離す理由は、時雨春馬に負けた時の保険…あなたは時雨前社長の死の真実を暴くため、春馬さんと戦うつもりだった」

「「なっ!?」」

 

入ってきた人物の言葉に沙姫と凛は驚く。

 

「自己紹介が遅くなりました、ご存知だと思いますが、俺は時雨優斗です」

「…やはり、お前が時雨優斗か」

「戦うってどうゆう事ですの!お父様!!」

「………」

 

沙姫の言葉に劉我は黙る。

 

「時雨春馬と戦っている間、沙姫さんと九条先輩に被害が及ばないように海外留学をさせる、春馬さんもまさか、自分の会社があるアメリカに娘を留学させるなんて考えない。」

「………」

「負けたとしても海外にいる仲間に、沙姫さんと九条先輩を保護してもらうつもりだった、違いますか?」

 

優斗は劉我に向かって話し続ける。

 

「天条院劉我さん、今のまま時雨春馬と戦えば、証拠不十分で天条院家は負ける可能性の方が高いのでは無いですか?」

「…どこまで気づいているのかね、時雨優斗」

「俺が気づいているのはこれぐらいですよ」

 

劉我は席を立ち窓の外を見つめる、優斗がこの事に気づいたのは、沙姫達が帰った後、急な海外留学の意味と、天条院家が時雨前社長の件で因縁があったことからもしかしてと思い、天条院家に乗り込んだ。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ、春馬さんにこの話は一つもしていない、春馬さんも気づいてませんから…」

「…なに?」

 

優斗の言葉を聞いた劉我は驚いた様子で優斗を見る。

 

「なぜそこまで知っていて時雨春馬に報告せず、私の前にお前は現れた…お前の目的はなんだ、時雨優斗」

「俺はあなたに協力するためにここまで来ました」

「なんだと?」

 

優斗の言葉に劉我と戒は驚く、優斗が協力を持ちかけるなんて二人は思ってもいなかった。

 

「なぜだ?なぜお前は私に協力をする?」

「…俺もこのまま黙って利用される訳には行かなくなったんですよ」

 

優斗は劉我に告げる。

 

「俺はこのままだと、政略結婚をさせられる」

「なっ!?それはどうゆう───」

「そんな話、聞いてないですわ!」

「相手は時雨の血筋を欲しがっている、春馬さんの表向きの目的は、その政略結婚によって手に入る政治家の席です」

 

凛と沙姫の言葉を無視して優斗は続ける。

 

「時雨春馬の目的は政治家になることか…私はあんな危険な男に政治家などさせない」

 

劉我は拳を握りしめて優斗を見る。

 

「俺は今の生活を守りたい、それにあなたと一緒で俺は春馬さんを止めたい」

「…なるほど、利害は一致しているわけだな」

「それに春馬さんにとって計画の要である俺が、あなたと組めば春馬さんに勝てる可能性は高くなる」

「私が協力関係を結ばないと言ったらどうする?」

「俺が一人で全て終わらせます」

「危険ですわ!!」

「そうだ!君に何かあったらどうする!」

 

優斗の言葉に沙姫と凛が反対する、それを見た劉我はニヤリと笑う。

 

「いいだろう、時雨優斗、お前と協力関係を結ぼうか!」

「劉我様、よろしいのですか?この男は───」

「娘達が好意を寄せている男だ!悪いやつではないことはお前もわかっているだろ、九条?」

「なぜそのことをお父様が!?」

「私は別に…」

 

戒の言葉を劉我は遮る。

 

「だが、時雨優斗お前には時雨春馬について知っている事を全て話してもらう」

「もちろん最初からそのつもりですよ」

「だが、その前に時雨優斗、お前について教えてもらう」

 

劉我は優斗に近づき資料を見せる。

 

「お前に関して、情報が何一つなかったなぜだ?それに相手は時雨の血筋を欲しがっているはずなのに、養子であるお前が選ばれた?」

「簡単ですよ、俺の身体には、時雨の血が流れていますからね」

「それはありえない」

 

優斗の言葉を劉我は否定する。

 

「時雨春馬について全てを調べたが、隠し子や子供の情報は一切出てこなかった」

「…時雨春馬を調べても俺に関する情報は出てきませんよ」

「なに?」

 

優斗の言葉を聞いて劉我は疑問の声を上げた。

 

「11年前、とある殺人事件がありました」

「…急になんだ?」

「死亡したのはホストクラブで働いていた男性、そして犯人の女性は男性を殺した後、自分の子供も殺そうとした所を警察が突入して、現行犯逮捕に至った」

 

劉我の疑問の声を無視して優斗は話しを続ける。

 

