かぐや姫と元天才プロゲーマー   作:はたやま

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仕事が忙しすぎてシヌゥ!
合間を縫ってちまちま書いてましたが時間かかりましたね。でも原作愛で何とか続いてます。

それでは本編です。感想やひようかなといただけますと励みになります。


ようこそ『ツクヨミ』へ

「正気!? 正体バレたらどうすんの!? なんで月村は勝手に連れ回してんの!?」

 

「だってつまんないんだもん」

 

「多少遊ばせた方がおとなしくなるかと思って……」

 

 あれから芦花さん真実さんと別れ、人気のない場所移動したところで先輩から雷が落とされた。

 

 言われたことは全くもってごもっともなのでこちら側に反論の余地はないのだが、おチビ──かぐやは不満たらたらといった様子だった。

 

「あのね、そんな風に生きてると自滅するよ。時には我慢ってもんも必要で……」

 

「ん? 先輩どうかしましたか?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 なんでもないと言う割には変な間があったな。それに一瞬だが表情がどこか苦しそうに見えたけど。

 

「ねーねー、これどうやって使うの?」

 

 隣にいたかぐやが何かを差し出してきた。手に握られていたのは通称『スマコン』と呼ばれるコンタクトレンズ型のPCデバイスだ。

 

「スマコンじゃん。私の部屋から持ってきたの?」

 

「ううん、彩葉のノートPCで買えた!」

 

「「……は?」」

 

 俺と先輩の声が重なる。は? ノートPCで買えた? いつの間にネット通販の使い方覚えた? 

 

 いやいやそんなことはどうでもいい。スマコンは今でこそかなりの普及率を誇っちゃいるが決して安価という訳ではない。

 

 それを先輩のPCから買ったということはつまり──

 

「……すけど」

 

「せ、先輩?」

 

「死ぬ気で貯めたんですけど! 色々なこと我慢して、死ぬ気で貯めたんですけどぉっ!」

 

 まずい先輩が壊れたァ! いや言ってる場合じゃないだろ!

 

 一瞬画面が見えてしまったが、ネット銀行の残高が3桁ほどになっていた。ただでさえ苦学生の先輩にとってこの出費のダメージは計り知れない。

 

「な、なんか銀行? のデータ書き換えればウォレットの残高増やせるっぽかったよ! やる!?」

 

「ダメに決まってるでしょ! 絶ッ対しないでよ!」

 

 先輩の絶叫が木霊する。それを耳にしながら、まずかぐやには倫理観というものを教えなければならないと俺は心に誓うのだった。

 

 ***

 

「あ"ーっ……疲れたぁ……」

 

 疲労感に耐えかねてベッドに体を投げ出す。アパートに帰ってからも色んなことが起こった。

 

 かぐやが食材を買い込んでレストラン顔負けの料理を作っていたり、それで金がさらに吹き飛んだ先輩が涙を流しながら料理を堪能したりと、かぐやに出会ってからの数日はまさに目の回るような日々の連続だ。

 

 でも、バイトとは別ベクトルの疲れに襲われながらも、どこかそれを悪くないと感じている自分がいる。

 

 こんなに日々が充実しているのはそれこそプロゲーマーをやってた頃以来──

 

(…………ダメだな。まだやっぱ苦しい)

 

 胸の奥がズキリと痛む。たった数日であの苦しみを振り切れるわけがないのはわかっちゃいたが、それでも呼吸が乱れたりしてない分前よりはマシになっている気がした。

 

『おまえ、もうプロには戻らねぇのか?』

 

 不意に、いつだったかのアキラさんの言葉が頭をよぎる。

 

 何度も悩んだ、その度に苦しんだ。でも何もかもを諦めていたなら、こんな苦しみすら起きないはずだ。

 

 結局俺の心は、もう一度あの頃に──

 

(……やめとこう。一気に答えを見つける必要もないだろ)

 

 思考を止めて身を起こす。ゲーミングチェアに移動してからスマコンを装着した。これから今日は楽しみがまだ残っているのだ。暗い心持ちのまま臨んだのではもったいない。

 

『そんなつまんねぇ事で悩んで何がおもろいん?』──あの頃の自分が今の姿を見たらそう言って笑うのだろうな。

 