「女性は男性に振り向いて欲しかった、だから子供まで産んで振り向かせようとしたが、男性がそれを拒絶し殺害に至ったと供述したそうです」

「…それがなんだ?」

「死んだ男性の名前はサクラとテレビで放送されましたが、本名は″時雨桜″知ってると思いますが、春馬さんの実の兄です」

「…まさか?」

「俺の本名は時雨桜です、愛に狂った母親が父親と同じ名前を俺につけました」

「「「っ!?」」」

 

優斗の話にその場に居た全員が驚愕する。

 

「春馬さんは俺の名前と顔を見て気づいた、兄の息子だと、引き取られる前に俺はDNA鑑定を受けて、俺が時雨の人間だと判明してすぐに引き取られました」

「………」

「時雨桜は失踪したわけじゃない、理由は分かりませんが、時雨家に追放されてホストになった」

「なるほど、そうゆうことか」

 

優斗の話を聞いた劉我は納得したように言う。

 

「時雨桜は時雨春馬に殺されたわけじゃなかったのか」

「えぇ、でも時雨春馬は自分の父親である時雨前社長を撃ち殺してますよ」

「…やはりか」

「兄であった時雨桜も生きていたら、今頃春馬さんに殺されていると思います」

 

ほぼ全てを知っている優斗は真実を淡々と告げる。

 

「なぜそのことを知っている?」

「春馬さんが話したんです、そしてもし逆らえば、父親の様にお前の身近な人を全員殺すと脅されました」

「「!?」」

優斗の言葉に沙姫と凛は驚いている、脅された事だけじゃない、前世を含め、今までこんな重い過去を背負っていたことを知って。

 

「春馬さんは俺を憎んでます、兄の息子である俺を…だから俺に苦しんで欲しかった」

「なぜ、憎んでいるんだ?」

「それは俺にも分かりません、ただ時雨家を追放された事と何か関係があるかもしれないです」

「追放された事…」

「追放された件はそちらで調べてもらえると助かります」

 

下手に動けば春馬さんにバレますので…と優斗は劉我に言う。

 

「いいだろう、それはこの私、天条院劉我が調べよう」

「ありがとうございます、それともう一つ調べて欲しいことがあります」

「まだなにかあるのか?」

 

優斗は写真を取り出すと劉我に見せる、桜の木の下で若い男女が笑っている写真。

 

「この写真の人物を調べてください」

「誰だそれは?」

「俺にもわかりません、ただ春馬さんを知るなら、これを一番知らないといけないことな気がします」

 

劉我は優斗の言葉を聞いて席に戻りメモに何かを書いて渡す。

 

「私の電話番号だ、なにか分かったら連絡しよう」

「ありがとうございます」

「沙姫、凛、留学の話はなしだ」

「お父様!!」

「宜しいのですか、劉我様」

「こちらには時雨優斗がいる、勝てる可能性も上がった」

 

天条院劉我はニヤリと笑う。

 

「九条、私は彼を信じることにする」

「劉我様…」

「時雨優斗、今日はもう遅いから帰るといい、後日、電話で時雨春馬についての話と作戦等の相談をしよう」

「わかりました、今日はありがとうございました、また後日、よろしくお願いします」

 

優斗は扉に向かって歩いていく。

 

「凛、彼を送りなさい」

「父上、わかりました」

 

凛は優斗を送るためについて行く。

 

「わたくしも!」

「お嬢様は就寝の時間です、部屋へお戻りください」

「嫌ですわ!わたくしも行きますわ!!」

 

沙姫も二人の後を追って走っていった。

 

「あの沙姫が私に反抗するとはな…時雨優斗と出会って沙姫は変わったらしい」

「…そうですね、あの凛もあの男に毒されたかもしれません」

「フハ───ッハハハハ!!!」

 

劉我は笑い、その声は部屋に響き渡る。

 

「九条、今回の件は白紙だ」

「かしこまりました」

「時雨優斗、娘の好意に答えなかったらどうしてやろうか?」

「…私なら父親としてあの男を殴り飛ばします」

 

 

~凛side~

 

 

「…あの、離して貰えませんか?」

 

時雨優斗の背後にいた私は彼を壁に押さえつける。

 

「今日の件、君には感謝している」

「あなたのおかげでお父様と話す覚悟ができましたわ」

「それは良かったです」

 

沙姫様と彼を逃がさないように囲む、自然と彼を抑えている力が強くなる。

 

「…君には聞かないといけないことがある」

「優斗、あなたは一人で解決するつもりでしたの?」

 

時雨優斗への尋問が始まった。

 

「黒幕の事で巻き込んだのに、これ以上みんなを俺の事で巻き込みたくなかったんです」

「私と沙姫様は言ったはずだ、次は君を助ける番だと」

 

私は彼を睨む、一人で無茶をしようとした彼を…なぜ、私はこんなにイラついている?