 その姿を想像して少し笑った後、俺の意識は電子の海へと旅立った。

 

 ***

 

「結局しばらくの間かぐやと同居するんですね」

 

「しょうがないでしょ、一人でほっぽり出すわけにもいかないんだし」

 

 海辺にたつ鳥居の前、アバター姿の酒寄先輩と合流した俺はたわいもな会話を繰り広げていた。

 

 着物とパーカー、ベルトとブーツを合わせてカッコよく仕上がった衣装に狐耳と尻尾が揺れて可愛らしさも加わった先輩のスキン。なんでもお気に入りのコーデなのだとか。

 

「本当にいい迷惑だよ。さっさと月への帰り方思い出してもらわなきゃ」

 

 話を聞けば、最終的には先輩が折れる形でかぐやとの同居生活は延長の運びとなったらしい。

 

「そういう割にはどこか楽しそうですね」

 

「はぁ?」

 

「気持ちは分かりますよ。他人に振り回されるのも悪くないって、俺も最近思いましたから」

 

「一緒にしないでよ。ただでさえ狭い部屋に2人暮しってだけでも面倒なのに」

 

「なら時々かぐやをこっちに預けてくれてもいいですよ。ここまで乗りかかった船ですし、ちゃんと最後まで協力しますから」

 

「いや、それはさすがに迷惑──あ、来たみたい」

 

「うわぁっ! ヴェェっ!?」

 

 空間がゆらぎ、弾けた光の中から1人の少女が現れる。

 

 朱色と若草色をメインカラーにした和の装い。

 

 キンキラに輝く月の髪飾りと、それに負けないほどに輝く金色の髪に紛れて長いウサギの耳が愛らしく揺れている。

 

 足元を見ればなんでもありの行動力を想像させるスポーティかつポップなゴツめのスニーカー。いやはやなんとも──

 

「随分とまぁギャルいかぐや姫がいたもので」

 

「初ログインでコケるのあるあるだよね。ほら、手かして」

 

「その声、彩葉と輝?」

 

 先輩の手を取り立ち上がったかぐやが俺の周りをうろちょろして、ジロジロと見つめてくる。

 

 一体何が気になるのか、それは言われなくてもわかっているのだが。

 

「なんでタヌキの着ぐるみなの?」

 

「うん、私もいつツッコもうかと思ってた」

 

「可愛いでしょタヌキ。結構お気に入りのスキンなんですよ」

 

 というのは半分嘘。お気に入りなのは事実だがいちばんの目的は変装のためであり、ユーザー名も『宮本ジュウベイ』ではなく『ぽこべぇ』に変更してある

 

 あんな事件起こして引退した手前、堂々と前のアバターの見た目のままツクヨミ内をうろつくのは少し気まずいのだ。

 

 あと出来れば顔を合わせたくない人も多い。特にKASSEN界隈とかプロゲーマー界隈の人。

 

 ──知り合いに優しい人たちが多いから、なるべく心配をかけたくないんだ。

 

「ワンワンッ!」

 

「ん? 何だこのわんこ?」

 

「そいつはもしや……」

 

「犬DOGE! 連れてこれるんだ!」

 

 どうやら自分でプログラミングした携帯ゲームのキャラがツクヨミ内に顕現したらしい。

 

 最近実装された機能なのかとも思ったが、ヘビーユーザーを自負する先輩ですら知らなかったらしく、改めてツクヨミの自由度の高さを思い知らされた。

 

「うわー! すごいすごい! これがツクヨミなの!?」

 

 遠くきらめく街並みを目にしたかぐやが好奇心に満ちた声を上げる。それを聞くだけで今にもあそこに向けて走り出したいという気持ちが伝わってくるようだった。

 

「チュートリアルで聞いたろうけど改めて言っておこうか。仮想空間ツクヨミへようこそ。歓迎するよ、かぐや」

 

 ***

 

 仮想空間ツクヨミ

 

 日本で今もっとも隆盛している仮想空間。ここでは全てのユーザーがクリエイターとして扱われ、あるゆる創造行為が推奨されている。

 

「うおー! 面白そうなもんが死ぬほどある!」

 

 近未来と和の世界観が見事に調和した街並みは歩いているだけで目を奪われるものばかり。かぐやもその例に漏れず感嘆の声を上げていた。

 