 

「罰が必要ですわね?抑えておきなさい、凛」

「沙姫様、何を?」

「いや待ってすっごく嫌な───っ!?」

 

私が時雨優斗を抑えていると沙姫様は彼に近づき背伸びをする。

 

「ん──────っ」

「!!?」

「沙姫様!?」

 

沙姫様は時雨優斗にキスをした、5秒程の短いキス、それを見た瞬間、私の胸は張り裂けそうなほど痛くなった。

 

「優斗、あなたに何かあったらわたくしは一生後悔する、それくらいあなたが好きですわ」

「沙姫さん…」

「よろしくて優斗、いつかあなたをわたくしの物にしますわ、覚悟しておきなさい?」

 

沙姫様はそういうと恥ずかしくなったのか顔を赤くして、後ろへ振り向く。

 

「そ…そうゆうことですから!!」

 

沙姫様はそれだけ言うと走っていってしまった。

 

「………」

「九条先輩、そろそろ離してもらってもいいですか?」

 

私は時雨優斗を解放する、胸が痛い、どうしてこんなに痛むんだ?

 

「…車を用意してある、自宅まで送ろう」

「すみません、ありがとうございます」

 

外へ行き私と時雨優斗は車に乗りこむ、運転手は私達が乗ったのを確認すると車を出発させる、車内では私は彼に話しかけることができず、ずっと無言だった。

彼の過去を聞いて、時雨春馬との関係を聞いて、何故こんなに悲しい思いになった?なぜ今度は私が助けたいと思った?

 

「送っていただきありがとうございました」

「………」

 

そんなことを考えていたら、いつの間にか時雨優斗の家に着いていた、彼はは車から降りる、私も彼に続いて降りると扉の前で彼は私にお礼を言ってきた。

 

「…また学校で、おやすみなさい」

「…待ってくれ」

 

時雨優斗が扉を開けようとした時、私は彼の腕を掴む、なぜ掴んだ?なぜ引き止めた?

 

「………」

「九条先輩?」

「…今日はありがとう、君のおかげで父上に本音を言うことができた」

「気にしないでください、それに海外留学の原因は俺達にありましたから…」

 

劉我様は時雨春馬と戦うために私達を遠ざけようとしたが、彼は何も悪くない、巻き込まれただけだ。

 

「でも良かった、これでまた三人で笑って過ごせますね」

「っ!?」

 

時雨優斗は私を見て笑う、その笑顔を見た瞬間、顔が熱くなるのがわかる、なんでこんなに顔が熱く──────

 

 

───今降ろしたらあのメカに捕まりますよ?

 

───三人で一緒に居たいなら、みんなで最後まで抗え、自分の望む未来を手に入れる為に!!

 

───後悔して欲しくないから!九条先輩達に笑っていて欲しいから!幸せでいて欲しいから!!

 

───なっ!?君はなんでそんな恥ずかしいことを

 

───これが俺の本心だからです!

 

彼に助けられた時を思い出す。

そうか、どうして沙姫様と時雨優斗がキスをして胸が痛くなったのかやっとわかった。

私は彼が──優斗が好きなんだ。

 

「…沙姫様、今回だけですのでお許しください」

 

私はここにはいない、沙姫様に謝る。

 

「…九条先輩?」

「君はそこで立っていてくれ」

「え?」

私は優斗に近づき肩を掴み、背伸びをする、優斗の唇に私の唇を重ねた。

 

「───っ!!」

「んぅ───ん──っ」

 

キスなんて初めてする、やり方なんて分からない、10秒ほどキスをして私は優斗を解放する。

 

「…今のキスは沙姫様には秘密にしてくれ」

「………」

「私も君が居なくなると考えると胸が痛くなる、辛いんだ」

 

キスをしたからか、心臓の鼓動がとてもうるさい。

 

「君に笑っていて欲しいんだ!」

 

前世で苦しんで、今も尚苦しみ続ける君を、私は見たくない。

 

「九条先輩、ありがとうございます」

「っ!?」

 

優斗は微笑む、その顔だ、君のその顔を見ると頭がおかしくなりそうだ。

 

「それと巻き込んですみませんでした」

「構わない!君のためならなんだって───」

 

ダメだ、これ以上はダメなんだ、これ以上は沙姫様への裏切りになる。

 

「………」

「九条先輩?」

「…すまない、今日はもう戻る」

 

優斗にそういうと私は車に乗り込む。

 

「九条先輩、おやすみなさい」

「っ!あぁおやすみ、優斗」

 

優斗におやますみと伝えると、車が動き出す。

 

(…ダメだ、この想いは仕舞わないとダメなんだ…!)

 

沙姫様を裏切れない、この恋心は私の胸に閉まっておかないと行けないのに…

 

「…嫌だ…諦めたく…ない」

私の心が閉まっておくことを否定してくる、

 

(沙姫様…私はどうしたら…)

 

気づけば私は泣いていた、帰っても、私は諦めきれないこの感情をどうすればいいのか分からなかった。

 

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