『初ログインおめでとう! ツクヨミではみんなが表現者! 君も何かをして人の心を動かしたら、運営から『ふじゅ〜』がもらえるよ!』

 

 少し歩いたところでウミウシ型のマスコット『FUSHI』によるイベントがかぐやのもとで発生した。

 

 ふじゅ〜とはツクヨミ内で使用されている通貨でありその使い道は様々。配信者に対しての投げ銭やクリエイターに対しての依頼、ゲーム内アイテムの売買などでやり取りされている。

 

 現実の現金にも変換可能でトップライバーともなればその稼ぎだけで悠々自適以上の生活を送ることができる。

 

 実際俺がプロ時代に稼いだ金額もこのふじゅ〜による稼ぎが半分以上を占めていたりするほどだ。

 

 それはさておき

 

 少しだけ時間を潰した後、やってきたのはツクヨミ内に用意されたライブ会場。ログインの際にくぐったものよりも大きい鳥居を中心に、海上に建てられたアリーナで、観客たちが今か今かと祭りの始まりを心待ちにしている。

 

 あの普段から落ち着いている酒寄先輩ですら例外ではなく、むしろ誰よりもソワソワとしているのも無理はない。だってこれからここで歌うのは──

 

「キタキタキター! これがないとツクヨミの夜は始まらない! 本日もヤチヨミニライブの開催だーっ!」

 

 マイクを通してツクヨミ全土に熱が伝わる、ライブのMC担当ライバー『忠犬オタ公』の掛け声と共にカウントダウンが始まった。

 

『10、9、8……』

 

 カウントが進む毎に会場のボルテージが高まっていく。ここだけではない。ツクヨミ、内で中継を見るもの、現実世界で配信を見るもの、全てが同じ熱を共有していると確信できる。

 

『3、2、1!』

 

 やがてカウントは0を迎え、鳥居の上に現れた彼女は涼やかな声を響かせた。

 

『ヤオヨロー! 神々のみんな、今日も最高だったー?』

 

 そんな彼女の呼び掛けに観客たちは歓声を上げ、カウントダウンを遥かに超える熱量が爆発する。

 

 海洋生物をモチーフにした黒の和装、日に照らされてきらめく海のように輝く銀髪。彼女こそツクヨミの創設者にして唯一無二の歌姫、ツクヨミにいる誰もが愛するAIライバー『月見(るなみ)ヤチヨ』だ。

 

『よーし、今宵もみんなを誘っちゃうよ☆ Let's go on a trip!』

 

 ヤチヨと観客の声が重なり、一瞬の静寂か訪れる。そして──

 

幾千の時を巡って今、僕ら出会えたの────

 

 歌声とともにライブは始まりを告げ、会場は静かな熱狂の海へと落ちていった。

 

 ***

 

『イェーイ! 感謝感激雨アラモード! ヤチヨは果報者なのです』

 

 歌が終わりを告げ、会場のあちこちから彼女への賛辞が飛び交っている。歓声を上げる者、隣人と感動を共有する者、そして

 

「うぅ……ヤチヨぉ……」

 

 ただただ涙を流す酒寄先輩()。だけどそれは悲しみからではなく、このライブに立ち会えたことへの感動、興奮、感謝がないまぜとなって内から溢れ出たものだった。

 

 かぐやの赤ん坊時代、と言っても数日前の話だが、先輩はヤチヨの歌が心の支えになってくれたから今生きることができていると言っていた。

 

 いわば先輩にとってヤチヨは命の恩人に等しい存在なのだ。ライブの感動もひとしおというものだろう。

 

「ねぇ輝、彩葉はなんで泣いてるの?」

 

「それだけライブに感動したってことさ」

 

「感動って、嬉しいってことだよね? 嬉しいのに泣いたりすることってあるの?」

 

「ある。なんでって聞かれると俺も答えらんないけど、かぐやにもいつかわかる時がくるんじゃないかな」

 

「……ふーん」

 

 どうやら回答に満足いただけなかった様子。こういう時じいちゃんならもっと気の利いたことを言えたのだろうか。

 

 そんなことを考えているとヤチヨのハツラツとした声が会場に響き渡った。

 

『ここでお知らせ! ヤチヨカップっていうイベントを開催しまーす☆ FUSHI、詳細よろしくぅ!』

 

『はーい! 参加資格があるのはツクヨミの全ライバー! 1ヶ月の期間内に最も多くの新規ファンを獲得した人が優勝だよ! 』

 

 ツクヨミでは定期的にこのようなイベントが開催される。優勝者には大抵の場合限定アイテムなどの賞品があるのだが、さてさて今回はどんなものが──

 

『優勝者にはなんと、ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈! 世界一盛り上がるコラボライブステージを一緒に作れるよ!』

 

「うっそコラボライブ!? ヤチヨが!?」

 

 驚愕のあまり酒寄先輩が聞いた事のない叫び声をあげた。会場全体もまさかの優勝賞品に驚きを隠せないでいるようで、ザワザワと波紋が広がっている。

 

「コラボライブ? なにそれ、すごいの?」

 

「すごいも何も、配信のコラボは今までにも何度かあったけど、ライブはいつも1人で歌ってたんだよ! 何? 誰と? これは歴史的なライブになるよ!」

 

「すっげぇ熱量。でも確かに誰とコラボすることになるのか今から楽しみですね」

 

「へー、じゃあ彩葉、一緒にやろ」

 

 まるで明日遊びに行こうと誘うぐらいの気軽さでそう言ってのけるかぐや。誘いを持ちかけられた先輩はため息混じりに言葉を返した。

 

「あのねぇ、私らみたいなモブとやるわけないでしょ。こういうのは予め誰とやるかだいたい決まってるもんなの。例えば──」

 

 そんな先輩の言葉を遮るようにバーンと派手な爆音が轟いた。

 

 音に続いて現れたのは牛車ならぬ虎が屋形を引く虎車。それを見た察しのいいツクヨミの住人たちは、早くも声を上げていた。

 

「黒鬼じゃん!」

 

「帝様ー!」

 

 そんな歓声に応えるかのように剣閃が走り、弾けた屋形の中から3人の人物が姿を表した。

 

 ──お祭り好きのあの人のことだ、現れるかもと思わなくもなかったが、相変わらず派手なお人だな。

 

「よぉ子ウサギども。お前らの帝様が来たぜ!」

 

 堂々の名乗りとともに登場した男──帝アキラの姿に、ファンたちが割れんばかりの歓声を上げる。

 

 彼らこそ、ここツクヨミにて最上位の人気を誇るプロゲーマーユニット『ブラックオニキス』、通称黒鬼である。

 

「また、祭りが始まるな」

 

「俺って今日も作画良すぎ♡ でしょ♡」

 

 アキラさんの後ろに並ぶ2人の男性アバター、ローブを纏った寡黙な男『雷』と地雷系ファッションで着飾った少年『乃依』もリーダーに負けず劣らずの歓声を受けている。

 

 エアディスプレイにはアキラさんの合図に合わせて、ブラックオニキスの華々しい経歴が映し出されている。

 

 彼らと契約を結ぶ数々のスポンサー、大会での優勝記録、単独ライブの映像などなど、さすがと言うべきか、彼らの登場によってライブ会場の空気は完全に支配されてしまっている。

 

「俺たちに優勝して欲しいよな? 底なしの夢を見せてやるぜ!」

 

 言葉と共に紙吹雪が打ち上げられ、幾度目かになる歓声が爆発した。彼らが本気でヤチヨカップに挑むというのなら優勝はほぼ決まりだろう。

 

「というわけで、俺たち優勝するから。ヤチヨちゃんコラボよろしくね」

 

「そういう運命なら、もちろんヤチヨは従うよー」

 

「すげぇ! ヤチヨと黒鬼、夢のコラボだ!」

 

「こりゃあ伝説になるぞ!」

 

 誰もがヤチヨと黒鬼というトップライバー同士の共演を望んでいる。実現すれば本当にツクヨミの歴史に刻まれるような伝説のライブとなるだろう。

 

 実際俺も心のどこかでワクワクしている。けどまぁ、

 

 どうせなら、参加者として楽しみたかったかもな────

 

 

 

「ヤぁぁぁぁチぃぃぃぃヨぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 まるで、雷に撃たれたような衝撃だった。

 

 黒鬼たちが支配していた空気を切り裂いて、堂々と一歩を踏み出して、声の主は高らかに己の意志を叫んだ。

 

「かぐやがヤチヨカップ優勝する! そんでコラボライブする! いろh……むぐっ」

 

「あんたは、いつも勝手に!」

 

 言葉の途中で酒寄先輩が口を塞ぐがもう遅い。観客が、オタ公が、黒鬼が、ステージ上のヤチヨですらもかぐやに視線を注いでいる。

 

 もちろん俺だって気づけばかぐやに目を奪われていた。

 

「いとかわゆし……ほいでわ、ライブは一旦ここでクローズ♪ みんなとちょこっとお話させてね。さらば〜い!」

 

 ライブ閉幕の言葉と共にヤチヨが分身し観客の元へ向かっていく。今回のライブチケットには握手券の特典が付いていたためだ。

 

「ねぇ彩葉、輝、一緒にやろ?」

 

「俺もか? 先輩と一緒にじゃなくて?」

 

「そうだよ! 3人で一緒にやりたい!」

 

「いや、俺は──」

 

「だめ! そんなのむ──」

 

「ムリムリムリムリ! 小娘が!」

 

「こらっ」

 

 俺と先輩の言葉を遮る声。振り返るとそこにはFUSHIを肩に乗せた小さい姿のヤチヨがいた。

 

 というかFUSHIってこんなオラついたキャラだったか? もっとマスコットらしい可愛いもんだと思ってたんだが? 

 

「お忘れかな〜? ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです♪」

 

 だいたい130cmぐらいに縮んだ姿のヤチヨが愛らしく笑う。

 

「そっか! じゃあかぐやライバーになる! そうと決まれば準備準備〜」

 

 即断即決、かぐやが光の欠片となって姿を消す。ログアウトして現実世界に戻ったのだろう。

 

「えっと、じゃあ私もこれで……」

 

「待って、忘れ物」

 

「ふわぁっ!?」

 

 かぐやに続いてログアウトしようとした酒寄先輩の手をヤチヨが取る。強火のヤチヨファンである先輩が握手券の存在を忘れてるあたりかぐやのあの宣言で相当動揺していたらしい。

 

「あの……ありがとうございました!」

 

 たった一言、しかし言葉だけでは言い表せないであろう感謝を伝え、先輩も現実世界へと帰っていった。

 

「んじゃ、俺も握手してもらって帰ろうかな」

 

「うんうん、そうしよそうしよ!」

 

 互いに両の手を取り合う。相手は仮想世界の存在なので感触は無いが、どこか温かさを感じるような気がした。

 

「……久しぶりだね。前よりちょっとは元気そうかな?」

 

「あー、覚えててくれたんだな。その節は迷惑をかけまして」

 

 

 

「迷惑をかけたのはこっちの方だよ。私がもっとツクヨミの管理を徹底してれば、ジュウベイは今も……」

 

 いつも笑顔を絶やさないはずのヤチヨの顔に少しだけ陰る。

 

 彼女に対して迷惑をかけられただなんて思ったことは一度もない。むしろ彼女がいなければ今頃自分は──

 

「……もう終わった話さ。ヤチヨが気にすることじゃないよ」

 

「私の事恨んだっていいんだよ?」

 

「それこそありえない話さ。それに」

 

「それに?」

 

「今はまた少しだけ、面白いことができそうな気がするんだ」

 

 脳裏に浮かぶ自由奔放なかぐや姫。一緒にライバー活動をしようと誘われたが、アシスタント程度なら手伝ってみたいと今は思っている。

 

 自分でもどういう心境の変化なのかと思わなくもないが、今自分の心は確かに面白いと感じる方へ向かっていた。

 

「そっか……じゃあ、面白いもの見せてくれるのを期待しちゃおっかな♪」

 

「期待するなら俺じゃなくてかぐやだよ。あいつなら必ずなにかやらかしてくれるさ。そんじゃまたな、ライブ最高だったよ」

 

 最後に最高のライブへの感謝を伝え、俺もツクヨミからログアウトする。ヤチヨは最後までこちらに手を振ってくれていた。

 

「いつも来てくれてありがとう、輝、彩葉」

 

 最後になにか言っていた気がしたが、その言葉を聞き取ることはできなかった。

 

 

 

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